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苦戦必至の異世界巡り  作者: ゆずポン酢
50/206

キングワータイガー戦

 隊長さんに連れられて俺達は急いで城の外にいるマリンさんの所に向かった。


「マリンさん、大型の魔物って一体……!」

「皆さん! 良かった……ご無事でしたんですね。あれ、ルカ王女はどちらに……?」

「今はミリオーラさんという方と共に、囚われてた人達の様子を見に行っています」

「なるほどそうですか……分かりました。では皆さん、まずあそこの方角を見てもらっていいですか?」


 マリンさんが指さす方角に目を向けると、何か大きなものがアクアヴェネツの近くまで来ている。

 まだ陽が出ていて明るいはずなのにそれは影のように黒い、それにじっと目を凝らして見ると、四足歩行で走る生き物だと分かった。


「あれは、魔物なんですか?」

「恐らく……半人半虎のワータイガーに酷似しているのですが、サイズについてはとてもじゃありませんが見た事も聞いたこともありません」


 マリンさんも驚きを隠せない表情でいる、それもそのはず、俺も標準は知らないにしろ今近づいてくるワータイガーはマウントグリフォンよりも数倍大きく、十メートルは超えるサイズでとてもじゃないがおかしいと分かる。


「なんでアクアヴェネツに向かってきているか分かりますか?」

「ごめんなさいそれも分からないんです……アタシ達兵士がルカ王女の合図によりヴェネツ城に突撃しようと、城の正門まで辿り着いたら街から悲鳴が聴こえてきて、そしたらあのワータイガーがこちらに……」


 どういう事だ……もしかしてアレはジェミニ達の仕業なのか、それともただ単に偶然なのか?

 全くもう問題が片付いたと思った矢先にコレとは本当についてない。

 とにかくあの馬鹿でかいワータイガーを止めないと、このアクアヴェネツに突っ込まれたら街が滅茶苦茶なことになってしまう。


「シャルル、悪いがアイツを倒すのを協力してくれないか?」

「もちろん!」

「あら、(ワタクシ)は仲間はずれですの?」

「イヤでもリュリーティアさんは……」

「身体のことは心配ありません、それにもう油断はしないし下手も打ちませんわ」

「分かりました……それではリュリーティアさんもお願いします!」

「おいおい待てよトゥージ! 三人だけじゃ無理だ、俺とリフラルも協力するぜ!」

「はわわ……えっと、ワタシあんな大きな魔物は初めてですけど、それでも逃げるなんてこと出来ません!」


 そう言って一馬とリフラルさんが申し出てくれる。

 人手は多いに越したことはないので喜んで受け入れる。


「マリンさん、俺達が今からワータイガーを倒しに行きますので住民の避難をお願いしてもいいですか?」

「安心してください、もう既に指示を出して他の兵士が避難誘導を開始しております」

「流石マリンさんですね、それとルカ王女が戻ってきたら手伝いをお願いしていたと伝えておいてください」

「ふふっ、王女に危険な頼み事をするなんて大胆な事をしますね」


 うぐぐっ、そう言われてみればルカ王女は王女様なんだよな……、言動とかのせいでスッカリ頭から抜けていたけど。

 となるともしルカ王女が命の危機に晒されたら俺が責任を取るハメになってしまうのか!?


「冗談ですよ、ルカ王女ならお願いしなくても自分から行きますから安心してください。それでは皆さん、ご武運を」


 マリンさんは深々と頭を下げて俺達にアクアヴェネツを託した。

 何としてでもあのワータイガーを止めなくては。








 街を走りながら作戦会議をした結果、一馬とリフラルさん、シャルルとリュリーティアさん、そして俺の三チームで三方向からワータイガーを攻める事になった。

 まずは俺が最初にワータイガーを引きつける事になっている、だけど一馬とリフラルさんは俺のスキルの事を知らないので反対していた、だが何とか無理矢理納得させる事に成功した。

