アクアヴェネツ探索
今朝の目覚めはハードなものだった。
「ねー、まだトージ寝てるよー?」
「今日は一段とお寝坊さんですのね。まったく私が今……いえ今日はシャルルさんに起こしてもらいましょう」
「ボク?」
復興の手伝いや昨日のウンディーネとかの戦いで、身体の疲労が溜まっていた俺はいつもより起きるのが遅かった。
何やら話しているのが聞こえてくるのだが、眠気に抗えるわけもなくすぐに気にしなくなった。
最初は天蓋つきのベッドに慣れていなかった俺も、こんなフカフカなベッドを前にしたらあっという間に虜にされてしまったのだ。
「行きますわよ、そーっれ!」
「わっはーい!」
寝返りをしてもなお余るスペース、腰とかも痛くならないし万年布団の俺にうごぉっ!?!
「コヒュー……オォフゥー……」
「起きたー?」
「ええ起きま……いえ起きてませんね。もう一度やりましょう」
「わーい!」
「起きてます! 起きてますからやめて!?」
俺の腹に覆いかぶさるシャルル、物凄い笑顔で喜んでいて可愛らしいんだけど今だけはすぐにどいてもらえると助かる。
あろうことかリュリーティアさんはシャルルをポンッと俺の腹めがけて放り投げたのだ、どこの世界にそんな恐ろしい起こし方を実践する人が居るのだろうか、いやここに居るけれど。
それとシャルル俺の上でゴロゴロしないでくれるかなー? 毛布が緩衝材になっているとはいえ内蔵がゴリゴリされているんだな、うん。
「トージトージ、起きたなら朝ゴハン食べて街に行こう!」
「街に?」
「うん。だってね、ボク達アクアヴェネツに来てからまだ全然お買い物とか探索とかしてないんだよ? 魔物とか出てしょうがなかったのもあるけど、ボクもっと遊びたーいー」
「旅をしているのに観光をしないなんてもってのほかですもの。そういう事で、こうしてお寝坊さんを私とシャルルさんで起こしてあげたのですわ、ねっ?」
「ねー!」
思い返すと復興のためにアクアヴェネツを色々周りはしたけれど、たしかに観光とかそういうのは一切していなかったな。
俺はお腹に乗っかるシャルルごと勢いよく起き上がる。
「よーし、そういう事なら!」
「ひゃー!」
そんな事をしてもこの広いベッドなら余裕で二人分のスペースはあるので危険はない。
大きく伸びをして起き抜けの身体もしっかり起こす。
外は……うん、快晴みたいだな。
「じゃあパッと着替えてゴハン食べて行くか!」
「着替えは、あちらで」
「あっはい……」
早く着替えようと服を脱ごうとすると、脱衣所を指さされて制止された。
俺も学習をしないなぁ……。
湖と陸どちらを行くか決めた結果、湖の方はアクア城にいる以上いつでも行けるとの事で陸に決まった。
陸へと続く階段を上っていく、湖からニュっと顔を出して周囲を確認して出る。
この前いきなり出たら馬車に轢かれそうになったので用心をしているのだ。
そしてさすがはアクアヴェネツの住民たち、湖から人が出てきてもそれが当たり前とばかりに過ぎ去っていく。
俺は最初の頃湖から人が出てくる度に恐怖を感じたものだ、自分が出るのと他人が出てくるのでは感じ方が違うのだなと思ったりした。
だが今はもう違う、慣れというのは恐ろしいもの
「ちょっと後ろ失礼しますね。い」
「あっ、すみません〜……!?」
陸への階段で止まってしまっていた俺達は背後から来る人の邪魔をしてしまっていた。
慌てて頭を下げつつ後ろの人を通すと、目を疑うものを見てしまった。
ピョンピョンと跳ねて階段を上るその男性の足は……魚だった。
正確に言うと尾ヒレで立ち、跳ねている。
俺は恐怖を感じた、誰だ慣れたなんてふざけたコトを抜かした野郎は。
あれ、アクアヴェネツの皆様はその男性に全く驚いていないぞ? さすがはアクアヴェネツ、この魚人男性も当たり前の事なのか。
「いやいやいやいや……それはちょっと待てよ自分」
「トージ……お魚の妖精さんがいるよ……」
「捕縛して売ったら高値でいけそうですわね……」
よかった、異世界人の二人も初めての未知との遭遇だったらしい。
俺が知らないだけでこの世界にはああいう生物が溢れかえっているものかと。
魚人男性はまだサプライズを忘れない、魚人男性はおもむろに人間と魚人の境目を掴み剥がしたのだ。
「あわわ……あわわわ……えらいこっちゃ」
「トージ! 妖精さんはヒトになれるみたいだよ!」
「ちっ! ヒトでは商品価値がありませんわ!」
剥がした尾ヒレを腕に抱えて、何事もなくヒトへと進化した男性は去っていった。
さっきの衝撃的光景が頭をよぎるが、アクアヴェネツを楽しむことに切り替えていかなきゃ。
ここアクアヴェネツのお店の出方は面白く、湖の周りをぐるりと囲うように作られているのが多い。
これは湖上に家が多く建っていることと関係しているらしい。
果物屋なら果物屋、肉屋なら肉屋と大きく書かれた横断幕のようなものを吊るしている。
これにより湖上の人は横断幕を目印にそこに向かって舟を向かわせていく。
なので舟を泊めて置くための、ロープをかける杭が店の前には沢山ある。
もちろん湖の周りだけではなく外側にもお店がある、こちらは外からのお客、旅行用品やお土産屋や飲食店、つまり俺達みたいな旅人や観光客向けのお店が多くあるのだ。
行商人の取り引きなどをする場所もこっちの外側だ。
俺達はまず湖の周りの店をうろつくことにした。
「ほほー、サシャさんの言う通り魚介類を扱う店が圧倒的に多い。淡水の貝とかは馴染みがないし食べてみたいですね」
「産地直送と言えばいいのですかしらね? どれも新鮮なモノとお見受け出来ますわ」
「ボクこのお魚使ってお料理してみたいなー」
「あら、シャルルさんは料理が出来ますの?」
「形を保った炭を作れますよ」
「もうトージ! ボクだって練習すれば上手く作れるもん!」
「はは、ごめんごめん。それなら俺も一緒に料理の練習したいな」
「私、料理でしたらお教え出来ますわよ?」
「え……」「いーの!?」
リュリーティアさんが料理を……作れる?
