勇者辻堂とその仲間
「俺は辻堂、辻堂一馬。一応勇者をやっているんだ」
なんてこった、出会いたくなかった人物に出会うどころか助けてもらってしまった。
それにやっぱり日本人じゃねえか、勇者。
どうする、どうすればいいんだ俺は!?
「そのー……良ければ名前を教えてもらってもいいかな?」
「ええ!? あ、あぁ、そうだな、うん。おれはー、俺はそう、そう! トゥージ! トゥージっていう名前だ!」
「トゥージか。うん分かった、トゥージよろしくな!」
「あ、ああ、よろしく」
咄嗟に微妙に違う名前を教えておいた。
八代闘司なんて正直に言ったら多分同じ日本人だとバレてしまうかもしれない。
このまま正体がバレないように乗り切ろう。
「それで、どうして勇者がこんな所に?」
「いやな、つい数日前このアクアヴェネツに来たんだけどな」
うんそれは知っている。
「ここにいるというウンディーネ様に会うために、ルサ・ルカ王女と面会をしたかったんだけど生憎失踪しちゃっていたらしくて」
ウンディーネに会うためにまずはルカ王女とってことか。
ああー……ルカ王女今この城にいるんだけど鉢合わせたらマズイかな、本人めっちゃ会いたくなさそうだったし。
「それで仕方なく見つかるまでアクアヴェネツに滞在していたんだけど、今朝城に行こうとすると通行止めで入れないし、何か城から嫌な気配を感じるので心配になって、悪いとは思っていたけど城内に侵入させてもらったんだ。そしたら中には魔物が溢れてるわ兵士の姿は無いわで大変な事態になっていると気づいて、魔物を退治して回っていたらキミたちを見つけたってところなんだよ」
「そうだったのか、それは助かった。辻堂が来なかったら危なかった感謝してる」
「だから本当にそれは気にしないでくれって! それと俺の事は一馬でいいよ、皆にもそっちで呼んでもらってるから。しかし、俺が来るまでトゥージは魔族相手に戦っていたんだろ? 凄いじゃないか!」
それは神様のスキルのお陰なんだけど言ったら貴方と同じ異世界人ですとバレるので誤魔化すことにしよう。
うーむ、一馬が良い奴だってのは話していてすぐ分かった。
爽やかな笑顔に驕らない態度、気さくで話しやすい、それと顔が美形、羨ましい。
勇者ってのは人格者が選ばれるものなのか?
「いやいやこのリュリーティアさんがいたから俺は戦えていたんだよ」
「ほぉー……彼女さんなのか?」
「ぶっ! 違う! 頼むからこの人が起きてる時に同じことを言わないでくれよ?」
「ははは分かった分かった! それで、トゥージたちの他にまだ人がこの城にいるのか? それだったら早く助けに行かなきゃならないんだが」
えっと、いるにはいるんだけどそれを教えるとルカ王女が居るということがバレてしまうんだけど……仕方ない、何か起こっていたら困るもんな。
「ああ実は俺たちの他に仲間が」
「あっ!! いたいたカズマー! 探してんだよー?」
俺の声は別の大きな声に遮られてしまった。
私とシャルルはジェミニを倒した後すぐにもう一度城の裏口から中に入っていた。
ジェミニが言っていた兄さんとやらがまだいるかもしれないからだ。
でも恐らく高い確率で闘司たちと接的しているはずだわ、侵入者を倒しにいってるとも言っていたしね。
あの二人、特に闘司のスキルならまず負けることは無いだろうと思ってはいるけれど万が一もあるので急いで城内を探す。
「ねーねールカ」
「うん? どうしたのシャルル」
「なにかおかしくないかなー? さっきから全然魔物を見かけないけど」
「言われてみれば……全然いないわね」
意外と鋭いシャルルの指摘、それによーく見ると魔物の血というか何かが壁や床についている。
誰かが魔物を倒している……?
マリンたちの可能性を考えたけれど湖からヴェネツ城まで距離が少しあるので、合図を出したタイミングからは早すぎるし、そもそもここ裏口付近ではなく正面から突撃するはずだ。
闘司たちの可能性もあるけれど、この死に方は魔法なのよね、しかも割と強い。
まあ私とシャルルよりは数段劣るけれどそれに比べてもおかしい。
リュリーティアは魔法よりも剣士としての実力が高いので、剣で切ったカラダが残ったりなどそっち方面の亡骸が出来上がるはずだ。
闘司はそもそも魔力はあっても魔法が使えない、だからこの魔法はやはり正体が分からぬ何者かの仕業だ。
「シャルル、どうやら私達以外に誰かがこの城に入り込んでいるようね」
「ええそうなの? でも魔物を倒してくれてるからいい人達だよね?」
「ええそうね……」
いい人……そう、いい人ではあるはずよ。
でもなにか嫌な予感がするのよね、とても面倒臭そうな予感がする。
不審に思いながら闘司たちを探しているとシャルルがピタリと立ち止まった。
「ルカ、誰か来る」
「え、シャルルあんた分かるの?」
「うん、魔物の血とは違う匂いが流した風に乗ってきてる」
シャルルの匂いを察知する能力があるのは知ってはいるけど……流した風ってことはこの子自分で風を操って進む道の異常を探知していたの?
