サラマッド鉱山町
次回更新は三日後になります。
シャルルがお腹いっぱいで動けなくなったことにより、俺とリュリーティアさんの二人でサラマッドを見て回ることになった。
ハナさんの夫婦云々の勘違いで、二人きりで歩くことにぎこちなさを出してしまうのではと意識して仕方ない。
「そ、それじゃあ行きましょうか?」
「そうですわね、シャルルさんにも楽しんでこいと言われましたので。」
おや? リュリーティアさんの方は全然意識した様子はないな、てっきりもう少しだけ俺みたいに慌てるのかと……、それは調子に乗りすぎか。
それなら俺がバカみたいに意識していたら失礼か、なんとか平静を保ってるように見せて行こう。
「えーっと、リュリーティアさんは上の町を見たいんでしたよね。俺も特に決めてないので早速行ってみましょうか。」
「はい、それでは。」
朝の温泉で話していた上の町を見ることを提案すると、リュリーティアさんの元々の希望であったので反論とかはなかった。
二人して歩き出す、しかしリュリーティアさんの歩調が早い。
俺も早めて隣に並ぶ、するとリュリーティアさんの歩調が遅くなる、同じことを数回繰り返して俺は質問をする。
「俺、何かしましたかね?」
「いえ。闘司さんは何もしておりませんが、上の町に着くまでの間は理由を聞かずにこのままで宜しいですか?」
「まあ、俺は構いませんけど……?」
不思議に思いながらも俺が何かしたわけじゃない様なので、そのまま並んで歩くことはないまま上の町まで向かった。
昨日はグリンダルさんに封書を届けるため、あまり見てこなかった鉱山町をじっくりと見て回る。
今日もそこかしこから聞こえてくる金属音、賑わう人々の声、そして恐らく鉱山で採れたであろう鉱石を運ぶ人達の姿もある。
「ほーほー、アクアヴェネツやシュルト城下町とは家や人とかが全然違いますね。」
「そうですわね。一見乱雑に建てられてるように見えながら、鉱石を運ぶ人達とかには運びやすい建物の配置になっておりますし、歩く人々の中にヒトとドワーフが一緒になっているので余計に違く見えますわ。」
そう、やっぱりドワーフというのは俺にとっては初めてであるので自然と目で追ってしまう。
手には金槌を持っているドワーフ、身体全体を黒く汚しながらもピッケルを持って豪快に笑うドワーフ、それに外でありながらジョッキを片手に他のドワーフと肩を組んで歌っているドワーフもいる。
最後のは店主らしき人に店の中へと引っ張られていったが。
しかしドワーフトールを探してみるがどれなのか分からない、そう思っているとそれらしいドワーフトールを見つけた。
「うおっ……何か凄い量の鉱石を運んでいる……。」
「明らかに他の人とは量が違いますわ、アレが恐らくドワーフトールなのでしょう。私もドワーフトールは初めて見ましたわねそういえば。」
リュリーティアさんもドワーフトールは初見であったか、それよりも本当に力仕事が得意なんだな。
普通のヒトにしか見えないけれど、軽々と大量の鉱石を運んでいる姿はヒトとは違うのだと気づかせる。
「あんまり立ち止まってジロジロ見てるのも失礼ですわ。見るのはお店とかにしましょう、さあ闘司さん行きますわよ。」
「あっはい。でも、行くとはどこへ?」
「まずはあちらでしょう。」
歩きながら指をさす、その方向には一つの建物があり細長い棒に金槌が打たれてる模様の看板がかけられていた。
あれは、もしかして鍛冶屋かな?
近づくにつれカンカンと金属を叩く音が聞こえてくる、中に入ると扉に付けられた鈴が鳴り俺達の来客を店の中へと告げた。
「お邪魔しまーす……。」
鈴が鳴り終えたにも関わらずどこからもお店の人は出てこない、しかし金属を叩く音は店の奥から響いてくる。
「出てきませんね。」
「別に買い物をする予定では無かったのです。ゆっくりと見て回って店主が出てきたら挨拶をすればよろしいですわ。」
それもそうか。
俺は店の中に所狭しと陳列されている武器を眺めることにする。
シュルト城下町にあったザジさんの武器防具屋とは方向性が違う、あるのは全て武器だけ。
それに武器の種類もかなりの数がある。
「ここって置いてあるのは武器だけなんですね。」
「恐らくここは武器の専門店なのでしょう。鍛冶などが栄えているサラマッドだからこそなのですわね。」
専門店、いい響きである。
専門店に入るのは少し勇気がいる、元の世界でコーヒー専門店に入るのはドキドキしたなぁ。
そんなどうでもいい記憶は置いといて武器を見てみよう。
壁に掛けられているものやケースに入っている物は全て高そうに見える、しかし一つの箱にどっさりと武器が詰め込まれたりしてるのもあるが、こちらはワゴンセールみたいな扱いなのかな。
高そうなのを手に取るのは気が引けるので、ワゴンセール箱から適当に一つ引っ張ってみる。
「棒……それに鎖がついて、って重っ。」
「それはフレイルモーニングスターですわね。振り回してその棘付き鉄球で相手をグシャグシャですわ。」
「名前は良いですけど使用説明が惨たらしい。」
「使い慣れないと自分に当たってグシャグシャですわ。」
「もっと怖いっ!!」
試し振りでグシャグシャになりたくないのでフレイルモーニングスターをそっと戻す、次も適当に引っ張ってみる。
次に出てきたのは。
「おっ、これはレイピアですね。」
「ご存知なのですわね、その通りレイピアです。見た目通りに扱いがかなり難しいですわ、刺突するにしても下手すると刺した途端普通にポキッと折れますので、魔法で強化すれば使えるとは思いますわよ。」
「戦闘用ではなさそうですね。」
「昔は決闘によく使われたとかなんとかですわ、詳しくは知りません。」
これは置く時にポッキリとならならいよう慎重に戻す、まだまだいってみよう。
次に引っ張ってみると。
「これは、小さい斧?」
「それはトマホークですわ。簡単に言うと投擲できる斧です。」
「へーだから小さいんですね。」
「日用的にも包丁の代用品として使えますわよ、それに近接戦闘時のナイフ代わりとしても。素晴らしい。」
「包丁の代用品としてか、ナイフの代用品としての素晴らしいなのか悩む褒め方ですね。」
「もちろん両方です。」
なるほどやっぱりそうですか。
これも箱に戻して次の武器にいってみよう。
「これはー、槍? いやでも先が丸っこいですね。それに何か線が……あっ。」
細長い木の棒を弄っていたらいきなりポキッと折れてしまった! あわわえらいこっちゃえらいこっちゃ!
