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苦戦必至の異世界巡り  作者: ゆずポン酢
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叔父バカ族長グリンダル

 急に動いた柱は、なんとサラマッドの族長であったのだった!


「驚かせてしまったかな。だとしたら、すまない」

「いえ別に驚いては……」


 嘘です、かなり驚いてます。


「僕の身長だと来客用の扉を出入りするのが一苦労でね。ほら、あそこに大きな扉があるだろう? アレが僕用の出入口なのさ、大きすぎるのも困りものだよね」


 部屋の奥を指さした所には入ってきた扉よりも二倍以上の大きさがある。

 なるほど、たしかにそれくらいの大きさじゃないとダメだろう。

 なぜならグリンダルさんの身長はマリーさんを軽く超えて、およそ三メートル弱程あるんだから。

 柱にも見間違えるよこの大きさは、だって今グリンダルさんが近づいてきて話してくれてるけど逆効果だもん、目線合わないよ。

 見上げなかったら俺の目線には足があるんだよちょっと怖いよ。


「どうしたのかね? ああそうか、座らないとゆっくり話も出来ないだろうね。気づかなくてすまなかった、さぁさぁそこの椅子に座りたまえ」


 促されて部屋の真ん中に置かれている椅子に三人とも座る、サイズ的に来客用なんだとすぐ分かる。

 グリンダルさんは、一歩が俺の五歩に及ぶ足取りで遠くにあるグリンダルさんサイズの椅子に座る。

 不思議とこの距離感だと大きさを感じさせなくなるのだから遠近法とはすごい。


「さてさて、今日は僕に何か用があったのかな? 最近ここに来てくれる人がいなかったから嬉しいよ」

「あっ、そうでした。実はルカ王女からグリンダルさん宛に封書があるんです、それを届けに参りました」

「へえ、君たちは彼女とどういう関係なんだい? 見たところアクアヴェネツの兵士って訳でもないし、彼女をルサ・ルカって呼ばないのもそうだね」

「それは俺達がルカ王女の友達だからですよ」

「え、彼女の友達? あはははそれは傑作だ! てっきり彼女の友達なんてマリンだけだと思っていたのにな。そうかそうか、友達ねぇ。あっとごめんよ、封書を渡してもらえるかな」


 グリンダルさんはルカ王女の友達という事がとても面白かったのか、にこやかな笑顔に変わる。

 というかルカ王女の友人の少なさは周辺国に知れ渡っているのか……少し涙が出そうだぜ。

 俺はグリンダルさんに封書を渡すと、受け取ったグリンダルさんはすぐさま俺達の目の前で開けて読み出す。

 自室で読むなどの慎重な行動をしない限り、俺達のルカ王女の友達だという言葉を信用してくれたのだろう。


「ふむふむ、はぁ、面倒な事になってるねぇ……。ふんふんそうかそうか」


 グリンダルさんは封書に目を通しながらリアクションをする、なんか愉快な人だなぁ。

 数分経っただろうか、シャルルが少し退屈そうに足をプラプラさせているのを可愛いなと思いながら見ていると、グリンダルさんは封書を読み終えて机にしまいこんでいた。


「いやー待たせてごめんよ。封書を読んだけど君たちアクアヴェネツで大活躍だったんだね。魔族を倒したり、なにかイベントで優勝したりと」

「え、ルカ王女そんな事を封書に書いていたんですか?」

「封書というより手紙って言った方が合ってるけどね。もちろん勇者の事とかも書かれているけど大半が君たちの事だよ。相当君たちと出会えたのが嬉しかったんだね、手紙からそれが伝わってくる」


 なんだよルカ王女、アクアヴェネツにいた時は普段はそんな様子なかったのに、急にデレを見せないでくれよ不覚にもときめきそうになったぞ。


「それに手紙に書かれていたけど君たちは僕が知っている秘湯を教えて欲しいんだってね? 彼女の友達とあれば、喜んでお教えしようじゃないか」

「本当ですか!? グリンダルさんありがとうございます!」

「礼を言うなら今度彼女に会った時に彼女本人に言いなさい、きっと喜ぶから。そうだそれより君たちの名前をまだ聞いていなかったね、教えてもらえるかな?」


 そうして俺達はグリンダルさんにまだ伝えていなかった名前を教える。








「グリンダルさんはルカ王女と仲がいいんですか?」

「うーん仲が良いって程じゃないけど、悪くは無いよ。というか僕と彼女は、彼女の両親が王位についていた時からの知り合いだからね、だからか彼女の事は(めい)を見ているようなものなんだよ。」


