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苦戦必至の異世界巡り  作者: ゆずポン酢
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前哨戦

[サラマッド闘技大会]

 サラマッドで数年に1度行われる武の頂点を決める大会。

 火の神サラマンダーが闘いを好むことから、サラマンダーに捧げる意味合いを込めて始まった大会である。

 参加者は自分の強さに自信を持つ者ばかり、また自信に見合った実力を持った猛者達が集う。

 優勝者には多額の賞金と名誉が授けられる。

 それともう一つ、前大会の優勝者とのエキシビションマッチが行われるのだがこれに勝つと……?



 久しぶりに使った図鑑スキルが闘技大会の概要を説明してくれた、でも教えてくれるならちゃんと最後まで教えて欲しいものだな。


「へー、優勝したら賞金が貰えるんですかぁ」

「ん? なんだい闘司、やっぱり知ってるのかい?」

「へっ!? あ、いやそんな気がするなと思っただけですよ!」


 危ない危ない、マリーさんに説明されてないのにうっかり喋ってしまった。


「そうかい? そう、優勝者にはドカンと金が渡され、皆が賞賛する闘技大会優勝者の名誉が貰えて、そして! 前の大会の優勝者と闘える!!」

「お金とか名誉とかは分かりますけど、前優勝者と闘えるのってそんなに嬉しいものなんですか?」

「そりゃ嬉しいさ! 強い奴と闘えるってのはそれだけで嬉しいものなんだよ、アタイみたいなやつはね!」


 白い歯を見せながらニッと笑うマリーさん。

 闘技大会にかける情熱は相当なモノのようだ。


「まあそんな大会があるならサラマッドに着いても退屈しなさそうですね」

「ええそうですわね、とても楽しみですわ」

「だろうだろう? いやー、試合でアンタ達と闘えるのが今にも楽しみで仕方ないよ!」


 うん……あれおかしいな、マリーさんの言葉に引っかかるものがあったぞ。

 俺は観戦するのが楽しみだったんだけど……。


「マリーさん、闘技大会頑張ってくださいね」

「なにいってんだい、アンタ達も頑張るんだろう?」

「……。リュリーティアさん、俺の勘違いじゃなければマリーさんは俺達が闘技大会に参加するって思ってますよね?」

「思ってますわね、そして(ワタクシ)もそう思ってます。良かったですわね勘違いではなくて」


 あれれおかしいなぁ、リュリーティアさんがやる気満々だぞぉ?

 え、いや、嘘ですよね?


「ふふふ、本当に楽しみになってきましたわ」






 道端で空腹に倒れている女性を助けたら闘技大会に参加することになった。


「うーん……謎だ」

「あははトージ変な顔〜」

「今とっても真剣に考えているので茶化さないでくださいー」

「えーいいじゃん、トージが闘ってる姿をボクは見たいよ?」

「でもなぁ……生きる為に闘うならまだしも闘技大会ってなるとちょっと……。」

「トージは変に考えすぎなんだよ。男は強いとカッコイイ、簡単なんだようんうん」


 たしかに強い人は単純にカッコイイし憧れはする。

 でもいざ自分がそうなろうとすると、違うと思ってしまうのだ。


「シャルルさんの言う通りです、闘技大会で優勝してシャルルさんにカッコイイ姿を見せようという気概はありませんの?」

「それはありますけど……」

「ええい煮え切らないお人ですわね。ならば仕方ありません、アレを使うときですわね」


 な、なんだアレとは?


「闘司さん、罰ゲーム、覚えてますわよね?」


 あっ! まさかリュリーティアさん!?


