マッサージ
次回更新は三日後になります。
威力はあるが隙の大きい大振りの剣を避け、手に持った槍で両腕に一撃ずつ突きをいれる。
武器を落として傷を抑えながら後ろに下がろうとする相手を追いかけ、反対に持った槍をバットに見立てて素振りをするように横に薙ぐ。
リーチの長い槍は後ろに下がった相手を楽に捉え、槍を肩に食い込ませた。
「ふんッ!!」
食い込ませた槍をしならせながら振り抜き、倒れて転がる相手の腕を足で踏みつけて抑える。
仰向けでこちらを睨む相手の眼前に槍の刃を突きつけて問いかける。
「ハァハァ……どうだ、まだやるか?」
息を切らさないで言えれば格好がついたものの、そんな余裕は持てないので頑張って口角だけは釣り上げて言ってみせる。
一度歯噛みをした相手は睨んでいた視線を逸らして、降参をしてくれた。
よかった、魔法とかで抵抗されたら結構困ってしまうところだったぞ。
審判が俺の手を掲げて勝利を告げる、これで本日分の試合は終わった。
「さっさと医務室に行ってからシャルル達と合流しよう、とっても……疲れた。」
受けた傷はそこまででもないけれど、人が見ている中で闘うっていうのは精神的に辛い。
自動治癒スキルは受けた傷を治しても、負った心の傷は治してくれないんだ。
「ヤダヤダ……疲れでポエミーな事を考えちゃったよ。」
これ以上変な事を考えて黒い歴史が紡がれてほしくない、急いで医務室へゴーゴー。
「はい、薬を塗っただけですけど闘司君はコレで大丈夫そうですね。」
「自分もその通りではあると思ってますがなんか納得がいきません。」
「いやぁ褒めてるんですよ、魔力を消費しなくて済む患者さんというものはありがたいですから。」
うーん……手間を掛けさせてしまうよりはいいことなんだろうけど。
「それより、一度じっくりと闘司君の身体を調べたいくらいなんですよこっちは。魔法を使用しないでこの驚異的な回復スピードは見たことがありません。もしかして闘司君はヒトじゃないのですか?」
「立派にヒトを全うしてると思います。」
貧弱で臆病でシャルルが大好きな普通のヒトです。
少しだけ神様とお話ができる普通のヒトです。
普通の定義に疑問を持ちそうだ。
「じゃあ診てもらえて元気になったし待ち人が居るので失礼します。」
「ああっとちょっと待ってください。闘司君の身体は大丈夫そうですけど、もしかして精神的に疲れていませんか?」
「すごい……どうして分かったんですか?」
「一応医者ですので患者の状態には敏感なんです。しかしそうですか。」
ドゥードさんは腕を組んで考える素振りをする。
そのまま少し考えた後、顔を上げて話し始めた。
「うん、これが良さそうですね。闘司さん、実はその精神の疲れを癒すとっておきの方法がありましてね……。」
観客席にいたシャルルとリュリーティアさんの二人と合流してココノエ宿屋へと帰ってきた。
今日の試合で流した汗と身体についた汚れを温泉で綺麗に洗い流し、露天風呂で身体をしっかりと温めてからサクラの間へと戻ってきた。
「ぬふぅ〜……あーそこそこ、いいぞシャルルぅ……。」
気の抜けた声が息と一緒に吐き出されて、どんどんと身体が脱力を繰り返していく。
「よいしょ、うんしょ。トージ、気持ちいい?」
「人生で最高峰だぁ……。」
「よく分からないけど、とにかく良いんだね。えいっ。」
大人より少し小さい手で一生懸命に肩や背中を押してくれるシャルル。
ドゥードさんに教えてもらった疲れを癒す方法とはまさにこれ、マッサージだ。
ただし普通のマッサージではない、自分の大切な人に気持ちを込めて押してもらうマッサージだからこそ、安心して全てを委ね身体だけでなく心が癒されていくのです、との事である。
実際その通りで、俺の顔は緩みきって人様にお見せするのが出来ないほどになっているし、床に寝そべる俺の身体は投げ捨てられたシャツの如くだらしないことになっている。
「トージ変な顔してるねぇ。」
「いつもこんな顔してるから大丈夫大丈夫。」
「えー? 自分でそんなこと言っちゃダメだよー。それにトージはいつも……いやたまにカッコイイ顔してるから。」
「おいおいそれはあんまりフォローになってないぞ。」
「えへへごめんごめん、よいしょ。」
シャルルの指が気持ちいい場所を押し込んでくるので思わず唸ってしまう。
