サラマッド闘技大会予選・3
次回更新は三日後になります。
全力疾走でマリーさんに向かい駆けていく。
「真っ向勝負とは男らしいね闘司、気に入ったよ!」
「ごめんなさい男らしくはないです、よっ!」
「なっ!?」
相対する瞬間に足元から氷柱を生み出す。生み出し伸びてくる勢いを使って、速さを保ったままマリーさんの上を飛び越えて斧の元まで飛んで着地した。
突き刺さった斧を引き抜いて振り回し、ちゃんと扱えるかどうかの確認をする。
「こりゃ驚いた、自分の武器じゃなくて相手の武器を使うのかい。たしかに男らしいとは言いづらいねそれは。」
「すいません、こうでもしないと勝てる可能性があまりにもないので……。」
「いいさ、面白そうだからね。」
武器を奪われたにも関わらずマリーさんは怒らない、むしろニカッと笑いワクワクした様子でもある。
これは負い目なんて感じてちゃいけないな、しっかりと闘って応えなければ。
斧を両手で持って腰近くに構える、初めて使う武器ではあるが使い方は先程何度か見たので多分大丈夫だろう。
それを真似しながら動けばいけるはず。嬉しいことに扱う能力は一時的に身についているんだ、有効に使っていこう。
「行きますよ!」
「いいよ、きな!」
体全体を回すように斧を横に振るう、引っ張られるように斧がついてきて遠心力のついた一撃となる。
「分かりやすい攻撃だね、ほいっと。」
「まだ、まだぁ!」
軽く下がって避けられてしまうが、気にしないでそのまま斧に引っ張られて一回転して追撃。
そしてそのまま独楽のように連続で回転をして斧を振り回していく。
避けられてしまっているがな。
「闘司顔が不細工になってるよはっはっは!」
「うぅ、うるぅ、ひゃい、ですぅ、よぉ!」
視界がグルングルンと回るのと斧を振り回すのに必死で、顔に不必要な力が入ってしまってるのは自分でも分かっている。
限界が近づいてきたので仕方なく回転を止める。
やばい吐きそう、胃から胃液が上がってきそうな感覚を気の所為と言い聞かせて落ち着かせる。
おっと試合中に立ち止まっているなんて馬鹿みたいじゃないか、ハッタリでもいいから攻撃しないと。
「うぷ……、喰らえ!」
「悪いね闘司、武器を返してもらうよ。」
「うそっ!?」
気の抜けた攻撃をしたせいか、振り下ろした斧の柄の部分を易々と掴まれてしまう。
いやまだだ。マリーさんに引っ張られて斧を奪われるよりも早く、全力で自分の元に斧を引き寄せる。
「ちょっ……なんだいその馬鹿力は!?」
そっくりそのまま返したい言葉だ、油断してくれていた事もあってか引っ張られるがままにマリーさんがこちらに倒れ込んでくる。
チャンス、ここで決める。
斧を手から離し、倒れ込んでくるマリーさんの溝尾に篭手付きの拳を捻り込む。
「ゴッ……!?」
「うおぉおおおお!!」
もっと、もっと叩き込むんだ。
自分に出来うる最速で殴る蹴るを腹部に繰り返していく。
最初の一撃から呻き声が聞こえなくなっている、これなら勝てるかもしれない。
だがやはり、そんな甘いことは起きなかった。
全力で攻撃を打ち込まれているにも関わらず、マリーさんは両手を広げて俺を抱き込む。
[敵の能力一部上昇確認、能力一部上方修正]
また頭の中で警告が鳴ったと思ったら、マリーさんの身体が赤い光に包まれる。
それから徐々に俺の身体が力強く締め付けられていくのに気づいた。
「ビックリしたよ、リュリーティアの言っていたことは本当だったようだね。でも悪いがこの勝負はもらったよ。」
「ぐぁあああっ!?」
一気に身体を締め付けられる、ミシミシと軋む音が聞こえて意識を保つのが難しくなる。
そしてマリーさんはいきなりパッと両手を広げて俺の身体を解放した、なんとか気絶せずに済んだことを安心したのも束の間。
燃えるように赤く光る拳が目の前に迫るのを最後に、俺の意識はブツリと切れた。
意識を取り戻す、そう自分で確認すると俺はすぐさま目を見開いた。
白い天井と明かりが目に映る。
「起きましたか?」
ヌッと体格の良い男性が視界に入ってくる、何処のどなたでしょう、というかどういう状況だ?
