アクアヴェネツ探索・3
ヌシ釣り大会が終わって三日後、ヌシの出現により発生した住宅浸水を取り除くべく、ルカ王女に使い回されたのがようやく終わって久しぶりの休息。
朝の起床というものの手強さを感じながら無理に抗わず微睡んでいると。
キュポンっ、キュキューっキュ。
なんだろう、少し冷たい何かが顔を這っている。
「くっ……くふふふ」
「ふふっ、あんまり、笑っては、いけまんわシャルルさん、起きてしまいますわよふふふ」
これぐらいの違和感だと俺の睡眠を邪魔することなどできはしない。
微睡みから意識を落として俺は再び夢の世界へ旅立っていった。
「ふわあぁあ……。んー、よく寝たぞー」
「おはよう、ございますっふですわ、闘司さん」
「あっ、おはようございます……?」
なんだすっふって、なんでリュリーティアさんはそんな変な顔をしているのだろうか。
「ぶふっ! トージぃ、おは、おはよう!」
「おいシャルルなんで今吹き出した……まあ、おはようシャルル」
「えぇ〜? 勘違いだよぉ、ねぇリュリーティア?」
「ゴホンっ……ええ、勘違いですわ」
なんだよ二人してまったくもう、とにかく勘違いって言っているんなら気にしないでおこう。
「それで久しぶりの休みなんですけど、今日は何処か出掛けますか?」
「そうですわねシャルルさんの罰ゲームは済みましたし、今日は私の罰ゲームに闘司さんは付き合ってもらいましょうか」
「ええ!? リュリーティアさんの罰ゲームもですか? でも優勝したのはシャルルですよ」
「甘いです、あの時決めたのはビリの人が罰ゲームをするという事でしたわ。なので私の罰ゲームも受けてもらいます」
嘘だろ……。
「と、思いましたが可哀想ですのでこの罰ゲームは次回に持ち越す事にしましたわ」
「それなら何だったんですか今の会話は……」
「闘司さんに罰ゲームの事をなあなあにさせない為に釘を打っておきました」
うーん、用意周到。
「ボクね、今日はまたお店を見て回りたいな」
「あーそういえばこの前は荷物とかあって全部見れていなかったのか。うん、じゃあそうしようか。リュリーティアさんもそれでいいですか?」
「ええもちろんですわ」
「やったー! じゃあじゃあ早くトージは着替えなきゃ、ねぇ?」
「んくっ……ふふ、そ、そうですわね。早く脱衣場で鏡を見ながらお着替えするとよろしいと思います」
また二人とも変な顔をして俺を脱衣場へと促してくる。
訝しみながらもたしかに着替えなくては出掛けられないので、大人しく脱衣場に向かう。
俺はまずは顔を洗おうかと思い脱衣場にある洗面台へ向かう。
そこにある鏡に映っていたのは……真っ黒ワータイガー?
「こ……コラーーー!? なに人の顔で遊んでるんだーー!!」
「「きゃーー!!」」
バタバタと騒々しい一日が始まった。
「まったく、まったくもう、まったくですよホントにぃ」
プンプンと俺は怒りながらアクアヴェネツの街を歩いている。
「怒らないでトージ、ちょっとしたイタズラだったんだよ」
「その通りです、可愛らしいイタズラでしたわ」
「まあ別に本当に怒っているわけじゃないのでいいですけどー」
「面倒な怒り方してますわね……」
二人が楽しそうでいいですけど、なーんか仲間はずれみたいで寂しかっただけですー。
そうして面倒なオーラを出しながら一人でズンズン歩いていると、左手に一つの感触がやってくる。
「トージ、ごめんね?」
「許すっ!!」
シャルルが少しションボリしながら俺の手を握り上目遣いで謝ってきた。
俺の膨れっ面はあっという間に満開の笑顔に変わり、例のごとく脊髄反射で何もかもを許した。
うはー! シャルルかっわええー!!
「闘司さんお顔が、お顔が大変ヤバいことにになっておりますわ」
「えっ? おっとと……」
リュリーティアさんの指摘により、俺は顔を手で揉みほぐして直す。
こんな変な顔をしていたらアクアヴェネツの善良な市民に怪しまれてしまうので気をつけねば。
俺とシャルルはそのまま手を繋ぎながら歩いていく。
「あれ、リュリーティアさんは手を繋がないんですか?」
「もちろん繋ぎますわ、ただ……今のお二人の姿を見て微笑ましいなと思っていただけですの」
「んー? 良くわかんないよリュリーティア、とにかく早くこっちこっち!」
シャルルは空いた手をブンブンと振ってリュリーティアさんに手を繋ぐよう要求する。
少し歩を早めてリュリーティアさんがシャルルの手を繋ぐと、シャルルの笑顔がさらに晴れやかなものになった。
か、かわえええっへぇーーい!!
