ヴェネツ城占拠
人生で初めての天蓋付きベッドにスーパー庶民の俺は合わせるのが難しくて眠りが浅かった。
アクアヴェネツには少し長く滞在するつもりなので早く慣れてセレブ感覚を味わいたい。
そしてビックリしたのがここは湖の中なのにしっかりと太陽の光が入ってくる事であった。
どういう原理なのかサッパリだがきっとこれも魔法だろう、全て魔法で片付くはずだうん。
のそのそとベッドから降りるとやはり既にリュリーティアさんは起きていた。
剣を構えたまま目を閉じている。
「リュリーティアさん何をしているんですか?」
「イメージトレーニングです。室内で剣を振るうわけにはいきませんもの。今度ルカ王女に頼んで騎士さんと手合わせをしていいか頼んでみるつもりですわ」
さすが努力家だ、あの強さにはこうしたトレーニングがあるからだろう。
俺も見習って目を閉じる。
……、……、……。
「闘司さん、寝ていますわね?」
「……!? ひぃえ! 寝てません、はい!」
どうして目を閉じて見えてないはずなのに俺が寝ていると分かったのか……。
それにしても改めて見ると、目を閉じているリュリーティアさんは綺麗だな、もちろん開けていても綺麗だけど。
写真撮ったら怒られるかな、うーん……怖いのでやめておこう。
諦めてシャルルの様子を窺う。
まだシャルルは寝ている、何か寝言を言っているので聞いてみよう。
「うへへ〜トージ駄目だよボクまだ食べられるよぉ……」
そこはもう食べられないよじゃないのか。
夢の中でもゴハンをねだられてる俺よ、頑張れ。
「少し騒がしいですわね……」
「へぇ?! ごめんなさい!」
「違いますわよ……闘司さんの事ではなく、何やら廊下の方が騒がしいのですわ」
扉に近づいてみると、確かにドカドカと廊下を走る音や怒号が飛び交っているのが聴こえてくる。
一体何の騒ぎなんだろうと思い扉に手をかけようとすると、今度はパタパタと軽い足音がこの扉の前までやってきて勢いよく扉を開けた。
ゴン!
「ふほおぉぉ……」
「あー! ごめんなさい闘司さんー! 急いでいまして本当にごめんなさいー!」
勢いよく現れたのはマリンさんだった。
何とか応対したいけど、思った以上におでこへのドアアタックが強かったので悶えている。
「大丈夫ですわマリンさん、闘司さんは人より回復が早いのでへっちゃらです。それよりそんなに急いでどうなさったのですか?」
「あっえっとですね、皆さん急いでルカ王女の元に来て欲しいんです!」
もうちょっと心配してくれても……マリンさんはとても慌てた様子で俺達に訴えかけてくる。
ルカ王女の元に急いで来て欲しいとは、もしや外の騒がしさに関係していることか?
