キングワータイガー戦・2
平原に投げ飛ばされたワータイガーはボタボタと腕から血を流して苦しんでいた。
「グゥ……ウヴォオオオオオ!!」
「カズマさんお一人でよろしいのではないですか……?」
「俺もそう思っていたんですよ……」
リュリーティアさんと思っていたことを話す。
俺達が戦わなくても余裕で腕を切り落とした一馬とリフラルさんのコンビで難なく倒してしまっていたのではないだろうか。
この戦いに参戦してる意味を考えているとワータイガーの苦しむ声が一層強くなる。
どこかで見たような呻き声と奇っ怪な動き、すると切られたはずのワータイガーの腕がボコボコと気持ち悪く再生を始めた。
「おいおいそんなのってアリかよ!?」
「闘司さん!」
「はい!」
完全に腕が治る前にリュリーティアさんが炎の波を放ち、その後に俺も大きな足を思いっきり蹴りつける。
しかしどちらも効果は少なくワータイガーの腕の再生止めることが出来ない。
どうすればいい、腕が再生されていくのをただ眺めているだけしか出来ないのか!?
「まったくしょうがないわねー!」
突然ワータイガーの腕が凍りだし、再生を止めた。
声に振り向くとルカ王女とミリオーラさんが、湖の上を凍らせながらこちらに向かってソリを爆走させていた。
「ソリ……?」
「よっほっとと!! ふふん良いでしょ、このソリはなんとマリンが作った物なのよ!」
「うふふ、マリンちゃんこういうの作るの前から得意だったわよね」
マリンさんがソリを作ったことへの驚きより、ソリに乗ってやってくる二人の姿へのビックリが強すぎた。
どうやって推進力を得たのかなど色々知りたいけれど今はスルーしておこう。
腕を凍らされたワータイガーはもう片方の手で腕をガリガリと引っ掻いているが、ルカ王女の姿を見ると最初の時のように怒り狂いだした。
「ジェミニのやつ……アレを喰らってまだ生きていたとは、ホンットに往生際の悪いヤツ! もう一回魔法でやられたいらしいわね」
「あれがルカの言っていたジェミニさんね、でも随分聞いた話と違うわね〜。大きいわぁ」
「ルカ王女にはアレがジェミニって分かるんですか?」
「あったりまえよ! アイツからジェミニと同じ嫌味ったらしい雰囲気がプンプンするわ!」
ルカ王女は相当ジェミニ弟にお怒りのようだ。
戦闘の最中で余程腹に据えかねる事があったのだろう、それに触れないように気をつけつつ加勢に感謝を告げる。
「アクアヴェネツの王女として危険に飛び込むのは馬鹿だけど、こうして戦えるのに他の誰かに任せるのなんて出来やしないのよ、だから馬鹿で結構だわ!」
「いよっ! ルカったら男前!」
「ミリオーラ、それは女性に使うにはおかしいわよ。後で覚えてなさい」
「キャー怖ーい! あらあら? 敵さんもう待ちきれなくて襲ってきてるわよ? ふふふせっかちさんね、ホーリーバインド」
ミリオーラさんが頬に手を当てて笑いながら魔法を放つ、ワータイガーは四肢を大きな光り輝く十字架に縛り付けられた。
逃れようともがけばもがくほど、十字架は蒸発するような音を立ててワータイガーを焼き痛めつけていく。
動けないのを良いことに、ルカ王女は数メートルにも及ぶ氷剣を作り出しワータイガーのもう片方の腕を切り落とした。
「ミリオーラの魔法は趣味が悪いわよね」
「ルカの魔法だって豪快なルカらしい魔法じゃない?」
どちらも共通して恐ろしいのは分かった。
切断された所からすぐにまた凍らされて再生をさせない周到さ、未だ縛り付ける十字架も絶えず責苦を与えている。
ただ叫ぶだけのワータイガーに哀れみを抱いてしまうのは仕方ないことだろう……。
それでも止めてやるなんて事は一切思わず、俺はルカ王女の作り出したどデカい氷剣を掴み思い切り振り回して足を切り落とした。
「ギャアアアアアアア!! ヤメロっ!! ヤメデグレェっ!!」
「これだけやっても死なないとは本当にしぶといわね、アンタの兄さんはとっくに向こう側でアンタを待っているわよ。弟のアンタもさっさと行ってあげなさい」
「クソォ!! ヤハリオマエダケデモコロシテ」
「るっさいわねー」
「ガァッ……グギャアアアア!!」
残る一本の足を落として言葉を遮った。
もがく手足さえも奪われて叫ぶだけ、それでも怒りをぶつけてくる執念は恐ろしい。
というか……この状況傍から見たら俺達が悪役で、コイツをいたぶっている様にしか見えないのでは?