「闘司さん、お顔」
この前に来たアクアヴェネツの外側、中心部とは違った客層に溢れる場所を、面白い店があるかなと探してみて回る俺達。
「あっ、この前のつり具店だ」
つり具店のオジサンに手を振るシャルル。
オジサンもまた気づいてくれたようで手を振り返してくれた。
そのままつり具店を離れて先に進むと、色々な品々でごった返した露店が現れた。
「うわぁ……色んな物があるねぇ。ねぇここちょっと見て行こう!」
「面白そうですし、いいですわね」
どうやら二人にもこの露店が気にかかるようだ。
俺も気になっているので、頷いて露店を覗いてみる。
その露天には武器や防具、衣服や薬品などごった返した見た目通りの、様々な種類の商品が売っている。
「おや、可愛らしいお客さん達がきたね」
その露店に座っていたのは還暦は迎えないくらいの女性、少しサッパリとしたような印象を受ける人だ。
「こんにちは!」
「はいこんにちは、整頓はされてないけど欲しいものがあったら適当に掘り出してちょうだい。むしろ整理してちょうだい、商品を安くするから」
「なるほど安くなるのですわね、では闘司さんやりますわよ」
「えっ、本当にやるんですかって……目が本気だ……」
リュリーティアさんの目は燃え上がり、目の前の散らかった商品へと向けられている。
なんでお店を見て早々片付けをしなければいけないのかと思うが、リュリーティアさんのマジの目には拒否できない強さが秘められているので諦めた。
「じゃあ……やりますか」
「ボクもやるー!」
「では私と闘司さんが商品を掘り起こして、シャルルさんは種類毎に分けていく。その作戦で行きますわよ」
ということでいきなりの清掃タイム、壊さないように慎重に、かつ大胆に商品を掘り出していく。
「はいシャルル」
「はーい、これはお洋服ー」
「はいですわシャルルさん」
「これはー、武器だね」
交互にシャルルに渡していく、シャルルの判断能力は想像以上に高くて結構なスピードなのに楽そうに仕分けていく。
「ほいこれ」
「これは、クンクン、お薬の方だね」
「ではこれを」
「これは、ゴミだね」
掘り起こしていくほどに一体作られて何時のものになる薬品などや、見るからに商品ではない物が出てくる。
そうして仕分けをすること数十分、問題の物が掘り起こされた。
「次はこ……れ!?」
「どうしたのトージ……わあ!?」
「何を騒いでおりま……す、の……」
俺が取り出した物は、前に見かけて不思議に思っていた湖から現れた魚人男性の尾ひれであった。
「どうしたんだいそんなに驚いて? おやこれはマーマンスーツじゃないの、懐かしいわねぇ」
今までぼんやりと店の前を眺めていた店主が俺たちの異変に気づいてこちらを見た。
店主は俺の手に持つ魚人男性の残骸をマーマンスーツだと呼んだ。
「こ、これの事知ってるんですか!?」
「知ってるも何もワタシも使ったことがあるからね、あれはマーメイドスーツだけど」
まさか店主も魚人族の一人だったなんて……。
でも今はヒトの姿をしている、どちらが主となる姿なのか問い詰めようとするとリュリーティアさんの質問によって遮られた。
「スーツと言いましたか、これは着用する事ができるんですの?」
「ああそうさ、それを着ると水の中でも息ができて会話もする事が出来るようになるんだよ」
これって着るものなのか……だからあの男性はずるりと剥がしていたんだな。
今まで魚人男性と疑っていてごめんなさい。
それより水の中でも息ができるとかって、ルカ王女に貰ったイヤリングと同じ効果があるんだな。
「ん……貴方達は水のイヤリングを着けているのね、だったらそのスーツは要らないと思うよ。だけどそのイヤリング、相当上質なイヤリングだねぇ。それこそ王族が付けてる様なやつ……」
「へっ、これそんなにお高いんですか? ルカ王女がポンと渡すからそこら辺に売ってる物なのかと思っていた……」
「なんだって? ルカ嬢ちゃんから貰った? はっはは、そうかいそうかい! 貴方達が旦那の言っていたルカ嬢ちゃんの友達って奴かい!」
なんか店主が急に膝を叩いて笑いだした、それにルカ嬢ちゃんって言っていたけど、何処かでそれと同じ呼び方をしている人がいたな。
「ルカ王女の事をルカ嬢ちゃんとお呼びするということは、マサさんの奥様ですか?」
