ルカ王女の多面性
ガジガジ。
俺としたことがシャルルの事をすっかりと忘れてしまっていたのだ。
ガジガジ。
シャルルは除け者にされた寂しさと美味しい料理が食べられなかった悔しさで俺の頭から噛み付いて離れない。
ちょっと毛根が心配だけど。ガジガジ。
「シャルルー、ごめんって。今度はちゃんと一緒に連れていくから、な?」
「ううぅ……グスン……起きたら誰もいなくて、待ってもトージ達が帰ってこないし……ボク置いてかれたのかって思って……うぇーん」
「うんうん、俺はシャルルを置いていったりなんてしないから安心しろー」
「うん……約束だよ?」
「ああ約束だぁ」
ガジガジを止めてくれて俺の前に降りたシャルルは、涙目と上目遣いのダブルパンチからの可愛らしいお願いときたもんだ。
それにときめいた今の俺の顔は類を見ない程気持ち悪い自覚がある、現にリュリーティアさんの冷めた表情が割と胸に刺さってるからな!
なんとかシャルルの許しを得られた俺は胸を撫で下ろす。
これは今度何かお願いされたら断れないな、今まで断った記憶が無いけど。
「それで? シャルルはどうしてここが分かったんだ?」
「誰もいないからとりあえず部屋を出て、美味しそうな匂いがしてきたからそこに向かったらトージたちの話し声が聞こえてきたんだ」
匂いを嗅げるのはやはり必須スキルなのか……?
「そうだ! ここの料理長のマリンさんって人と仲良くなったから、シャルルの分の料理を作ってもらえるよう頼んでみるよ!」
「ホント!? やったーありがとう!それで、そのマリンって人は何処にいるの?」
「それがマリンさんはな、失踪したルカ王女をここに連れてきてもらうためにな、今は居ないんだよ」
「失踪……!? トージそれは、事件だね……」
「ああ、事件だよシャルルくん……」
「消えた王女、消えたお菓子、ボクが食べられなかった料理……難事件だよこれは」
王女のオマケ感が可哀想だし、よく考えなくても事件性も一切ない。
それとシャルルの優先度的にルカ王女は下らしい。
「おーいこらシャルルくん、私はオマケじゃないしここにいますよー」
いつの間に居たのかルカ王女とマリンさんが立っていた。
「ルカ王女!? 良かった、今まで何してたんですか? こっちは大変だったんですよ」
「いやーごめんごめん事情はマリンから聞いたよ。ウチの兵士達の伝達が出来てなかったみたいで……本当にアイツらと来たら馬鹿なん……アイタッ!」
「兵士さんのせいではなくルカ王女のせいですよまったくもう。それにお客さんを待たせるなんて失礼です」
「分かってるよマリン〜。でも闘司達さ私の言い訳を聞いて欲しいんだよねー。いやね、お菓子を取りに私の部屋に行ったわけさ、それで私の部屋の前についたらさ、なんかウチのジイさん達がたっくさんいるわけなのよ? ヤバいと思った時にはもう手遅れ。そのジイさん達がやれ勇者様に会ってくださいだの、王女としての自覚がだのうるっさい訳なのよ。それで面倒くさいなと思った私はそこから逃げ出したのね、それでも必死に追いかけてくるもんだから、もう隠れてやり過ごしたり変装したりと大変だったのよ! それでこんな時間が経っちゃったんだ、本当にごめん! このお詫びはいつかするから、ね?」
マシンガントークってこういう事か。
まあルカ王女も大変だったんだな。
「は、はい、ルカ王女の大変さはよーく分かりました。次は気をつけていただければいいですから。え、それよりなんで勇者と会うのを嫌がっているんですか!? そんな事なら俺達と話しをするのはまた今度でいいじゃないですか!」
「えー、だってあの外面するの疲れるんだもん。それに一度勇者と会ったら、それこそ何かある度に付いていかなきゃ駄目になるんだもん。あーあ早く違う国に行ってくれないかー勇者さ、ま、は!」
「まるで王女とは思えない発言は聞かなかったことにしましょう……。まあ俺達も勇者に会いたくないのは同じですし、ルカ王女がもし連れてきたりなんかしたらこっちが逃げ出していましたよ」
「おっ? 闘司も話が分かるやつねー。そこら辺の事情も含めて私は話がしたいってことなのよ、是非とも聞きたいことがあるし!」
バンバンと俺の背中を叩くルカ王女、うん、もうあのエレガンスはお目にかかれないんだな。
「さて、いつまでも厨房で話しをする訳にはいかないわよね。今度こそ部屋に向かうわよー! お菓子も持ったしー……あっそうだ、マリン紅茶をお願い!」
