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苦戦必至の異世界巡り  作者: ゆずポン酢
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ビッグマイクロプテルスを釣れ!

 バシャンと水しぶきを上げながら俺は空中を飛翔している、そんな俺を不思議な目で見ている二人の元へ、直立姿勢のまま俺は飛び込んでいった。


「トージ……?」「はい……?」

「二人ともー、ただいま戻りま、がっごっぼぼぼぼぼ!!」


 後先考えずにやってみたトビウオアタックは思いの外着地に難があるらしく、俺は見事に地面をゴロゴロと転がりながら壁に激突をしてようやく止まった。

 トビウオアタックは改善点というより、方法そのものを修正するべきだな。

 でも最速で二人の元に駆けつけられた、急いでまだ放心状態の二人に事情を説明していく。


「……はっ!? すいません脳の処理が追いつかず……えーとヌシの大きさが元よりゆうに三倍は超えるですって?」

「はい、それはもうべらぼうに大きかったです」

「トージ今のすごい! ボクもやりたいー!」

「ん? ああいいけど着地地点にちゃんとクッション用意しないと怪我するから後でな」

「わーいやったー!」

「それより早くマサさんにお教えした方がいいですわね、行きましょう闘司さん」

「いやそれは無理そうです」

「はい? なんでですの」


 疑問に答えるように湖が盛り上がる、ザバンと湖を大きく掻き分けてヌシがその姿を湖上へと現した。

 三十メートル越えの全身真っ黒の魚が突如出てきた余波は凄まじく、湖でありながら衝撃で高波を作り出してしまった。

 その波が俺達の元にやってくる。


「逃げろー!!」


 まだ短い期間だけれど共に旅をしてきた俺達、一声(ひとこえ)あげれば多くはいらず。

 三人揃って波とは逆に向かって全力の逃走。

 しかしそこで悲しいかな、差が生まれてしまった。


「あっシャルルずるいぞ! 俺にも風の付与魔法頼むよ!」

「ごめーんもうリュリーティアに使ってて難しいんだー! でもトージなら大丈夫だからぁぁぁ……」


 内部分裂! シャルルとリュリーティアさんは俺を置き去りにして猛スピードで走っていく。

 信頼は嬉しいけれどトージは少し寂しいよ。

 どうする、こうなったら水の魔法を使って波を止めるか?

 いやあの大きさと広さの波を止めるとなると、一時的に強化されているとはいえ魔力量が心配になる。

 そうして策もなく逃げているがどうやら高波の方が早く、もうすぐ俺は波に飲み込まれてしまいそうだ。

 イヤリングのお陰で息は出来るだろうけど、波の威力というものは思っているより強く、下手したらそのまま気絶とか有り得る。

 そうなった時にもしヌシに食べられたら笑い話どころじゃない。


「あーもうどうすりゃいいんだよー!?」


 そうやって大きな声で叫ぶと波の勢いが弱まっていく。

 嘘まさか無意識に魔法使ったの俺、やればできるじゃんトージ!



「ドヤ顔のところ悪いけどそれやったの私だから」



 そう言って現れたのはルカ王女、どういう原理か水がルカ王女を避けていく。

 その後ろにはマサさんがいた、足元の水は避けてもらえておらずビシャビシャに濡れている。


「せめてマサさんの足元の水もどけてあげてくださいよ」

「やろうとしたらマサ爺にいいって言われたのよ」

「おうよ、この波はヌシからの宣戦布告。受け取らないなんて事出来るかよ」


 それは違うと思いますよマサさん。






「んで、あのバカでっかいのがヌシってことなのね?」

「はい、そうです」

「ルカ嬢ちゃん、手応えがあって良いとは言ったがあの大きさは駄目だろう」


 ルカ王女に助けられた俺はなんでこんな事になったのかの経緯を話す、そうしたらまずはヌシを見てみようということになった。

 さっきまで湖底の岩場で隠れていたヌシが、今は湖上に背びれを出してヌシの存在を主張している。


「なによマサ爺、随分弱気じゃない。さっき宣戦布告がどうたら言ってたのは何だったのよ」

「あのなルカ嬢ちゃん、俺は魚であるヌシを釣ることがしたかったんだ。だけどアレはなんだ、あんな城みてーにデカい魚がどこにいるってんだ、魚じゃなくてありゃ魔物だ魔物」

