緩やかな旅路
昼食を食べ終わる頃には二人の試合は決着を迎えていた。
「勝負あり、ですわね」
勝利を制したのは我らが金髪美女リュリーティアさんである、剣をマリーさんの首元に当てて降参を促していた。
歯を噛み締める音が聞こえてくるんじゃないかって程に悔しそうな表情のマリーさんは、嫌そうに敗北宣言を口にして完全に勝敗が決する。
「リュリーティア、メシを食ったらもう一戦だ!」
「あら、お腹が空いていたから負けたとでも言いたげですわね?」
「はんっ、その通りさ! アタイが満腹状態なら全力を出せてリュリーティアに負けることは無かったんだよ!」
「一応、私もマリーさんと同じ条件だったのですがまあ良いでしょう。私ももう我慢するのは辛いので昼食にします。ですが、再戦は明日受け付けますわ」
「はぁ!? なんでだい?」
「このままやっているとサラマッドに着くのが遅れてしまいますの」
うんよかった、そこら辺はちゃんと考えてくれてたみたいなので安心する。
マリーさんは再戦が明日以降じゃないと出来ないという事で溜まっていくフラストレーションを、空腹にぶつけるようにして昼食にがっついていく。
粗暴とまではいかないがもう少し落ち着いて食べるといいのではと思わなくもない。
リュリーティアさんは先程の約束通り、シャルルに昼食を食べさせてもらってご満悦のようだ。
「えっとねー、じゃあこれ! リュリーティア、あーん」
「あーむっ……うぅん、元々美味しいですがシャルルさんに食べさせてもらうとより一層美味しくなりますわね」
「えへへ、そう言われると嬉しいなぁ」
少し歳の離れた仲の良い姉弟のようで俺のシャッターを切り続ける指が一向に止まらない。
もしやここは桃源郷なのではなかろうか。
「ハグハグっ!! うん? ふぉーじ、はにふぉふぉっへるんあい?」
「何を言っているか分かりませんマリーさん、食べてから喋りましょう」
「ふぐ? うぐっ……ゴクンッ。いやぁ悪い悪い、それで闘司は何を撮っているんだい?」
「絶景です」
「そ、そうかい頑張っておくれ……。あっ、そこのお茶を取ってくれよ闘司」
真剣に写真を撮っているだけなのにマリーさんは少し引いたご様子だった。
だけどすぐにゴハンの事に切り替えたので、この人はシャルルと似た部分があるのではと一瞬だけ思ってしまった。
「シャルルが……筋肉鎧……?」
顔がそのままで身長が伸びて全身筋肉の服を身に付けたシャルルを想像する。
「う、うわぁああああああああ!!」
「な、なんだいどうしたんだよ闘司!? お、おいリュリーティア、闘司がおかしくなっちまったんだよ助けておくれ!」
「何ですのやかましい……当て身っ」
「ぐぇっ」
俺の崩壊寸前の脳内シャルルを見事に切断してくれたリュリーティアさんの当て身に感謝して俺は地面に倒れた。
ゴトンゴトンと揺れている、でもそこまで揺れが身体に響かない。
目を開けると当て身で気絶させられた俺は馬車に乗せられて、シャルルの膝の上で寝かされていたようだ。
シャルルに礼を言いつつもう少し堪能させてほしい旨を伝えると快諾してくれたので、ありがたく膝の柔らかさを味わう。
リュリーティアさんとマリーさんは何やら楽しそうに会話をしている、試合の件で多少親密になったのか会話が尽きる様子はない。
ならば俺はシャルルとお話でもしていようかな。
「シャルル、サラマッドは楽しみか?」
「うん、温泉も楽しみだし燻製料理も食べたいしー、それに闘技大会も!」
指折りしながら一つ一つサラマッドでの楽しみを上げていくシャルル。
「族長さんと仲良しになって秘湯を教えてもらえるといいよな」
「だよねぇ。それに、秘湯ってなんかワクワクしてこないかな?」
「おっ、それは分かるかもしれない。なんでだろうな、秘湯巡りって冒険みたいな感じがするからかな」
例えば人も入らない山奥の秘湯だとか、高い崖の近くに湧き出る秘湯だとか、そういう場所に向かう道中が何が待ち受けているか分からないって気がして面白そうなんだろう。
「あぁールカ王女も言ってた、温泉で月を見ながらお酒を飲んでゆっくりしてみたいなぁ。あっ、シャルルはお酒飲んじゃダメだぞ?」
