闘技大会Aブロック・2
次回更新は三日後になります。
試合開始からかれこれ時計の長針が円を描くくらいは経っただろうか、決着は未だつかない。
まだこれくらいで限界を告げるようなヤワな鍛え方はしていないけれど、いつまでもダラダラと闘い続けるのは存外疲れるものである。
「まったく……貴方、まだ動けますの?」
「はっはっは! そういうリュリーティアこそ動けるんだろ? だったらアタイもまだイケるさ!」
謎理論を展開しないでもらえますかしら、こういう動き続けて精神がハッピーになった方は対処が面倒で困りますわね。
話しながらも轟と空を切り裂く斧を剣でいなしていく、剛腕を用いての斧の一撃は重くて完全に受け流すのが難しい。
「それでも成し遂げるのが私……ですわっ!」
また攻撃を受け流す、一体何回これを繰り返したのだろう、地面には斧の一撃で砕けた跡が幾つもある。
もちろん何もしてない訳じゃない、受け流す度に斬撃を喰らわせてるはずなのに相手はピンピンしているのだから不思議なものだ。
出血も確認できる、硬い筋肉によって深手を負わせられないがほぼ全身に浅い傷をつけているのに。
「それなのに動き回りますのね。」
「なんか言ったかい?」
「独り言ですわ。」
まさか闘司さんみたいに再生している……? いえ、さすがにあんなふざけたスキルが二つとあってたまるものですか。
闘司さんはそれほど特別に思っていないようですがアレは常軌を逸したものなのですわ、死に面する怪我も一日で治るなんてそれこそ奇跡以外の何物でもありません。
もしヤバめの人に知られでもしたら即実験動物に成り果てますわよあの方。
とにかく、マリーさんにそのような人外スキルは備わってはいないはずです。
「なぁ、こうしてチマチマやるのも疲れないかい?」
「それは同意見ですわ。なのでもう倒れてくれません?」
「そいつは聞けない冗談だっ!」
「くっ!?」
砕けた地面の瓦礫を拾い上げて投げつけてくる、剣で受け流すのは無理と判断して躱したところに斧の追撃がきていた。
仕方なく剣で防ぐが踏ん張ることも出来ず会場の壁まで吹き飛ばされる、咄嗟に土魔法を身体に付与して防御力を高めたけれどダメージは無くせない。
「ごほっ……本っ当に馬鹿力ですわ。だから受けたくないのです、それとその瓦礫投げはルール違反になりませんの?」
「ええっ!? だ、ダメだったかい!?」
驚きながら今の行為がダメか審判に聞いてみるが首を横に振って否定した、要はアリらしい。
マリーさんの怪力ですと当たったらぽっくり死ぬと思いますが随分適当なルール設定ですわね。
「まあ構いません、違反してようがいなかろうが結果は変わりませんので。」
「おっ、言うねぇ。えーっと、強者にとって余裕とは常に備わっているもの……だったかい? 」
「よく覚えておりますわね、負けた時の事は二度と忘れないタチなのですか。」
「いやーリュリーティアはそのスラスラ出る挑発を無くせば嫁の貰い手が後を絶たないだろうにねぇ。」
「余計なお世話です、それにこの挑発は今のところ貴方にだけですわ。」
「アタイは特別ってワケか、そいつぁ……光栄だねっ!!」
ただの石が投擲武器となって飛来してくる。だが同じ手は喰らわない、剣を逆手に持って石を躱しながらすれ違いざまに脚を切り裂いていく。
「はは、付け焼き刃はダメだ。アタイはやっぱりこの斧しかないよ!」
切り裂かれても動じずに斧を振りおろしてきた、剣を逆手に持っていては受け流しの方向が定まってしまう。
「でしたら……!」
低く踏み込みんで懐に潜り込む、そこから剣を突き立てるが分厚い筋肉によって剣の先までしか入らなかった。
決めきれなかった、そして見事に敵の攻撃範囲に入った私は大きな両腕に挟み込まれて捕えられてしまう。
「闘司といいリュリーティアといい、アタイにこうやって捕まるとは似たもの同士なんだねぇ。」
「うぐっ!?」
万力で締め付けられるような感覚を受けながら身体がギシギシと軋む音を発していく。
少々まずいですわね……このままだと絞め落とされてしまいそうですわ。
意識を落とさないように堪えるが、段々とそれも叶わなくなってくる、そんな時ふと観客席から声が届いてくるのが分かった。
「リュリーティアさーーん! なにやってるんですか遊んでいないで早く倒してください!!」
「頑張れリュリーティアー! トージは頑張って勝ったんだよー!」
ふ、ふふふ……。
全く他人事だと思ってよく言いますわ。
それに、闘司さんは勝ち進みましたか……でしたら。
「私から約束を破るわけには……いきませんわっ!!」
「なっ……。」
締め付けられている腕を力ずくで抜き、火の付与魔法を手にかけて顎に全力の掌底を叩き込んだ。
緩まれる拘束、好機を逃さず胴に刺さったままの剣を引き抜きそこに豪炎を放つ。
焦げた匂いを嗅ぎながら、引き抜いた剣で今まで付けた傷の跡をなぞるように何度も切り裂いていく。
身体を這わせるように流れて切り裂いていく剣の軌跡、一度傷つけられた場所は二度三度と切られる度に多くの血を噴き出していく。
「ご、ごのっ……!?」
「ふっ!」
決死の反撃を試みようと斧を振ろうとするが、攻撃の前に斧を掴む手に火球を当ててそれを拒む。
そしてその火球の衝撃で斧を手から落とした。
「終わりです。」
