闘技大会本戦Bブロック・3
次回更新も三日後になります。
午前の試合を終えて、あまりの情けない勝ち方にシャルルが不服を申していた。
プリプリと怒りながら腕をペチペチと叩く程納得いかなかったそうだ、俺としてはその姿が可愛かったので大満足だったけど。
そういうことなので今回の試合、Bブロック決勝戦は見事に勝ちきらないとシャルルに見限られてしまうので死ぬ気で挑んでやる。
「でもまさか俺が決勝行けるとは思わなかった。」
自分の事ながら驚いてはいる、なんやかんや来てしまった感は否めないんだよなぁ。
だが、今回の相手はなんやかんやで勝てる程甘い相手ではない……らしい。
リュリーティアさんがまとめた情報によると今回の相手と俺の相性があまり良くないようなのだ、なんでもその相手ことラルバ選手は仕事人のようなタイプなのだそうだ。
「確かに困った相手だな。」
クイットゥナーとかは俺の事を侮っていて手を抜いたりする節があったが、ラルバは最初から全力で相手を排除する事を徹底している。
俺の事を下に見ていてくれれば付け入る隙はたくさんあるのに、残念ながらそういう事は期待しない方が良さそうなのだ。
だけど幸いラルバは予選から技を出し惜しみしないで戦っているので、策や手の内などは充分に把握している。
「まぁ、それを活かせるかどうかは別問題だけどな。」
いや、これから闘うというのに弱気な発言はダメか。
手で頬を叩いて気合を注入、そして控え室からBブロック決勝の舞台へと足を進めた。
ラルバは土汚れがたくさんついた服の上から黒の外套を羽織っている。
情報が無かったらただ汚れている服装だなくらいの感想だっただろうが、策を知っている今だとそれに警戒をしてしまう。
「初撃は言われた通りにすれば多少の時間はどうにかなる、後はどう行動するかによるよな……。」
ブツブツ考え事を呟いてまとめていると、審判に位置につくように促された。
位置についてラルバの目を見る、あの目は警戒も油断もしていない至って冷静って感じの目だ。
「やりづらいな……。」
多分今までの中で一番合わない相手だと感じる、まだジェミニの方が闘いやすかったと思うくらいには。
言葉での揺さぶりとか一切効かなそうだし逆にそこを狙われそうなので、下手な口をたたけなくなった。
一種のアイデンティティを奪われた気分だよ。
おっと審判が動き始めた、そろそろ試合開始のようだ。
「それではこれよりBブロック決勝戦を始めます! いざ尋常に、始めっ!!」
「グランドウェイブ」
開始の合図と同時にラルバが低い声を発して仕掛けてきた、土の魔法によって地面に敷かれた石造りの床を押しのけて至る所から土を盛り上げて波を作り出す。
しかしこれは攻撃の為じゃない。
「有利な場所を作り出すため、だったよな。」
情報通りラルバは自分にとっての好条件を作り出すためにこの魔法を使った、隠れるような場所もなく真っ平らだったステージは今や掘り上げられた土によって起伏の激しい荒地へと変わっていた。
「シェイドコート」
ラルバが二つ目の魔法を使う、これは以前ルカ王女がヴェネツ城侵入時に使った闇の魔法だな。
気配を無くす魔法……とかだったよな、姿は見えるけど限りなく存在が薄くなる路傍の石の状態。
真っ平らで周りを見渡せるステージじゃこの魔法は意味無いけど、今はご覧の通り遮蔽物が盛りだくさん、効果抜群だ。
そしてラルバの姿や気配が途端に察知できなくなった、なんとも素早い隠密術なのだろう。
「知ると見るとじゃ大違いだ。さて、ここからがスタートだな……。」
荒れたステージのど真ん中に立つ、ただただ何もせずに棒立ちだ。
そしてこれから何が起こっても平静を保つ、表情は常に余裕の笑顔だ。
上手くいけば頑張れる、上手くいかなきゃ……。
「その時考えよう。」
[攻撃を確認、能力値上昇]
きた、狙われる箇所は……。
「右足っ!!」
左足を軸にして後方に向かい半回転をする、すると今右足の置かれていた場所には一本の矢が突き刺さっていた、そう……ラルバの武器はこの弓矢なのである。
そして半回転すると同時に俺は槍を上に掲げて構えていた、死角である背後にいたラルバに投げつけるために。
「おらっ!」
「っ!?」
槍はラルバ目掛けて真っ直ぐ飛んでいくが、すんでのところで躱されてしまう。
「くそ、ダメか……。」
さて上手くいかなかったので考えるお時間だ、初撃を避けられたのは俺の実力でもなんでもなくて事前の情報とスキルの警告でタイミングを掴んだお陰だ。
なので次にまた棒立ちしていても既に発せられたスキルの警告は起きず、死角などの矢を避けることはできない。
とりあえずラルバの元に駆けるがすぐに身を隠されてしまう。
「あちゃー、せめてラルバのいる方向だけ分かればいいんだけど……あっそうだ。」
こんなに土があるんだからこれを利用するとしようじゃないか。
「バレない程度に水をチョロローっとな。」
すぐにバレないように少量ずつ水を地面に撒いていく、それを続けながら俺は適当に荒れたステージ全体を走り回った。
途中そばに矢が飛んできたりとして肝が冷えたけれど、地面全体を水分多めに濡らすことに成功した。
足で地面を踏んで土が泥となっていくのを見て頷く。
さすがにこの水気を含んだ音を一つも立てないで走ったりなんてのは出来ないはずだ、もし出来たらとっても困るのでやめてくれ。
「そこだな!? 喰らえアクアニードル!」
泥の跳ねる音を頼りに魔法を放つ、当たりはしなかったがラルバがそこに潜んでいたのは合っていたようだ。