「疑問にお答えしましょうか? あなたは先程試合で気絶して負けました。そこを医療班である私が、この医務室まで運んで治療していたのですよ。」
「心を読まれた……。」
「大体運ばれてくる人はそういう質問するのであなたもそうではないかと。」
しかしそうか、負けたか。
そうだな、徐々に思い出してきた。
鯖折りからの顔面グーパンチでKOされたんだったな。
悔しいなぁ……。
「悲しい顔をしているところすいませんが、あなたは確かもう一試合ありましたよね? こちらでダメージ等は出来る限り治しておきましたので、すぐさま試合に向かってくださいますか。」
「感傷に浸れないですね。」
「次の試合に勝って勝利の余韻に浸った方が幸せですよ。」
「それも、そうですね。よし、過ぎたことは気にしないで次の試合頑張ってくるとします!」
横になった姿勢から起き上がる、男性の言葉通り特に身体に痛みとかは無い。
「本当に全然痛みがない……。結構殴られたりしたんですけどどうやって治したんですか?」
「魔法ですよ。」
やっぱり魔法って万能に近いのだろうか……。
「冗談冗談、真に受けないでください。魔法は使いますけど薬とかも使っていますよ。ほらそんな事より、あなたの他にも怪我人が来るのですぐに試合に向かってベッドを空けてください。ここを出て右手に行けば会場につきますので。」
「あっはい分かりましたそうします、治療ありがとうございました。おっと、最後に名前だけ教えてもらってもいいですか?」
「えっ? 物好きな方ですね、私はドゥードっていう名前ですよ。」
「ドゥードさんですね、覚えました。それじゃあまた医務室に来るかもしれないのでその時はよろしくお願いしますねー!」
ドゥードさんにお礼を告げて会場に走り出す。
「また来るかも宣言をする選手は初めてだな、愉快なお人だ。」
教えられた道を辿って会場に戻ると、俺を発見した大会関係者の人にすぐさま連行された。
「申し訳ありません他の方の試合などで時間が押してまして、準備が済みましたらすぐに試合に入ってもらいます。」
そう促されて予選最後の試合へと挑む、俺はまだ一勝なのだ、この試合を負けてしまうと本戦へは進めなくなる。
「この試合は、負けられないな……。」
リュリーティアさんとの約束を果たすために予選で負けることはあってはならない。
握った拳を閉じたり開いたりと繰り返して身体の調子を確かめる、ドゥードさんの治療によって違和感もなく普段通りの動きが出来ることを実感できた。
ステージへと入り、予選最後の対戦者を確認する。
「あ、あれは!?」
第1試合目の敵と似たような体格をした男性で少しホッとしたが、一つだけとても注意しなければいけないなところがあった。
「フレイルモーニングスター!? フレイルモーニングスターじゃないか……!」
ガンボさんの武器屋でバーゲンセール箱から見た、フレイルモーニングスターであった。
棘付き鉄球を振り回して攻撃をするらしく、使い方をミスすれば自分がグチャグチャになる恐ろしい武器だ。
まさか本当に使う奴がいるとは思わなかった……、こんな事ならリュリーティアさんに対処法とか聞いておけば良かったよ。
「両者所定の位置についてください。」
考える時間が足りないか、どうやって対応する?
普通の剣とかより範囲は広く、槍よりは少し短いくらいだからある程度距離も考えなければならない。
ああダメだ時間が足りない、戦いながら考えるしかないぞ。
「それでは試合を開始致します。いざ尋常に……始めっ!!」
ジリ……と両者見つめ合いながら互いに様子を窺う、俺も今回はいきなり攻め入りはしないぞ。
膠着状態から1分、相手が焦れて攻め込んできた。
鎖の擦れる音を鳴らしてフレイルモーニングスターを振り回してくる、軽く下がって避けると目の前を風切り音を立てて過ぎていく。
「怖い! 殺傷能力無くしてるって言ってもあの棘の禍々しさは怖いよ!」
当たった自分の姿を想像して身震いしてしまう、絶対にアレに当たってはいけない。
よし、とりあえずまずは落ち着こう。相手の能力に関してはスキルの警告が無かったので、俺と同等もしくは下のはずだ。
リュリーティアさんの鍛錬のお陰で俺自身の能力が上がり、スキルの発動水準が上がっているんだと思うんだ。
「うわっ!」
二撃目の攻撃を辛うじて躱してまた考える、なんとか相手に接近すればあの武器の性質上俺に攻撃はしづらくなるはずだし、俺は剣や篭手で攻撃しやすくなる。
となると、アレを恐れて避けるだけじゃダメなんだよなぁ……突っ込むしかないのか。
いや待て待て八代闘司?!まずは魔法を試してみよう!
せっかく魔法を使っていいんだから積極的に使わなきゃ勿体ないぞ、うんうん。
「決して、突っ込むのが怖い訳では無いんだぞ。」
誰にともなく言い訳をしておく。
でもただ魔法を放つだけじゃ防がれたり、あるいは警戒されてしまうかもしれないから……。
「どうか相手が間抜けで強くありませんように……。」
一戦目の敵を思い出す、相手の弱さを祈りながら水の魔法を放ってみる。
フレイルモーニングスターを振り回し、こちらに攻撃を繰り出そうとして踏み出す足の下を凍らせる。
俺ばかり見ていてまったく魔法に気づかなかった相手は、なんとも都合よく足を滑らせて盛大に転んだ。
転んだ衝撃で、振りかぶっていたフレイルモーニングスターが真上へとすっぽ抜ける。
「あっ。」
転んだところから起き上がろうとしている相手の顔面の上に、フレイルモーニングスターが落ちていくのが見えた。
これ以上見るのは可哀想なので手で顔を覆い隠して見ない振りをしておいた。
ゴシャ! 耳障りな音が聴こえてくる。
「あー痛い痛い……ごめんなさいごめんなさい……。」
指の隙間からチラリと確認すると、相手はピクピクと痙攣をしながら立ち上がることはなかった。
「勝者、八代闘司選手!」
こうして呆気なく三戦目を勝利し、本線への出場が決定することになった。
それにしてもマリーさんの試合が壮絶だった、一試合目とこの試合の事は明日になったら忘れていそうなくらい壮絶だったよ。
そして予選をこうしてくぐり抜けたけれど、新たな問題が浮上した。
「マリーさんに負けたことをリュリーティアさんに知られたら、なにかとてつもなく恐ろしい特訓をされそうな気がしてきた。」
完璧な嘘を用意して華麗に切り抜ける算段を企てなければいけない。