「いいじゃない、マサ爺のその筋肉の有効活用が出来る大きさよ? ヌシも釣られたいってほら、ぐーるぐる泳ぎ回ってるじゃない」

「だからアレはもう釣るんじゃなくて倒すもんなんだよ、ただの災害だ」


 うん、アレを釣るとか正気の沙汰じゃないな。


「ボクは釣りたいよ」

「うわぁ! ……ってなんだシャルルかよビックリしたぁ……。恐ろしい速さで背後に立たないでくれ」

(ワタクシ)もおりますわ」

「どひゃあ!? だから背後を取らないで!」


 どうしてこう危機感が俺を含めてこの三人には足りないのか。

 しかしシャルルはアレを釣りたいのか……出来ることなら願いは叶えてやりたいがなぁ。

 いかんせんどうすればアイツを釣れるのか、その方法が一つしか浮かばない。


「シャルルが釣りたいとかどうのは置いといて、まずはあのヌシを大人しくさせなきゃ住民に被害がおよぶわ」

「それはそうですね、ヌシが湖に出てきただけで一種の水害が発生しましたから。それでルカ王女は何か方法とか考えついてますか?」

「一つだけシンプルなのがあるわ」

「あ、もう分かったので結構です」


 うん多分ルカ王女が言おうとしてることは、俺のたった一つのアイデアと一緒だろう間違いない。


「やっぱり、闘司もその方法しか出てないならやるしかないわよ。大丈夫、今度は私がペアを組んでヌシと戦ってあげるから、ね?」

「うーん……はぁ、分かりました。水の魔法が得意なルカ王女がついてきてくれればいざという時安心ですので宜しくお願いします」

「よろしい、じゃあ私と闘司は今からヌシを弱らせてくるから。釣るんなら弱ったところを狙いなさい、いいわね?」

「はーい!」

「うむ、シャルルはいい返事ね。釣る作戦はリュリーティアとマサ爺で練っておきなさい。それじゃあ行ってくるわ」

「闘司さん、ルカ王女、気をつけてくださいね」








 俺とルカ王女は湖の中に入り、そこでヌシと戦うことを決めた。

 地上で暴れると街に被害が出るので湖底ならそれが小さく済むだろうという事だ。

 一度大きく湖上に現れたヌシは何を考えているのか、湖の中へと潜りそこからまるで微動だにせずに湖の中を漂っている。


「ヌシのやつ何やってんのかしら」

「多分警戒をして動けないのか、それまた餌となる物を吟味してるとかの感じじゃないですかね」

「ふーん、でも何もしてこないなら好都合だわ。闘司、初撃はドカンと思いっきりぶつけるわよ」

「はいはい頑張りますよ」


 ヌシのやつはまだ俺の事を敵視しているようで、能力値の修正が起こっておらず上昇したままだ。

 それを利用してこのヌシの真下から腹に一発打ち込もうという作戦だ。


「それじゃあ闘司行くわよ!」

「はいっ!」


 地面から氷柱が現れて俺を押し出す、それを使ってヌシの元まで初速を稼ぐ。

 次にルカ王女はさっきの俺がやったように、水の流れを速くしてさらに俺のスピードを高めていく。

 俺がやる事は一つ、拳を握り締めて殴ることだけを一点に決めて接近するのを待っている。

 残り少し……もう近く……ここだ!

 大きすぎてどの部分か分からないヌシの腹辺りを、魚雷のように静かに素早く近づいて全力のパンチを抉り込む。


「おっ……らぁ!!」


 大きさに見合った重さを打ち込んだ拳から感じ取る、それでも俺は力負けせずに打ち抜いた。

 するとヌシの腹がボコんと少し凹み更に上へと押し流される、ヌシは不意打ちに驚いたのかはたまた反撃なのか知らないが暴れだし、その巨体についている尾ひれを俺にぶつけてくる。

