ヌシ釣り大会・3
ルカ王女はあっけらかんと爆弾発言をかましてきた。
あのワータイガーを餌として撒いただって?
「いやぁただ平原に埋めるのも勿体ないなーと思ってね、どうせなら有効活用しようと湖に撒いたのよ。まさかそれで魚がレベルアップするとは笑えるわ、あーはっはっは!」
「この大バカ王女!!」
「誰が大バカですって!? 鼻に釣り針引っ掛けるわよ!!」
「大バカじゃないですか!! 熟練者が湖に引きずり込まれるんですよ!? 俺達の様な初心者が、もしかしたら怪我とかしてしまうんですよ……?!」
「あっそれは大丈夫。餌を撒いたのこの一帯だけだから」
その発言にまだ残っていた他の釣り人がルカ王女を見ながらビックリしていた、かくいう俺もビックリしてる。
「当たり前じゃない、初心者じゃこんな魚釣れないわよ。アンタ達は別みたいだけど。それに比べて穴場のここで釣る奴らなら、まぁいいかなって」
曖昧ぃ! まぁいいかなで決めたのこの人!?
「それに、たまには刺激的な釣りもしてみたいでしょ? そうよねみんな!」
「首を横にブンブン振ってますよ皆さん」
「そうよね……みんなぁ!!?」
「あぁ縦に……縦に振ってしまっている……」
哀れ熟練者達よ、開会式とは違う恐ろしい形相のルカ王女に首を縦に振らざるを得なかったのだ……。
でも撒いたのがここだけってなら許してもいいだろう、変な騒動が起きたりしなさそうだし。
でもこうして話している間もポツポツ、いやボチャンボチャンと湖に引きずられていく釣り人を見るのは辛いものがあるな。
「あははーしっかり釣りなさいよー」
この王女、鬼畜である。
あれ? やっぱり許してはいけないのではこれ?
「オイオイ、ルカ嬢ちゃんや。今年もお前さんははっちゃけていやがるな」
「えっ? うわっ!?」
俺らの背後にいつの間にか熊が立っていた。
「おーマサ爺じゃん! やっぱりアンタもここで釣っていたのね! それより今年の魚、どうよ?」
「ああ、今年のは例年より手応えがあっておもしれぇな。まぁ、ヌシの足元にも及ばねぇがな」
「かーっ! マサ爺は一度ヌシとやり合ったからって理想が高すぎんのよー、あー私もヌシと対決したいなぁ」
「へっ、ルカ嬢ちゃんじゃすぐに湖に持ってかれちまうよ」
「言うわね、必ず釣ってやるから見てなさいよ」
背後の熊はどうやらルカ王女の知り合いらしくマサ爺と呼ばれているようだ。
ボディービルダーのように筋肉の服を全身に来ている二メートル超えのナイスミドル、すっごい強そう。
「それより、コイツらはルカ嬢ちゃんの知り合いか?」
「そうそう私の友達、それとあの魔族騒動の功労者達でもあるわよ」
「ほぉマリンちゃん以外の友達か、そいつは珍しい。俺の名前はマサ、マサとかルカ嬢ちゃんみたいにマサ爺とでも呼んでくれ」
「じゃあマサさんで、俺はルカ王女の友達二号で八代闘司って言います」
「ボクはルカの友達三号でシャルルって言うんだ」
「私は友達四号のリュリーティア・アルチュセールですわ」
「マリンが一号だと分かるけど、私にももうちょっとくらい友達いるわよ! いる……わよ?」
「がはは! なるほどなるほど、本当に友達のようだな!」
豪快に笑うマサさん、ルカ王女ととても親しいようでルカ王女が初めてヌシ釣りに参加した時に色々マサさんから教わって仲良くなったらしい。
ルカ王女の言わば師匠らしく、釣りの腕前はさっき言っていた通りヌシと後少しという所までやり合った名人でもあるようだ。
「あの時竿が折れたりしなけりゃ釣れていたんだ、だからあの時から俺は竿には妥協を絶対しない」