 もうワータイガーはすぐそこまで迫ってきている、幸いにもマリンさんたちの迅速な避難誘導のお陰で街に人は見当たらない。

 これなら誤って巻き込んでしまうこともないだろう。

 ワータイガーは街の手前で急に立ち止まり、口を大きく開けた。




「グルルォオオオアアアアアアア!!!!」




 ビリビリとアクアヴェネツ全体に響く咆哮、ワータイガーは酷く興奮した様子で息も荒々しい。

 何かを探すかのようにキョロキョロと首を動かしているのも不思議である。

 とにかくアクアヴェネツに踏み入れさせてはいけない、止まってくれるなら有難い事だ。

 スキルを発動させるためにまずは相手の気を引く。


「おいバカ虎!! 聞こえてるならかかってきやがれ!!」


 シーン……。

 あ、あれ? おかしいな全然見向きもしないぞ。

 もう一度やってみるか。


「やーい木偶の坊ー!! ネコ科の動物ー!!」


 うん……無視は辛いよ……。

 なんでだろうコイツ俺に反応もしないぞ、危険だけど直接殴りかかってやろうかな、そう思った途端。

 ピクン。


「おっ、やっと反応したか?」

「ガァアアアアア!!!」

「よっしこいこい!! ……ってどこ行くねーん」


 ワータイガーは俺の右側に向かって走り出していってしまった。

 まったくこれじゃあチーム分けした意味が無くなったじゃないか。

 完全無視どころか避けられてしま……待て、右側はシャルル達がいる方だぞ……?

 クソ、何か知らないけどまずい予感がしてきた。

 俺は急いでワータイガーの向かう先に走り出す。






 初めて来た時が嘘のような街の静けさの中、(ワタクシ)とシャルルさんはワータイガーに向かい走っている。

 闘司さんが一人になってしまいましたが、あのスキルならすぐにやられるなんて事は無いはずでしょう。

 シャルルさんもジンの加護をお持ちですし、問題は(ワタクシ)ですわね……。

 普通のワータイガーでしたら楽勝ですがあのサイズになるとどうも言えません。

 一撃当たっただけでも致命傷は免れませんし慎重に挑まなければなりませんね。

 そうこう考えているとワータイガーの近くまで来ていた、ワータイガーは口を大きく開けていきなり咆哮をした。


「きゃっ!」

「うひゃー!」


 このサイズともなるとただの咆哮が攻撃になってしまいますのね。

 咆哮の後にワータイガーはキョロキョロと周りを見渡し始めた。

 合わせて闘司さんの声が聞こえてくる、ワータイガーはそれに反応もしない。

 再度闘司さんは大声で挑発をする、ってそれは挑発になるんですの?

 あらようやく反応しましたわね……ん?

 なんでワータイガーはコチラをロックオンしているのでしょう、なんでコチラに向かってくるのでしょう。


「なんでコチラに敵意を向けてくるんですのー!?」

「うわー! 本当におっきいねー!!」

「呑気なこと言っていないで戦闘に移りますわよシャルルさん!」


 といっても普通に攻撃してどうにかなるものなのでしょうかアレは。

 試す意味も込めてジェミニに打ち込んだもの同様の火球を数発放つ。

 ボシュ! と当たりはしたけれどワータイガーは気にした様子もない。

 これはちょっと……ピンチですわ。


「シャルルさん! 手早く強力な魔法をワータイガーの目に向けて放ってくださる!?」

「やってみる、サンダーボルト!」


「グガァッ!! グウゥ……クソガキィッ!!」


「へっ? 今、喋りました……? っ危ない!」

「わわわっ!」


 目をやられたワータイガーは闇雲に手を振り回しだした、近くの家屋がガラガラと壊されていく。

 それよりも、今ワータイガーが喋りませんでしたか? 明らかにシャルルさんに向かってクソガキだ、などと……腹立ちますわね。

 このワータイガーはシャルルさんを知っている?

