湖底神殿の主・2
腰を抜かして立てない俺にウンディーネは手を差し伸べた、少し迷ったが手を取る。
グイッと見た目からは不釣り合いの力で引っ張られて、勢いあまり抱き抱えられてしまう。
「本当に……会えてよかった」
ゾクリ、耳元で囁かれて背筋が震える。
艶やかな声色だけれど何処か遠くに感じられる声。
「んっ、んんっ、ゴホン!」
「あ、あのもう大丈夫ですので手を……」
「あん、それでしたらまた後ほどに」
後ほど!? 後ほどって一体……!?
あたた、あたたた、すいませんすいませんスネを蹴らないでリュリーティアさん。
「それで私達を呼んだのはコレだけの為ですの? それでしたらもう帰っても宜しいですか?」
「あらそう? じゃあ闘司さん以外はお帰りいただいても大丈夫よ」
「おーほっほっほ! 闘司さんはここに居ると息苦しいみたいですわよ!」
「それはいけないわ、私が今すぐ看病しますので皆さんは戻っていただいて構いません」
ええ……出会って数分で険悪な空気を作り出したよこの二人。
会話を聞くと俺を取り合ってるみたいで嬉しいんだけど、多分違うんだよなこれ。
ウンディーネは俺を見てるようで別の何かを見ている感じがするし、リュリーティアさんはからかわれたのが腹立っただけだろうし。
ルカ王女は我関せずでそっぽを向いている、ちょっとは仲裁をしておくれ。
薮蛇だろうけど俺が止めるか……。
「俺のために争うのはヤメテー!」
「……」「……」
「ぐすっ……冷たい目だったよぉ……」
「闘司……アンタは良くやったわ……」
渾身の仲裁は四つの鋭い眼光によってあえなく撃沈。
ルカ王女に泣きつくと母のような優しい手つきで慰めてくれた。
しかし意味はあったようで言い争いはいつの間にか収まっていた、俺は救われた。
さてリュリーティアさんも言っていたが俺達を呼んだ理由を聞き出さなきゃな、これで本当にからかう為に呼んだだけだったらまた恐ろしい事になりそうだけど。
「それで、何で俺達をここに呼んだんですか?」
「だから闘司さんに会いたかったとさっき言ったじゃないの♡」
「あー、自惚れたいですけどそれは違いますよね。俺じゃなくて、俺のなにかに用があるんじゃないですか?」
「ふーん……良く分かりましたわねー。それじゃあ早く会わせてください」
会わせて……それって、誰に?
「そこは分かっていないのねぇ、私が会いたいのはただ一人……そう! 敬愛する私の創造神様っ!! その方ただ一人だわぁ!!」
ウンディーネはその創造神様とやらを想像してか、さっきとは別人に変わっている。
頬は上気して身体をくねらせ、目は蕩(とろ
けて瞳孔が開いてきている。
その様子を可愛く言えば恋する乙女、素直に言ったらストーカー、ピッタリと当てはまる自信がある。
しかし創造神……創造神……あっ。
「神様か……」
「そうよっ!! 八神を創りあげし超越的な力をお持ちで時空を自由に操り生死さえも思いのままそして死んだ貴方をこの世界に転生させたその方が私の想い人いいえ私が想うことなんて本当は烏滸がましいのだけれどこの抑えきれない気持ちに嘘をつくことなんてできないだからこそ私はこうして素晴らしさをいつまでも忘れないための神殿を作りいつでも創造神様が私のことを見つけられるようにとしたのでもそんな事をしなくても創造神様ならこの世界の全てを終末まで把握する事など造作もないああ本当に私なんかでは全容を知ることすらできない」
俺の小さな呟きを聞き逃さずそのままエスカレートして語り始めてしまう。
じゃから言ったじゃろ? ワシを持ち上げすぎなんじゃて、ワシとしてはちと苦手なんじゃよねー。
現れたな神様、何とかしてくださいよ。
多分神様が会ってくれないと俺がウンディーネに監禁されるかもしれませんよ。
えー……いくらチミの頼みでもなー……。
そこを何とかお願いします!
「闘司さん、急に静かになってどうしま……もしや今創造神様とお話をなさっているのですか!? お願いです少しでよろしいので私にも創造神様の御声を聞かせてくださいああでも待って録音したいわでもでも生の御声だからこそ価値があるのであって」
感づかれましたよ神様!?
まずいのぉ……ウンディーネちゃん本当にワシの事になると勘が働くんじゃよな。恐ろしい恐ろしい……。
「闘司さん……そんなに私に創造神様を渡したくないのですか……? それでしたら私にも考えがありますよ? ふふ……フフフ、フフフハハハハ!」
「渡したくないって……趣旨が変わっていますしその笑い方怖いので勘弁してくださぁあああ!?」
地面がこっちまで凍ってきて……!
[敵意と攻撃を確認、能力値、上昇]
ヤバイヤバイ本気で殺る気かよこの人!
