ヌシ釣り大会・4
秘策を教わった俺は早速釣りを再開する。
まずは魚が掛かるのを待つ……。
来た、この引きは……つっよ!?
オンちゃんサイズより更に大きいぞこれは、へへへ俺の秘策の初回に相応しいぜ。
「ぐっ……足元に、氷柱……!」
二つの小さな氷柱が現れる、だが。
「なっ!? くっそ壊れた!!」
イメージの弱さか練度の低さか、とにかく氷柱は足がかかると壊れてしまった。
まずいまずい、このままでは俺も湖へとダイブコースだぞ!?
焦るな、焦らないでもう一度氷柱を作り出そう。
「ふー……、ほっ! よっしできたぁ!」
今度は足がかかっても二つの氷柱は壊れなかった、しかしここからが本番だ。
オンちゃん越えの魚はやはり足場を作っただけでは楽に釣られてくれず、俺は苦戦を強いられる。
竿を身体にくっつけて身体を思い切り後ろに倒して全体重で引く。
グググと引っ張れたので少し前に戻しながらリールを巻く、おっと危ない、そのまま引っ張られるところだった。
常に気は抜けないぞこの戦い。
「もう少し、他に何か……ない、かなぁ!」
そう、やはり氷柱だけでは結局のところ俺の筋力頼りになってしまう。
もっと何か……そうだ!
俺はまず目の前に、釣り糸が伸びる所以外に背丈ほどの氷の壁を作り出す、そこに背中をつけて釣竿をピッタリと抱き抱える。
そして一歩ずつ湖と反対方向へ歩き出す、その1歩を歩く事に足元に氷柱を立てて進んでいく。
後方に引っ張って進むのと、前に向かって引っ張り進むのとではやはり踏ん張り方が変わる、重い荷車を紐で引っ張るようにして俺は魚を釣り上げていく。
「ぐっ、そろそろのはずっ!」
何度か歩くこと少しばかり、そろそろ湖の魚は陸近くまで来ているはずだ。
決着の一撃を決めるため、渾身の力で歩みを強めると突然勝敗がついた。
「うわっ、ぶべっ!? いたたた……」
いきなり竿が緩み俺はそのまま地面へとダイブを決めた、しかしピチピチと跳ねる魚が背後にはいた。
「いやったー!! シャルル、リュリーティアさん、どうですか大きいの釣れましたよ!」
「無茶苦茶な釣り方をしましたわね闘司さん……」
「うわぁトージのお魚大きいね」
「だろだろ? へへへ、これは俺が一番になることまち」「残念ですわね、コレをご覧なさい」
印籠よろしく眼前に突き出された魚は俺が釣り上げたものより一回り大きかった。
「そ、そんなバカなっ!?」
「現時点でのトップは私で決ま」「フフフ、それは違うよリュリーティア」
不敵な笑みを浮かべシャルルは後ろ手に持っていた魚を出してきた、それはリュリーティアさんのよりほんの少しだけ大きい魚だったのだ。
「ま、まさかシャルルさん、その大きさを風の付与魔法で釣ったと言うんですの……? なんて、なんて恐ろしいのでしょう……」
ふんぞり返るシャルルとワナワナと震えるリュリーティアさんを見ながら俺は膝を抱えて丸まっていた。
「うえーん! 俺超頑張って工夫してあの大きさ釣ったのにこれ以上大きいのなんて釣れないよぶぇーん!」
「子供ですかアナタは」
「トージ、勝負の世界は残酷なんだよ」
「追い討ちはやめてあげなさいシャルルさん。大丈夫です闘司さん、大きいのが釣れないなら数で稼げば勝機がありますわよ」
「そ、そうですよね沢山釣れば……」
そうだよ俺が二人より多く釣りまくれば勝てるかもしれないんだ。
まだ勝ち目があると分かると、萎えてた気力が満ち満ちてくる。
俺の戦いはまだ終わっちゃいねぇ!
