基礎を学ぶ・5
次回更新も三日後になります。
闘技大会に登録した次の日、リュリーティアさんの二日酔いもすっかりと直って元気そうにしている今日この頃、何故か俺の手に剣が握らされていた。
剣といっても木製の剣だから別に切れやしない。
「そういう問題でもないんだよなぁ……。」
向かい側に同じく、木製の剣を構えているリュリーティアさんに聞こえない音量で愚痴をこぼす。
こうなった説明は簡単だ、今朝リュリーティアさんに闘技大会へ出場登録したことを伝えて、予選は四日後で本戦は一週間後ですよと教えたら。
『時間が勿体ないですわ、特訓を致しましょう。』
と言った後にサクラの間から引っ張りだされた次第なのだ。
ちなみに場所は昨日行った会場のすぐ近くに建てられている、こういった試合や練習などが出来る施設の中である。
俺達と同じような考えの人がいるので、様々な武器を使って試合などをしている人達の姿がたくさん見受けられる。
「闘司さん、準備は宜しいですか?」
「そこそこよろしいです。」
「そこそこでもよろしいですわ、ではかかってらっしゃいな。」
「トージがんばれー!」
「おうよー。」
シャルルの応援で気が引き締まる。
リュリーティアさんは剣を構えたまま微動だにしない、この特訓は俺の為のものなのでリュリーティアさんからは手出しはしないのだそうだ。
しかしそうは言われても……ビックリするぐらい隙が無い、なんというかどこから攻めても返されるイメージが浮かんでしまう。
いかんいかん、弱気になっていてはリュリーティアさんから一本取る事など出来るわけがない。
剣を握り締めて打ち込んでいく、まずは真正面に縦切り。
半身になって避けられる、そこから横に切ろうとするとリュリーティアさんの剣に抑えつけられていて動かせなくなっていた。
仕方ないので一度その場から後ろに下がって剣を構え直し、今度は斜めから振り下ろすいわゆる袈裟斬りをする。
この攻撃もリュリーティアさんは足を半歩動かし、首を傾けて軽く避けてしまう。
だがそれは可能性として入れていた、今度は今の剣の軌道を倣うように下から切り上げる。
「それではダメですわね。」
「えっ、うわっとっと!」
リュリーティアさんは切り上げをくぐるように屈んで避け、そのまま身体を踏み込み肩で押して俺の身体のバランスを崩してきた。
「手出しはしないのでは……?」
「手は、出していませんわ。」
「くぅ、子供みたいな言い訳を!」
「闘司さんの攻撃の方が子供のように単純です、これでは簡単に避けられてしまいます、わっ。」
話しの途中に足払いを試みたがそれも読まれていたらしく、ジャンプで避けられる。
「なぜだ……!?」
「ふぅ、私の戦闘能力の高さもありますが……何より闘司さんの攻撃は読みやすいのです。目線や重心、そして感覚的なものですが、気配というものがダダ漏れになっております。」
「そんな剣豪が身につけるような特技を言われても……。気配なんてどう直せばいいのやら。」
「闘司さんは戦闘時に色々考えすぎなのですわよ、よく無心になれと仰るではないですか、要はそれですわ。まあ本当に心を無にしろという意味ではないのですけれど。」
「むずかしぃ……。」
頭を抱えて悩んでしまう、たしかに俺はこう剣を振ろう、ああしてみようとは考えてしまうがそれは仕方ないのだ。
剣を使う事などこの世界に来るまで無かったんだから、今でも気を抜いたりすると手から剣がすっぽ抜けたりするんだぞ。
はっ……! いい事を思いついたぞ!?
「碌でもない事を思いついた顔ですわね。」
「えぇい、表情から考えを読み取らないでください! いいからもう一度行きますよ! てぇい!」
「なっ!?」
「おお、カッコイイぞトージ!」
思いつきが上手くいったのか、リュリーティアさんは驚きながら俺の攻撃をかろうじて受け止める。
これなら、いける!