飛びずさって凍る地面から離れる、良かったことに狙いは俺だけのようでウンディーネは皆には何もしていない。
だが言い換えれば俺を一極集中で狙ってくるのだ、この世界の神でもあるウンディーネが。
こんな狭い所で争えば皆を巻き込むこと間違いなしなので、出口に向かって走って逃げる。
「逃がしはしないわぁ!!」
「顔が恐ろしいっひぃ!」
足を狙って水弾が飛んでくる、避けれはしたが外れた所を見ると見事に爆散していた。
俺の足をぐっちゃぐちゃにする気かウンディーネのやつは!
一本道なので全力で走り外まで出ることが出来た。
「な、何が起こりましたの?」
ウンディーネが笑い出したと思ったら地面が凍って二人がかき消えましたわ……。
何が起こったのかまるで把握出来なかったです、というかあの二人は何おっぱじめておりますの?
「ど、どうしましょうルカ王女?」
「どうするもこうするも、神の戦いに混ざるなんで死にに行くもんよ。無事に終わるのを祈るしかないわ」
「神の戦いって……闘司さんは普通の人ですわよ」
「そうだけど、今の闘司は神に匹敵する力を持っているわ」
大変なことになりましたわね……。
そもそも神様さんがウンディーネに会ってくれれば良かっただけではありませんの?
「いやいやすまんなリリィちゃんや。まさかウンディーネちゃんがあんな事をするとは思わなかったのじゃ」
パッと気づいたら目の前に現れた神様さん。
ウンディーネといい神様さんといい、人を驚かすのが趣味なのかと疑いますわ。
「あ、神様お久しぶりー!」
「おおー。ほっほっほシャルルや、元気にしておったか? まあ元気なのは見てたので知っとるがのう」
「ボク元気だよ! 神様は元気?」
「うーん、ウンディーネちゃんの事でちょっとブルーじゃのう」
「そうなんだー……。ねぇ、ウンディーネが可哀想だから会ってあげて? 会いたいのに会えないってのは、辛いんだよ……?」
いつもの明るい笑顔から、寂しそうで何かを諦めている表情で神様さんに頼むシャルルさん。
神様さんもその表情に引け目を感じているのか長い白ヒゲをしきりに撫でて悩んでいる。
「そんな悲しそうな顔をしないでおくれ……むむむ分かった分かったわい、ウンディーネちゃんと会うとしよう」
「ほんとに!? あはは神様ありがとう!」
「それにそろそろ闘司も危なそうじゃしな……。それでは」
現れた時同様、また気づいたらそこからいなくなっていた神様さん。
闘司さんが危ないと仰っていましたがウンディーネに遅れを取ってしまったのかしら?
さすがに死にはしないでしょうが、ウンディーネのあの様子だと少しだけ不安になりますわ。
「そんなに心配なら、ほら私達も見に行くわよ」
「そうだね、リュリーティア行こう」
「しかし危険なのでは?」
「神様さんとやらが行ったから大丈夫でしょ。ウンディーネ様も妄信してる人が現れたら何もしなくなるわよきっと」
そうですわね神様さんが何かあっても止めてくださるでしょう。
そうと分かれば早く闘司さんの所に急がなくてはなりませんね、怪我をなさっていたらシャルルさんが悲しんでしまいますもの。
おいでませの電光看板を背に、俺にじわりじわりとプレッシャーをかけてくるウンディーネ。
何回か静止を呼びかけてみたが、目がイッちゃってブツブツ何か喋っているウンディーネにはまともに聞き入れてもらえない。
動き出したか……湖の中にも関わらず俺を軽く飲み込める大きな波が迫ってくる、防ぎ方など知らないし方法も無いので馬鹿正直に反対側に全力ダッシュ。
「うおおー!? 迫る波ってのはこんなに怖えのかよー!!」
ザバンと背後で波打つ音が聞こえてくる、飲み込まれなかった事に安堵するのも束の間、目の前に水の壁が次々と発生していく。
これは、閉じ込められる!?
