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苦戦必至の異世界巡り  作者: ゆずポン酢
72/206

ココノエ宿屋・2

次回更新も二日後となります。

懐かしい夢を見た気がする。

何を見たかは目覚めて時間が経つ度に朧気になっていく、しかし無理に思い出そうと思わないのは嫌な夢だからだろうか。

そうして起きてから数分で夢の内容は完全に思い出せなくなった。

目だけで見慣れない景色を見渡せば、徐々に理解し始める。


「そうか、ココノエ宿屋か……。」


昨日来たばかりなので見慣れてないワケだ。

しかしこの和の雰囲気はよく知っている、和室に漂う独特な香りもだ。

もしかして懐かしい夢を見たのはこの香りに刺激されてではなかろうか。


「どうでもいいか。」


そう、思い出せない夢の事で色々考えるのはもったいない。

今は早く起きてしまったこの時間の有効活用をしようじゃないか。

そうして俺は隣でまだ寝ているシャルルを起こさないように部屋を出た。







「あっさ風呂〜!」


脱衣場で他の人の着替えが無いことを確認したので、少しはしゃぎながら温泉に入る。

夜とは違う、爽やかさ溢れる朝の露天風呂を独り占め。


「ふぅー、朝から温泉、なんて贅沢なんだぁ〜ブクブクブク……。」


身体全体の力を抜いて温泉に沈んでいく。

朝の気怠い身体がすぐに目覚めていくのを感じる。


「ぷはぁ。いやー最高、たまらん。時間が決まっているとはいえこれが泊まってるあいだは入り放題なんて素晴らしいの一言だ!」


一人だからという開放感なのか、このまま鼻歌どころか歌でも歌ってみようかという気持ちになってくる。

さすがにそれはしないけれど、だけどついつい鼻歌はしてしまう。


「サラマッドは良いところだなぁ、といってもまだこの温泉しか味わっていないけど。グリンダルさんが教えてくれる秘湯とかはどんな所なんだろうなぁ。あっ、そういえば今日は何をするか皆で決めないとな。温泉街を見て回るか、上の町を見てみるのもいいかも。」



「さっきからその独り言は(ワタクシ)が居るのを知っていてやっているのですか?」



「へっ!? もしかして、リュリーティアさんですか……?」

「あら、気づいてなかったのですね。だとしたら今の独り言は少し気をつけた方がよろしいかと。」


竹柵の向こう、女湯の方から話しかけてきたのはリュリーティアさん。

何やってんだ俺……男湯に人がいなくたって女湯に人がいる可能性はあるじゃないか……!