 湖の中なので咄嗟の反応が難しくそのまま尾ひれに叩かれて吹っ飛ばされていく。


「うぐぐっ……とっ……まったぁ」


 そのまま遠くに飛ばされる訳にはいかないので、水の魔法で流れを逆にして勢いを弱めて止まった。

 幸い近くで止まれたがそこはヌシの眼前であり、黒く大きな顔が俺を捉えている。

 あっこれ危ないやつだ、そう予想した通りにグンとヌシの顔がこちらに近づいてきて、口を大きく開けて小さな俺を丸呑みにしようとする。

 急いで横へと泳いで逃げるがさすが相手は魚だ、大きく口を開けたまま俺の逃げる方向に方向転換してくる。

 咄嗟に今の泳いでいるイメージから歩くイメージを想像する、するとさっきまでの浮力はどこへいったのか俺は湖底へと落ちていく。

 しかしそれをしても尚ヌシの捕食からは逃げられず、ヌシは上から覆いかぶさるように地面ごと食らいついてきた。


「アイスウォール! あっぶないわねぇ!」


 喰われる寸前ルカ王女が大きな氷の壁を作り出して防いでくれた、そのうちにヌシから距離をとる。


「一発だけじゃダメですね」

「そのようね。はぁ、水の中じゃやっぱりヌシの方が上手(うわて)ね、やりづらいったらないわ」

「なんとか陸で戦いたいですけどこの大きさを移動させるのは少し難しいですよね……」

「そうよね……いや、待って? 出来るかもしれないわ」

「本当ですか、それって一体?」

「それはね……」






 ルカ王女の割と無茶な作戦を聞いた俺はビックリしたが、それ以外にいい案が浮かばなかったので実行に移すことにした。

 俺はわざとヌシの前で泳いで挑発をする、もちろんヌシはそれに反応をして俺を食べようと追いかけてくる。

 だがルカ王女のサポートにより俺はヌシとつかず離れずの距離のまま湖上近くへと誘導をすることが出来た。


「そろそろいけるかな……」


 俺は逃げ回るのをやめてヌシへと向かって泳いでいく、ヌシは一度ビクリと警戒したがそれも一瞬の間だけで都合よく餌が向かってきたと解釈したのだろう、大きく口を開けて待っている。


「残念、そうじゃないんだ」


 俺はヌシの大きく開いた口のスレスレを下に避けてヌシの腹へと向かう。

 ヌシは餌が口の中に入り込んできたと思って口をバクりと閉じるがそれは意味の無いこと、その隙を狙って俺はヌシの腹をガッチリと掴むために両腕をピッタリと腹につけた後、そこから腕ごと広い範囲を凍らせていく。