「ふっ! はっ! そぉい!」
「複雑、なのに、力強いっ!? ふぅ……途端に別物になりましたわね。あの表情からは考えつきませんが、一体何を思いつきましたの?」
「シャルルに襲いかかるドランをぶっ飛ばすイメージでやりました!」
「ああ……そうですの……。」
個人的には素晴らしい考えだと思ったけれど、リュリーティアさんの顔は呆れ果てたものだった。
「それは奥の手にしておきなさいな……。もう気配はいいので、目線とかを直していきましょう。闘司さんは攻撃をする時に狙う箇所に視線を送っています、これを相手に悟られると、先程のように攻撃を簡単にいなされてしまうのですわ。」
「そんなつもりは無かったんですけど……。」
「癖みたいなもので無意識にやっているのでしょう、今度は意識して攻撃する場所に視線をやらないようにしてください。」
言われた事を頭に入れて、再び攻撃を開始する。
狙うは手首、しかし視線は常にリュリーティアさんの目を見据えながら剣を振るう。
「そうです、それを繰り返してください。」
何回か狙う箇所を意識的に見ないで攻撃していく、全部防がれてはいるがさっきのように動きを読んで防御されている感じが少なくなった気がする。
「よろしいですわ、今の感じを忘れないようにしてください。それに今の、私の目を見ながら戦っていたのは良いことですわ。それをしていれば視線から逆に相手の動きを闘司さんが見破ることも出来るやもしれませんから。」
「はいぃ……。」
色々やらなきゃいけない事があって頭がパンクしそうだ、俺は少し疲れて床に仰向けで倒れ込む。
そこにシャルルが冷たい飲み物とタオルを持ってきてくれる、まったく可愛いマネージャーさんだぜ。
「はいトージ。」
「さんきゅー。んぐっ、んぐっ、プハーうめー!」
「戦い方はこれぐらいにしておきましょうか、少し休んだら次は魔法を練習致しましょう。」
「うぅ、はーい……。」
分かってはいたけど、やっぱりまだ続くのね。
少しの休憩を挟んで魔法の練習へと移る。
木製の剣はどうやらこの施設の貸出用だったので、返却をしてきて今は手ぶらだ。
「魔法の練習って何をするんですか? この前みたいに魔力を飛ばせばいいんですか?」
「いいえ、今回は付与魔法の練習を致しましょう。闘司さんはウンディーネの加護がありますので、水の付与魔法になりますわね。」
水はたしか、付与するとなると治癒力と自己再生能力の強化だったな。
「付与魔法はまず身体に魔力を流していきます、ではどうぞ。」
ひゅーアバウトぉー。まあ物は試しにやってみよう。
えっと……魔力を身体全体に流してと……。
ほんの少しの感覚であるが、魔力が流れていくのが分かる。
「魔力を体全体に流すのは出来ました。」
「ホントですか? 魔力を放つのに時間が掛かっていたからもっと苦戦すると思いましたわ。」
「いやぁ、やれば出来る子なんですよねー俺って。」
「はいはい、まだ付与魔法としては出来ておりませんわよ。」
調子に乗るなってことですね分かりました。
「今の闘司さんはただ魔力が巡っているだけの状態です、そこに何かしらの属性を込めてようやく付与魔法となるのですわ。なので、どうぞ。」
「もう少し詳しく教えてくれませんでしょうか……? 属性を込めると言われても何がなんやら。」
「申し訳ございませんがコレばかりは説明が出来ません。一人一人のご自身の感覚でするものですので、私の感覚をそのまま伝えてやると、下手に拗れて付与魔法が上手く出来なくなる可能性があります。」
「な、る、ほどぉ……。」
リュリーティアさんも本当にそれを伝えることが出来ないようで、眉根を寄せて困った顔をしている。
これじゃあ俺がグチグチ言っているのが情けない、なので頑張ってトライしてみよう。
まず何からすればいい……。 俺が使えるのは水の魔法だ、なら水が体全体を流れるイメージとかでやってみるか?
「むむむん……。」
うーん、違うな出来てない。そもそも水が体全体を流れるイメージってなんだ、自分で考えておいてよく分からないぞ。
次だ次、もっとシンプルに考えてみよう。
魔力に水の属性を込める、と自分に念押しをしながらやってみるかな。
「ふぉおおお……! 水よ我に従い力を示したまへ……!」
静寂、無音、冷たい視線、心の折れる音がした。
「闘司さ」「何も言わないでくださいっ!!」
ちょっとやってみたかっただけですから!
これで成功するなんて俺自身思ってもいないので、そっとしておいてください!
「はぁ……どうやらさっきの特訓の疲れが残ってしまっているようですわね。あんまりやり過ぎるのもいけませんし、これで終わりにしましょうか。」
「うぅ……すびばぜん……。」
「トージはよく頑張ったよー、次にもっと頑張ればいいんだよ。」
「シャルルありがとう超大好き。」
「えへへボクもー。」
「イチャつくんじゃありません。」
俺の付与魔法街道の道のりは長そうだぜ……!
練習でたくさんかいた汗を洗い流すためにココノエ宿屋へと戻って、露天風呂へと入りに来た。
髪の毛を洗い、身体を洗って綺麗に仕上げたので露天風呂へと入る。
「ふぃー、お湯が身体に染み渡るぜぇ。」
「そうだねぇ。」
少し熱いと感じるくらいのお湯だが、露天風呂ということもあり丁度良い熱さになっている。
お湯が身体を包み込むこの感覚、とても気持ちがいいしリラックスする……んん?
「この感覚……いやまさかなぁ。」
「どうしたのトージ?」
「なあシャルル、ちょっと見ててくれないか?」
「え、うん。」
本当にただの思いつき、こんな事で出来るわけがないと思いながらも、何処かで上手くいくのではないかという期待を持つ俺がいる。
まずは魔力を体全体に流す。
「ここから、水の魔法がこのお湯のように俺を包み込む感じで……。」
その時だった、ほのかな淡い水色の光が俺の身体を優しく包み込んでいるのが目に見えた。
「あれ!? トージそれって。」
「おいおい嘘だろ、出来ちゃったよ。」
シャルルの目にも淡い光が見えているようで、付与魔法の成功を証明してくれてる。
しかし本当に出来るとは思わなかった、いや期待は少しくらいしてはいたけど。
でもお湯に包まれる感覚で成功しちゃうとは……なんとも格好がつかない。
だけどシャルルはそんな事情など気にもとめずに、俺の付与魔法の成功を喜んでくれている。
「それならいっか。」
「ね、ね、すぐにリュリーティアに教えてあげようよ。 トージが付与魔法出来たって聞いたら、きっと喜んでくれるよ!」
「そうだといいな、なんで出来たか聞かれなければ尚更いいな。」
シャルルはすぐにでも伝えに行きたいようでソワソワし始めたので、俺は苦笑しながら露天風呂を出ることにした。
「今からなんで成功したかのカッコイイ理由を考えておくか……。」