 視界が奪われている内に距離を取ってシャルルさんに尋ねる。


「シャルルさん、このワータイガーについて見覚えはありませんか?」

「えっ? えぇ……うーん、あっ!」

「何か分かりましたか?」

「うん、コイツはジェミニだよっ! ボクとルカが倒したはずのジェミニ、間違いないよ! 声がそっくりだったもん!」


 なんですって……ジェミニは確か兄弟の魔族でしたわよね、それでシャルルさん達が倒した方が弟のジェミニ……。

 兄と違い、弟とは思えない出で立ちをしておりません?

 いえ……そうですわ、兄の方はたしか戦闘中に姿を変えていましたわね。

 つまり弟も同様に姿を変えられる事が可能と、でも限度ってものを知って欲しいですわ。


「オウジョゴロスゥ!! クソガキゴロスっ!!!」


「あー、この口の悪さは兄にそっくりですわ。本当にその弟さんとやらですわね」

「ボクとルカの魔法で倒したと思ったのに……」

「気にしなくてよろしいですわ。力を合わせて今度こそ倒せばよろしいのですから、でしょう?」

「そうだね! よーしじゃあ今度こそ倒せるように、思いっきり魔法を使うから守ってもらってもいい?」


「ええお安い御用ですわ、ですわよね闘司さん!!」









「シャルルはクソガキじゃねえぇえ!!!!」


 ブンブンと手を振り回すワータイガーの攻撃を利用して、家の屋根からジャンプして能力を上げた一撃をケモノ顔に叩き込む。

 ワータイガーの大きな図体が地面に倒れた。


「ふーっ! ふーっ! シャルルとリュリーティアさんを狙うとはこの不届き獣野郎が!」

「素晴らしい一撃ですわ闘司さん」


 降りた先にはリュリーティアさんとシャルルがいた、シャルルは目を閉じて何やら集中をしているようだ。


「シャルルさんは今あのワータイガーを倒すための魔法を準備しております。そのために(ワタクシ)達は全力でシャルルさんをお守りしましょう」

「そういう事なら!」


 地面から起き上がり、コチラに鋭い爪で切り裂こうとするワータイガー。

 俺のするべき事は時間稼ぎ、なら真正面から挑むのみ!

 空気をも切り裂く勢いの攻撃を受け止める。


「うぅっ!! ぐぐぐぐ……あだっ! あだだだだっ!!」


 爪は受け止められたがそのまま押されて家々に突っ込んでいく。

 いやー、体格差って重要だなー。

 だが爪はしっかりと掴んだままなので次はこっちの番だぞ、まずは建物のある場所では俺が戦いづらいので平原の方に向かって爪を引っ張って歩き出す。

 ワータイガーは引っ張られないよう抵抗しているが、俺の方が力が少し上なので徐々にワータイガーは引きずられていく。


「うっ……うおぉぉ……おっもい……!」

「ハナセェッ!! ハナシヤガレッテンダヨ!!」

「うぐっ!!」


 もう片方の爪で殴られて五十メートル程吹っ飛んでいくが怪我は一切していない、それによりアイツの頑丈さが分かってうんざりする。

 反対側にいた一馬とリフラルさんがこっちに駆け寄ってきた。


「おいトゥージ大丈夫……そうだな」

「ええ? 今の攻撃を受けて無傷なんですか!? 本当にお一人で大丈夫だったんですね……驚きました」

「ははは今は頑丈さと馬鹿力が取り柄みたいなもんで……」


 そう、今だけな。


「トゥージだけじゃなくここは俺達も勇者一行として働きますか! 援護頼むリフラル!」

「任せといてカズマ! エンチャントフォースエレメント!」


 土色、水色、赤色、緑色の四色の光が次々とカズマの体内に収まっていく。

 そしてカズマは剣を握りしめて、今いる場所から遠く離れたワータイガーに向かって一足飛びで飛びかかっていった。


「なんだよあれ、人間業か……?」

「いやトゥージさんも同じような事をしていたじゃないですか。四つの属性の魔法をカズマに同時付与させたんです。それによって属性同士の相乗効果も相まり通常より飛躍的に能力が上がるんです! ワタシが編み出したんですよ、えっへん!」

