なんとかするしかない
鳴き声のした方に向かうと、避難を促すエルフと逃げ回るエルフ達がこっちに向かってくる。
「みんな早く長老たちがいるこっちに避難するんだ! 武器を持ったヤツらはマウントグリフォンを引きつけて他の皆が逃げられる時間を稼げ!早くしろ!」
そう言うと避難してくる集団とは別に、反対方向に向かって武器を構えたエルフ達が走っていく。
しかし後ろ姿から放たれる雰囲気はおよそ頼れるという感じは無く、武器を持つというより持たれてる印象がありとても不安になる。
「長老、マウントグリフォンが急に村に降りてきました! 今は我等でヤツの気を引きつけて時間を稼ごうとしていますがそれもいつまでもつか……ご判断をお願いします!」
「うむ……やはりあの鳴き声はマウントグリフォンか。今ここにいる者達は戻りの森に入って隠れるのじゃ、あそこなら木が生い茂っておるしマウントグリフォンも襲いづらいはず。避難がまだの者達は早急に森に誘導し、誘導が終わったらモンスターの所に行き、戦う者達に加勢して共に森まで後退していくのじゃ」
流石は長老と言うべきか短い時間で適切であろう指示を出している。
ボケっとしながらそんな事を考えていると、くるりと長老がこちらに向き言い放った。
「冒険者の方よ、お主は先程マウントグリフォンに向かって行った者達を加勢しにいってくれ」
「えっ!? いやなんで俺が」
「お主があのモンスターを連れてきたのを否定したとしても、今こうして村に襲ってきた。ならばその責任を取るのは、当然であろう」
なんとも筋が通っていない事を堂々と言ってのけた。
拒否を断固許さぬという程の凄まじい表情で言われて怯んでしまい言葉が出せない。
言葉を出せない俺の代わりにシャルルが話してくれた。
「ちょ、長老! でもトージは、その、スライムに、負けちゃうんだよ!? 行っても、その、邪魔になっちゃうだけだよ!」
すっごい泣けてきた。
「それでも襲われている数十秒程は時間を稼げるということじゃろ。話し合う時間も意味も無い、すぐに行くのじゃ。もし拒否するとしたら……死ぬのが早くなるだけであるぞ?」
どうやら俺はとても嫌われているらしいことが判明しました。
別にシャルルに嫌われなければ構わないとは思い出してきてるけどな。
というか周りの武器を持ったエルフ達がこちらに敵意の視線を向けてきている。
いやいや、マウントグリフォンの所に行かないと今ここで殺されるのか俺は?
「分かりました! 行きます行かせていただきます!」
「トージ!?」
「ゴメンなシャルル、俺とても、かなり行きたくないけど、今死にたくないから行くよ……」
とりあえずこの視線から逃げたい一心なのだ。
逃げたところに魔物がいるのでまた逃げ出したくなるけど。
「分かった……ならボクも行くよ、一緒に」
「えっ!? いやソレはダメだよシャルル! だって危険なんだろ……危険な、なん、なんだぞ!!!」
自分でシャルルに危険なんだという事を念押ししたら、急に身体が事実を認識して振動してきました。
しかし短い間であるがこんなにも心優しい少年を危険に晒すのは、俺の心情的にいただけないのである。
「大丈夫だよ、トージ。ボクがトージを守るから」
きゅん。
えっなに?こんなにサラッと王子様みたいな事言われるととても反応に困っちゃうわ。
いけないいけない、道を踏み外すかもしれない。
馬鹿な事を考えていると長老が焦れて俺をせっつかせる、それとエルフ達がジリっと近づいてきた。
これは本格的にヤバそうなので迅速に行動するとしよう。
「じゃ、じゃあ行かせていただきますので皆さん、そのーあの、ヒィっ!!」
何か言おうかなとしたけれど、そんなモノは不要とばかりに剣やら槍やら突きつけられたので脱兎のごとく逃げ出した。
「あっ、待ってよトージ! ボクのそばにいなきゃ守れないって!」
鷲という生き物を見たことがあるけれど、自分よりも全然小さいのに眼光鋭く、羽根を広げれば何倍も大きくなったかのような錯覚をこちらに思わせる、猛禽類の恐ろしさが滲み出ていた。
しかし今、目の前にいる鷲のようなファンタジー生物のマウントグリフォンは、ゆうに5メートルは超える大きさであった。
ギョロりと動く目はこちらをしっかりと捉え、巨大な鉤爪は俺の背丈くらいあり、羽根は少し傷痕などがあるが猛々しく開き、カラダの後ろ半分はライオンの姿をしている。
村長の所で聞いたあの鳴き声、を発して威嚇であろう行動をしている。
山にいるからマウントグリフォンなのか、まるで山のような大きさという例えでマウントグリフォンなのか、今考えるべきではない事を考えてしまうくらいには現実離れしていた。
「アイツ完璧に俺を狙ってるよな? なぁ絶対そうだよなシャルル」
「トージ……他を無視して完璧にトージを狙っているよアレ」
効いているか分からない弓矢で攻撃しているエルフを無視して一点に俺を狙っているマウントグリフォン。
いやいや、俺ここに来たばっかりだしお前に何もしてないんだぞ?
