アクアヴェネツ探索・2
お魚さんの保存状態の心配が無くなったので、お腹を満たすべくお店を探してみる
少し湖を離れて外側に向かう、すると路地の一角に見覚えのあるモノを見つけた。
「あれ……暖簾だ。それにあれはいわゆる鮨屋というヤツ……!」
「すしや?」
「シャリと呼ばれるモノに生の魚などを乗せて食べる料理でしたわね。ちょうどいいですしお昼はあそこにしましょうか」
「待ってください!」
寿司……今では回転寿司などで多くの人が食べたことのある料理、ネタの豊富さはもちろん、変わり種も多いあの寿司だ。
だが、だがやつは違う……!!
あれは鮨屋!!ひと皿ワンコインという寿司屋とは似てるようで大きな違いをもつ鮨屋だ!!
ネタの鮮度、質、そして……価格も一級品。
おいそれと入店を許可出来るほど俺は庶民をやめちゃいねぇ!!
「別のお店にしませんか? ほらシャルルー、向こうに美味しそうな肉料理のお店があるだろー? そこに行こう、なぁ?」
「ボク、せっかくのアクアヴェネツだしお魚食べたいなー」
くっ……ダメか!
今のシャルルには肉では誘い出すことは不可能、ならば!
「あっほら! お魚は今夜作って食べるだろー? だから今お魚を食べると飽きちゃうんじゃないかなー?」
どうだ!?
「トージ、この前ボクに何でも買ってあげるって言ってたよね、よね?」
「はっ!? ま、まさかあの時のことを覚えていたのか……!」
そう、あの時の俺は勇者一行に名前をトゥージだと騙すためにシャルルにお願いした、聞いてくれたら何でも買ってあげると約束をしてしまっていた。
二週間も前の事を……くっそぉおおお!!
「トージぃ? 約束は、守らなきゃ、だよねぇ?」
「勝負ありましたわね」
「うぐぐぐぐぅ……。はぁ、分かった。降参だ降参、好きにしろよ」
「わーい! だからトージ好きー!」
パッと笑顔になり手を引いて店に連れていかれる、もうシャルルに好きって言ってもらえたから価格とかなんも気にしないでいいや。
「きゃー闘司さんすてきですわー私感激のあまり特上のアンソキダリスとかたくさん食べてしまいそうですわー」
棒読みだし、アンソキダリスってなんだ……。
ガラガラと扉を横に開けるタイプ、暖簾をくぐり中に広がる光景は。
全てカウンター席で、席の前にはガラスケースがありそこにネタが入っている。
木造で作られた店内は和の心を呼び起こす落ち着いていて素敵な空間であった。
「いらっしゃい……」
少しガラガラとした声で俺達を招き入れてくれるカウンターに立つそのオヤジさん、板前さんがかぶる帽子からほんのチラリと見える白髪、皺が多く目立ちつつあるいかにもな大将であった。
俺達はカウンター席に座っていく。
席に座るとすかさずおしぼりを置かれる。
「いらっしゃい。ごめんなさいね、気難しい人が突っ立ってて。でもあの人本当は怖くないから安心してちょうだい」
そう言ったのは恐らく大将の奥さんであろう、物腰がとても柔らかい優しそうな方だ。
「そういう事は言わなくていいんだよ……!」
「そんな事言って、この前お客さん入ってきたのにお前さんを見て出ていっちゃったじゃないの。怖かったんだよきっと」
大将は言い返すことが出来ないらしく無視をして準備を始めた。
「うふふ、可愛いでしょ?」
何となく分かる。
今のやりとりで仲が良く夫婦円満なのだと感じ取れる。
さてそろそろシャルルがガラスケースのネタを食べてしまいそうなので注文するか。
何にするか、確かコハダが美味しいと他のネタも美味しいと通の間の話があるらしいな。
コハダコハダ……、しかし壁に掛けられた木のメニュー板には馴染みのない名前が書き連なっている。
「トゥンヌス……カランギナエ……アンソキダリス……詠唱ですか?」
「私はアンソキダリスで」
「ボクはね、トゥンヌス!」
「じゃ、じゃあ俺も、トゥンヌスで……」
言語理解のスキルは文字は読めても、日本の何かとは翻訳してくれないようだ。
大将は注文を静かに聞き入れて寿司を作り始めた。
シャリを握り海苔を巻く、その上に、ウニを乗せた。
「先にお嬢さんのだ……」
「ありがとうございます。」
リュリーティアさんはウニを手に取り食べる。
食べた瞬間目をカッと開いた、怖い。
そして無言のままもう一つを食べる。
ウニを食べ終わり一息つくと、リュリーティアさんは恍惚の表情を浮かべた。
「はぁ……口に入れるとアンソキダリスの香りが広がり、噛み進めれば少し甘みが強めの味がやってくる。鮮度の良さが分かるお味ですわ……」
リュリーティアさんがそこまで言うとは……ゴクリ。
シャルルと一緒にリュリーティアさんが食べる姿を涎を垂らしそうな勢いでガン見していた。
「ふっ……あんがとよ。ほれ、坊やと兄ちゃんの分だ」
置かれた皿に乗るもの、それは。
「マグロだ……!」
「まぐろ? これはトゥンヌスだよトージ。」
「ああいや、まあそうだな、トゥンヌス、トゥンヌスだな。うん」
このピンクがかる身はまさにマグロ!それも大トロ!
