お話ティータイム
なんやかんやあったけど部屋にお菓子などを持って戻ってくることが出来た、この部屋を出てから大分時間がかかったのは何事も上手くいかないのだという人生の厳しさであろう。
マリンさんはティーセットの用意とお茶菓子とシャルル用の料理をテーブルに並べていく。
時刻としてはアフタヌーン・ティーには少し早いくらいのお茶会である。
ルカ王女は上品の欠片も無く椅子にドカッと座る。
「いやーやっとお話出来るわねー」
「ルカ王女、もう少し上品にしたらどうです?」
「えーいいじゃんマリンー、お堅いことは無しにして楽しくお話しよーよー。ねっ、そっちの方が闘司も良いでしょ? そうよね!」
答えてないのに決められてしまった。
まあただでさえ城なんてものに緊張してたのに、王族との会話という慣れることなんかなさそうな展開なんだからちょっとは気さくな方が良いのは確かだ。
適当に頷きつつマリンさんのお手伝いをしていく。
「ありがとうございます、闘司さんはどんな茶葉がお好みなんですか? ご希望があればそれにしますけど」
「いやいや紅茶に関しては無知同然なんで……知ってるのなんてダージリン、アッサムくらいですよははは」
「うふふそうなんですね、でも普通の人は紅茶の種類などあまり知りませんから、名前を知っているだけでも凄いですよ? それじゃあ……アッサムのミルクティーにしましょうか」
そう言ってマリンさんは部屋に設置されているコンロで水を沸騰させていく。
その間にティーカップを人数分用意する。
水が沸騰したのでまずはティーポットにお湯を淹れる、そしてティーカップにも注いでいく。
ティーポットのお湯を一度捨てて人数分の茶葉を少し多めに入れて、またお湯を勢いよくティーポットに入れすぐに蓋をして蒸していく。
ミルクティーとあって蒸らす時間は3、4分との事だ、しかし茶葉で変わったりするのでご注意を。
時間になったらすかさず冷めないうちに蓋を開けてスプーンで中を一回混ぜる。
温めたティーカップのお湯を捨てて、茶こしで茶殻をこしながら回し注いでいく。
最後まで注ぐ事で最後の一滴、ベストドロップと呼ばれる紅茶を味わえるとのことだ。
最後に常温のミルクを注いでこれで紅茶は出来上がり、アッサムミルクティーだ。
「いい香りですわね、これはアッサムですか?」
「おお? リュリーティアは紅茶が分かるのかぁ、いかにも分かりますって感じの話し方だしね」
「話し方は生来のものです、ルカ王女はお茶会など多そうですのに分からないのですか?」
「美味しければ何でもいいやって感じだから種類なんて分からないわ!」
「威張れないですわね……」
ルカ王女は普通の人のカテゴリのようだ。
リュリーティアさんは俺もイメージからして絶対分かりそうと思っていたので期待通りでありがたい。
すまんシャルルお前もルカ王女タイプだろうと決めつけてしまっている俺を許してくれ。
「ボクも美味しければ何でもいいかなぁ〜」
へへへシャルルは流石だぜ。
こうしてお話する準備が整った。
「それでルカ王女、何の話しをするんですか? 俺達の少ない、とても少ない旅の話しをすればいいですか?」
「それもいいけど貴方達、特に闘司。アンタに群を抜いて聞きたいことがあるわ」
「俺ですか。何か……ありますかね?」
俺にピンポイントで聞きたいことと言うと……いやまさかな。
いきなり異世界人とバレるとかそんなお笑いな事は起きないだろう。
「闘司、この世界の住人じゃないわよね」
「えぇー……。」
バレたな、速攻で真相解明みたいな感じになってしまった。
別に隠しているわけではないけどこうも簡単に見破られるとは思わなかったので言葉が出てこない。
何とか言葉を絞り出して聞いてみる。
「な、何で分かったのでしょう?」
「つまり合っているのね?」
「はいその通りです……」
「理由は簡単、闘司からはこの世のものでは無い気配を感じるのよ。尋常じゃない力っていうのかな、それを街で見た時は目を疑ったわ。ウンディーネ様とは比較にならない力があるのかっていうね……。それでどうしても知らなきゃって思ってこうして話しかけたの」
ウンディーネ……この世界の八神の一つだよな。
そして尋常じゃない力と気配ってのは恐らくウチの神様の事だ。
世界を作れる程の神を生み出すんだからそりゃ恐ろしい力なんだろう。
「信じてもらえるか分かりませんけど話しますね? えー、まずは八神はこの世界を作り出した神様だっていうのは合っていますよね?」
「ええ、常識ね」
「その世界を作れるほどの神様は、実は他の神様によって創造されたのです」
「ふむ……」
「その神様はとても偉い位置の神様で、八神の他にも色々な神様を生み出したりしているんです。それでで話は変わりますが、俺は一度死んでいます。」
「ふんふん……へぇ?!」