即席の作戦は上手く作用してくれたみたいでホッとした、しかし闘いはこれからである。
よーしよし、次の作戦を実行するぞ……。
「うわっぷ……地面がぬかるんでいて派手に転んでしまったー!」
ふふふ完璧な演技だ。すかさず地に伏したまま地面に細工を施す、他にもいくつか同じことをしていく。
もちろん転んだ時に矢が飛んでくることも想定済みなので、氷の壁を作り出して防御しておくのを忘れない。
ペっぺっと口に入った土を取り除きながらこっそりと細工をした地面に水を足しておく。
準備完了、後はラルバを追い込んでいくぞ。
耳をすませてラルバの足音を聞き探す、微かだけれど足音が聞こえてきて方向を読み取ることができる。
その方向に向かって魔法を放ったりして遮蔽物を崩したり、剣を構えて走っていき動きを牽制したりする。
「いっづぅ!!? ぐっ……まだまだぁ!」
時には避けきれなかった矢が肩に刺さったりもした、だけどこれで終わらせるという勢いをもって痛みを我慢してラルバを細工した場所へと誘導する。
ラルバが泥を飛ばしながら俺から逃げ回っているが、逃げ場を無くして遂には細工した場所へと足を踏み入れた。
「むっ……!?」
ラルバは突然片足が地面に深くハマり軽くうなって驚いていたが、慌てずすぐに足を引き抜こうとする。
「逃がすか、凍りやがれ!」
濡れた地面を経由してラルバが落ちた水入りの落とし穴を凍らす、水から凍らせるならただ凍らせるより魔力量も少なく出来るし、何より俺でもできるのが良いところ。
しかしラルバは身動きが取れなくなったとしても止まらなかった、その場で持っている残りの矢を高速で連射して俺を狙ってくる。
だが俺もそれで止まるわけにはいかない、動きが制限された今のラルバじゃないと勝ち目は薄い。
「アイスフォール!」
剣で飛んでくる矢を弾き、出来なかった矢は身体へと突き刺さる。
それでも集中して俺はラルバの頭上にこぶし大の氷塊を作り出して落とす。
避けることができないラルバは一心にそれを受けてそのまま動きを止めた。
すぐに審判が状態を確認する、そして俺は腕を掲げられて何とか勝負を制した。
「は、ははっ……やったー! あいたたた……!!」
喜びを表現しようとガッツポーズをしたが刺さった矢が痛みを思い出させてくる。
これは早くドゥードさんのところへ駆け込まなければ痛くて泣いてしまう。
「ら、ラルバぁ!! ワシがお前にいくらを……いくら注ぎ込んでいると思っているのだァー!!」
「うわっ……な、なんだアイツ……?」
観客席からフードを被った男が激昂しながら気絶するラルバに向かって声を荒らげている。
「お前が実力者だからと聞いて雇ったというのにそんな弱そうな男に負けおって! まさか……ラルバお前わざと負けたのであろう!? あの男に賄賂でも渡されて手を抜いたんだな、そうなのだろう!?」
なんて事を言うんだあの野郎。俺が弱そうなのは否定しないし合っているけど、必死に闘った選手に手を抜いたとか普通言うか? しかも気絶したラルバに向かって好き放題に。
さすがに大会側の人も注意をしようと近づくが、男はそれを手で払い除けてズンズンと横柄に歩きながら会場を去っていった。
「嫌なヤツだな……。まあいいか、それより早くこの傷を治してもらおう。」
医務室に駆け込むまではズキズキと傷んでいた傷は、ドゥードさんの素早い処置と薬、それに魔法によって痛みが感じない程へとなっていた。
「おー、全然痛くないです。ドゥードさんって本当に医者だったんですね。」
「そうなんですよ、闘司君が自分で傷を治していたから分からなかったでしょうけどこれでも医者なんです。」
ちょっと不満だったのかドゥードさんは治りかけの傷をピシャリとはたいた、それは痛いです。
「しかし君をやっと治療することが出来ましたけどやっぱり驚きますね、矢を抜いて少ししたら傷が少しづつ再生していくんですから、正直引きました。」
「引かないでください、傷の治りが早いのは……そう、生まれつきなんです。」
転生時に自動治癒を貰ったのだから嘘は言っていない。
「生まれつきですか、そういう事にしておきましょう。はい、それじゃあもう行っても大丈夫ですよ。この後用事があるんですよね?」
「えっ、何で知ってるんですか? 俺言いましたっけ。」
「いや状況から予想しただけですよ、ほら後ろ。」
ドゥードさんの言葉に従って後ろを見ると、医務室の扉の隙間からこちらをチラチラと窺うシャルルの姿があった。
「何してるんだシャルル……?」
「あっ、えっとねトージはもう大丈夫かなって思ってたら気になっちゃって覗いちゃった……ダメだった?」
「許す!」
ちょっとバツが悪そうな顔がキュンとしたので許した、当然の事だな。
「よかったー。あっそれよりトージ、早くリュリーティアのところに行こうよ。」
「ああそうだな、それじゃあドゥードさんこれで失礼します。」
「はい行ってらっしゃい。」
医務室を後にしてリュリーティアさんが試合をしているAブロックの会場へ向かうことにした。
「リュリーティアさんの相手って、たしかマリーさんだったよな?」
「そうだよ。」
サラマッドへの道のりで一度闘った時はリュリーティアさんが勝ったんだったな。
なんならもう試合は終わってしまっているかもしれない、早く行かなきゃな。
そしてAブロック会場について、まだ賑わっている観客席から試合を観戦すると驚きの光景が目に映った。
「リュリーティアさんが、押されてる……?」