あれから数十分は経っただろうか、俺の竿に当たりがくる気配がない。
数多く釣って罰ゲームを回避しようとした俺に対する当てつけなんじゃないかと疑っているくらいだ。
満ちた気力は水が与えられなくなった鉢植えの花のように萎んでいく。
「闘司さん……何しておりますの?」
「えっ……あぁ、お鮨の予想金額はいくらかなと計算してました……」
「と、闘司さん……!? 哀愁が漂いすぎて切なくなってしまいますのでおやめください!」
「へへー……トゥンヌストゥンヌスー」
「もう、もうお休みになってください……!」
「あれー、なんか全然釣れなくなってきたなー。ねートージは釣れた……ってどうしたのトージ?」
「おおシャルル、今日はオスシパーティーだぞー」
「えっそうなの? よく分かんないけどやったー!」
「いいえシャルルさん違いますので、ほら闘司さん目を覚ましなさい!」
リュリーティアさんは錯乱状態の俺に往復ビンタをしてこちらの世界に呼び戻す。
その甲斐あってか、俺は危うくトゥンヌスの楽園へと誘われそうなところから生還できた。
「はっ!? な、なんだ今のは……トゥンヌスに足が生えて踊りながら俺を担ぎあげていたぞ……!」
「よくぞ戻ってきましたわ」
「あれリュリーティアさん、なんか俺の両頬が痛いんですけど知っていますか?」
「魚の尾にはたかれたのでしょう。そんな事より、何故か急に魚が釣れなくなりましたわ」
「リュリーティアも? ボクの方も全然ヒットしないんだ」
「えっ、ええ? 俺だけじゃなかったのか良かったぁ……」
「ということは闘司さんの方もですのね。おかしいですわね、さっきまでは普通に釣れていたのに三人とも急に釣れなくなるなんて」
どうやら俺達三人、いや周りを見ると他の人達の竿にも魚がかかる様子がない。
それも魚がかからないのはここら一帯だけのようで、遠くに見える釣りをしている人達は楽しそうに魚を釣っている。
「ここらの魚を釣り尽くした……なんてことは有り得ないですよね」
「湖に引きずり込まれた釣り人の数の方が多いくらいですので、釣り尽くすなどはないかと思いますわ」
その比較の仕方はどうかと思う。
しかし釣り尽くした訳では無いにせよ、魚の気配というものがここらの湖から一切感じられない。
ただし湖の底、そこからひしひしと身体に纏わりつく不穏な感覚が俺に付きまとう。
何やらこれから危険な事が始まるのではと、勘だけれどそう感じられる。
そんな雰囲気を感じ取ったであろうルカ王女とマサさんもこちらに近寄ってくる。
「おーい。あっ、やっぱりアンタ達も釣れてないのね。私とマサ爺の方もサッパリ来なくなったのよ」
「ああ、竿が微動だにしやがらねぇ。それに……このザワつく湖の感じだぜ」
「そうなのよね。私、何年も参加してるけどこんなのは初めてよ」
「いや、俺はコレを知っているぞ……」
「えっ? マサさんは何が起こっているか知っているんですか?」
俺は何か事情を知っているようなマサさんに尋ねてみる。
マサさんは真剣な表情でしばらく考え出し、やがて確信を得たように答えた。
「いや、俺はコレを知っているんじゃねぇ……。コレと一度遭遇した事がある!!」
興奮しながら声を震わせて叫ぶマサさん、知っているじゃなくて遭遇した?
一体どういう事か聞こうとするとルカ王女がバッとマサさんに掴みよって話しかける。
「ちょ、ちょっと待って、遭遇ってそれって、それってもしかしてっ!?」
「ああルカ嬢ちゃん。そのもしかしてだ、間違いねぇ俺の体が疼いてやがる」
「なんてこと……まさか本当に出会えるなんて。それならやる事は、一つしかないわね!」
「俺も遂にあの釣竿に日の目を浴びせてやれるぜ」
「はは! マサ爺その釣竿、日を浴びせるだけで使う機会は無いと思うわよ?」
「生意気言ってんじゃねぇや! さっさとやるぞ!」
二人だけの会話を交わして慌てた動きで戻ろうとしているのを呼び止めて説明を求める。
「二人だけで話を進めないでください、一体どうしたって言うんですか! それと遭遇したってなんですか!?」
「なーにーよー!?―もう、忙しいから端的に言うわよ!」
「な、何だって言うんですか?」
忙しいと言いながらルカ王女は一拍置く、そして何故かマサさんと目を合わせて同時に答えてくれた。
「「ヌシのお出ましだっ!!」」