「一度死んだ俺はそのお偉い神様がいる天国に呼ばれました。そしてその神様は天国は充実し過ぎて暇なので、チミを異世界に転生させて暇つぶしをしたいと言いだしました」
「んん……?」
「そして神様は俺をこの世界に転生させてくれました。ただ俺の元の世界では魔法なんか無いですし、魔物なんかも初めてなので、この世界を生きていくのは大変じゃろう、なのでお主にスキルを与えてやろうということで便利とは言いづらい力を授かり、神様はそんな俺を見て暇を潰せるように何時でも天国から俺を見守ってくれているそうです」
話しをしている最中に神様に交信を試みてみる。
話すより実際に見た方が早いのはフラウさんの事で分かっていたから。
しかし帰ってきた返事はアッサリしたものだった。
えー、あんまりポンポン出るのも神様ぽくないしぃ、それにワシちょっとウンディーネちゃん苦手なんじゃよ、だからパスじゃ。
まぁ確かにポンポン現れてもこっちも困るし分かりますけど、ウンディーネが苦手だからって何ですか!仮にもアンタが生み出したものでしょう!
愛せ! もっと愛せよ神様を!
「つまりルカ王女が感じる力、尋常じゃない気配ってのは暇つぶしにこれを見てる神様を、ルカ王女は感じ取っているんだと思うんです。えっと……信じてくれます?」
ルカ王女は少し冷めたミルクティーを飲んで一つ息をつく。
「なるほどね、信じるわ」
「随分アッサリ信じますね」
「実は私、ウンディーネ様にその神様の事を聞いて知ってはいたのよね。よく熱心に私に話すものだから覚えていたの。でも話半分で聞いていたわ、だって自分達の信じる絶対の八神に、さらに上の神がいるなんて信じられると思う?」
そこら辺の宗教観はちょっと分からないが神を信仰する人にとっては信じたくはない話なんだろう。
それより気になる事を言っていたな。
「個人的に神様は信じていないので何とも……と言いますかルカ王女、ウンディーネと話した事あるんですか?」
「え? もちろんあるわよ、伊達にアクアヴェネツの王女じゃないしね。代々王家の者はウンディーネ様との親交が深いのよ、それにウンディーネ様の加護だって授かっているわ」
「そんな簡単に人の前に現れるんですか、八神っていうのは?」
「うーん……他の八神は知らないけれど、ウンディーネ様は人が好きみたいだからちょくちょく陸に現れたりするのよね。もし闘司が会いたいって言うなら多分ウンディーネ様は喜んで会ってくれるわよ。それにいつもは湖底神殿に居るから会いたくなったら私に言ってちょうだい」
ちょくちょく会ってくれる神様もいるそうですよ。
どこかの神様とは違いますね。
チミはウンディーネちゃんの本性を知らないからそう言えるんじゃよ……。
「はー……しかしそっかぁ、本当にそんな神様が居たのねぇ……。死んだ人を転生させるとか加護を渡せるとかそんなの好き放題じゃない」
「まぁ色々な意味で好き放題してそうですけどねあの神様は……」
気づいたら俺とルカ王女だけ話していたので二人を見てみると、紅茶とお菓子を楽しみながらマリンさんと話しに花を咲かせていた。
今から話しに混ざるのは邪魔をしてしまいそうなのでもう少しルカ王女とお話をしていよう。
ミルクティーを飲んで喉の渇きを潤し、会話を再開する。
「そういえばこの城ってどうやって水の中に作ったんですか? それも魔法で出来るんですか?」
「え? ふふ違う違う、このアクア城は元々ここにあったの。そこにウンディーネ様が住み着いて水が湧き出して湖となり、城は水の中に沈んだ。流石にそれでは都市としての見た目や、謁見の時に困るので陸に同じような城を作ったの、それがヴェネツ城。その後に沈んだアクア城の中の水を抜いてこうして使えるようにしたのよ」
話だけ聞くとただの災害になっちゃってるなウンディーネって。
「でも街の人はウンディーネ様に感謝しているのよ。そもそも精霊が住み着くほどの綺麗な土地である事が分かったし、湧き出した水は澄んでいて美味しいし、何よりそんな神秘現象の跡を見たさに観光客が増えてウチは儲かる儲かる!」
逞しいなアクアヴェネツの人々は、商魂たくましいよホント。
しかしなるほど、湖の中の城が先で陸にある城が後に作られたのか、それは面白いな。
「それじゃあさっき言っていた湖底神殿というのはウンディーネの為に作ったものなんですか?」
「ああ、湖底神殿はウンディーネ様が自分で作ったのよ。なんでも創造神様にウンディーネはここに居ますよ、いつでもいらしてくださいと伝えたいが為にデザインから何まで自分でやりたい、ってね。」
それはまた熱心な神様ファンだな。
そんなに会いたいなら何とかウンディーネを神様に合わせてあげたいなぁ。
……神様の狼狽える顔も見たいしな。
天罰じゃ。
ああー!!なんかくしゃみが出そうで出ない状態にいきなりなったぞ! ちくしょうやりやがったなあの神様!!