「闘司さん落ち着きなさい。それは三節棍と言いましてそのように外れるのです。よく見てみなさい、折れた所に鎖などが繋がっておりませんか?」
「あわわわ……あっホントだ。」
短い鎖で繋がっていて折れたわけではなかった、二箇所外れるところがあり三つに分かれる。
ヌンチャクの三つバージョンと思えばいいのかな。
「三節棍も扱うとなると、剣や槍などとはまた違く難しいです。しかし対人戦であれば見慣れてる人が少ないので逆に有利に使えたりしますわ。」
「たしかにコレを使ってどう攻撃してくるとかは予想しにくいですよね。」
外れた箇所を元の箇所にはめる。
手に取った時の一本の棒として箱に戻す。
そうして他にもリュリーティアさんの解説を入れてもらいながら武器を見ていると。
「あぁん? なんか声がすると思ったら客か。ここには武器しかねーぞ。」
いつの間にか鍛冶をする音が聞こえなくなっていて、店の奥から店主である一人のドワーフが現れた。
愛想笑いなどなく、俺達を見てもさして興味は無さそうにしている。
「あっどうもお邪魔してます。少し武器を見せてもらっていました。」
「はんっそうかよ、お前に見合う大した武器はないと思うがな。」
これは皮肉を言われているのだろうか?
「あら、こちらの剣などは他では滅多に見かけられない質だと思いますわよ? ご自分の腕を卑下なさってはいけませんわ店主さん。」
「ほぉ、そちらの嬢ちゃんはお世辞を言う口だけじゃなく見る目もあるようだな気に入った。」
うぇーん、この扱いの差はなんだろう。
「こ、これもとても格好良くて良いと思いますねぇ!」
「それは売れたようなもんじゃねぇぞ。」
「闘司さん、無理はなさらないでよろしいですのよ。」
くぅ……なんてこった。
もういいや別に無理して気に入られたくないもーん、強がってないもーん。
「んで、今日は何を買いに来たんだ?」
「申し訳ないのですが今日は購入する予定がありませんの。ただサラマッドにはどのようなお店があるか見て回っているのですわ。」
「けっ、なんだ冷やかしかよ。ほらほら何も買わねえなら帰れ帰れ、今度買う時にまた来い。割り増しサービスしてやる。」
シッシッと手を振って帰れと要求してくる、くっそーどんだけやる気がないんだよ。
「そう仰らずに。それにもう少ししたら他のお店に冷やかしに行きますので、それまではしばしお付き合いなさってくださいませ。」
「がはは、嬢ちゃんは本当に面白ぇな。分かったよ好きにしな。」
リュリーティアさんの冷やかし宣言に店主のドワーフは気をよくしたのか少しの滞在を許してくれた。
許可も貰えたし店主もいるので今度はケースに入っている武器を見ていくことにした。
「これって、もしかして青龍刀ですか?」
持ち手が少し曲線を描き、刀身の背の先が角張っている剣を指して聞いてみる。
「ああ、それは青龍刀だ。ただし普通の青龍刀じゃねぇぞ、俺が作った最高の青龍刀だからな。」
「ふーん。」
「お前、全然興味ねぇだろ。」
「武器には、興味があります。」
「あん? まぁ……別にいいだろう。とにかく、俺が丹精込めて作ったやつだからな。切れ味や耐久力は立派だと思うぜ。」
お値段をチラリと確認してみる。
「金貨一枚……な、なるほど。」
ザジさんの所で武器防具色々買って似たような値段だったけど、この青龍刀一本でそんな値段がするのか……。
「妥当な値段だと思うがな。」
「ですわね。」
リュリーティアさんも賛同している。
ワゴンセール箱とは格が違うんだなとしみじみ噛み締めながら他の武器を眺めていく。
冷やかしと宣言したので、本当に何も買わずに店の中の武器を見尽くした。
「さて闘司さん、そろそろ他のお店に行きましょうか。店主さんどうもです、また来ますわ。」
「おう、今度来るなら必ず買いに来いよ。一応聞いておくが次はどの店に行くつもりなんだ?」
次のお店と言われてもな、ここら辺の事は良く分からない。
でも、武器屋に来たんだから……。
「防具屋、ですかねぇ。」
「あぁーーーーん!? お前今防具屋って言ったかぁ!?」
「うえぇ?! い、言いましたけど、どうしてですか?」
店主のドワーフが防具屋と聞いた瞬間大きな声を上げて怒り出した。
そして拳を握りしめてプルプル震えたかと思うと、俯いていた顔を上げて答えた。
「俺はあそこの店主の野郎、グンボが大っ嫌いなんだよぉ!!!」