ろくに抵抗も出来なくなったワータイガーに対し勝利を確信した時、ヤツの口元が一瞬笑ったように見えたのに違和感を覚えた。
「さーて、そろそろトドメをさしてやるわ」
そう言ってルカ王女がワータイガーに近づく。
「っ!? ちょっと待ってルカ、離れて!! 魔法がっ!」
「へっ?」
「ゲハハマヌケガァ!! シネェッ!!!」
もはや胴体と頭だけを縛り付けていた十字架が突如弾けて消える、拘束の解かれたワータイガーがその身に残る狂気を力に、両手足も使わずに無理矢理跳ねて近づいてきたルカ王女を噛み殺そうと口を開けた。
誰も助けに入れない、魔法も間に合わない。
ルカ王女の悲惨な未来が訪れると誰もが予想した。
「ウゴォッ……ナンダト……!?」
しかしその未来が訪れることはなかった。
豪風と共に飛翔してきた一本の風の槍がワータイガーの胴体を刺し貫き、地面に縫いとどめた。
この風の魔法は……。
「シャルル!!」
声に応えるように魔法が放たれる。
風の槍が空気に紛れて消えると、ワータイガーが必死に手足の無い身体で這って逃げようとする、だけどそんな事で当然逃げれるわけもない。
次々と雨のように風の槍が降り注ぎワータイガーを穿っていく。
叫ぶ暇すらあたえない容赦無しの魔法の連発、黒の体毛が赤へと上塗りされて虫の息となった頃ようやく収まった。
これで終わりと思ったがそれは間違いであった。
ゆっくりと歩きながらコチラにやってくるシャルル。
「トージ、まだそいつは生きているよ」
「いやもう死ぬ直前……」
「これで終わらせるね、ウインドタービュランス」
やんわりと情けをかけようとしたけれど、シャルルは最後の魔法を放った。
フワリとワータイガーが浮かび上がったと思ったら、周りに丸い風のドームみたいなのが形成されて、そこに風が吹き荒れだす。
ドーム内を暴風に流されて縦横無尽に飛ぶワータイガー、今度は前にウルフェンに使った風の刃がドーム内に幾本も出現して切り刻んでいく。
お手軽ミキサーのように細かく刻まれ、最終的にドーム内は赤黒いドロドロした物が溢れかえる。
シャルルは無表情のまま、その暴風吹き荒れるドームの中身を、何も無いことを確認した平原に投げ捨てた。
あまりの惨劇に一同声を発することができない。
「ふぅー、今度こそ倒せたよね?」
オーバーキルです。
こうして苦労して戦っていた俺達の戦いはアッサリと片がついた。
日が傾き夕日に照らされた平原に俺達はいる。
平原に捨てられたミックスジュースは、そのままにしておくと臭いと見た目が悪化していくのでリュリーティアさんが土の魔法で地面に埋めようとしたが、ルカ王女がそれを使うということで凍らせてある。
一体このモザイクをかけなければいけない物体Xを何に使うというのだろうか、不思議である。
ミックスジュースを作った本人は魔法の使い過ぎで魔力が少なくなったらしく、腹が減ったと申している。
「トージぃ、マリンの料理が食べたい……」
「俺はアレを見たせいで食欲が吹っ飛んでいるだけどな。ルカ王女ー、いいですかー?」
「あーん? あぁ、私はちょっと街の被害状況を確認して戻るから先に言ってマリンに頼んできていいわよー」
「わーい! じゃあ行こうトージ、リュリーティア!」
お許しが出た途端シャルルはピョンと立ち上がり俺とリュリーティアさんを城の方まで引っ張っていく。
