おるすばんとおてつだい。 続
次回更新も三日後になります。
更新頻度が落ちていますが読んでくださっている方、ありがとうございます。
宿屋へと戻ってきたボク達は、露天風呂の掃除をするためにブラシなどの清掃道具を手に持っている。
ハナは女湯、ボクは男湯を手分けして担当することになった。
どこを掃除するとかは事前に聞いているので、後はボクの頑張りがこの露天風呂の綺麗さを保つ1番の要素になるんだ。
まずは鏡を磨いて綺麗にしていく。
だけどハナが毎日掃除を欠かさないので目立った汚れはほとんど無く、ボクがやる事といえばきつく絞った濡れ雑巾で拭いて、乾いた雑巾で水気を取り除くだけ。
「うん、綺麗になった。えっと次は……。」
底が濡れた地面についている桶をひっくり返して重ねて並べていく。
こうしないて桶をそのままにしておくと、底がカビてしまったりするので必要なのだそう、並べるのは見た目の問題だけれどねともハナは言っていた。
全ての桶を並べ終えたので、今度は手にブラシを持ってお湯が抜かれている露天風呂を掃除していく。
シャコシャコと少し小気味よい音をたてながら、擦る度に泡とブラシが石造りの露天風呂を綺麗に磨いていく。
「もっこもこー、もっこもこー、ゴシゴシピカピカツルッツルー♪︎」
ブラシで磨いていくのが楽しくてついつい歌っちゃう、そのまま歌いながら露天風呂全体を磨き終える。
バケツに水を入れて泡を洗い流したら露天風呂のお掃除は終了だ。
「よいしょ、そーれバシャーン。」
数回繰り返して流したら泡が無くなって、黒く輝いて見える石造りの床が見えるようになった。
「ふっふっふ、綺麗だねぇ。」
腕を組んで自分の頑張りを褒める、自分達が使う温泉が綺麗になるのはやっぱり気持ちがいい、それに毎日掃除をしているハナには感謝が尽きない。
さて、たしか後は温泉にお湯を入れればもう終わりなんだったっけかな。
「シャルルさーん、そちらは終わりましたかー?」
女湯の方からハナが話しかけてくる。
「ちょうど今終わったよー! あとは温泉にお湯を入れればいいんだよね?」
「それは後で私がやっておきますので、そろそろお昼にしましょうかー。」
お昼、掃除に夢中ですっかりと忘れていた。
お昼の時間ということをハナに言われて気づくと、今まで静かだったお腹がゴハンを寄越せと雄叫びをあげだしてしまう。
それになんだか力も段々と抜けてくる感じがする、これは早くお昼ゴハンを食べなくちゃ動けなくなっちゃうよ。
「ぷふっ。シャルルさんたら、こっちまでお腹の音が聞こえてきてますよー? それじゃあお昼を用意するのでサクラの間で待っていてくださーい。」
ありゃりゃハナに聞かれちゃってたや。
お昼をハナに任せて、ボクは使用した掃除用具を片付けてサクラの間に戻ることにした。
ビッチビッチ、ビューン。
タタミの上でトビウオアタックの練習をしながら、ハナが用意してくれているお昼を待っている。
「むー、トージの様に綺麗に出来ないなぁ……ん?」
ふと鼻に嗅いだことのある臭いが漂ってくる、この臭いはサクラの間の外から来ているみたいだ。
それにこの臭いはいい香りじゃなくて、どちらかと言うとボクが料理を失敗した時とかの……。
「もしかしてもしかしてハナがピンチ?」
不安な気持ちになってきたのでトビウオアタックをやめて立ち上がり、臭いを辿るためにサクラの間を出ることにする。
そういえばトージがボクのこの臭いを嗅ぎとるのが凄いって言っていたけど、そんなに凄いことなのかな?
ジン様の加護のお陰で、昔から出来ていた風の流れを読み取る力が増したから、余計に敏感に分かるようにはなったけれど。
けど凄いのはジン様の加護だと思うなぁ。
「くんくん、臭いが強くなってきてる。」
そろそろ原因の場所へと近づいてきてるのかも。
そのまま臭いを辿って廊下を歩くと、1つの空間へと辿り着いた。
ここは調理場……かな? ルカのところのお城にもあった調理場みたいな雰囲気がある。
その空間で一人、少しどんよりとした空気を纏ってる人が立っている。
「ハナ? そこで何してるの?」
ハナは何かするでもなく立ったままで、こちらにバツの悪そうな顔を向ける。
「シャルルさんごめんなさい……お昼が、お昼がなくなりました……。」
「えっ……。」
ビシャンとボクの背後で雷が鳴り響いた気がするほどショックを受けた、お昼が、無くなった?