「マサ爺毎年それ言ってんじゃない、あれから一度もヌシが掛かってないんでしょ?」
「まあな……だが今年は何か違う気がするんだ。今年は魚が何か騒いでやがる気がするんだよ」
「私がいい餌をここら辺に撒いたからね、もしかしたらヌシが来るかもしれないわよ」
「ルカ嬢ちゃんそれは本当か!?」
「たーだーし! マサ爺が初めて対峙した時よりは恐らく更に強くなっているわよ?」
「へっ! そんなもん、尚更燃えてくるじゃねえか!! くそ、そんな事聞いたらじっとしていられねぇ俺はすぐに釣りを始めるぞ。」
「それでこそマサ爺ってものよ! それじゃあ闘司達、私も釣りに戻るわ。もしあんくらいの魚で手こずっているようならここで釣るのは止めた方が身のためよ」
そうしてマサさんとルカ王女は自分の釣り場へと戻っていった。
ポツンと残された俺達、だが俺達の心の中には闘争心が芽生え始めていた。
「ふふふルカ王女ったら、私達が手こずっているように見えたそうですわ」
「そうみたいですね、ふっふっふ……ああまで言われて本気を出さなきゃ男が廃りますよ」
「これは負けられないね……。オスシはボクのものだよ……!!」
三人の闘志が合わさった今、ヌシの存在など恐るるに足らず!
「いやー!! 無理無理無理! 落ちる、湖落ちるぅ!」
「情けっ! ないですわ……よぉっ!! きゃっ!? もう、大人しく釣られてください!」
「トージ助けてーー!!」
三人の阿鼻叫喚な図が展開されている。
気持ちだけでは釣りの技術は上がらない、そう思い知らされた瞬間である。
なんとか今掛かっている魚を釣り上げた俺達はとても疲れていた。
「水の中の魚って、怖いんだねトージ……。ボク始めて知ったよ……」
「はぁはぁ……なんでルカ王女とマサさんは、あんなに楽そうに釣ってるんですか?」
「知りませんわよ……。引っ張られても一向に身体がブレないなんて普通じゃありませんわ。……普通じゃない? もしかしたら……」
リュリーティアさんは再度立ち上がり釣りを始めだした。
「大丈夫ですかリュリーティアさん、疲れているんじゃ?」
「しっ、少々お待ちいただけますか?」
リュリーティアさんは釣りに集中している、何か思いついたようだったのでとりあえず釣るまで待ってみよう。
少し待つと浮きがピクンと沈み魚がかかる。
「ふっ!」
短く息を吐いたリュリーティアさん、竿は大きくしなっているが全く引っ張られる様子がない。
そのままルカ王女のように安定した姿勢のままリールを巻いて、そのまま何事も無く魚を釣り上げた。
大きさは俺とシャルルがさっき必死に釣った大きさの魚、それを普通に釣ったのだ。
「凄いよリュリーティア! 今のどうやったの?」
「本当にビックリしました、コツでも分かりましたか?」
「いいえルカ王女のように技術ではなく、力技で釣り上げました。それとこれは恐らく私だけで闘司さんとシャルルさんは出来ません」
力技だって? そんなに力んだ様子もなかったし、それに俺とシャルルは出来ないってどういう事だろう。
「火の付与魔法を使いました。筋力を強化して力負けしないようにしてから無理矢理釣りましたので、ルカ王女のように綺麗には釣れてないですけれど」
「火の付与魔法……なるほどだから俺とシャルルは出来ないんですね? 二人とも適性が無いから」
「力技でも凄いよリュリーティア! いいなぁボクも火の魔法使えたら良かったのになぁ」
「シャルルさんでしたら風の魔法で身体速度を上げればいけるかもしれませんわよ? 魚の引きが緩んだ瞬間に、素早く竿を引いたりすれば不意をつけますわ」
「なるほどそっかー! よーしやってみるぞ」
シャルルは釣竿を手にして魚と対決をしにいく。