「さすが魔女だ……」

「だから違いますー!」



「グォオオオオウ!」



 一馬はワータイガーの身体に剣で傷をつけていた、結構な防御力があると思うのにやっぱり勇者の名は飾りじゃなさそうだ、ジェミニ兄の時に薄々分かっていたけど。

 しかし地面に着地する前に一馬はワータイガーの尻尾にはたかれてしまう、素早く反応して剣で防いでいたが俺同様に遠くに飛ばされる。

 くっそ、力自体は勝ってるんだけどいかんせん踏ん張れないから殴っては飛ばされになってしまうな。

 そうだ、モノは試しに魔女さんに聞いてみよう。


「あの魔女さん、俺を重くすることができる魔法ってありますか?」

「だから魔女じゃ……もういいですよ〜……。はい、一応ありますよ……?」

「よかった! それじゃあ俺がワータイガーの尻尾を掴んだらその魔法を使ってもらっていいですか?」

「え……でもその魔法は……ってちょっと! ああもう行っちゃった……。もう、どうなっても知りませんからね!?」


 リフラルさんが何か言っていたような気がするけどシャルルが狙われているので時間はあまり割けない。

 急いでワータイガーに近づき尻尾を狙う、しかしワータイガーも鬱陶しく思ったのか俺を警戒して背後を取らせないようにしている。


「おっとと、今頃俺に反応しなくてもいいのにな。さーて……どうしようかな」


 尻尾を掴む以外特に考えておらず、しばしワータイガーと見つめ合う。

 ガラリと瓦礫が崩れる音が後ろから聴こえてくる。

 よしそれなら……一馬頼むぜ!

 膠着(こうちゃく)状態を抜け出す全力ダッシュでワータイガーに突っ込む。


「一馬、よろしく!」

「いいぜっ! ハァアアアアア!!」


 瓦礫の山から出てきた一馬が後方から飛んで全体重を乗せた剣をワータイガーに振り下ろす。

 ワータイガーは腕で防御をしたがその防御ごと腕を断ち切る一馬の一撃……ちょっと待って強すぎない?

 走る俺の前に腕がドスンと落ちてきた。


「後は任せたぜトゥージ!」

「いや全部お前がっ!! やれよっ!!!」


 そうツッコミを入れつつも大ジャンプで家の屋根を経由して、ワータイガーの頭を飛び越して尻尾を掴む。


「リフラルさんお願いします!」

「後で怒らないでくださいよー! えーい重くなれー!」

「おおっ!?」


 背中に尋常じゃない重さがのしかかる、一つまた一つと何かが乗っかっていく感覚、その度にズシンズシンと足が地面に沈んでいく。

 お、おお……なんかこんな風に背中に乗って重くなる妖怪いたなぁ……。

 思い描いていた自分が重くなるイメージと少し離れているなと苦笑していたが、身体を動かせないことはないのでそのままワータイガーの尻尾を引っ張って平原に放り投げる。

 しかし投げた後もズシンズシンと背中に重しが増えていき、下半身が地面に埋まってしまった。


「り、リフラルさんもう大丈夫です!! このままでは生き埋めになってしまいますから!!」

「は、はい今止めますので!?」

「は、早くぅ……お、おお。止まった……」


 首まで埋まったところでようやく身体が軽くなった。

 やだ今の姿凄い恥ずかしい……。

 リュリーティアさんがコチラにやってくる。


「シャルルさんの準備があと少しですわ! もう少し時間をかせ……何をしておりますの……?」

「決して遊んでいるわけではありませんので、ここから出していただけますでしょうか……?」

「はぁ……それでは一気に行きますわよー、そーれ!」

「痛い痛い! 首が胴体とサヨナラしちゃいますからもう少し優しく!?」

「魔法で繋げますから大丈夫です、わ!!」


 嘘だ!! 魔法はそこまで万能じゃないはずだ!!

 あーあー首が伸びるー!

 スポンっ! と漫画的擬音が聞こえてきそうなほど綺麗に地面から引っ張り出された。










「助かりました……」

「ほらほらワータイガーがまた街に戻ってくる前に行きますわよ」

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