豪炎で一度塞がった胴の傷を再び剣でこじ開ける。死にはしないが行動するには難しい程の多量出血をしたようで、その場で急に足の力が無くなったかのように倒れ伏した。
「まいった、これはマジでまいったねぇ……手とか足が全然動かせないよ。」
「口が動かせるなら大丈夫ですわ。」
「はは……また勝てなかったなぁ、今回はイケると思ったのにね。」
「それならまた挑みにくればよろしいのですわ、それでも私は負けませんが。」
「リュリーティアは、ブレない……ねぇ……。」
倒れた時から半ば閉じられそうだった瞳は、最後の気力を振り絞って喋ったことにより力を失って閉じられた。
「疲れましたわ。」
ちょっと危なかったが勝利を得ることができた。
でも髪やら服やらが色々汚れてしまいましたわね、これは帰ったら闘司さんに手入れをしてもらうとしましょう。
そんな闘司さんとシャルルさんは、観客席から飛び降りて来そうな程の喜びようで大いにはしゃいでいる。
「感謝……しないとですわね。」
実際あの時は負ける想像をしてしまった、しかし2人の声が聞こえてきて目が覚めた。
大口を叩いている本人が情けなく負ける姿なんて見せられませんものね。
さて、そろそろ二人と合流して宿屋へ帰るとしましょう。
サクラの間にて、敷かれているタタミをみながら話しかける。
「ちゃんと頼みますわよ?」
「まーかせてください! 俺がしっかりとこの綺麗な髪を梳かして差し上げますから!」
妙に意気込んでいる闘司さんに若干の不安を抱くが、何回かやってもらってその手際は把握しているので何も言わない。
それと、髪が綺麗なんて言われると文句は言いづらいのです。
静かな室内にスっスっと小さな音を立てながら髪を梳かしていく、相変わらずお上手ですわ。
細心の注意を払っているのか、櫛が髪に引っ掛かってもそのまま頭まで引っ張られることはない。
これなら、安心して身を任せられるというもの。
「うーん、結構絡まってたりしてますね。」
「それだけ激しい動きをしたのですわ。」
「たしかに……リュリーティアさんとマリーさんの闘いは見てるこっちがハラハラしましたよ。」
「そんな事を仰って、次は私と闘司さんがそれをする番ですのよ。」
「うっ……、やっぱり無しにしません?」
「ダメです。それでは何の為に頑張ったのか謎ではありませんか。」
「はぁ、気が重い。」
表情は見えないが本気で試合をやりたくないとは思っていないのは分かる、伊達に共に旅をしていないので声や雰囲気で読み取れるものだ。
茶化してくるのは恐らく闘司さんなりの覚悟の決め方なのでしょう。
「なんで……。」
「はい?」
小さく呟いた。
「なんでそんなに俺と闘いたいんですか? ここまで勝てたのもスキルのお陰であって俺自身の実力なんてリュリーティアさんの足元にも及ばないですよ。」
「それは当然です。」
「うぐ……。」
何を仰りたいのかサッパリですわ。
「だ、だからそんな貰い物の力の俺と闘ったって何の意味もないんじゃないかって……。」
「意味は私が決めるものです、勝手に闘司さんの考えに当てはめられても困りますわ。」
「だけど」「あーもうゴチャゴチャうるさいですわ! ただ闘司さんと戦いたいだけ、それだけの理由でも別に構わないでしょう!? 男のクセにグダグダ言っているとまたあのマッサージをしますわよ!」
「待ってくださいあのマッサージをリュリーティアさんは罰ゲームみたいに思っているんですか!? 効果は良くてもあんな人体オーケストラは二度と御免被りたいですよ!」
スパン。
襖が勢いよく開かれる、そこに立っているのは笑顔のシャルルさん。
「二人とも、ケンカはダメだよ?」
私と闘司さんは即座に竹馬の友よろしく仲が良いアピールをする。
シャルルさんを怒らせていけないと私の勘が告げております、大人しく言い争いは収めましょう。
闘司さんもシャルルさんには頭が上がらない、シャルルさんと闘司さんはさしずめ子煩悩な父親とその子供のような関係性ですわね、まあ親子というよりは兄弟の年の差ですけれど。
「二人は本当は仲良しなんだから、あんまりケンカはしちゃダメだよー?」
「ああ。」「ええ。」
「うんうん。それでそれで、今はリュリーティアの髪を綺麗にしてるの? ボクも一緒にやっていい?」
「うふふ、いいですわよ。闘司さんのを真似してやってみてください。」
「いいかシャルル見てろよ、こうして……こうするとー、ほら。」
手本を見せるべく、ひと房髪を取って櫛で梳いてみせる。
「おぉなるほどぉ……分かった!」
「えっ嘘早くない? シャルルは天才なのか? いや天才か、さっすが天才シャルルー!」
「トージちょっとうるさい。」
「はい……。」
すぐ後ろで楽しそうにしているのを受けてこっちも楽しくなってしまう。
この楽しい日常を守るために私は強くある、でも守る人は多い方が心強いのです。
たしかに闘司さんはスキル頼りな部分もありますが、それだけではありません。
ちゃんと闘う術、この世界を生きる為の術を身につけてきております。
今回はそれがどれほどのものか確かめさせて貰うのです、別に勝敗を決めて優劣を決めたいのではなくただ知りたいのですわ。
仮に私が負けたとしても、それはむしろ守る人が増えて嬉しいことなのです。
私が勝ったとしても、その闘いで闘司さんは私から色々と学び取ってくれるでしょう。
ただそれだけの為の事なのですわ、闘司さん。




