次の目的地・3
最近のイタズラで神経が過敏になっていたのか、俺が目覚めた時間は少し早いものであった。
まだシャルルはおろかリュリーティアさんも静かに寝息を立てている。
「おおぅ……何か損した気分だ」
せっかくの睡眠を自分で途切れさせてしまった事に少し後悔をしていると、リュリーティアさんが寝返りをうった。
それに気づいた俺はただの好奇心であったのかなんなのか分からないが、無性にリュリーティアさんの寝顔を拝見してみたくなった。
起こさないよう忍び足で近づいていく、知らない人が見たら俺が変態であろうことは一目瞭然だ。
だか知的好奇心は満たさなければ、そうこれは知ろうとする欲求に従ったまでのこと!
そうして何事もなく近づいてお顔を拝見すると、目を奪われた。
「うわっ……」
これは、驚いたな。
規則的な寝息を立てながら普段の顔とは打って変わって無防備な顔を晒している。
穢れがない、汚してはいけない、そんな事を思い起こさせる美しさをもってそこに眠るリュリーティアさん。
だけど俺はその美しさを少しだけでもと思ってしまい、ほぼ無意識にリュリーティアさんの手触りの良い髪を軽く掬ってしまった。
「綺麗だな……」
「ん……んぅ、うぅん……」
「!?」
小さな唸る声に俺は自分が大変なことをしてしまった事に気づき、慌てて静かにリュリーティアさんのベッドから離れた。
美しさに触れたドキドキなのか、イケナイ事がバレそうになったドキドキなのか分からない、激しい鼓動が俺を責め立てる。
俺は自分を落ち着かせるためにシャルルの寝顔で癒しを得ることにした。
「うへぇ〜……びゅーん……」
「こ、こいつ寝ながら俺のトビウオアタックを真似してやがるっ……!」
「びゅー……がしぃっ!」
「えっ、うわわ!?」
何を寝惚けたのかシャルルは俺を引っ張って、自分のベッドへと招き入れた。
いや招き入れたんじゃない、拘束された。
「お、おいシャルル離せって。俺は枕じゃないぞー」
静かに訴えるがシャルルは楽しい夢の世界から出てこない、そのまま俺はシャルルの抱き枕と化した。
「トージぃ……カッコイぃ、ぞおぉ……」
うーん、カッコイイ俺がシャルルの夢に出ているなら無理に起こすのは勿体ないな。
このまま俺もまた眠るとしよう。
「いやーしかし……なんでこんないい匂いがするんだシャルルのやつは……?」
森林で香るような心地よい匂いに包まれて、俺は再び意識を落として眠りについた。
目覚めはとても良いものであった。
柔らかな何かに包まれて、落ち着く香りが気分を良いものへと変えていく。
パチリと目を開けると。
「美少年っ!!」
「おはようトージ」
「あっ、お、おはようシャルル」
目の前をどアップで現れた美少年の正体はシャルルであった、なにやらシャルルはニヤニヤしながら俺を見ている。
「トージー? ボクのベッドに潜り込んでくるなんて、よっぽど寂しかったんだねぇ」
「いや潜り込んだわけではなくてだな……」
「じゃあ何でトージはボクのベッドにいたの?」
「シャルルが俺を抱き枕にしたから逃げられなかったんだよ」
「それでもボクのベッドに近づいたんでしょ? それはどうして?」
くっシャルルのやつ、やたら追求してくるし鋭いぞ。
これ以上追求されるとリュリーティアさんの事までバレてしまうかもしれない。
もしそれがバレたら俺は簀巻きにされてアクアヴェネツの湖に沈められてしまう!
「闘司さんは寝惚けて、夜中にシャルルさんのベッドに潜り込んだのでしょう?」
バレていないのに何故か俺はリュリーティアさんの声にビクッとしてしまった。
「おはよう、ございますぅ……」
「なんですのその目の泳ぎ方は、怪しすぎますわよ」
「ええ? いやははは、そう! やっぱり俺寝惚けてシャルルのベッドに潜り込んじゃったんだなーはははは!」
「ええそうに決まっております。だから早く目を覚ますために顔を洗ってらっしゃいな」
「はい、はい! そうさせていただきます!」
好機を得たりと俺は脱兎のごとく脱衣場に駆け込んだ。
そこで脱衣場の扉越しから何か聞こえてきたのだが、俺の耳には届くことはなかった。
「あれ、リュリーティアの顔赤いよー?」
アクアヴェネツに滞在して結構日にちが経った、なのでそろそろ他の場所にも行ってみないかということになり話し合う。
次の目的地を決めるためにルカ王女の意見も聞いてみようと部屋に呼んでみた。
「アンタ達ねぇ、王女を呼びつけるとか何様のつもりよえぇ?」
「でも来てくれるあたり優しいですね」
「えっ? まあそれはもちろん優し」「暇なだけかもしれませんわよ。」
「帰る」
「あーごめんなさい嘘です嘘です! 来てくれてありがとうございますー!」
スっと立ち上がり帰ろうとするルカ王女を引き止める。
どうやら本気で帰るつもりは無かったらしく素直に引き止めに応じてくれた。
「今は暇だけどアンタ達のために暇を作ってやってるんだから、要件あるならササッと話しなさいよ」
「流石はルカ王女ですわ。では私達はそろそろアクアヴェネツを発とうと思うのですが、次に寄るとしたらサラマッドとジーンバレーのどちらが宜しいですか?」
「あらそう。うーん、どっちでもいいと思うけどね私は。あっそうだった、アンタ達サラマッドに行った方がいいと思うわよ」
「何でですか?」