驚いたわ……闘司たちといる時は無邪気な少年って感じだったのに……別人じゃない。
シャルルの底の深さに少し恐怖を感じながらも、まずは誰かこちらに来るという事態に対処しなければいけない。
とりあえず曲がり角に身を潜め様子を窺う。
すると足音が聞こえてくる、この音は……靴音、良かったひとまずは人間ということね、それに一人じゃなくて二人、多分。
さてどうしましょう、隠れていると攻撃されるかもしれないし出ていった方が良いのかしら。
でもなぁ……さっきから嫌な予感がずっとするのよ、本能が訴えかけてるというか今すぐ逃げろというか。
そうしてウンウン唸って考えているとシャルルがいきなり姿を出してしまった。
もうどうにでもなれと思いながら私も姿を現す。
「きゃっ!!」「ひゃん!!」
「ほらほらやっぱり大丈夫だよルカ! 優しそうな人達だよ!」
「シャルルあんたねぇ……一発で優しそうと分かるなん……て……?」
そこに立っていたのは女性二人。
一人は杖を持ち、全身紫色のローブと紫色のとんがった帽子を被っている。
一言で言うならば魔女だ、絵本に出てくる魔女。
そしてもう一人が。
「ミリオーラ……アンタなのかぁ……」
「ルカ!? 良かったわぁ! 貴方とウンディーネ様に会いにアクアヴェネツに来たのに貴方が失踪したって聞かされたんだもの、私とっても心配したのよ?」
シャルルの言っていた優しそうな人という言葉がピッタリと当てはまる銀髪の女性、彼女の名はミリオーラ・アグラヴァスティ。
光聖王国ウィルスプの聖女様であり私と同じ王女様、私の一応、友達でもある。
「ええ? ミリーの知り合いなの?! それにルカって……ルサ・ルカ王女様!?」
「あーミリオーラ……こちらの慌てている魔女……ゲフンゲフン、女性は誰?」
「そうねそうよね初対面だものね! こっちの子はねリフラル、立派な魔法使いさんよ!」
へぇー、魔法使い、さんねぇ……。
「あっ、ど、どうもですルカ王女様! ワタシはリフラルという者でして今は勇者カズマさんと共に魔王退治を目指して旅をしております! えとえと、今回はウンディーネ様に加護を授かりたくてこち」
「あー待って待って……今なんて? 勇者カズマ? 今この城に勇者が居るのもしかして?」
「そうよー、勇者であるカズマさんはルカに会いに来たっていうのに、ルカったらいなくて困ってたの。どうせ面倒とかいって逃げ回っていたんでしょう?」
うぐ……アッサリ見破られているわね。
あー面倒だ……ミリオーラに加えて勇者もこの城に居るですって?
今から逃げてやろうかしら。
「そういえば城の中にいた魔物はアンタ達が倒してくれたの?」
「は、はい! 未熟ではありますがワタシの魔法で頑張らせていただきました!」
「ふーんアンタがねぇ、まっ助かったわ。それより魔族を見かけなかった? 二体いて一体は私達で倒したんだけど……」
「ええ!? 魔族がいるの? ちょっと私とリフラルは見つけていないわ……。もしかしたらカズマさんが倒してくれているかも!」
となると、この裏口近くには居ないことになるわね。
だとしたら広間とかの近くにいるかもしれないわ。
「それよりもルカ、こっちの可愛い男の子はだーれ? もしかしてルカ、こんな若い子に手を出したの!?」
「あぁん!? ミリオーラあんた熱湯ぶっかけられたいのかしらぁ!!」
「やだルカったら、冗談よじょーだん♡ それで、本当にこの子はどちら様なの?」
「ボクはシャルル! トージとリュリーティアの仲間だよー!」
「そうなのー! いやーんこの子本当に可愛いわねぇ。ねっねっ! 後で一緒にお茶をしてお話しましょう?」
「えー? じゃあトージとリュリーティアも一緒でいいならいいよ!」
始まったわよミリオーラの子供好きが……。
私よりも歳上とあってか小さい頃から妙にお姉さん風を吹かすのよね、お陰で一々面倒を見られてウザったいたら無かったわ。
それにシャルル、闘司とリュリーティアは多分この二人が勇者の連れと知ったら誘いは受けないと思うわよ。
「あ、あのー……そろそろカズマさんと合流した方がいいんじゃないんですかね……? ルカ王女様の仰った魔族の事も心配ですので」
よっしナイス魔女!