「無くなったって、誰かに食べられちゃったの?」
「……。」
ハナは首をふるふると横に振って否定する。
じゃあ無くなったってどういう……、あれ? ハナの前に二つ皿が置いてある。
なんだお昼あるんじゃないか、ハナったらボクのことをからかったんだね。
まったくハナは、一瞬本気で信じて泣きそうになったよボク。
「ハナも意地悪だなー、お昼そこにあるじゃな……い、か……な?」
どっかで見たことあるような料理だなぁ。
そう、たしかボクが前にトージに料理を作ってあげた時と似たようなものがそこに……、いやボクのはまだ料理の形を保っていたけどこれは。
「炭だね……。炭って実は美味しいの……?」
「炭です……。生き物の墨は料理に使えますがこの炭は美味しくないし使えませんね……。」
「そっか、そっか。」
「すみません……。」
ハナどことなくは澄み切った瞳で炭を隅々まで見つめていた。
とりあえず炭のことは隅に置いといてハナに事情を聞いてみよう。
「なんでお皿に炭が盛ってあるの? というかなんで炭が出来上がっているの?」
「お皿に盛り付けたら何とかなるかと思ったんですけれど案の定ダメでした……。そしてなんで炭が出来たかと言うと、私、実は料理が出来ません!」
お皿に盛り付けたことにビックリしたけど、それよりもハナは料理が出来ない?
「でも今朝のゴハンはハナが作ったって……?」
「あ、あれはただのおにぎりでしたし……それに具材とかは元々このお店で使われてる食材でしたので……。だからこうした調理をするとなると、てんで駄目なんです……。」
指をツンツンとしながら次第に言葉が小さくなっていくハナ。
「そうなんだ、じゃあお昼どうする?」
「うぅ……申し訳ないですがお外でお昼を取ることにするしか手がありません……。」
「そうするしか、なさそうだね。」
リュリーティアに教えてもらっているとはいえ、ボクが代わりに料理を作ることはまだできない。
トージにお金は渡されているからお店で食べても大丈夫だし、わざわざ炭を増やすことはしない方がいいかもしれない。
「ちょっとハナ? 何でこんなに変な臭いがするのよ。」
「くせぇ……。」
いきなり後ろから二人分の声が聞こえてきたので振り返る、するとそこに二人の男女が呆れた顔をして立っていた。
「ってあら? ご一緒にいるのはもしかしてヤツシロ様でしょうか? 」
「ヤツシロ……? あっ、うん! ボクはそのヤツシロのシャルルだよ。」
トージはトージだけど、ヤツシロっていう名前も付いてるんだったね忘れてたや。
「これはこれは、宿泊してくださっているのは把握しておりましたがご挨拶が遅れてしまい申し訳ありません。私はそちらの若女将ハナの母親で、女将のココノエヤエと申します。それでこっちの無愛想な人が当宿屋の板前で私の主人となります。」
「ココノエサイゾウ……。」
「と、このように無愛想に寡黙をオマケしたお人ですが御容赦くださいシャルルさん。」
「あ、うんよろしくー。」
ペコりとお互いに頭を下げて挨拶する。
「さて……。ハナ?」
「ひゃい!?」
「これは一体どういう状況なのか詳しく教えてもらえる? あっ、シャルルさんは少しお待ちいただけますか。」
「あ、あの、お母さ……いや女将。これには事情があって、ありまして。」
笑顔ながらも怒っているヤエに、ハナはしどろもどろになりながら何とか弁明をしようとする。
「はいはい、話はあっちで聞くわね。」
「シャ、シャルルさーん……。」
「ハナ、頑張れ!」
「うわぁあああん……!」
半ば引きずられて調理場を出ていったハナとヤエ、残されたボクとサイゾウはどうすればいいのか所在なさげにしている。
ぐー。そんな中、この空気を読まずにお腹の音が大きく鳴ってしまう。
「腹……減ってるのか……?」
「うん。ハナが作ってくれるはずだったんだけど、結果出来たのがアレだったから……。」
「すまん……ハナは昔から不器用でな……。待ってろ……。」
「え?」
サイゾウはそう言って何やら食材を取り出して準備を始め出した。
食材を切ったり、水を入れた鍋に火をかけたり。
「もしかして、サイゾウがお昼作ってくれるの!?」
「ん……。」
「わーい! サイゾウありがとうー!」
サイゾウはお礼の言葉に少し照れながらも頷いて応えてくれた。
ハナには悪いけど、今のボクの1番の問題が解決される事になって良かったようんうん。