危険を予測して壁がまだ出ていない所を選んで逃げる、予想通りに俺を囲もうと壁が発生するが閉じ込められる事は無かった。
攻撃の手はやまない、チラリと後ろを見るとウンディーネは自分の頭上に鋭く細長い水の槍を何百本と待機させていた。
「あれは当たったら普通に死んじゃうのでは……?」
手始めに一本目が俺の脳天目掛けて発射される。
首を最小限に動かして避ける、もちろんこれで終わらないので徐々に数が増えて飛んでくる。
手足を狙う四本、一つ避けるがそれを予測して避けた所にある手に槍が飛んでくる。
「うっ、どおぉっせい!」
穿とうと飛ぶ槍を手を強引に動かして掴み取る、それを利用して残り二本を水の槍で弾き飛ばす。
一か八かで魔法の槍を掴もうとしたら見事に成功して、武器を得ることに成功した。
良かったぁ……魔法が手に取れないとかだったら間違いなく貫かれていた。
リーチが生まれた分たまけ少し余裕が出来た、まだ目測で百本とある水の槍がマシンガンの如く連射されてくるが、落ち着いて手に持つ槍で弾き落としていく。
アクアヴェネツの復興の合間にリュリーティアさんに槍の練習をしてもらえたのが功を奏した。
突くだけではなく先端をしならせて弾いたり、槍の真ん中を握り両刃槍の要領で振り回して防ぐ。
よしコレなら凌げる、そう思った矢先に手元の槍が消えてなくなる。
「えっ、嘘……ぐぅ!!」
あと僅かといったところで湖に溶けるように槍がなくなった、それにより防げなかった槍が身体を貫いてくる。
しかし運が良かったのだろうか、身体を貫通することは無かったがその衝撃で後方に転がっていく。
ダメージは少ないので急いで立ち上がると、ウンディーネはニタリと口角を上げて手に水の鞭を持っている。
いやー……鞭ってあなたねぇ……。
空気を叩くパシンという音がここまで聞こえてくる、だからここは湖の中だろ、今更だけどさぁ!?
「うふ、ふふふ……はぁー、創造神様ァ……♡」
「さすがに鞭は履修してないぞぉ……?」
「今捕まえますよぉ♡」
会話が成立しないままウンディーネは鞭を持ち上げ、下ろす。
ただその動作だけで破壊力を持った鞭が空気を切り裂いていく。
しなりという読みづらい攻撃を避けるのは至難の業で、スレスレで避けるなんていう恐ろしい事は出来やしない。
横っ飛びで避ける、俺の場所に鞭の先端が到達して破裂音を響かせる。
鞭はすぐにウンディーネの元に戻って次の動作に移っている、今度は横からの攻撃。
ジャンプをして避ける……しまったこれは悪手だ!
ジャンプで下を通り過ぎた鞭が、今度は斜め上に振られてこちらに戻ってくる。
首を狙い刈り取るような鞭を避けるため空中で身体を捻り頭を下げて紙一重で避ける、今のは流石に死ぬかと思った。
「うーん手緩かったのねぇ、それなら本気で……」
ウンディーネはそれ以上に上がるのかというくらい口角を上げて笑いだす。
しかも一つ一つの攻撃であった鞭を、制空権を作り出すようにウンディーネの周囲に振り続けて、鞭がそこ一帯に常にあるかのような攻撃へと変貌させる。
あの速さと範囲じゃあ避けるなんて到底無理だろ、範囲に入った瞬間滅多打ちにあうだけだ。
何とかして打開策を考えつかなければ……だがその鞭に気を取られてしまって油断していた。
「なっ! うぐ……」
地面から水の塊が出てきて足を飲み込む、焦って抜け出そうとしても一切動かせない。
水は徐々に飲み込む量を増やし俺の下半身を包む。
そうしている間もウンディーネは鞭を振り続け歩み寄ってくる、ヒュンヒュンと俺を仕留めるためのカウントダウンの音がリズムよく迫る。
魔法があるだけで戦い方が色々増えるのだなと、場違いな思考をしているのは現実逃避であろうか。
だってしょうがない、ビックリする程ピクリとも足を動かせないんだからもがきようが無い。
あー、コレもイタズラですといってウンディーネが攻撃を止めてくれると良いんだけど……あの顔から察するにトリップしていて無理なんだろうなぁ……。
ついには鼻先スレスレに鞭が飛んでくる、今頃になって心臓が早鐘を打ち出すがもう遅い。
アクアヴェネツでの素敵な走馬燈が浮かんでは消えていく、あれ俺やっぱり死ぬ?
目をつぶって恐怖から逃れる……が、鞭は時間が経ってもやってこない。
「チミ、もう大丈夫じゃよ」
この声は。
「かみさ」「創造神様ァアアアアアアっ♡♡」
せめて言わせてくれ。
いつの間にやら神様が俺の拘束を解いて傍に立っていた、それに気づいたウンディーネがレスリングのような低姿勢のタックルを老体にかまそうとしていたがヒラリと躱される。
杖をトンっと地面に叩きつけると、ウンディーネの動きがピタリと止まり大人しくなった。
「騒々しいぞウンディーネ。お前に会えたことはワシも嬉しいが態度を改めよ、よいな?」
「えっ、キャラがおかしい」
「チミね、一応ワシは最高位の神なんじゃよ? 他の神様を従わせることなど造作もないわい」
うっそだー。
白髪白髭コミカルオジーちゃんの間違いだろ。
怒られて効果があったのかウンディーネは身体を小刻みに震わせている、慕っている人に叱責されるのは心にく……。
「私に……会いたかった? それは……それは……もう、相思相愛っ!? あぁーーん♡ 創造神様ぁ、ウンディーネはいつでも創造神様の愛を受け入れる覚悟も準備も出来ておりますよー!!」
る訳ではなかったようだ。
「最高位の神様なんですよね?」
「じゃからワシ、ウンディーネちゃん苦手なんじゃてー……」