とにかく考えているより早く行った方が良さそうだ。
「分かりましたマリンさん。俺達をルカ王女のところに連れていってください。それで、本当に何があったんですか?」
「実は……ヴェネツ城が魔族に占拠されてしまいました」
シャルルを起こしてマリンさんと共にルカ王女のところに向かう。
案内された場所にはルカ王女の他にも、例のジイさん達やあの隊長さんもいた。
何か話し合っていたようだが俺達が現れると驚いたような顔をした。
「ルカ王女様、闘司さん達を連れて参りました」
「どうもありがとうマリン。さて、いきなり呼び出してしまってごめんなさい。事情はマリンから聞いておりますね?」
聞いてはいるけど信じられない、ヴェネツ城が魔族に占拠されたなんて。
「いまヴェネツ城は魔族に占拠されてしまっています。更には、人質を取っているとの情報も入ってまいりました。何とかこの状況を打破する為に貴方達の力をお借りしたいと思ってお呼びしたのです」
「そんな……俺達なんかじゃ」
「そうですぞ王女様! そもそもこ奴らは何者なのですか!? こんな見知らぬ者達に力など借りなくても、我等で解決出来ますぞ!」
「爺や、この者達は私の大切な友人であり、信頼出来る味方で、心強い戦力でもあるのです。それに言いづらいですが爺や達では魔族相手に心許ない。人質もいる状況で見栄などに拘って人質を失うなんて事は言語道断ですよ。その点この方達なら魔族相手でも負けるなんて事はありません、ね?」
初対面のジイさんは怪しんだ目で睨んで俺達に詰め寄ってきた。
しかしルカ王女が割と無茶振りな事を言うとジイさんは黙ってしまった。
いやいや、ね? じゃないですよ。何ですか魔族に負けないって、それに思いっきり戦力認定されてしまっている。
どうにかして辞退させていただくなんてことは……ああ駄目だルカ王女の無言の圧力が凄まじい。
「分かりました……ルカ王女の頼みならば微力ではありますがお手伝いさせて頂きます……」
「そう言ってくれると思っておりました! それでは早速ヴェネツ城を解放するための作戦を考えましょう」
こうして開かれた作戦会議。
しかし考えられる作戦はどれも皆が納得出来るものではなかった。
まずは直接交渉、人質を取ってることもあり何か相手は要求してくる事があるだろうからとの考えだ。
しかし要求を叶えた瞬間人質もろとも皆殺しにされてしまうだろうとの事で没。
次は人質を切り捨てる作戦。
ルカ王女が大激怒したのでもちろん没。
次は正面突破、城正面から馬鹿正直に突っ込んで人質救出を最優先して突撃する。
そもそもこれは作戦でもなんでもないとの事で没。
そして最後に出た案、少数チームでの城内潜入。
「少数のチームでヴェネツ城に侵入。まず一つのチームが魔族の退治及び魔物を引きつける囮、もう一つのチームが人質の救出、逃走経路の確保。救出した後にアクア城の全兵士でヴェネツ城に突撃。」
「二チームだけで行くんですか? いくら何でも少なすぎるんじゃ……」
「魔物は良しとしても、魔族と正面切って戦える強さの兵士がアクア城にはおりません。なのでこの魔族の相手をするチームにはかなり負担を強いてしまいます。なので……闘司さん、宜しくお願いしますね」
なるほどやっぱり魔族を一手に引き受けるのは相当な……は?
「人質救出チームは私とシャルルさんで行きます」
「つまり私と闘司さんで魔族と魔物を掃討すれば宜しいですのね。なんて分かりやすく簡単なのでしょう、そうですわね闘司さん?」
「いやいやいや、俺が魔族の相手をするチームなんですか!? 何かの間違いでは?」
「魔族相手なら闘司さんがいた方が不測の事態があった時に助かりますわ、それに魔物は大体は私がお相手します。」
「うわーん魔族なんて訳分からないやつ無理だー! それに大体ってことはちょくちょく俺も魔物と戦うのかぁー! 無理ですよー、俺はへっぽこなんですよ?」
幼児ばりのダダをこねて存分に情けない姿を披露する。
今の俺はお菓子をねだる子供より美しい駄々っ子を見せている。
「ほらほら闘司さん巫山戯ているとシバきますわよ」
「うわー! シバかれるのいやー! でも魔族と戦うのもいやー! いやーいやー!」
「大の男の幼児退行はキツいですわよ……」
「トージなら大丈夫だよ、だってトージは強くてカッコイイもん!」
「そうだな、俺頑張ってみるよシャルル」
「お約束どうもですわ」
「お話はついたようですね、では具体的な侵入経路を説明していきます。」
ルカ王女はアクアヴェネツの地図を取り出してテーブルに広げていく。
「まず分かっているとは思いますが私たちはこの湖の所です。なのでまずは湖を出て城に向かうのですが、遠回りをして城の建つ丘を裏から回っていきます」