ちょっとマッサージの仕方を教えただけなんだけどシャルルは飲み込みがとても早く、俺のツボなどを既に把握しており的確に押してきてくれる。
そうしてマッサージをしてもらうこと10分くらい、シャルルの指が疲れてきてしまったのでこれで終わりにしようとすると襖が開かれた。
「闘司さん……少年を跨らせて自分を抑え込ませるとはマニアックな趣味をお持ちですわね。」
露天風呂から遅れて上がってきたリュリーティアさんは微かに上気した頬に手をあてながら、大変な誤解を招く発言をかました。
「聡明なリュリーティアさんのことなので分かっているとは思いますがあえて教えてあげますね、これはマッサージをしてもらっているんです。」
「トージを気持ちよくしてた!」
「うんシャルル確かにそうなんだけど、俺の心が汚れているせいなのか不思議とそういう風に聞こえちゃうのは何故だろうな、いや全部リュリーティアさんのせいだけど。」
「心外です、的確な状況描写をしたつもりですわ。それとシャルルさん私にそこを交換させてもらえます?」
「うん、ボク疲れちゃったから後はお願いするね。」
シャルルが俺の背から降りる。
その代わりにリュリーティアさんが最近着こなせるようになった浴衣の袖をまくり、俺の背中の上でスタンバイを始めた。
なんでかな、悪寒がしてきた。
「闘司さん覚悟はよろしいですか?」
「ちょちょ、ちょっと待ってくださいただのマッサージになんで覚悟を」「とう。」
ゴリ。
体内から凄まじい音が聞こえてきた気がする、それはまるですり鉢で何かを擦る音のような。
リュリーティアさんがひとたび指圧をすると骨と筋肉がすり潰されていく錯覚を受けて俺は悶絶する。
「あがーー!!?」
「お気に召してもらえてますわね、ではお次のステップへ参りますわ。」
「無理無理無理! これ以上参らないでください!!」
どこをどう見たらコレを気に入ると……あっ、待って待って曲がらないから人体はそんな方向に曲がるように作られてないですから。
リュリーティアさんが急に俺の腕を掴んで引っ張りあげる、ゴキベキと鳴ってはいけない音を立てているのにも関わらず、人体オーケストラを続けていく鬼畜金髪美女に俺は恐怖を感じずにはいられない。
「さぁトドメ……仕上げですわ。」
いま、今この人トドメって言いかけたよ!?
引っ張りあげていた腕を離してもらい一息つけると思ったのも束の間、背中の中心に軽く拳を置かれた。
「すぅー……ふぅー……。」
「マッサージにそんな呼吸法は必要ないですよね……?」
「ハッ!!」
次の瞬間、視界がブレる程の衝撃が背中に置かれた拳から全体に伝わった。
まさか自分の身体から爆発音を聴くことができるなんて思わなかったと感心しながら、魂が肉体を離れていく感覚を受けて意識を手放した。
うわやめろ近づくんじゃない。
俺は打楽器じゃない……打楽器じゃないってやめろ離してくれ。
あっあっ……そんな恐ろしい棒を持ってどこを叩こうとしているんだ……やめろ、やめろ!!
「フォルティッシモーー!!!」
夢診断をしてもらいたいくらいの意味不明な悪夢を見てしまい飛び起きる、倒れていた場所はサクラの間の畳の上。
そうか、俺はリュリーティアさんにマッサージ……もとい殺されかけたのか。
当の本人はお茶を啜りながらのんびりしていやがるぞ、くそぅ許さんいつか復讐をしてやる。
一言文句でも言おうと起き上がろうとすると、身体が軽くなっているのに気づく。
「あれ、なんか身体が……。」
「起きましたわね、どうですご気分は?」
肩を回したり腰を捻ったりして調子を確かめてみる、驚いたことに怠さや痛みがスッキリと無くなっているのだ。
「正直なところ、今この場で金髪鬼畜美女と叫んでやろうと思っていました。」
「永眠します?」
「でも身体を動かしてその考えは無くなりました……今ならリュリーティアさんの素敵なところを叫びながら徘徊してもいいくらいですよ。」
「丁重にお断りさせてもらいますわ。でも良かったです、昔シュルト城下町で整体師の方の技を拝見したのを見様見真似でやったので、こんなに上手くいくとは思いませんでしたわ。」
はい?
「安心しますわ。これでいくら特訓で闘司さんをしごいて疲労させようとも、マッサージで強制的に治せますもの。あっ、まだ慣れてないので明日も試させてくださいね。」
前言撤回、やっぱり金髪鬼畜美女だった。




