鉱山町三兄弟
次回更新は2日後になります。
ストックを作るために間隔を開けたのに一向に増えないので、自分のスケジュール管理不足が滲み出てしまっています。
いきなり大激怒した武器屋の店主に、半ば押される形で店を出ることになった。
突然の出来事に俺とリュリーティアさんは目を丸くしてしまう。
「なんで急に怒り出したんでしょう……?」
「私にもさっぱり分かりませんわ。でもかなりの怒りようでしたわね、よほどグンボさんに対して腹に据えかねる事があったのだと。」
うーん、考えても何も分からないな。
とにかくグンボなる人が経営している防具屋に行ってみれば何か分かるかもしれない、そう思って武器屋から一軒程距離を置いた先にある、防具屋らしき看板を掲げる店まで歩く。
「大嫌いと言う割には店の間隔が近いですよね。」
「同じ事を思いましたわ。」
近いからこそ尚更武器屋の店主の怒りが凄まじかったのだろうか、答えは出ないまま防具屋の扉に手を掛けて押し開けた。
武器屋と同じく、扉に付けられた鈴が店内に来客を告げている。
また誰も来なかったらどうしようなどと思っていると、サッと一人のドワーフが俊敏な動きで近づいてきた。
「どうもどうもようこそグンボの防具屋へ、本日は何をお求めでしょうか? 当店は防具のみならず、サラマッドの町並みに似合う服なども取り扱っておりますよぉ。あっ、お客様はもしや旅人さんではございませんか? ええ、ええ、言わなくても分かりますよ、長年ここで働いていますから地元のヒトというのも分かりますし、他所の方だなという事も分かってしまいます。そうだ、旅人さんとあらば着替えなどは必需品ですよね、そちらの気品溢れるご婦人はと、く、にそうだと思われますぅ! でしたらオススメの商品が」
うーんなるほど、そういうタイプの人かぁ。
何となくだけど武器屋の店主は苦手そうなタイプだなぁこれ。
防具屋の店主、グンボさんはまだ話す口と揉み続ける手を止めない。
俺は必死で引きつった笑顔を浮かべているのにグンボさんは気づく様子もない。
リュリーティアさんも無表情で一点を見つめて話を右から左へ流している。
「おや、どうされたのですかな? ああこれは申し訳ない! 私とした事がまたやってしまいましたか……。」
おお、どうやら自らの間違いに気づいてくれたようだ。
「説明だけでは分かるはずもない! 只今オススメの商品をお持ちしますので少々お待ちくださいね!」
何も気づいてはいなかった。
ピューという効果音と共に、防具屋の店主グンボさんは店に置かれた商品を片っ端から手に取っていく。
そしてこんもりと腕に防具やら衣服を担いでこちらにやってくる、前が見えていないはずなのに足取りがしっかりとしているのはさすがはプロですな。
「いやいやそんな事を感心してる場合では……。」
「お待たせしました! さささ、そこのご婦人お好きな物を手に取って確かめてみてください。」
「断ると面倒なのでそうしますわ。」
「気持ちはわかりますが声に出さず心に秘めてくださいリュリーティアさん。」
グンボさんの耳には届いていなかったのかはたまたわざとか、とりあえず気にしてないので良しとしとこう。
リュリーティアさんは防具や衣服で溢れかえる山から、適当に見えつつもしっかりと選んで取り出した。
「いや……防具じゃないんですかい。」
「お好きな物と仰ったので。」
リュリーティアさんが手に取ったのは黒のキャミソールとホットパンツ、防具ではなく衣服だ。
「コレを来たら動きやすそうですわね。」
「それでしたらあちらに試着室が御座いますので是非ご活用くださいませ!」
あっという間にリュリーティアさんはグンボさんに案内されて試着室へと入っていった、グンボさんがこちらに戻ってきて声を潜めて話しかけてくる。
「ふふふ……アレを着た姿を想像して更に拝見してしまったらもう、アナタ……買わずにはいられないと思いますよぉ?」
「いやいやまさかそんなわけ」
もう着替え終わったのか、試着室からシャッという音ともにカーテンが開けられる、すると中からナイスバデーなチャンネーが出てきた。
「ふむ、闘司さん如何でしょう? まあ私なら大体似合ってしまうと思いますが。」
「びゅーちほー……。」
「はい?」
いつもの凛としたリュリーティアさんを知る人なら今の姿は似合ってないと言うだろう、だがそれは違う。
リュリーティアさんの持つポテンシャルはそんな事など余裕で跳ね除けるのだ、黒のキャミソールと青のホットパンツに金と銀が入り交じる髪の毛が親和性を育み、ここに爽やかなエロスの象徴を生み出したのである。
俺は感激のあまりに泣きながら拍手をする手が止められない。
「いやですわ、何故泣いておりますの……?」
「いえっ……、ただ、あまりの美に目が直視出来ないと訴えているだけです……。」
「褒めているのでしょうけど正直引きますので着替えてきます。」
そんなぁ!?