「ふふふ、分かってるよ。トージはあんまりお酒飲みすぎて帰れなくならないよーにね?」
「ははは、それは気をつけないといけないな」
飲みすぎで酔いつぶれたりして、シャルルに担いでもらうなんてことはさせられないからな。
「そういえば燻製料理は俺の世界でもあったんだよ、残念ながら食べたことなかったけど。でもこの異世界、サラマッドにもあるって聞いた時は是非とも食べてみたくなっちゃったなぁ」
「ボクもいっぱい食べたいな。そうだもし燻製料理が美味しくてさ、ボク達で作れるような料理だったら三人で作ってみようよ!」
「いいなそれ。それにリュリーティアさんなら『燻製? もちろん作れますわ』とか言って教えてくれそうな感じする」
「あははは全然似てない!」
「燻製? もちろん作れますわ」
会話を聴いていたのだろう、リュリーティアさんは俺達の会話へと混ざって来た。
それとやはり作れたのですね流石です。
「燻製というのものは面倒ではありますが難しくはありません。燻す食材によっては時間がかなり変わりますのでそこを気をつけないといけませんわ」
「ベーコンとかチーズは定番ですよね」
「そうですわね、チーズは一日程あればすぐ作れます、けれどベーコンは簡単ですけど一週間前後いりますわよ」
「へー、結構かかるんだねぇ」
「でも私達には時間がたくさんあります、のんびり作れば宜しいのですわ」
そうだな、焦って作る必要も意味もない。
今からどんな食材を燻製するか考えておくのも楽しみの一つとしておこう。
「それと闘技大会! トージとリュリーティアが闘うところを早く見たいな」
「前に闘っていた時は怒って止めていたけど、いいのか?」
「ケンカはダメだけど、二人が純粋に真剣勝負をするならボクはいいよ? でもその時はどっちを応援すればいいのか迷っちゃうな〜」
シャルルの考えは良く分からないが賛成してくれるなら良かった。
「ご安心くださいシャルルさん。その時は私を応援するといいのですわ」
「それはちょっと待ってください。総合的な実力を加味すると俺が圧倒的に弱いんですから、シャルルの応援は俺が受けるべきです」
「シャルルさん、あまーいお菓子を今度ご馳走しましょうか?」
「あっそれはズルいですよ!? そうだシャルル、サラマッドに着いたら好きなもん買ってあげるぞぉ?」
シャルルの応援をどっちが受けるかの攻防を繰り広げていく、これは闘技大会の勝敗を決めることより重要な戦いだ……!
「それならアタイを応援すれば丸く収まるよ?」
さっきまでゴロ寝していたマリーさんが闘技大会の話しになるとすかさず混ざって来た。
「はぁ……? 今すぐ再戦でも致しますか? 今ならコテンパンにして完勝できる自信がありますわよ」
俺もリュリーティアさんと似たような感情を抱いたけれど、自分でサラマッドに到着するのが遅れると言っていたのでなんとか宥める。
「ちょ、ちょっとした冗談じゃないかい……」
「気をつけてくださいマリーさん。俺とリュリーティアさんはシャルルの事となると見境がつかなくなりますので」
「自覚があるなら治した方がいいんじゃないかい?」
不治の病なので手の施しようがないんです。
「まあそれなら別に二人を同時に応援すればいいのさ、特段悩むことじゃないとアタイは思うよシャルル」
「うーん……。そうだね、ボクとしては二人とも頑張ってほしいから! でもそれと関係なく甘いお菓子も好きなものもボクは欲しいなぁ?」
「ははは、シャルルお前ちゃっかりしてるな! もちろんそんなの関係無しに良いぞ、リュリーティアさんもそうですよね?」
「ふふ、えぇ私は最初からそのつもりでしたわ。闘司さんが勝手に勘違いしていただけですから」
「何サラッと嘘ついてるんですか。さっきのマリーさんへの殺気は誤魔化せませんよ」
それに自分は別にそんな事を考えていませんでしたわ、みたいな顔はやめてください。
そんな俺達のやり取りを見てマリーさんは呆れた様な笑い顔でこう言った。
「アンタ達は本当に仲がいいんだねぇ」
「はいもちろん」「当然ですわ」「うん、仲良し!」
返事も三人仲良く重なった。