この話の流れを断ち切ってくれるとはお見事だわ。
「その通りね魔女……違う、リフラル。早く勇者と合流した方がいいわよミリオーラ。私たちの事は放っておいてさっさと行きやがった方が私はとても嬉しいの」
「もうダメよルカったら! そうな事言って私たちから逃げるつもりでしょ! そんな事はさせないわ、一緒に行くの」
ちっ……流石に無理があったわね……。
しょうがないわ、一応魔物を倒してもらっているから王女としてお礼をしなきゃだしね。
渋々ミリオーラたちと共に勇者カズマとやらに合流をしに行くとしよう。
城内を再び歩き始める。
広間を目指して歩いていくと、壁の破片などが転がっているのが見えてくる。
この先の広間で何か大きな戦闘があったようだ。
近づいていくとリフラルが何かを見つけたようで突然走り出す。
「あっ!! いたいたカズマー! 探してたんだよー?」
俺の声を遮った主は魔女だった。
全身紫色の魔女が一馬に駆け寄ってくる。
その後に続いて銀髪の美女と、物凄い嫌そうな顔をしたルカ王女と、いつも通りとても可愛らしい顔のシャルルが歩いてきた。
「リフラル! そっちは無事だったみたいだな!」
「うん、魔物達なんかワタシとミリーでちょちょいのちょいよ! それよりカズマの方は随分激しい戦闘をしたみたいだし……それに、この人達は?」
「ああこの人達は魔族と戦っていていたんだけど、危ないところに丁度俺が駆けつけたんだ」
「ど、どうも。今回はこちらの一馬さんに危ないところを助けてもらいました。俺の名前はやつ……トゥージって言います、ええトゥージです。それでこっちの眠っている方はリュリーティアさんっていいます」
「貴方達が魔族と!? お強いんですねぇ……あっとと、ワタシはリフラルです。それでこっちが」
隣に並ぶ銀髪の美女を指す。
「どうも初めまして。私は光聖王国ウィルスプの聖女、ミリオーラ・アグラヴァスティと申します。ルカとは小さい頃からの仲ですのよ。どうぞ宜しくお願いしますねトゥージさん」
「トゥージ? 何言ってんのよコイツは闘司……なるほどそういうことね。トゥージ、これは1つ貸しよ」
ははは……ご理解ありがとうございますルカ王女。
だけど貸しは怖いなぁ……。
「シャルル……シャルル……!」
間に合うか分からないがシャルルにも手回しをしておこう。
小声と手招きをしてシャルルに耳打ちをする。
「シャルル、この人達といる時は俺のことはトゥージ、トゥージって呼んでくれ」
「えーなんでー?」
「頼む……! お願いを聞いてくれたら今度なんでも買ってやるから! な?」
「なんでも!? フフフ……トゥージその言葉、忘れちゃダメだよ」
買収成功。
なんでもは言い過ぎたがシャルルなら多分食べ物とかを買って欲しいって言うだろう、それなら安いもんだ。
心でニヤリとほくそ笑んでいるとルカ王女がリュリーティアさんを覗き込んでいる。
「それよりちょっとトゥージ、リュリーティアは大丈夫なの?」
「ええ、ちょっと魔族に一撃もらっちゃって危なかったんですけど、今さっき回復薬を飲んだので大丈夫だと思いますよ」
「そう……リフレッシュ!」
ルカ王女は魔法を唱えた、リュリーティアさんの周りに水色の円が浮かび上がり輝いていく。
数秒するとその円は消えてなくなった。
「なるほど確かに大丈夫みたいね、ほら起きるわよ」
「え?」
見るとリュリーティアさんの目が薄らと開いていく。
目で周りをキョロキョロと見渡すと、ゆっくりと起き上がった。
「ふわ……はふっ。よく眠れましたわ。あら皆さん、といいますか他に増えておりますわね……。闘司さん、この方達はどちら様ですの?」
「リュリーティアさん! そのですね……今だけ俺の事はトゥージって呼んでくれると助かるんですよ!」
起きて早々根回しに取り掛かる。
「はぁ? なんでそんな意味が分からないことをしなきゃならないのですか?」
「これはリュリーティアさんにとっても必要な事なんです。何せこの人達は……勇者一行です」
「っ!? なるほど……それなら分かりましたわ。トゥージさんですわね……もうちょっと捻りは無かったのですか?」