シェフっ! とか言いながら料理を作らせる方が断然似合っているのでその発言には驚いた。
「闘司さん、え……とはなんですか、え……とは。私の事を何だと思っているんですの?」
「レシピや味見など必要ありませんわ! とか言いそうだなと思ってました」
「闘司さんが私の事をどう思っているか分かりました。シャルルさん、料理をお教えする時は闘司さんは抜きにしましょう」
「ゴメンなさい仲間はずれは許してください!」
「冗談ですわ。そうしたらマリンさんに調理場をお借りして作るのが良さそうですわね。お魚を少し買っていきましょう」
「今日やるんですか?」
「早すぎるに越したことはありません、それに旅の途中で料理を作れる人が増えると助かりますわ」
そういえばそうだ、旅の途中もどうせなら美味しい料理を食べたいからな。
ということでリュリーティアさんは魚屋の前で真剣に魚とにらめっこを開始した。
目利きも出来るのか……。
にらめっこから数十秒、リュリーティアさんは店主に二種類の魚を三尾づつ注文した。
お代はもちろん俺のお財布から銅貨六枚。
氷を入れた容器に入れてもらい店を後にする。
「何の魚を買ったんですか?」
「それは調理する時のお楽しみですわ」
「楽しみー!」
容器を袋に入れて他のお店を見てまわる。
今度は料理に必要な野菜を少し買うとのことで異世界八百屋へとやってくる。
店主はねじり鉢巻をしてTシャツステテコ腹巻の四種の神器を身につけたおっちゃんだった。
ツッコミを入れたくなったが、野菜を売ってもらえなくなりそうなので自重した。
「へいらっしゃい! おっ、べっぴんさん! べっぴんさんが来てくれて野菜達も喜んでらぁ! さっさっ、何を買っていくんだい?」
「ダイコンを半分とショウガをおひとつ、それとワサビをいただけますか?」
威勢のいいおっちゃんの世辞など気にもとめず野菜を選んでいく。
「うーん、べっぴんさんのためにこのニンジンちゃんもオマケしちゃおうかな〜!」
「ありがとうございますですわ」
「おいコラアンタっ! まーたデレデレして!」
「げげっ! さささ、とっとと会計しちゃおうや……」
うーん、昭和のコントだ……。
お代はおっちゃんのサービスで銅貨一枚をまけてもらえた、その代償としておっちゃんは耳を引っ張られて店の奥に連れていかれた。
おっちゃん、ありがとな。
その後も調味料などを買い揃えていく。
そんなこんなで時間が経ってお昼の時間となりました、お昼の前に提案をする。
「お昼を食べる前にこれ、置いてきませんか? 氷とか溶けてきちゃいましたし」
「えー、ボクお腹空いちゃったなぁ」
「氷の事なら心配ありません。ですわね闘司さん?」
「そうなのトージ?」
なんのこっちゃ。
俺には氷が溶けるのを止める術など持ち合わせておら……んわけでもないなそういえば。
「なるほどなるほど、分かりました。えいっ」
水の魔法で小さい氷を生み出していく。
ガラガラと容器を満たしていく氷、触ってみてもちゃんと冷たくて溶ける。
上手く作れたみたいだ。
魔法ってこういう事に使うものなのか些か疑問を抱くけど、便利なのでオーケーだな。
「わー、こういう使い方もあるんだねぇ」
「闘司さんのお陰でうっかり食材を買いすぎたとしても大丈夫になりましたわね」
八代闘司は移動型冷蔵庫として進化したっ!
淡水だなんだと言っていますが出てくる魚は海水魚が多めになってしまいましたごめんなさい。