一馬たちも一緒にどうかと誘おうとしたら、ルカ王女から威圧の眼を向けられたのでやめた。
幸い一馬たちにはヴェネツ城の人から勇者をもてなすために用意された部屋と食事があるようだった。
ならもう特にとどまる必要はないな、早くと急かすシャルルの手をしっかりと取って、仲良く三人でアクア城に戻る。
「こうして見るとやっぱり家族にしか見えないよなぁ、トゥージたち」
「微笑ましいわねぇ。そうだわ、カズマさんとリフラル、私達もああして帰りましょう?」
「ええっ!? ちょっと恥ずかしいよ……」
「俺もさすがにな……」
「ダメでーす、もう決定しましたー。ほらほら、カズマさんが真ん中ですよ?」
「えっ、俺が!?」
何をやっているんだあの勇者共は。
カズマが両手に花の状態で歩き始める、美女二人を侍らせる最低野郎に見えなくもないけど言わぬが花ね。
さーてと邪魔な勇者一行はどこか行ったし、壊れた建物などをチェックして街の復興計画を練りながら帰るとしますかね。
結構壊された家とかも多いし人手が必要ね、闘司たちを手伝わせるか、王女権限で。
「まったく、本当に問題しか持ち込まなかったわねあの馬鹿魔族は」
ジェミニたちを愚痴りながら、しばし夕日を反射して煌めく湖を見つめた。
「でも街を……アクアヴェネツを守れて本当に良かったわ……ありがとね、みんな」
食欲なんかどこかにいったと思っていたけれど、アクア城の部屋に戻った途端にぶり返してきた。
腹がメシを寄越せ寄越せと主張を始めだしたのだ。
マリンさんが食事を運んできてくれているこの時間がとても待ち遠しい、シャルルと共に正座で待機をしている。
リュリーティアさんは只今お風呂タイム、鼻歌がうっすらと聞こえてくるが前回のような事はしない。
ガラガラ。
食器を運ぶ台車の音が聞こえてビクリとなる俺とシャルル、扉の前で待てを言いつけられた犬の如く待つ姿は変の一言に尽きる。
「はーいお待たせしましたー……本当にお待たせしたようですね。今日は手の凝った料理は作れなかったのでシチューですよ」
「「シチュー!!」」
「あはは……そこにいられるとその……」
おっといけないこんな所で正座していたら料理を中に運べないではないか。
いそいそと横にどく、台車が過ぎると鼻に香るシチューのいい匂い。
ぐーぐーとお腹の銅鑼が鳴り響き今夜の開戦の火蓋か切って落とされた。
寸胴鍋から掬い出されるトロリとしたシチューとゴロリとした野菜の見た目がとても良い。
あっという間にテーブルに三人分の食事が並べられた。
それと同時にお風呂場からリュリーティアさんが出てきた。
「あらマリンさん、私の分までタイミング良くどうもですわ」
「いえいえ、あっお代わりはこちらにありますので。それと食べ終わりましたら台車を外に置いといてもらえれば後は片付けておきますので」
「申し訳ないですわ、よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げて部屋を出ていくマリンさん。
バタンと閉じられた扉の合図で素早く席につく。
「「いっただきま〜す!!」」
「いただきますですわ」
ミルクの濃いお味でホクホクとしたシチューを堪能して激動の日が終わりを迎えた。