 なるほど、親戚の叔父(おじ)さんみたいな感じか。


「だからかね、彼女が嬉しそうに君たちの事を手紙に書いているのがとても微笑ましくてね」

「たしかに、俺達がルカ王女の友達だって言った時のグリンダルさんの顔といったらもうニッコニコになってましたよ」

「ええ本当かい? はは、それは困ったなぁ」


 全然困った風が出ていない笑顔で答える、親バカならぬ叔父バカなんだなグリンダルさんは。


「そういえばこのサラマッドでドワーフを見かけたんですけど、ドワーフトールもサラマッドにいるんですか?」

「ん? ドワーフトールかい? それならほら、目の前にいるじゃないか、僕は一応ドワーフトールだよ」

「えっ!? ドワーフトールってグリンダルさんのように皆大きいんですか? 確か普通のヒトくらいのサイズだと……」


 もしドワーフトールの標準がグリンダルさん並だとしたらあの図鑑スキルのポンコツさを疑うぞ。


「いやいや流石に僕くらいのドワーフトールがゴロゴロいたら大変だよ、僕だけ何故か飛び抜けて大きいのさ。だからなのか分からないけど族長はお前がやるべきだ、みたいな事を町の皆に言われて族長の座を押し付けられたんだよまったく」

「それはまた……」

「とにかくサラマッドにはドワーフだけでなくドワーフトールも住んでいるよ。ドワーフは小さくて髭もじゃだけど、ドワーフトールは普通のヒトと似ているから見分けにくいのだろう」


