エルフと戻りの村
そりゃあ異世界だし魔力とかなんだってあるから、そういうモノにも出会えると期待していたけれど。
そうか、いきなりエルフかぁ。
「え、エルフだって? あの耳が長くて」
「ながいよ〜」
「不思議な森に住んでいて」
「たしかに不思議な森が近くにあるね〜」
「弓が得意なあのエルフ?」
「べつに弓だけじゃないけど、うんそうだね」
なんてこった。
いきなり異世界人と出会えてしまったことに割と驚きが隠せない。
むしろなんで気づかなかったのだろう、耳が長くて金髪とかモロにエルフのイメージ通りだ、いやベビースライムとかあったから気づかなかっただけだぞ。
なんだこの意味の無い言い訳は、そんなこんなで内心驚いているとシャルルがこう言ってくる。
「そんなに驚くことないじゃん! エルフなんてよく見かける種族でしょ? それこそヒトと同じくらいいるって。」
「俺は全く見かけたことが無かったというかなんというか……いやゲームならあるけど」
「ゲーム……?」
おっとマズい、俺が異世界人とはあまり知られない方が良いだろう、多分。
「そっ、そういえばシャルル! 実はシャルルに頼みたいことがあって……」
「ん? なに?」
「俺を少しだけでいいからこの村に泊めてもらえないかな」
話を逸らして本来の目的を話してみる。
シャルルは俺のことを助けてくれたみたいだしいい返事は期待できるはず。
「えっ? いや、うーん……」
なんか凄い不安になってしまうような困った表情をしているぞ。
も、もしかしてダメなのだろうか、ダメだとするとこれからどうすればいいのだろうか。
シャルルにつられてこちらも険しく顔がゆがんでいくと。
「うーん、ボクとしてはトージを泊めてあげたいんだ。でも、村のみんながトージの事をよく思ってなくて……」
「えっどうして? 余所者だからか?」
「それもあるけど……トージ、山から降りてきてベビースライムにやられたんでしょ?」
「そうだな」
「ボクは今トージに聞いたから分かるけど、でも村の人達は違うんだ。トージの怪我を見て、アレはマウントグリフォンにやられたんだって騒いでいるんだ。ここにトージを置いたらこの村もトージを追ってきたマウントグリフォンに襲われるって……」
「そ、それはまたみんなに説明してみればいいんじゃないか!?」
シャルルは首を横に振った。
「ボクはあの森でトージがベビースライムに飛ばされたのを見たのと、今の話を聞いたので納得出来たけど、子供でも簡単に倒せるモンスターにやられるなんて話は普通は信じないんだよ。マウントグリフォンにやられたって方が信じやすい」
なんてこった。
あんな場所に出した暇な神様に怒りを抱く。
つまりあれか、俺があのベビースライムにやられるようなスキルを持っていなければこの村に泊まれたかもしれないのか?
絶対後でこのスキルの改善案を要求しよう。
「あぁでも大丈夫だよトージ! 村のみんなはボクが説得するから! ボクが責任もって怪我が治るまで泊めてあげる、だって見捨てられる訳ないじゃん!」
「シャルルぅ……」
泣きそうだった。
いくらポンコツな神様に見守られているとはいえ、1人で寂しかったのだ。
ベビースライムには殺されそうになるし。
そこにとびっきりの笑顔で、俺を不安にさせまいとしてくれるシャルルを見たら涙が出そうにもなる。
「ほらほらトージ、泣く暇があったらまずはゴハン食べて元気になろう! おなかいっぱいになれば大丈夫だよ!」
「ああ、本当にありがとうなシャルル」
「うん! よーし、それじゃあとびっきりおいしーゴハンを作るぞー」
シャルルが立ち上がり腕まくりのようなポーズをしたところで、声がした。
「シャルル、冒険者さんや、大丈夫ですかな?」
嗄れた声の元には、なんというか陰とした雰囲気を持った老人がいた。いや老エルフだろうか。
泣きそうだった。
先程みたいな歓喜に打ち震えるタイプではなく、緊張と恐怖によってだが。
目の前に広がる円形のような机に並ぶ5人の老エルフが一人一人違う視線を俺に向けてきている、しかし好意的な視線は一切感じられない。