「この前ミリオーラ達……じゃなくて、勇者一行がジーンバレーに行くって私に言ってきたから」
「サラマッドにしましょう」
「賛成ですわ」
魔王退治には一切関わらないをスローガンにしている俺達は、一馬達がジーンバレーに言ったと聞いて即効でサラマッド行きを決断して即効で賛同をした。
「サラマッド! 温泉楽しみだな〜」
「シャルルは詳しいのね、私も行ったことあるけどサラマッドの温泉は最っ高だったわぁ……。温泉に入って月を眺めながらお酒をキュッとね」
ルカ王女はその時の光景が蘇っているのかお猪口を持って飲むジェスチャーをしている。
「まあ、それは素敵そうですわ。なおさらジーンバレーは後回しで良さそうです」
「勝手に決めちゃったけどシャルルはサラマッドで良かったのか?」
「うん、一緒に温泉入ろうねトージ!」
「おう、背中を流してやろうじゃないか」
「いいなぁ〜、私も今度マリンと一緒にサラマッド行こうかしら……。そういえば、確かサラマッドで近々イベントが開催されるはずだったわね」
「そうなんですか。じゃあ本当にサラマッドに行くのはタイミング的にいいですね」
「よーし、じゃあ次にボク達が向かうのはサラマッドに決定だね!」
「おー」「おーですわ」
案外あっさりと次の目的地が決まってしまったので時間が余った。
ということでルカ王女を含めて旅に必要な食料などを買いに街に来た。
「アンタ達って馬車とか持ってないのよね?」
「はい、もちろん持ってないですよ」
「だったら私が馬車を貸してあげるわよ、ちょうどサラマッドのお偉いさんに渡す封書があるからそのついでに運んでってあげる」
封書って、そんな大事な物と一緒に俺達を馬車に乗せていいものなのだろうか。
まあルカ王女だし大丈夫か。
「お偉いさんってサラマッドの王族とかですか?」
「いや、サラマッドは王族じゃなくて族長ってのがいてね。あ、それなら闘司達がその族長に直接渡してやればいいのよ、それがいいわうん」
「いやどこがどういいんですか。俺達一般人にどうしてそうホイホイ偉い人をあてがるんですか」
「いやいや本当に良いはずよ、その族長はねサラマッドにある秘湯を全て知り尽くしているの。仲良くなっておけば秘湯の場所を教えて貰えるかもしれないわよ?」
「秘湯ですか……闘司さん、いいんじゃありませんの? 別に仲良くなっておいて損は無いと思いますわよ、むしろお得だと思います」
「秘湯行ってみたいなぁ」
どうやらリュリーティアさんとシャルルは別にお偉いさんと会っても問題なさそうだ。
だったら俺もいいか。
「分かりましたよ、たしかにお偉いさんに会ったところで問題が起きるわけじゃないので」
「なら決まりね。それじゃあサラマッドの族長と親睦を深めるための手土産を買っていこうじゃないの」
ルカ王女はそう言って一つのお店に猫かぶりモードで入っていく。
「ごきげんようご主人」
「んあ? いらっしゃ……お、王女様っ!? な、な、なんでこんなお店に?!」
「ふふふ落ち着いてください。今日はですね、上質な果実水と蒸留水を買いに来ましたの」
「ええ!? そ、そのためにわざわざウチまでいらっしゃってくださったのですか?」
「ええ、このお店は果実水と蒸留水に関しては他に追随を許さないと、アクアヴェネツ中の噂になっていまして。俄然私も興味が湧いてしまってこうして足を運んでしまいました」
嘘だ、だってルカ王女は店に入る前キョロキョロしながら指さしてどれにしようかなってしてたじゃないですか。
スラスラと平然とした顔で誇張されたお世辞を聞かされた土産屋の店主は、それを言っているのがルカ王女とあってか物凄い晴れやかな顔を浮かべて喜んでいる。
「そんなそんな恐れ多いです王女様! ワタクシなんてただのしがない土産屋の店主でございます……」
「そんなご謙遜をなさらないでください! それで、果実水と蒸留水を一ダースずつ欲しいのですがお幾らでしょう?」
「あっはい! いまお待ちしますので、えっとそれで、お代は、銀貨二十七……いや二十……ああ間違えてしまいました銀貨十枚枚です、ええ!」
うわぁ……この王女、提示された金額を眉根を寄せた顔をして低くさせやがった。
「そんなにお安く! 本当にありがとうございます! やっぱりこちらのお店に来て正解でしたわ!ご主人、またお世話にならしてくださいね?」
「っ……!! 喜んで!!」
そうしてルカ王女は銀貨十枚で果実水と蒸留水を一ダースずつ購入した。
それを水の魔法で作り出したスライムみたいなやつに取り込ませて運ばせていく。
「ルカ王女、さすがにあの値段だと店主が可哀想なんじゃないんですか?」
「それは問題ないわ、あそこは直にここらの人気店になるから」
ルカ王女はフッと笑って後ろをみる、つられるように俺も後ろを見るとさっきのお店には人だかりが出来ていた。
「ほらね? あの値段は私が来たという宣伝費と、周りに聞かせたリップサービスを差し引いた正当な金額よ。だから気にしなーい気にしなーい」
「清々しい程に自分の権力を振りかざしていますね」
「権力は正しく使うの、それに差し引いた金額分は今後あの店に寄った時にサービスしていくわ。それなら文句は無いでしょ?」
まあそれならいいのか……?
「さぁさぁ、アンタ達にも買うものはあるんでしょ?ぼさっとしてないで他の店を回るわよー」