「……なに面白い顔してるのよ闘司」
「いや、ちょっと、ふぇ、ふぇ……くそぉ。いや神様からの天罰を受けてしまってこんな顔に。ふぇ……んふー……」
「まあいいわ、じゃあ今度は闘司とそこの二人との関係を聞かせてもらおうかしら」
ルカ王女の頼みをくしゃみが出そうで出ない顔で応えていく。
結構話しをしてしまったのに気づいたのは、シャルルのお腹から響く虫の声によってだった。
そろそろお開きにしましょうとマリンさんは言ってテキパキと後片付けをして部屋を出ていった。
後で夕食を持ってきてくれるらしい、至れり尽くせりだ。
ルカ王女は勇者に会うのが嫌なので、今日はアクア城の自室に引きこもるとの事で戻っていった。
コソコソとしていたのはジイさん達とやらに見つからないためにだろう、とても王女とは思えない。
「夕食はなにが来るのかなー? お魚かなー、それともお肉っかなー? おー野菜もいーよ、美味しーよ♪」
うっそ何今の歌録音しとけば良かった、録音機器無いけど。
よっぽどマリンさんの料理が美味しかったのかご機嫌で夕食を待っている。その姿が可愛いので一枚だけ写真をパシャり。
リュリーティアさんはこの部屋に付いているシャワールームでシャワーを浴びている。
シュルト城下町ではシャワーはあったが長く使えないので少し不満だったそうな。
水が豊富なアクアヴェネツだからこそ、今はリュリーティアさんはシャワーを堪能している。
それこそ鼻歌なんかが聴こえてくる、近づいてちょっと耳をそばだてる。
……ふんふん、ふむふむ、なるほど。
「人には何かしら欠点はあるものだよな……」
所々外れる音程が良いアクセントになっているのでこれはこれで聞き飽きない。
本人に言ったら二度と鼻歌してくれなくなりそうなので言わないでおこう。
ガチャ。
「……何しておりますの」
考えている間にリュリーティアさんはいつの間にかシャワーを浴び終えて着替えていたようだ。
どっかのお約束みたいにリュリーティアさんが裸でキャー! な展開にはならないが、今の俺の体勢を説明しておこう。
床に這って片手を耳に当ててシャワールームの壁に引っ付いている。
よーしよく考えて選択肢を選ばないといけないみたいだぞー。
まずは無難にストレッチですと言う。
駄目だ今の体勢と状況で伸ばしてる所なんて鼻の下くらいだ、却下。
次は安全確認ですと言う。
意味が分からないし俺の安全が確認出来ていないな、却下。
聞き耳を立てていましたと言う。
正直な部分は評価出来るがどうしたって駄目なビジョンが浮かんでくる、却下。
「懺悔はお済みになりましたか?」
「……それでも俺はやっていない」
「信じましょう」
利き足と反対の足で俺の頭にサッカーボールキック。
言動が一致していないと思いながら俺はそのまま部屋の出口まで吹っ飛んでいく。
ちょうどドアが開きマリンさんが夕食を運んできてくれた。
マリンさんは驚きもせず俺の姿を見てこう言った。
「お夕食は二人分にしておけば良かったですかね?」