本当にリュリーティアさんは試着室へと着替えに行ってしまった、俺は悔しさのあまりに膝から崩れ落ちる。
「くそ、くそぉ! 俺がもう少し上手く褒めていれば……そうすればっ!」
「私の言った通りでしたねぇ。それでご相談なのですが……今のヤツのセットを銅貨10枚でどうでしょう?」
グンボさんは床に拳を打ち付けて悔しがる俺にそっと近づき、リュリーティアさんに聞こえない音量で交渉をしてくる。
「へっ、俺も甘く見られたものですね……銅貨12枚だ。」
「なんと、まさか料金を自ら上乗せしてくるとは……。」
「あんな素敵なモノとリュリーティアさんを巡り合わせたグンボさんに、感謝の気持ちを込めただけですよ。」
「貴方とは、長く付き合っていきたいものですな。」
「こちらこそ……!」
差し出された手をしっかりと握り立ち上がる、そのまま互いに信頼の握手を続けたのだった。
誠に残念ながらリュリーティアさんは元の服に着替えてしまった、本当に残念だ。
しかしまだチャンスはある、そうなぜなら俺は自分の服を買うと適当な嘘をついてさっきの服を一緒に買っているのだ。
いつか土下座でもなんでもして着てもらおう。
「なんか無駄な時間だった気がしますわ。」
「そんなことはないですよ、ええそんなことはないです。」
「私も闘司さんと同意見ですよご婦人。」
「いつの間にお二人は仲良くなっているんですのよ……。」
男というものはくだらない事でも絆を深めたりできるのですよふふふ。
「グンボさんは分かる人なんです。最初は何だこの人とは思ったけれど、話してみたらこんなにも理解ある人だなんて思いもよらなかったです。」
「私も久しぶりに楽しい話が出来ましたよ。なんせ私には兄弟が居るというのに滅多に世間話なんてしませんから、するとしても仕事の話ばかりです。」
「えっ? グンボさん兄弟がいるんですか?」
「はい、兄と弟がおります。二人とも私と同じ鍛冶業をしているんですが、もしよろしければ寄ってやってください。」
うん……? 鍛冶をしている、か。
何となくだけれど察せた気がする。
カランカラン、突如来客を告げる扉の鈴が鳴る。
「おーいグンボ兄さん、頼まれてたスキャプラバードの素材持ってきたよー。」
何やら袋を持ってこちらへと近づいてくる一人のドワーフ、グンボ兄さん?