「リュ、リュリーティアさんはいつから入っていたんですか……?」

「あっさ風呂〜と成人男性がはしゃぎながら温泉に入るより前からおりますわ。」


つまりは俺の独り言全部聞かれていたようだ。

恥ずかし過ぎるよぉ……。


「い、今のは全部無かったことにしてくれませんか?」

「お高くつきますわよ?」

「ぜ、善処します……。」

「毎度ありですわ。冗談はさておき、(ワタクシ)は上の町を見て回りたいですわね。」

「へっ?」

「だから、今日の予定の事ですわ。」


あぁそうか、俺の独り言の返事か。


「そうですね、俺は特に決まっていないんで大丈夫ですよ。後はシャルルの意見も聞いたら決めましょう。」

「ええ、それがいいですわ。」


すぐに仮の予定が決まってしまった、会話が止まり沈黙が訪れる。

一人の時は考えの発露として独り言をしていたのだけれど、さすがにリュリーティアさんが入っている手前そんな事は出来ない。

時折ピチャリと音が聞こえてくる、想像するに温泉の湯を肩とかにかけているのだろう。


「あっやば……。」


温泉の湯を肩にかけるリュリーティアさんの姿を想像してしまう、つまりは服を着ていない、綺麗な肌をさらけ出した……。


「どうされました?」

「ふぁい!? なんでもありまっせぇん!」

「その返事は本当になんでもありませんの……?」


やばいやばい一度想像をしてしまうと歯止めがきかなくなる、それにリュリーティアさんの声が合わさって想像にリアルさを追加していく。


「も、もう俺上がりますねー!!」


これ以上ここに居ると言葉にできないような事になりそうなので、慌ただしく温泉から上がって出ていくことにした。

脱衣場からリュリーティアさんの呟きが聞こえてくる。


「一体なんだというのですの……。」


なんかもうすいません……。








「トージ。」

「はい。」

「なんでボクを置いて温泉に行ったのですか。」

「はい……。」

「行くのはボクは構いません。でも置き手紙か何かを書いてもいいんじゃないかな? 起きたら二人ともいなくてボク少しビックリしたんだよ。」

「やーい闘司さん怒られてますわー。」

「リュリーティアも。」

「はいですわ……。」

「以後この様な事態が起きない様、誠心誠意対応させてもらいます。」

「ですわ。」


二人でシャルルに頭を下げて誠意を見せる。


「うん、ということで今日の朝食の一品を二人から頂くことでボクは許してあげます。」


なんてこったい。


「ヤツシロ様、朝食をお持ち致しました。」


今の話を聞いていたのかと疑うくらい、タイミングよくハナさんが朝食を持ってきたようだ。

昨日同様静かに襖を開ける、ハナさんが持ってきた朝食はおにぎりだった。


「簡素で申し訳ありません……。板前が急用で不在のため、失礼だとは存じてはおりますが私が作らせていただきました。形も味も不出来なのでご不満でしてたらお残しください……、それとこのお詫びは後日に必ず致しますので。」


ハナさんは床に頭をつけて擦り付けるかのように謝罪をしてくる。


「ハナさん大丈夫です、大丈夫なので頭を上げてください! 俺はおにぎり大好きなんですよ! っね?!」

「そうです、闘司さんはおにぎりをオカズにおにぎりを食べるお方なのですわ。」

「こふぇ、おひひいふぇ〜!」


リュリーティアさん、ナイスとは言えないフォローサンキュー!