「ああそうだよ。この前は旦那が世話になったね、あの人ヌシを釣り上げたぞー! なんて叫びながら一晩中酒を飲んで喜んでいたんだよ。あんなに嬉しそうにしていたのは久しぶりだったから、なんだかワタシまで嬉しくなっちゃったさ」
なんと、この店主はマサさんの奥さんだったのか。
あの釣り好き筋肉鎧熊さんも普通の男性だったのだな。
「まさか旦那とルカ嬢ちゃんの知り合いがたまたまお店に来るなんて、偶然も面白いものだね。よし、じゃあ偶然ついでに何か好きな物持っていってもいいよ!」
「えっいやそれは悪いですよ」
「いいんだよ、なんだったらそのスーツ持っていきな。それを着て泳ぐのは中々面白いよ?」
「じゃあ! じゃあボクが欲しい!」
「ああいいよ」
そう言ってシャルルはマーマンスーツを持ってはしゃいでいる、シャルルよまさか着るのかお前。
やめておけという気持ちと見てみたいという気持ちがせめぎ合っている。
「さて、二人は何かいる物あるかね。そこら辺の商品なんて大して売れてないから好きなの選びな」
ご厚意を無碍にするのも失礼かなと思ったので、掘り起こした商品をみて適当に選んでみる。
「じゃあ……この剣で」
「私はこの髪飾りに致しますわ」
俺は鞘に収められた剣を手に取る、ちょうどジェミニと戦っていた時に剣の刃が欠けてしまったから良かった。
リュリーティアさんは赤色の羽の模様の髪飾りを選んでいた、赤色となるとリュリーティアさんの髪の色なら良く映えて綺麗なはずだ。
「お嬢ちゃんは分かるけど貴方はそれでいいのかい?」
「何かあるんですかこの剣?」
「その剣は少し特殊でね、水の魔法を付与すると切れ味や威力が増幅されるんだよ。貴方水の魔法使えるのかい?」
おお、なんかファンタジー感が強い剣だ。
俺がウンディーネの加護をもらったり、たまたまこの剣を選んだのも偶然とは思えなくなってくるな。
「大丈夫です、俺はこの剣が良いです。それじゃあ奥さん、ありがとうございます」
「ああいいよいいよ、それに、まだ残りも整理してもらうからね」
そうだった……安くしてもらって何か買うつもりだったけど、これが片付けの駄賃という事になった。
マーマンスーツによって一度手が止まったりしたが、それからまた時間が経った頃、ようやく店としての綺麗さが保たれる形になった。
「ふう〜やっと終わった」
「お疲れ様、これそこから出てきたヤツで作った物だから飲んでみてちょうだい」
「待ってください掘り起こしたもので作ったって絶対に危ないですしそれは俺に毒味をしろということですよね?」
身の危険を感じてつい早口に喋ってしまった。
「闘司さんそーっれイッキイッキ」
「イッキイッキ!」
「リュリーティアさんはそんな言葉をどこから仕入れてくるんですか!? あとシャルルも真似しない!」
「急に頭に浮かんできましたわ不思議です」
「トージ、世の中は未知で溢れているんだよ」
「そんな言葉で俺は喜んで毒味をすると思ったのか?」
「冗談だよ、これはちゃんと安全なので作ったから心配しないで飲みなさい」
どうやら店主のちょっとしたジョークのつもりだったようだけど、流石に状況がジョークにしてくれなかったのだ。
でもどうやら安全なようなので恐る恐る飲んでみる。
「あっ、爽やかで美味しい」
「ホント? じゃあボクも飲むー!」
「では私も」
この二人、本当に俺に毒味をさせたな?
「ん〜美味しい!」
「飲みやすくて良いですわ」
「アクアヴェネツの新鮮な水で作られた果実水だからね、今度これをアクアヴェネツの目玉にしようって商人が騒いでいたやつだから美味しいに決まっているさ」
「へー、旅の途中で飲むために少し買っていってもいいかもしれないな」
「そうしてみるといいよ。さて、長いこと片付けやってもらって悪かったね助かったよ」
「またアクアヴェネツに寄った時に、散らかしておかないでくださいよ?」
「それはどうかしらね、それじゃあまたいらっしゃいね」
「またねー」「失礼しますわ」
店主に別れを告げて店を出る。
結構時間を使っていたようでそろそろ陽が赤くなってきていた。
「あちゃー、お店ここしか行けなかったな」
「いいではありませんか、素敵な品も頂けましたし」
「ボク帰ってこれ着る!」
「ははは、じゃあ今日はもう帰るか。おっとその前に、あの果実水少し買って帰ってもいいですか?」
「さんせーい!」「もちろんです」
二人の賛成もいただけたので果実水が売っているお店に立ち寄りアクア城へと帰ることにした。