怒り、猜疑、侮蔑、まぁ似たような感情のこもった熱い視線なのだ。
針のむしろ状態だ、救いは隣にいるシャルルだけである。
チラリとこちらを見てウィンクしてくれた。任せてくれという意味なのだろうが、あまりの可愛さにときめいてしまった、こんな状況なのに。
いや、そもそもシャルルは男の子なのに可愛いって。
「ゴホンっ! えー冒険者の方よ、怪我をしておったのに呼び出してすまんな」
欠片もすまないと思ってなさそうな表情をした謝罪だけれどそんな事を言える立場ではないので黙っておく。
あと付け加えると俺は冒険者じゃない。
「あっいえいえ、その、シャルルが手当してくれたのでなんとか、動けますので……」
シャルルが手当してくれたのもあるが、実の所はスキル[自動治癒]の効果だと思ってる。
少しづつではあるけど、通常の怪我の治るスピードより遥かに速く痛みとかが和らいでいるからだ。
今こうして立って普通に話せるくらいには治ってきている。
これはやばいスキルじゃなかったんですね神様。
「ですので本当に大丈夫なんです。それで……俺がここに呼ばれたのは何故でしょうか?」
先程シャルルと会話をした時理由は聞いていたのではあるけれど、念の為確認しておく。
「うむ。冒険者の方はあのアルデヒオト山から降りてきたのじゃろ? その時に山頂にいるマウントグリフォンに襲われて、運良く逃げたが森で力尽きた。そこをシャルルに助けられた、違いないか?」
冒険者ではない。
「い、いえ確かに俺は山から降りては来ました。でもそれは山の中腹からです。そんなマウントグリフォンなんてのにはあっていないし、しかも俺がやられたのは、その、スライム……です!」
なんで見栄を張ってベビースライムをスライムにしてしまったのか。
その時いきなり、質問をしていた老エルフ以外が大きく笑い出した。
「ぐっ……ハハハハ! 冒険者よ、それはさすがに無理があろうて。あんな魔物と呼んでいいのか悩むモノにやられるやつなどおるまいて」
「その通りじゃ、嘘をつくにしてもこんな下手な嘘はないじゃろ。笑い話にしかならん」
「村の子供でも倒せるのだ、というかワシでも楽勝じゃぞ」
「冒険者の方よ。嘘はよくないぞ、嘘はな! ハァッハハハハ!」
俺がスライムにやられたっていう話は相当お気に召してもらえたようだ。
だが事実なのである。いや、嘘といえば嘘である。
やられたのはベビースライムなのだから。
「長老たち待って、トージの言っていることは本当なんだよ! だってぼく見たんだ、森でトージがベビースライムに吹っ飛ばされるのを!」
シャルルくんナイスアシストと思ったらベビースライムに格下げしてしまったなんてこった。
見栄がすぐにブレイクしたぜ。
そしてシャルルがベビースライムと言ったら老エルフ達がさらに笑い出したよ。
「ハハハ! シャルルよお前までこの冒険者の笑い話の演者か?」
「もー! 嘘じゃないってばー!」
バン!!
質問をしてた老エルフが机を叩き、失いかけていた静寂を取り戻した。
「まぁ冒険者の方の話を信じたとして、山から降りてきた時にマウントグリフォンに狙いをつけられているかもしれん。もしそうであったら……」
すぐさま話を続けた老エルフが、俺がマウントグリフォンに狙わていることを強調すると、他の老エルフの表情がさっきの笑い顔から一転して厳しい顔に豹変する。
また針のむしろの状態に戻ったなと思っていたら、外から何か妙な音が聴こえてきた。
「キュロオオオオオオ!!!」
これは、鳴き声か?
するとこの鳴き声を聴いた老エルフ達が急に慌てだした様子を見せる。
「こ、この鳴き声はまさか!」
「やはり来おったか……」
「まずいぞ、もう村の近くにおるのか」
「他のエルフ達を早く集めてくるんじゃ!」
その慌てぶりから嫌な予感がしてくる。
いや、予感なんてものじゃなく確信に近いモノを抱きながら尋ねる。
「一体、何があったんですか?」
「マウントグリフォンだよ……トージ」
老エルフにした質問は深刻そうなシャルルから帰ってきた。