いやキュロオオオオオオ!じゃなくて。
「っ、来るよトージ! 逃げて!!」
「逃げるって言ったって……!」
2tトラックが突っ込んでくるかのような迫力で、猛スピードで向かってくるのをどう逃げろというのだろう。
真っ直ぐ突進してくるようなのでとりあえず横に走って逃げようとする。
「うおぁ!?」
つんのめった。最悪だ。
こんなアホみたいな失敗で2度目の人生が呆気なく終わるとか神様に申し訳なさすぎる。
こうして俺はアレに跳ね飛ばされR18のようなぐちゃぐちゃな感じになってしまうんだ。
だけど少し経っても衝撃が襲ってこない。
もう俺は死んでしまったのか?あまりの衝撃で痛みとか感じる暇もなく死んだのか俺は。
不思議に思って目を開けて周りを見ると、なんと俺はまだ生きているようだった。
しかもマウントグリフォンから結構距離を取れている。
あのつんのめったのは勘違いでちゃんと走れていたのか?
「あっシャルル! シャルルは無事か?」
俺のすぐ隣にいたシャルルは上手く避けれたのか確認すると、シャルルは何か緑色のオーラみたいなのを纏っていてマウントグリフォンから距離をとっていた。
何だあの緑色、でも無事で良かった。
しかしシャルルの顔はポカンとした表情をしている。
一体どうしたというのだろう。
心配しようとしたが、またマウントグリフォンが怒りを露わにしてこちらを狙ってくる。
まずはコイツから逃げ切らなきゃいけないのでとりあえず走って逃げる事にした。
「くっそ怖ぇ!」
「……はっ!? と、トージ! ぼくがソイツをなんとかするからトージはそのまま攻撃を避け続けてくれない!?」
「分かったとりあえず走り回って逃げてみる!」
とは言ったもののあの突進は避けれたのはまぐれかもしれないので、油断せず意識をマウントグリフォンに向ける。
変わらずあの眼が俺を射殺すかのように見ている、ついでに鼻息も荒ぶっていらっしゃる。
するとマウントグリフォンは、またこちらに突進を仕掛けようとしてくる。
「よし、また横に……」
いや、アレは違う。
風がぶわりと俺の後ろに抜けていく、突進ではあるがアレはさっきとは違う。
マウントグリフォンは羽根を羽ばたかせて飛んでいるのだ。
見上げる形になったことにより、キラリと音を出しそうな鉤爪がより一層強調されてまた身体が振動しそうである。
そして飛んだまま上からこちらに突進してきた。
「おっ、いや、おっふぅ!」
「トージ!!」
「だ、大丈夫生きてる。生きてるぞ!」
鉤爪で押しつぶすかのような突進は地面を抉るだけじゃなく、衝撃で俺を吹き飛ばす程の威力であった。
咄嗟に横に飛んだのと合わさって結構吹き飛んだけれど、運が良かったのか怪我などはしていなかった。
また風が通り過ぎた、今度はマウントグリフォンに向かって。
「エアスラスト!」
声とともにマウントグリフォンから血が噴き出す。
目に見える風の刃がマウントグリフォンを切り裂いたのだ。
マウントグリフォンは苦しそうな呻き声をあげて地面に降りてきた。
ヤツの気に障ったのか、俺に狙いを定めていたのを今度はシャルルに向けてしまった。
「うそ、全力で放った魔法なのに……!」
「危ないぞシャルル! 避けろ!!」
地面に降りたマウントグリフォンはすぐにシャルルに攻撃を開始していた。
反応が遅れたのかアレでは避けられない、すぐさま俺の身体は反応してくれた。
突進するマウントグリフォンからシャルルを守るために、走り出していた。
何故追いつけているのか不思議だけれどそんな事は頭の片隅に追いやり、シャルルを庇おうと飛び込んだ。
しかし間に合わないのがスローになる時間の中で分かってしまう。
いや、俺がなんとかするしかないんだ!なんとかするしかない!
熱意が通じたのだろうか、俺の飛び込みと鉤爪の攻撃はほぼ同時にシャルルに向かっていた。
これなら間に合うかもしれない。
そして。
シャルルに振り下ろされる鉤爪はなかった、俺に鉤爪が襲ったからだ。
そしてマウントグリフォンは吹っ飛んだ。