糸を垂らしたらすぐに魚がかかりシャルルは当然引っ張られていく、しかしふとした瞬間引きが緩むところをシャルルは見逃さない。
いきなり身体がブレたシャルルは竿を引っ張っていて、魚も反応出来なかったのかただ抵抗もなく距離を詰められていた。
同じ事を繰り返してやがてシャルルもリュリーティアさんと同じサイズの魚を釣り上げたのだ。
「釣れた、ボクも大きいの釣れたよ!」
「さすがシャルルさん、言っただけでいきなり成功させるとは思いませんでしたわ」
「あ、あの! 俺の水の付与魔法で何か出来たりしませんか!?」
シャルルに釣られて俺は焦りながらリュリーティアさんに助けを求める。
俺の必死な頼みにリュリーティアさんは眉を寄せて考えてくれるが、やがて首をギギギと横に背けて答えた。
「水の付与魔法は……自己再生力の強化がございますので……体力が消耗しても……何回でも、挑戦できますわ……?」
「無理矢理答えられても悲しいですし、最後を疑問で終わらせないでくださいよぉ!!」
「トージ……オスシ、ごちそうさま」
う、うわぁああああん!! シャルルまで酷いやー!!
残酷な現実を叩きつけられた俺は藁にもすがる想いでルカ王女とマサさんに助けを求める。
「なに? アンタ魔法なんか使って釣ろうとしてんの? はー、初心者の考えそうなことだわ。ちなみに私は魔法なんか使っていないわよ、もちろんマサ爺だって魔法なしでヌシと渡り合っているし」
「そりゃあお前、もし俺が魔法なんか使ったらヌシなんてあっという間に釣り上げちまうからな! でもそれじゃあ楽しくないから使わないのさ」
「魔法使わないって、そもそもマサ爺は魔法の適性が低いだけでしょ」
「るっせ! しかしそうか……確か闘司が使えるのは水の魔法だったか? ルカ嬢ちゃん何かアイデアないか?」
「えー……? まぁ、あるにはあるけど。でも大して変わらないと思うわよ?」
「それでも構いません!! どうか俺にその秘策をお教え下さい!!」
土下座をして頼みこむ、ドカッと頭に足が乗っけられた。
「う〜ん、いい眺めだわ」
「ルカ嬢ちゃん、虐めてないで教えてやれや」
「はいはい、それじゃあ闘司見てなさい」
足をどけてルカ王女は釣りを始める、さっきまでの綺麗なフォームではなく少し不安定な姿勢だ。
「とりあえず技術がないなら力技ってのはいいと思うわ、リュリーティアのようにね」
魚がヒットする、ルカ王女は魚の抵抗に引っ張られるように竿を持ってかれて湖に近づいていく。
「ルカ王女危ないですよ!?」
「だーいじょぶだから。っほ」
ルカ王女は突如両足のところに小さな氷柱を作り出した、そこに足をかけて後ろに倒れ込むように身体全体で竿を引く。
さっきまで引っ張られていたのが、それにより競り勝っていく。
「単純でしょ? これが闘司にも出来る水の魔法を使った力技の釣りよ。踏ん張ることが出来て力を最大限に使えるわ」
「ほぉなるほど、たしかに足場が悪いと中々釣るのが難しいからな」
「あ、ありがとうございます! これで俺はお鮨をご馳走せずに……!」
「んん? あーだけどね、アンタの魔力量だと多分そこまで多くは使えないから、魔力の枯渇には気をつけなさいよ?」
「はい! はい! 分かってますよ、それではありがとうございました!」
これで俺も負けないで釣ることが出来るぞいやっほう!
「ルカ嬢ちゃん、闘司のやつ聞いてないだろあれ」
「そこがアイツの面白いところよ……」
意気揚々とスキップしながら戻る中後ろから何か聞こえてきていたが、今の俺の耳に届くことはなかった。
わーい60話です、嬉しいです。