「そこは突っ込まなくて結構です! それよりも何処か痛いところは無いですか? 結構派手に飛んでいきましたから……」
「ふふ、怪我ならしておりません。今度ミネルさんにお礼を言わなければなりませんわ、この指輪のお陰で怪我を負わなかったと」
指輪? そう言ってリュリーティアさんはミネルちゃんに貰った指輪をかざす。
「この指輪に土の魔法が込められているのは教えましたわよね? それのお陰で少しですが私の防御力が上がっておりましたの。まあ衝撃は変わらないので気絶してしまいましたが」
そっか、ミネルちゃんに助けられちゃったな。
「それで私にこの方達の紹介はありませんの? トゥージさん」
リュリーティアさんに勇者一行を紹介していく。
「なるほど……勇者の辻堂一馬さん、聖女のミリオーラさん、魔女のリフラルさんですわね」
「違いますー! ワタシは魔女じゃなくて魔法使いですよー!」
「どっちも変わらないですわ」
「そんなぁ……」
リフラルさんが泣き崩れる、よっぽど魔女と呼ばれるのは嫌みたいだ。
そんなに嫌ならその格好を何とかした方が良いのだろうけど、それを言ったらまた泣きそうなのでやめておく。
ルカ王女がパンと手を叩き皆に確認をする。
「さて、皆合流出来たわけだけどこの城には魔物がいて人質をとった魔族がいた。魔物に関してはミリオーラ、リフラル、残りはもういない?」
「はい、城の中に魔物の気配は感じないので恐らく大丈夫です」
「よろしい、マリンたちがもうすぐ城に来るからその時に念の為捜索してもらうとして。次は人質をとった魔族たちについて、上の方に人質をとっていたジェミニという魔族は私とシャルルで退治したわ」
「えっ? ジェミニって俺達が戦ったのもジェミニですよ、一体どういう事ですか?」
「それは知っているわ、私たちが戦ったジェミニが言っていたけれど、そいつには兄さんがいたらしいわ。つまりその兄さんがトゥージ達が戦ったジェミニよ、多分兄弟か双子の魔族だったようね。」
同じ名前の魔族とはそれはまたややこしい。
「その兄のジェミニは最終的にそこのカズマが倒してくれたのよね?」
「ああ、良いとこ取りになっちゃったけどそうだな」
「闘司さん……」
「いやリュリーティアさん、ホントは倒せそうだったんですよ……? でもちょっと色々ありましてね……」
「言い訳は無用。もっと厳しく特訓をする必要が出てきましたわ」
オーマイゴッド……。
「はいイチャイチャは後でやりなさーい。それじゃあつまり問題は全て解決したってことね。あっと、そういえば人質のあの男性を早く見てこなちゃじゃない! 私ちょっと様子見に行ってくるわあと宜しくそれじゃあ」
「ルカ、私も行きます」
「ぐっ……イヤイヤ、ワタシヒトリデダイジョブダイジョブ」
この王女、助けるついでに逃げるつもりだったな。
そうはさせるかってんだ、ミリオーラさんイイぞ!
「はぁ……一人で本当に大丈夫だってのに……」
「まあまあ、ルカとお話ししたかったんだもの!」
そう話しながらルカ王女とミリオーラさんは広間を出ていった。
取り残されてしまった俺たちはどうするか。
「じゃあ俺達もマリンさんと合流するか、よし行こうぜシャルル、リュリーティアさん」
「ええそうですわね」
「はーい」
「トゥージ待ってくれよ! せっかく知り合えたんだから一緒に行こうぜ! それになんかトゥージから親近感を感じるんだよな〜。リフラルもそう思うだろ?」
「ええっ? ワタシは……そうでもないかなぁ」
やはり付いてくるか……。
それにそうだろうなぁ、同じ日本人だし親近感湧くだろうさ。
だが一緒に行くといつかボロを出してしまいそうで出来れば別行動をしたい。
なんとか別れられないか画策をしていると、ドカドカと地面を揺らす足音がやってくる。
これはまさか……。
「あーー!! こ、ここにおりましたか!! 申し訳ありませんがすぐに皆さん外にいらしてもらってもよろしいですか!?」
「隊長さん! そんな慌ててどうしたんですか?」
「そ、それが大型の魔物が街に向かってやってきているのです!!」