震える手でマグロを取り、食べる。
「……っ!?」
「おいしい!」
溶ける……このマグロ噛もうとしたら溶けたぞ。
だが食感が無いわけではない、ちゃんと噛んだ感触はあり舌の上で溶ける、ほのかな甘みと酸味。
これが、ホンモノの、マグロっ!!
感激のあまり二個目を速攻で平らげてしまった。
「美味い、美味すぎる! じゅうまんごく……違う違う。あまりの美味しさに変な電波を受信した」
「トージぃ、ここのオスシ美味しいよぉ」
「私もトゥンヌスをいただきたいですわ……。大将さん、トゥンヌスをお願いします」
「あいよ……」
リュリーティアさんは俺達の食べた様子から絶品と感じ取り大将に注文をしていた。
俺も次を食べるのが楽しみになってきた、じゃあ次はカランギナエを食べてみるか。
カランギナエはアジだった。やはり美味かった。
「ありがとうね、またいらっしゃーい」
「ありがとうよ……」
「もうアンタったら、もっと声を出しなさい!」
豪華なお昼を堪能して俺達は鮨屋を出ることにした。
帰り際大将と奥さんに見送られてしまったのが少し恥ずかしかったが、素敵なお店なんだとそれを含めて良くわかった。
頻繁にきたいけどお財布がどんどん寒くなっていくので簡単には来られないなぁ。
ちなみにお代は銀貨二十枚、他にも色々食べたが故の値段である。
「うっぷー、美味しかったよぉ。また来ようねトージ!」
「またな、そんなに沢山行けないけど余裕があったら行こう」
「大将さんに魚を上手く捌くコツも教えてもらえましたし、今夜に活用出来そうです。とても良いお店でしたわ」
途中カウンター側で大将と話していたのはそのためだったのか。
さすがはリュリーティアさん、努力家である。
さて、そろそろ容器の氷を補充しておくか。
水の魔法で氷をガラガラっとな、おっけー。
「どうします? もう少し街を見て回りますか?」
「まだ時間はありそうですし外のお店を見て回りましょう」
「さんせーい!」
アクアヴェネツの外側、旅行用品やお土産屋がある方に足を向けていく。
観光客や旅人を狙ってとあってか街に溢れる人の種類が変わっていく、大きな荷を抱えた人や剣を携えた人、家族連れと護衛など様々な客層でいっぱいだ。
人混みでシャルルがはぐれないよう三人仲良く手を繋いで行動をする。
「シャルル、どんなお店が見てみたいとかあるか?」
「えっとねー、面白そうなお店!」
「ふふふ、それは探すのに苦労しそうですわ」
面白そうなお店か……って言うことはシャルルにとって見たことなさそうな物とかは興味持ってくれそうだ。
無難にお土産屋とかが良さそうかな。
そもそもアクアヴェネツのお土産とか俺自身も気になるしな。
キョロキョロと田舎者感を最大限に出して店を探してみると、お土産屋とは違うが気になるお店を見つけた。
「つり具店……?」
釣竿やルアー、撒き餌など釣りをする為の品々が売られているお店だ。
なんでつり具店なのか疑問が浮かぶがとりあえず足を運んでみる。
「つり具店ですか……、旅の途中で川などの魚の食料稼ぎに役立ちそうですが、アクアヴェネツには専門店もございますのね」
「ねーねートージ! ここオスシ屋さんにもあったイクラーが売ってるよ!? 食べれるのかな?」
「いや食べれるけどそれは多分魚の餌に使うやつだぞ」
「そうなんだー……」
釣竿にイクラを付けてシャルルの前に垂らしたら食いつきそうな程の落ち込みようだ。
「おっ? にーちゃん達はヌシ釣りに参加するクチか? だったら丁度いい、今はヌシ釣りに向けて特別値下げ中だよ、さぁ買った買った!」
「ヌシ釣り?」
「おや、にーちゃん達ヌシ釣りを知らないのか。ここアクアヴェネツでは毎年湖のヌシを釣るイベントをやっているのさ。ちなみに開催は三日後、練習するなら今買ってすぐさまやるべきだよ?」
もしかして昨日ルカ王女が言っていたイベント用の魚の事はヌシ釣り用って事だったのか?
なるほどヌシ釣りか、面白そうだし参加してみてもいいかもしれない。
「じゃあオジサン、初心者にお勧めの釣竿とルアー、餌をください」
「毎度あり! 餌は生き餌の方がいいかい?」
「今日は釣らないので普通の餌で大丈夫です」
シャルル用にイクラことイクラー餌も買っておくか。
開催が三日後だから明日明後日辺りに練習するとしよう。
そうしてオジサンは釣竿ルアー餌の三つの三人分を用意してくれた。
値下げということで計銅貨十五枚、ヌシ釣りだけじゃなく旅でも有効活用出来るしお安い買い物だ。
つり具店を後にする。
「そろそろ荷物多くなってきちゃいましたね」
「そうですわね、他に何か買ってシャルルさんに持たせるのも気が引けますのでそろそろ帰りましょう」
「ボク持ってもいいよ?」
「荷物のせいで手が繋げなくなっちゃうけどいいのか?」
「んん……やだ!」
「あはは、それなら帰ろう!」
お土産はまた後日という事で今日はアクア城へと帰ることにした。
今夜はリュリーティアさんのお料理教室があるし、早めに帰ったほうがいいからな。