「おーほっほっほ! 気づきましたわね、そう……一日絶対服従権ですわ。闘司さん、闘技大会に出場なさい」

「ぐぅっ!! 俺を闘技大会に参加させるためだけに使いますか普通!?」

「参加させるためだけではありません。(ワタクシ)は闘司さんとあの夜の時の再戦をしたいと思っただけです」


 あの夜……そうかガラシャの宿屋前での力試し……。

 途中でシャルルが止めたけれど、でも止めなくてもリュリーティアさんの一撃が俺を倒そうしていたはずだ。


「あの時と一緒、というわけではありません。短い期間ですが武器を知り、魔法を知って身につけた闘司さんと、本気の闘いがしたいのです」


 リュリーティアさんは何も知らない俺とではなく、戦い方を知った俺、スキルの恩恵で己よりも少し強い俺と闘ってみたい、そう言っているのであろう。

 リュリーティアさんは真剣な眼差しで俺を見据えている、この強く美しい眼から俺は視線を逸らすことなど、出来ない。


「ふぅ……分かりました。俺も、出場させていただきますよ」

「うふふ、そう言ってくれると思っておりました」

「何を言ってるんですか、罰ゲームで従わせたでしょう?」

「それは建前です。闘司さんならそんな事で従わせなくても、本気で頼めば受けてくれたでしょう。違いますか?」

「さぁ、どうでしょうね?」


 分からない、分からないけれどもしかしたらそうかもしれない。

 どうやら俺は少し負けず嫌いの節があるのかもな。


「どうやら話がまとまったようだね。ちなみにもう一つアンタ達二人に、アタイが良いことを教えてあげるよ」


 今まで黙って俺とリュリーティアさんの会話を聞いていたマリーさんがなにやら得意げに言ってきた。


「闘技大会はね、二つのブロックに分かれてトーナメント戦を行う。つまりは?」

(ワタクシ)と闘司さんが別々にブロックを別れることが出来れば」

「そうさ、優勝決定戦というとっておきの状況で闘えるってわけだよ。まあアタイが参戦するから、最後に闘司と闘うのはアタイとかになっちゃうかもだけどねぇ?」


 おおう、そんなお膳立てはあんまり望んでいないぞ……。

 というかマリーさんはリュリーティアさんを挑発しないでください、この人割とそういうのに乗っかる人だと最近わかったので。


「ほう……? 面白い冗談を仰いますわね」

「冗談かどうか、今ここで確かめてみるかい?」


 あー言わんこっちゃないぞ、バチバチ火花が散ってるのが目に浮かぶ。

 どうしようシャルル助けてシャルル、ダメだシャルルのやつ水のクッションで遊んでて聞いてないや。

 というかシャルル君や、君も焚き付けた一人なんだよそこの所分かってる? うん、分かってなさそうだねぇ、可愛い。


「でしたら、大会前の前哨戦という事で少し剣を交えてみましょうか」

「ははっ、そうこなくっちゃねぇ! でもそんなヒョロっちぃ剣じゃアタイの斧と交えることなんか出来やしないよ? ポッキリ折れちまうさ」

「試せば分かることです。闘司さん、御者さんと護衛の方に昼食の時間と、その昼食が少し長くなることをお伝えくださいますか?」


 ええ……。

 どうにか止めようと思ったけれど、二人とももうやる気満々なので止めたら刺されると感じて諦めた。

 俺はそそくさと御者と護衛の人に、少し早めで長い昼食をしようと提案をしに行く。

 もうこうなったらどうにでもなれ。






 リュリーティアさんとマリーさんは脇にそれた草原で手合わせをすることにしたようだ。

 御者さんと護衛の人は馬のケアをしながら遠目に試合を観戦するらしい。

 俺とシャルルは昼食を取りながら適当に審判をする。


「なぁシャルルその玉子焼きくれるか?」

「これ? はい、トージあーん」

「あーん。うむ……美味い!」


 シャルルの慈悲深い心によって昼食を分けてもらっている、マリンさんの料理の腕前もさる事ながらシャルルのあーんが合わさり最強に思える昼食だ。


「ちょっと闘司さんズルいですわ。シャルルさん、後で(ワタクシ)にもしてくださる?」

「うんいいよー、頑張れ二人ともー」

「おいおい随分余裕そうじゃないかリュリーティア。アタイの攻撃を受けてもそんな余裕を見せてられるかい?」

「強者にとって余裕とは常に備わっているものなのですわ、知りませんでしたか?」


 この二人はなんでそんなにスラスラと挑発をできるのだろうか。

 おっとそろそろ試合を始めるのだろう、両者は互いに武器に手をかける。

 準備が出来たと判断して俺は片手を上げ、その手を振り下ろし開始の合図とする。


「ハッ!」「フッ!」


 手が振り下ろされたと同時に動き出す二つの姿。

 まずは真正面からの衝突、マリーさんはその大きな斧を存分に振りかぶり遠心力を加えてぶつけてくる。

 一方リュリーティアさんはいつも通り普通に剣を振るう、いやそれは違った。

 圧倒的な威力を持つマリーさんの斧に剣を這わせるように受け流している。

 受け流して滑らせた剣で攻撃に移る、しかしマリーさんはそれを身を屈めて躱し、振りかぶって地面に埋まった斧を軸に、それに身体を預けて不安定な姿勢から蹴りを決める。

 咄嗟に腕で庇ったリュリーティアさんだが勢いは殺せず少し吹っ飛ぶ、だが空中で体勢を整えて綺麗に着地する。


「なんだあれ……」


 今の初撃だけで俺の目には驚きばかり入ってくる。

 魔法を使った様子は無かったので、元々の身体能力で今の動きをしたのだろう。

 まだ魔法を使っていると言われた方が納得出来たのに。

 一人唸っていると両者は既に行動を開始して続きを始めている。

 またもやマリーさんは斧のパワースイング、横振りの斧は空気を押し潰しているかのような錯覚を見せるほど力強い。

 リュリーティアさんは気にせず斧に突っ込み、斧がリュリーティアさんの身体をひしゃげさせようとした瞬間。

 リュリーティアさんは小さなジャンプで斧に乗り、斧を振るう回転の勢いそのまま背後に回り、背中に素早く連撃を繰り出し当てる。


「あたたた! ったく身軽で器用とはやりづらい相手だねまったく!」

「そういう貴方こそ、さっきの蹴りのダメージがまだ残ってますわよどんだけ馬鹿力なんですか」


 まだ始まったばかりだが一つ分かったことがある、俺はあんな戦いをする人達と試合をしなければならないらしいんだ。

 俺はこれ以上二人の戦いを見て闘技大会へのモチベーションが削られる前に、シャルルとの昼食に没頭して現実逃避をすることに決めた。


「シャルル、そこの焼き鯖……じゃなくて焼きスコンベルを食べさせてくれ」

「うん、はいあーん」

「あーん……ああ、うめぇなぁ」






 焼き鯖を噛み締めて出る旨みの脂に感動をしつつ、試合が終わるまで昼食を堪能することが出来た。

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