 ヌシも異変に気づいたのか暴れ出す、しかし上手い具合に凍らせられたようで手が剥がされることはない。

 そして俺はそのままヌシを湖上に向かって押し出す、ここからルカ王女のサポートが入る。

 俺のヌシと同程度の力と、ルカ王女の魔法によりグングンと上へ押し上げることが出来る。


「ふんぬぐぐ……いっけえぇええええ!!」


 俺も自分で水の魔法を使い更に勢いを強めていく。

 ヌシの抵抗も空しくそのまま押し出され、俺とヌシは湖上を飛び出し宙に舞った。


「ルカ王女今です!!」

「まっかせなさーい、フリーズ!!」


 一緒に湖を飛び出していたルカ王女は、飛び出した湖を広範囲で凍らせていく。

 バキバキと音を立てて高速で周囲の湖が凍らされたヌシは、そのまま落下しても湖に戻ることは出来ず氷湖の上でドシンドシンと跳ね回っている。


「よっしゃ成功! よくやったわトージ!」

「ルカ王女こそ、でもまだ終わってませんよ」

「まあね、でもここからは私たちの番よ。まな板ならぬ氷湖の上のヌシなんて楽なもんよ、あーはははは!」

「うわぁ……悪どい顔してるぅ」

「それより適当に痛めつけてシャルル達に釣らせなきゃね、てことで闘司よろしく」

「えっ俺なんですか……?」

「当然じゃない。あんたまだピンピンしてるし、私は湖を凍らせておくのに集中しておかなきゃなのよ?」


 たしかに凍った湖の端っこからは若干とけているように見えるけど、ルカ王女は全然辛そうじゃないんですが。


「ほらほら不満そうな顔をしない。それにもしヌシの尾に叩かれたらさすがの私も無傷は無理よ。闘司なら多少怪我しても自動治癒あるしね、適任よ」


 まあ俺に出来ることなんてそれくらいだしシャルルを喜ばせたいので、ヌシには悪いがやられてもらうとしよう。



「でも何か忘れているような気がするんだよな……?」









 ボクとリュリーティアとマサは作戦を考えていたけどこれといって特に思いつくことが無かった、なので結局三人で力を合わせて釣り上げようということになったよ。


「前に俺がヌシと戦った時も小細工はしないで力勝負してたからな、大きくなったってそこは変わらねぇだろがっはっは!」

「その大きくなったことによる力勝負が一番大変ですわよ、マサさんは三人に分身できたりしません?」

「無理だ無理だ、俺は魔法を使うのは苦手なんだよ」

「その素敵な筋肉鎧で想像できますわね」


 リュリーティアとマサが楽しそうに話している中、ボクは湖を見つめている。


「シャルルさん、闘司さん達なら大丈夫ですわ。すぐにヌシをガツンと懲らしめてきますわよ」


 リュリーティアはとっても優しい、ボクがトージとルカの心配をしているのにすぐ気づいて励ましてきてくれるんだ。


「うん、トージとルカの事は信じてるから。ありがとうリュリーティア」

「さて、なんの事ですの?」


 なんでお礼をとリュリーティアはとぼけるけど、きっと分かっててとぼけているんだ。

 リュリーティアは意外と照れ屋さんだからね。

 だって少し前にトージがリュリーティアの髪をなんか触ってた時も、ちょっとだけ顔が赤くなってたもん。

 トージはそれに気づいていなかったけど。


「なんだ、何か湖から出てくるぞ?」


 マサが湖を見て何かを見つけたみたい、ボクも湖の方を見て何が起こるか待つ。

 するといきなりヌシが湖から飛び出してきた、それによーく見るとトージが下から持ち上げている。


「トージだ! それにルカもいるよ!」

「ええそうですわね。まあ、ルカ王女凄いですわ。」

「ああ……湖を凍らせてヌシの機動力を無くすとはな。恐らくルカ嬢ちゃんの考えだろうけど発想がデカすぎるぜ」


 ルカはヌシの周囲全体を魔法で凍らせていく。

 そして宙から降り立ったトージはヌシに向かって走っていった。


「やっぱり最後は闘司さんの番ですのね。さてシャルルさん、マサさん、そろそろ(ワタクシ)達の出番が来ますわよ。」

「そりゃどういう事だ?」

「簡単ですわ、闘司さんがヌシを弱らせてくれるので後は(ワタクシ)達が釣りあげれば勝利です」

「はぁ〜……いくら水の中じゃないからつったってあの大きさのヌシを弱らせる事ができるとは、闘司のやつは腕っぷしがあるんだなぁ」

「うん、トージはとっても強いんだよ!」


 そう、トージはいつも強いんだ。

 ボクを守ってくれたり助けてくれるカッコいいヒーローなんだ!

 ボクもそんなトージみたいにカッコよくなりたいから頑張らなくちゃ、しっかりとヌシを釣り上げて男をみせるぞー!


「ではシャルルさん、こちらを」


 リュリーティアはさっき針をつけて未だにそのまま糸がみょんみょんしている釣竿を渡してくる。

 ボクはそれをしっかりと握り締めて、ヌシとの勝負に挑む。


「シャルルさん、あまり気を張ってはいけません。(ワタクシ)とマサさんも一緒に引きますので、頑張って釣り上げましょう」


 そう言ってリュリーティアはボクの後ろから手を包み込むように竿を一緒に持ってくれる。

 さらにそこからボク達の手をすっぽりと隠すようにマサの大きな手が覆う。

 ボクが魚の不意をついて竿を引き、マサが力で引っ張り、リュリーティアがサポートや足場とかのバランスを保ってくれる。


 三人の協力パワーでヌシなんてあっという間に釣り上げちゃうぞー!








「今回の優勝者は……。初参加にして、大会史上初のヌシを釣り上げたシャルルさんに決定でーーーーーす!!」



「いぇーーい!!」



 司会者の大きな声の発表に負けじと、シャルルはピースをして喜びの声をあげる。

 ヌシが釣り上げられたという事による興奮が合わさって、会場のボルテージは凄まじい事になっている。

 雄叫びなのか歓声なのか、それか両方合わさったものなのか、とにかく入り乱れた祝福の声は壇上に立っていない俺達にも届いている気がして嬉しい。


「闘司さんは良かったのですの?」

「え? ああヌシのことですか。シャルルはみんなの手柄にしようよって言っていたけど、シャルルのあんな顔が見たいなと思っていたので別に良いんですよ」

「いえそれは素敵なお考えですがそうではなく、もしかして……お忘れになっています?」

「何がですか?」


 忘れる……? はて、何か忘れていることなどあっただろうか、そういえばヌシを弱らせる前も似たような事を感じたな。


「あー忘れておりますわね。仕方ありませんわ、もう手遅れですがお教えしましょう」

「えっなんですか……手遅れって一体なんですか!?」


 リュリーティアさんは呆れと哀れそうな表情を合わせた顔で言葉を発しようとする。

 しかし。



「おーーいトージ! この後の罰ゲームよろしくねー!」



 壇上から大きな声で俺に話しかけてくるシャルルによってリュリーティアさんの言葉が口から出ることは無かった。


「先に言われてしまいましたわね。つまりそういう事です」

「何がっ……ああっ!!?」

「思い出したようですわね」









「あーーーー! 俺のバカーーーー!!」


 シャルルの優勝と同時に、ビリであった俺のお鮨ご馳走が決定したのであった。

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