ぐるーっと民家から丘を指さしていく。
「城の裏側には秘密の王家の逃走用口があります、そこから侵入をしていきます。ちなみに人質もここから逃がすことを想定しております、ここが知られることはあってはなりませんので慎重に侵入しなければなりません」
秘密の逃走用口とか映画みたいでワクワクするな。
しかし地図を見た限り丘には身を隠す物などが無い。
「ルカ王女、この地図の通りでは敵にすぐに見つかってしまうんじゃないですか?」
「それは心配には及びません。私がシェイドの魔法を使えますので」
シェイドの魔法? えーっと……そうだ、たしかシェイドの魔法は自身に付与すると気配の遮断が出来るんだったな。
そうか、それであの時ルカ王女が近くにいたのにリュリーティアさんは気づけなかったんだな。
「城に潜入したのち、闘司さんとリュリーティアさんが先行して思う存分に暴れてもらいます。その隙に私とシャルルさんで人質を捜索、救出を試みます」
暴れるねぇ……リュリーティアさんは戦えるとあって心なしか嬉しそうにしている。
さっきはああいったけどリュリーティアさんに全部任せる訳にはいかないので、俺もスキルの力で頑張らせてもらうか。
「人質の場所は判明しておりません。なので捜索に時間がかかる可能性があります、つまり闘司さんとリュリーティアさんの陽動の成功に全てがかかっています」
「責任重大ということですのね。うふふふ、それは大変光栄な事ですわ」
「俺も頑張らせていただきます」
怪我とかの念の為にしっかりと回復薬を持っていかなければいけないな、まあ俺は敵を倒せば全回復しちゃうけど、それでもあって損は無いはずだ。
「私とシャルルさんの救出チームも、もしかしたら魔物に遭遇するかもしれません。私も一応ウンディーネ様の加護があるとはいえ、その時は援護宜しくお願いしますねシャルルさん」
「おっけー! 思いっきり魔法打っちゃうよー!」
シャルルは思いっきり力を使えるかもとあってか喜んでいる。
危惧すべきはシャルルの魔法でヴェネツ城が崩壊する事であるが、まあなるようになるか!
「人質を救出して城から逃げ出せた時には私が合図出します。そしたら兵士の皆さんが湖から一気に城まで攻め込んでいただいて、ヴェネツ城を奪還致しましょう」
「はっ!! ルサ・ルカ王女様の命、兵士全員で必ずや達成してみせましょう!!」
隊長は鼻息荒く興奮した様子でルカ王女に答える。
という事で救出作戦の内容が決まった。
後は準備を整えて作戦を決行するだけだな。
ということでお部屋に戻り必要な物を揃えていく。
防具と剣、それに篭手を着けていくことにした。
回復薬はあまり数を持てないので数個、解毒薬は今回必要が無いとのことで持たない、俺の魔法は役に立たないけどマナキャンディは一応持っていく。
ふんふん、こんなものだろう。
「ねートージ、このお菓子持って行っていいー?」
「良いけど……救出作戦中に食べるなよ? あとこのお菓子も持っていこうぜ」
「ピクニックではないですのよー、没収しますわ」
ああー……お菓子がぁー……。
泣くなシャルル、辛いが我慢しよう……。
「闘司達には緊張感ってものはないの?」
「ルカ王女も呑気に紅茶なんて飲んでいるじゃないですか」
「王女たるもの常に堂々して落ち着いているものなのよ」
そうか王女とはそういう姿勢でいるべきなのか。その紅茶は俺が数えた限りで既に六杯目くらいなんだけどそうなのか、落ち着いているものか。
「はいはいルカ王女強がらないでください、こういう事態に滅法弱いのはこのマリンがよーく存じておりますから」
「わー! それは言わなくていいって! たく……そりゃこんな事初めてだし怖いけど、王女の私が怖がっていたら皆が怖がっちゃうもの。強がらないといけないのよ!」
なんと……本当にルカ王女は王女様なのか。自分ではなく皆の事を考えてそんな事を。
「さあさあ準備は済んだでしょ!? ならさっさと行くわよ!」
照れ隠しなのかルカ王女は怒ったように俺達を急かしていく。
話している間に準備が出来ていたので、従って荷物を持って扉に向かう。
「それでは皆さん、皆さんの無事と作戦の成功を待っております」
「ありがとうマリン、私が人質を救出したら後は頼むわよ?」
「ええ、不本意ですが全力で頑張らせてもらいますよ」
「え、マリンさんも何かするんですか?」
二人はハイタッチをした後不思議そうに俺に答えた。
「何って……マリンには総隊長として作戦に参加してもらうんだよ?」
「本当は料理をしていたいんですが……状況が状況ですので仕方ありません」
え……?