「おおありがとうなゴンボ、後で裏に持っていくからそこに置いといてくれるか。それとおふた方、こちらが先程話していた兄弟の一人、弟のゴンボと言います。」
「どうも初めまして、この町で装飾品などを加工しているゴンボと申します。近くにお店がありますので是非ともお暇な時にいらしてください。」
そうかこの人がグンボさんの弟さんか、そう言われると髭もじゃなところ以外にも顔の作りがどことなく似ている。
「グンボ兄さんなんか楽しそうだね、いつもはもっとつまらなさそうな顔をしているのに。」
「それはこちらのお客さんのお陰だよ、お前や兄さんがもう少し私と他愛ない会話をしてくれればもっと楽しくなれるんだがな。」
「僕はいいとしても、グンボ兄さんとガンボ兄さんが話をするって事は到底出来るとは思えないなぁ……。」
「それは、そうだが……。はぁ、ガンボ兄さんはどうしてあんなに私を目の敵にするのだろうか……。」
ところどころ会話に出てくるガンボという人が二人の兄なのだろう、しかしあまり良さそうな雰囲気ではない。
「ガンボ兄さんはこれぞ職人っていう人だからね、僕やグンボ兄さんみたいなお店の経営の仕方が嫌いなんだよ。だからこそ未だにガンボ兄さんは武器しか作らないんだし。」
ゴンボさんの言葉によって予想は確実な物へと変わった。
それを確固たるものにすべくグンボさんに確かめてみる。
「いきなりすいません、そのガンボさんという方はお客が来てもムスッとして面倒臭そうにしてたりしますか?」
「そうです、よく分かりますね? もしかして……。」
「はい、さっきガンボさんの武器屋に寄ってきました。それに帰り際にグンボさんの防具屋に行くことを伝えるといきなり怒りだしました。」
「はぁ~……、まったくガンボ兄さんは……。兄が御迷惑をお掛けしました、不快じゃありませんでしたか?」
「それは大丈夫ですわ、彼は気難しい方ではありますが悪い人ではございませんでした。ですわよね闘司さん。」
「まあ、俺も別に嫌ということは無かったですよ。」
接客は微妙だったけれど、店の中にあるガンボさんが作った数々の武器は見ていて面白かったし、それに説明時に武器の使い方などを教えてくれたりと親切な一面もあった。
なによりリュリーティアさんがガンボさんの事を褒めていたのできっと悪い人ではない、俺の意志が弱いと思うけれど人の善し悪しが分かるのは大体そんなもんだ。
「だからこれからもサラマッドに滞在している間は度々寄ろうかなと思っているくらいです。」
「グンボ兄さん、このお客さん達凄いお人好しだよ。」
「奇遇だなゴンボ、兄さんもそう思っていたよ。」
二人は顔を合わせて楽しそうに笑い合っている。
「いやー大声で笑ったのは久しぶりです。」
目元に溜まる涙を指で拭き取りながらグンボさんはそう言った。
心無しか最初に見た時の接客用の笑顔とは変わって、無理のない柔らかな笑顔を浮かべている。
「僕もこんなに笑うのは久しぶりだよ、昔は兄弟三人でよく笑っていたはずなんだけどね……。まっ、いつかまたそういう日が来るよね。」
「闘司さん達のお陰で案外すぐにそうなるかもしれないぞ?」
「はは、そうだといいね。あっとごめん、そろそろ僕はお店に戻らなくちゃいけないんだ。それじゃあ僕はこれで、今度闘司さん達も僕のお店に来てくださいね!」
慌ててゴンボさんは扉の鈴を鳴らしながら帰っていった、それにしても朝から随分時間が経っていたのか。
時計の針はお昼を過ぎている、それを認識すると今まで潜んでいた腹の虫が騒ぎ出した。
「じゃあ俺達もそろそろ失礼します。」
「はい、どうもありがとうございました。また何かお買い求めの際はたっぷりサービスしますのでいらしてください。それと闘司さん……今度ご婦人に似合う服を用意しておきますのでご一緒に。」
「っ!? また必ず来ます!」
「何をコソコソ話しておりますの。」
「ひぃえ!? なんでもないですよー。」
危ない危ない聞かれるところであった。
おっと、ここで話をしていたらまた時間が過ぎていってしまう。
「それじゃあグンボさん、また来ます。」
「失礼しますわ。」
「ええ、またお待ちしております。」
そうしてグンボさんの防具屋を後にした。
店を出た俺達はお昼を食べるために店を探すことにする。
「近くに食べ物屋さんはっと……。」
お昼を食べられそうなお店を探してキョロキョロしていると、一つのお店を見つけた。
「リュリーティアさん、あのお店入ってみませんか?」
「店の入口の前でドワーフが一人酔っ払って寝転んでいるあのお店にですか? 本当に言っています?」
「まあまあ物は試しと言うじゃないですか、行ってみましょうよ!」
「仕方ありませんわね、美味しいものが出てくることを祈りますわ。」
お昼を求めるべく、外からでも活気が伝わるお店へと足を踏み入れた。