シャルルに至ってはもう食べてやがる、いやでもむしろそっちの方が良かったかな。

ハナさんは頭をあげてくれる、少し困り顔であるが俺たちの意思を汲み取ってくれたみたいでそれ以上謝罪をする事は無かった。


「本当にありがとうございます。それでは私はこれで失礼します。何か御座いましたらすぐに申し付けください、必ずお力となりますので。」


そうしてハナさんは部屋から出ていった。

ふぅ、何故か今日は朝から疲れることが多いな。

さてシャルルに食べられてしまう前に俺もハナさんお手製のおにぎりを食べるか。

少しばかり大きい3つのおにぎりの横にはちょこんと黄色いたくあんが置かれている。

シンプルながらも安心な朝食、贅沢を言うならばお味噌汁は欲しかったかもしれない。

でもハナさんを呼び戻して作ってもらうわけにはいかないので、大人しくおにぎりを一つ取って食べる。


「あぐっ……。もむもむ……、うん美味い。」


シャルルも食べながら言ってたとおり味は普通に美味しい、中の具は昆布だ。

濃い味付けが白米と一緒になり丁度良くなる。

旨みが素晴らしかった昆布のおにぎりを食べ終えて、他のおにぎりを手に取ろうとするとそこには一つのおにぎりしかなかった。


「あれ、たしか二個あったはずじゃあ。あっ……。」


二個あったおにぎりのうち1つを手に持っているシャルルを見つけた。


「おいおいシャルルさすがに食べ過ぎになっちゃうぞ?」

「むふーん、大丈夫だもん。」


別に今日じゃなくても他の時にあげたのに、この大きさのおにぎりを一つ分多くとるのはさすがになぁ……。

あっもう食べちゃったか、なら仕方ない。


「もぐもぐ……。はぁー、美味しいねぇ。後はリュリーティアのもだね。」

「はむっ、んむ? んっ……シャルルさん、悪いことは言いません。やめた方がよろしいですわよ。」

「ふっふっふ……そんな事を言ってもボクは止められないよ、いただきまーす!」


シャルルはリュリーティアさんの忠告を聞き流し今朝五個目のおにぎりを頬張る。

一口目と二口目は幸せそうな顔だったが、次第に顔から元気が消えていく。


「うぐっ……、と、トージ?」

「お残しは許しません。」

「うぅ……、リュリーティア?」

(ワタクシ)はやめた方がいいと言いましたわよね?」

「うっ、ううぅ〜……。」

「分かった分かった食べてあげるから、ほら残りをくれよシャルル。」

「ごめんなさい……。」


シャルルは素直に食べきれなかったおにぎりを俺へと渡した。

中身は鮭か、塩気がこれまたおにぎりと合うな。

あっという間にペロリと平らげた。







食いしん坊シャルルも朝だからなのか量は多く食べられなかったらしく、今は畳で横になっている。

結構大きめのおにぎりを4個程食べてたから仕方ないだろう、それよりもこの後の予定はどうしようかな、シャルルは当分動けそうにもないし。


「二人とも〜、ボクのことは気にしないで楽しんできていいんだよぉ……うぷ。」

「そんな事を言ってもお前のその様子だと誰か居ないと駄目だろ、だから大丈夫だよ。」

「えぇでもぉ……、そうだ、ハナがいるから大丈夫だよ! もし気持ち悪くなったらハナに頼るから、ね?」

「いやダメだろ、ハナさんも忙しいんだから。」


宿屋の業務があるんだから俺たちの為だけに面倒を見てもらうなんて事は頼めない。

しかし噂をすればなんとやら、ハナさんが食器を片付けに部屋にやってきた。


「ヤツシロ様、器を下げにきまし……、どうされましたか?」

「ハナ良いところに! 実はね……。」


止める間もなくシャルルは事の経緯をハナさんに話してしまう。

話を聞き終えたハナさん、目を閉じてゆっくりと頷く。


「そのような事でしたら私は構いません。たしかに清掃などで付きっきりとはなりませんがそれも少しの間だけです。それにお恥ずかしい話ですが、当宿屋に宿泊されているのはヤツシロ様方だけなのです、なのでお仕事がほとんど無くて……。」


ハナさんは自虐的な笑顔を浮かべている、俺達以外の宿泊客を見ないと思ったら本当に他に居なかったのか。



「だからご子息のシャルルさんは私に任せて、お二人はお出かけなさっても大丈夫ですよ。」



ハナさんがいいと言うのならじゃあ……んん? 今なにか引っかかることを言わなかったか?


「じゃ、じゃあお言葉に甘えてしまってもいいですか?」

「はい、夫婦お二人の時間というものも大事だと、ハナは充分承知しておりますので遠慮なく甘えてください。それでは、私は一度戻りますので」

「待ってください。」「お待ちください。」


リュリーティアさんも気づいたらしく、二人同時に部屋を出ようとするハナさん引き止める。


「ど、どうされましたか?」

「ハナさん、勘違いをしているようなので今すぐ正しておきます。俺とリュリーティアさんは……。」


「「夫婦ではありません!」」


「ふぇっ!? えっ、あ、そ、そうなんですか?」

「そうなのですわ。」

「で、でも息は合われてますし、それにご子息さんもいらっしゃるようですので……。」

「それにはそこはかとない事情があるのと説明が長くなるので……、とにかく違うということだけを覚えておいてください。」

「は、はい。そうも仰るなら、了承しました。」


ハナさんは戸惑いながらも分かってくれたようで、そのまま部屋を出ていった。

気まずい沈黙がサクラの間に漂う。

しかしシャルルはそんな沈黙など知らないとばかりに言い放つ。


「じゃあハナも大丈夫って言ってたから、トージとリュリーティアは仲良く行ってきていいよー。」







そうは言われても、この微妙な空気を出しながら俺とリュリーティアさん二人でサラマッドを見て来いと?

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