「ええぇえええ!!??」
湖から上がり、まだヴェネツ城の騒ぎが届いていない街を抜けて、ぐるっと回って丘まで登ってきた。
「マリンさんが元兵士だったなんて……ビックリしたじゃないですか」
「話したとばかり思っていたけど忘れてたやごめんごめん。マリンはね、料理長をやる前はアクア城の総隊長でもあったんだ」
「総隊長!? マリンさん見かけによらずそんなに強い人だったんですね……。マリンさんは嫌がっていましたけど何で兵士をやっていたんですか? もしかしてルカ王女の為にですか?」
「いんや、昔から料理するのが好きだったんだけど、剣術の才能が秀でてるのを私は知ってたから勿体無いと思って勝手に兵士に推薦した。そして気づいたら総隊長になってた。はっはっは」
うおぉい……最低だよこの王女様。
ああ、マリンさんがルカ王女に対してダメ王女とか言っていたのもそれがあってか……。
素敵エピソードでもあるのかと思った俺が間違いだったよ。
「でもそうして総隊長やってて数年したら急に、あたしは料理がしたいんだー! なんて叫んで暴れ出したので仕方なく辞めさせる事になったんだ。相当ストレスだったんだろうね、それで城の料理人として働いてもらったらこれまた才能があってねー、腕が認められて料理長になっちゃった」
あのマリンさんが叫んで暴れるとは余程兵士は嫌だったのか……。
マリンさんの平穏を取り戻すために必ずやこの作戦は成功させなければならない。
「さて、お喋りはここまでにしましょう。そろそろ城の裏手よ」
目の前に見えるはヴェネツ城の裏側。
ここからでは中の様子が見えないが城内には魔物がわんさかいるそうな、一体どうやって連れてきたのやら。
ルカ王女は俺達を近くに集めて、魔法を唱えた。
「シェイドコート……!」
ポウと黒い光が俺達に降り注ぐ。
「これで気配が無くなった状態になったわ。でも気を付けて、姿が見えなくなったわけじゃなくて気にされなくなっただけ、例えるなら道端の石になった様なものよ。だから派手な行動をすると敵にバレるから」
なるほど本当だ、意識しないとシャルルとリュリーティアさんを見失ってしまいそうな、そんな感覚になってる。
「城の裏口まで一緒に進んで、中に入ったら宜しく頼むわね闘司、リュリーティア」
「はい」「お任せを」
「シャルルは私と一緒に捜索と救出、そして援護」
「うん!」
「よーし、それじゃあみんな! やるわよ! えいえいおー!」
「えいえいおー!!」
……。
「ちょっと、闘司とリュリーティアはなんでやらないのよ!」
えっ、今のやらなきゃ駄目なの?
無理矢理手を取られ円陣を組まされる。
「それじゃあもう一度! えい、えい、おー!」
「「えいえいおー……」」「えいえいおー!!」
恥ずかしいので控えめにやる。
アクア城の兵士達の暑苦しさはルカ王女譲りだと分かった瞬間であった。




