鉱火山都市サラマッド
マリーさんを馬車に乗せてから一日程、リュリーティアさんとマリーさんのいざこざ以外は平和なもので、道中魔物などに出くわすことはなかった。
魔物と遭遇しても頼れる人達がいるので問題ないのだけれど、もしかしたら特訓と称して戦わされるハメになるかなとビクビクしていたのは内緒だ。
そんな平和でのんびりした道を馬車で進んでいると、御者の方がそろそろサラマッドに到着するという事を知らせてくれた。
もちろん俺とシャルルは好奇心丸出しで馬車から顔を出し、サラマッドがどういう所かを確認する事にした。
リュリーティアさんも誘ったけれど子供じゃないのでと断られてしまった、残念。
「どれどれ……んん? おおー、山だ、煙だ、サラマッドだー!」
「大きい山の下の方から湯気がモクモクしてるねー! それになにか大きな建物もあるよ、アレが闘技大会をする場所かな?」
「そうさね、アレがサラマッド闘技大会を行う会場だよ。くぅー! アタイはアレを見ると身体がウズウズしてくるのさ、早く強い奴らと戦いたいね!」
シャルルの頭の上にいる俺の更に上に頭を乗せるマリーさん、団子の三兄弟のようだ。
闘技大会の事しか頭に無いようであるマリーさんは置いておき、俺は立ち上る湯気を眺めながらサラマッドにある温泉の数に驚いている。
ざっと数えると一つの都市に数十を超えるほどあるのは、少しばかり多すぎなのではないかとも思う。
そうしてサラマッドを眺めていると服をクイクイと引っ張られる。
何かと思い確かめると、リュリーティアさんが俺の服を摘んで引っ張っていたのだ。
「私にも見せてくださいまし……」
どうやらワイワイと喋る俺達の姿が気になってリュリーティアさんも見たくなってしまったんだろう。
少し素っ気なさそうにしてお願いするリュリーティアさんが可愛くてつい笑ってしまった。
「もう! 早くそこの場所と代わってください!」
「ははは代わります、代わりますよ」
あまり怒らせないようにすぐさま場所を入れ替わる、途端に後ろ姿ながらもリュリーティアさんの驚く様子が分かった。
俺はそれを眺めながら座り、サラマッドに着くまで馬車の揺れを楽しむことにした。
それから数十分したところで馬車が止まったのに気づく、馬車から出て外を確認するとそこには見た事があるような光景が広がっていた。
大きな川が流れており、その両側にはレトロな家々が建てられている。
その中にはモクモクと湯気を出している温泉旅館らしき建物も見受けられ、川には至る所に橋が架けられて両側を自由に行き来ができるようになっている。
大正時代で見掛けられるような温泉街の景色と雰囲気がそこにはあった。
「これはまた、味がある街並みだことで……」
異世界でありながら日本を思い出させるその景色にしばし目を奪われていると、御者の方が近づいて話しかけてきた。
「どうやら馬車はこの麓までしか入れないようです。なので申し訳ないのですがここからは皆さんに目的地まで歩いてもらってもいいですか?」
温泉街を抜けた先、緩やかな傾斜の山を登っていった先にも建物が多く点在している。
恐らくサラマッドの族長はその辺りにいるのだろう、だったらたしかに馬車が通るのは大変そうだ。
俺はその事をみんなに伝えると、こんな景色を眺めながら歩くのも旅の醍醐味なんだと言われてしまった。
つまりは皆は喜んで歩いてもいいとのこと。
「アタイはここで別れるとするよ、ここまで運んできてくれてありがとうね。今度酒でも料理でも奢ってやるよ、それじゃあまずは闘技大会で会うのを楽しみにしているよ!」
そう言ってマリーさんは温泉街の方へと消えていった、大きな背中は雑踏の中へと紛れて消えていく。
御者の人は馬車を置きに行ってくるとのことで、俺達は護衛の人に案内されて族長の元まで歩き出すことにした。
じっくりと温泉街を見ていきたかったけれど、まずは大事な封書をサラマッドの族長に届ける方が先決となったのでサッと抜けていく。
木々を切り拓いて作られたであろう舗道を進み山道を登っていくと、さっきの温泉街の雰囲気とは違う鉱山町が現れた。