 ドワーフは本当に見てすぐに分かったけれど、そうかドワーフトールはヒトに近いのか。

 グリンダルさんを見てヒトとの違いを発見してみようと思ったけれど、まずサイズに目がいって細かな違いが分からない。


「そういえば秘湯を知りたいって事は、もちろん秘湯に入りたいんだよね?」

「ええ、ルカ王女もサラマッドの秘湯は良いって言っていましたから是非入りたいです」

「だよね。でもその前に普通の温泉にも入ってみると良いと僕は思うよ。正直ここらの温泉のレベルは他国とは一線を画しているから、とても素晴らしいものだ」


 それもそうだな、特別な物だけを味わっても通常を知らなければそれは特別ではないのだから。


「ここに来るまでに温泉街は通ってきたよね? あそこは長期の宿泊もできる温泉宿もあるから利用するといい」


 あの落ち着く雰囲気の宿に泊まれるのか、なんだかワクワクしてきてしまうな。

 話しを続けているとグリンダルさんがチラリと時計を確認してこう言ってきた。


「ふむ、少し話し過ぎたようだね。では早速下の温泉街に降りて宿を探してみるといい。それじゃあまたいつでも遊びに来てくれて構わないよ、僕は暇だからね」

「はい、また遊びに来ます! それじゃ……あっとすいません、お土産を忘れていました」


 ルカ王女が旅の出発前に買った果実水と蒸留水をグリンダルさんに渡す。

 一ダースずつで結構な量があるのに、グリンダルさんが持つと途端に少なく見えてしまう。


「ありがとう、中身は何かな……おおこれは!  アクアヴェネツの果実水と蒸留水じゃないか! さては、これを選んだのは彼女だね?」

「ええそうですよ、これならグリンダルさんは喜ぶって言っていました」

「ふふふやっぱり彼女は分かっているなぁ、今夜のお酒が楽しみだ……!」


 グリンダルさんはとても喜んだ様子で果実水と蒸留水を眺めている。

 仲良くなるためにと手土産を渡されたけれど、そもそもルカ王女の友達という事でとても気に入られてしまったからあまり意味は無かった。

 でもあんなに喜んでくれているのだからそんなの関係ないだろう。


「それではこれで失礼します」

「ああ、お土産ありがとう!」


 俺達は来客用の扉から小屋を出て、温泉街の方へと降りていった。








 ガヤガヤと賑わう上の町から、比較的静かな温泉街へと降りてきた俺達は温泉宿を探すべく散策をしていた。


「どんな宿がいいですかね?」

(ワタクシ)はやっぱり温泉の種類が豊富な所が良いですわ」

「ボクはお料理が美味しいところ!」


 ふむふむ、どちらの意見も取り入れたいな。

 温泉の種類が多くて料理が美味しいところ、つまりは大きな温泉宿を探すべきだな。

 大まかに絞って周りの建物を見てみる、すると一際目立った大きな建物を見つけることが出来た。

 そこに近づいてみるとデカデカと主張する看板が見えてきた。

[セレブ御用達!皆様に癒しとくつろぎをお届けする イヤーミナ温泉宿]


「うん……ここではないな」

「何故でしょう、ガラシャの宿屋より入りたくないですわこの場所は」

「金ピカに光ってるねぇ〜」


 ピンク文字看板の上を行く全体ゴールド看板があるなんて、誰が想像出来るのだろうか。

 癒しとくつろぎを提供してくれるのになんでこの看板には癒しを盛り込まなかった。

 それにセレブ御用達ときたもんだ、俺達には縁遠い場所なんだろう、早々に立ち去ろうとして横を見ると。


「おっ……ここなんていいんじゃないですか?」


 イヤーミナ温泉宿のすぐ隣に建てられた、少し古いけど何か人を惹きつける魅力を秘めた宿屋がそこにはあった。


「そうですわね、大きさ的に温泉の種類は無さそうですが、素敵なお宿ですわ」

「そうだね、ボクのお腹レーダーもここは美味しい料理が出るって教えてくれてるよ」


 シャルルの方は分からないがとにかく二人とも一目で気に入ってくれたみたいだ。

 すぐに、今日は泊まれるか確認するべくその宿屋に向かう。


[ココノエ宿屋]


 素朴にそう書かれた看板の下の引戸を横にガラガラと動かして中に入ると、奥の方からパタパタと小走りで人が出迎えて来てくれた。


「ようこそココノエ宿屋へ。私はココノエ宿屋の若女将、ハナと申します。今日は温泉ですか、それとも御宿泊でしょうか?」


 黒色の髪を綺麗に切りそろえた着物の美少女がそう問いかけてくる。


「あっはい、えっとその宿泊で」

「何をどもっているのですの、シャキッと話しなさいシャキッと」

「あははトージったら変なのー」

「えっと、御宿泊ですね。何日間の予定になりますでしょうか?」


 どれくらいだろう、そういえば闘技大会の詳しい日程も聞かされていなかったな。

 近いうちとは言っていたけど……。

 分からないからとりあえず適当に決めるか。


「じゃあ、とりあえず一ヶ月お願いします」

「一ヶ月!? はっ……も、申し訳ありません失礼致しました。えと、それでしたら三人の御宿泊が一ヶ月ということで、銀貨九枚になります」

「リハート貨幣で大丈夫ですか?」

「はい、サラマッドはリハートとプル貨幣が同価値になっており、そのどちらかであれば問題ありません」


 よかったよかった俺はリハート貨幣しか持ってないしな、今度他の貨幣の事をリュリーティアさんに聞いてみるのもいいかもしれない。

 お財布から銀貨九枚をハナさんに渡す。


「ひいふうみいよ……はい、丁度頂きました。それではこちらにお名前の記入をお願いします」

「あ、はい」


 苗字と名前でいいのかな? ヤツシロトウジっと。


「はい、ありがとうございます。それではヤツシロ様方、お部屋へとご案内致しますのでどうぞついてきてください」


 俺達を部屋へと案内するべく廊下をスススと音を立てずに歩いていくハナさん。

 親しみ深い着物を着ているハナさんをついつい凝視していると、横からなにやら視線が突き刺さってくるような気がした。

 気になって横を見ると視線を向けていたのはリュリーティアさんであった。








「鼻の下が伸びておりますわよ」

「え、嘘!?」

「嘘ですわ」

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