温泉街の静寂とは正反対のガヤガヤと賑わう声と、金属音が鳴り響く喧騒の町だ。
それに少し気温や湿度が高く感じる、火山の近くとかだからなのかな。
「んん? あの人……人だよな? なぁシャルル、あの人……って何か分かるか?」
鉱山町の中を歩く、極端に背の低い髭を沢山蓄えた人らしき方を指さして聞いてみる。
「あっ、そっか。トージはドワーフを見るのは初めてなんだよね」
「ドワーフ……ドワーフってあのドワーフか?」
「トージがどのドワーフを言っているのかは分からないけど、あの人は普通のドワーフだよ」
ほへー、エルフであるシャルルの次はドワーフか、そうだ図鑑スキルを使って調べてみよう。
[ドワーフ] 一般的なヒトより小さく、昔は小人族と呼ばれることもあった。
ただドワーフに小人族と呼ぶのは蔑称となるので、決してその名で呼んではいけない。
ドワーフには二種類いて通常のドワーフの他に、ドワーフトールと呼ばれる一般的なヒトと同じ大きさのドワーフもいる。
ドワーフは強靭、屈強、手先が器用で鍛治職人などが多い、ドワーフトールは手先が器用ではないが、ドワーフと比べても筋力の発達が非常に凄く、土木作業や採掘作業などの力仕事がとても得意で戦闘能力も著しく高い。
お酒が大好きで一日を締めるにはお酒が欠かせないらしい、酒屋の店主などはうわばみのドワーフが来たら店が潰れる等と言われているらしい。
疲れたので後は自分で調べてください。
なるほどなるほど、鍛治が得意とかは俺の知ってるドワーフそのものだな、ドワーフトールってのは新鮮だけれど要はマサさんのドワーフ版ということだ。
多分そうだろう、きっと。
それとやっぱりこのスキルには何か人為的な意思が含まれてるのが分かってきたぞ。
「おーいトージ置いてっちゃうよー?」
「早くしてくださいませ」
おっといけないいけない、気づいたら図鑑に集中してて立ち止まってしまっていた。
慌てて二人に追いつく。
「闘司さんはドワーフは初めてなんでしたわね。私もそんなに縁が無かったのですが数回ほど関わったことはありますわ」
「へぇ、そうなんですね。やっぱりドワーフは大酒飲みとか気難しいとかって感じなんですか?」
「あらお詳しいのですね。その通り、悪い方達では無いのですがお酒が入った時は私は少し苦手です。たくさんお酒を飲んで更に酔っ払って絡まれた時はもう、ウンザリしますの……」
その時の記憶が相当辛かったのだろう、溜息をついて疲れた顔をしていた。
もしドワーフと飲む機会があったら酒呑み対決は絶対しないように肝に銘じておこう。
話をしながら町を歩くこと十分ほどで護衛の人は一つの小屋で立ち止まった、どうやらここがサラマッドの族長が住んでいる家のようだ。
護衛の人が小屋の扉をノックする、少しすると家の床が軋む音だろうか、それが扉に近づいてくる。
ゆっくりと扉が開かれるが誰も出てこない。
「さあ皆さん、中にお入りください。私の仕事はここまでです。この封書を族長にお渡しくださればいいだけですので宜しく御願いします」
「え、俺達だけでいいんですか? 一緒に居てくれるとかは……」
「ルサ・ルカ王女様からそう命じられております。『闘司さん達も族長様と込み入った話があるでしょう、貴方は案内をしてくれるだけで大丈夫です』と仰っておりましたので、それでは失礼します。皆さまの良い旅にウンディーネ様の加護があらんことを」
そう言って護衛の人は本当に立ち去ってしまった、取り残された俺達は顔を見合わせる。
「中に入ります……?」
「封書は渡さなければいけませんし、扉を開けたまま帰るのは失礼ですわ。中に入りましょう」
「さあさあトージ入れー!」
「わ、わ、分かった押すな押すな」
ここで踵を返すのもおかしいので少し緊張をしながら、シャルルに押されて小屋の中へと入った。
中はシンプルな造りで木のテーブルやイス、オマケに暖炉まである。
キョロキョロしながら屋主を探していると、一つの柱が急に動いた。
「やあいらっしゃい、僕はこのサラマッドの族長のグリンダルだ。宜しく頼むよ」
急に動いた柱が喋ったと思ったら、その柱が族長そのものであった。