「はいはい今お作りしますよー」
「ねーねー、マリン? ボクはシャルルっていうんだけど、料理ってもうないの?」
「えっ? えっと……」
「あーごめんなさいマリンさん。出来たらでいいんですけどさっきの料理をこの子のために作ってもらっていいですか?」
「うふふ分かりました、じゃあシャルルくん少しだけ待っててね?」
「はーい!」
良かった、シャルルはすっかり機嫌を取り戻してくれたみたいだ。
マリンさんも心なしか料理を待ち望んでもらえるとあってか嬉しそうだった。
シャルル用の料理とお菓子と紅茶を持って、俺達の部屋に戻っていく。
ルカ王女がマリンさんも連れていこうというので断る理由もなく歓迎する。
そうして歩いているとあの地響きを起こす足音の集団がこちらに近づいてくる。
現れたのはさっき俺達を追いかけ回した兵士達、その中の隊長が前に出て叫ぶ。
「あっ、ルサ・ルカ王女様!! その賊共から離れてください!! そいつはルサ・ルカ王女様の客であるとのたまってこの城に侵入したのでございます!! 危険ですので早く離れ」
「どなたがその様な事を仰ったのですか?」
「……へ?」
突如ルカ王女の雰囲気がガラリと変わった。
外で見た時のあのエレガンスさを出してはいるが笑顔からは優雅さや優しさが一切感じられない。
「ですからどなたが私の大切な客人であるこの方達を賊などと仰ったのかをお聞きしておりますの」
「へっ……それは、その……」
隊長さんは見るからに萎縮して震え上がっている。
俺も隣にいて自分が怒られてるわけでもないのに胃がキュッとなるほど怖い。
「そもそも私は城に入る際にこの方達は私の客人だから失礼な事をなさらないように伝えて下さいとお願いしました。その簡単な情報伝達すらこのアクア城では出来ないと言うのですか?」
「そそそ、その様な事は決して……!!」
「そうですか。でしたら私が伝え方を間違ってしまったのですね、でしたら申し訳ございません」
「いい、いえいえいえ頭をお上げになってください! ルサ・ルカ王女様は何も間違いなどしておりません! そうなのです! 我等が愚鈍であるから故に情報伝達が行き届いてなかったのです!!」
うわぁ……見てて悲しくなってくるよォ……。
「信じたくはないですけれど、そうなのですね……。それに、私が所用で離れている間にこの方達を賊と間違え追いかけ回したお陰で、お話する貴重なお時間が削られてしまいました」
「くぅ……!! ルサ・ルカ王女様とその客人方に働いた不始末! どうかこの我が身をもって償わさせてください!!」
「「「「た、隊長!!」」」」
膝をつき剣を取り出して自害をしようとする隊長を兵士達全員で止めに入る。
なんだこの臭くも目が離せない寸劇は。
「ですが!! ですが間違いをしたとしても、私などの為に全力で城の警備をしてくれた貴方達の努力は決して不始末などではありません……」
ん? なんか胡散臭さが滲み出てきたぞ。
「私は感動致しました。この城の者達は私の為に、いやこのアクア城の為に! 一生懸命尽力してくれるということを。その尽力のお陰で私は安心して公務をこなせるということを」
「勇者と会うという公務をすっぽかしてますよね……」
「しっ! 聞こえてしまいますわ……!」
「……とにかく、今回の事は不問に致しましょう。貴方、剣を仕舞いなさい」
「「「ルサ・ルカ王女様……!!」」」
「これからもこのアクア城の為にその力を貸していただけますか?」
「も、もぢろんでずぅルザ・ルガおうじょざまぁ!!!」
「さあ涙をふいてお立ちになってください。アクア城を守る者に膝を屈する姿は似合いませんわ」
うーん、感動的? な話だなぁ。
思わず拍手をしてしまう、観劇料払った方が良いのかな。
兵士は剣を鞘に仕舞い立ち上がる。
見間違いかその兵士は先程よりも使命に燃えた熱き顔つきとなっていた。
洗脳の現場を目撃してしまったなこれは。
「さて皆さんの警備の邪魔をしてしまってごめんなさい、私達はこれで失礼します」
「はい! 我等もルサ・ルカ王女様の貴重なお時間を取ってしまい申し訳ありません!! おいお前ら!」
「「「「水の起源はウンディーネ!! 水の起点はアクア城!! 水の戦士はルサ・ルカ王女の元に!!」」」」
謎の号令をした後に兵士達は一糸乱れぬ駆け足で地面を揺らし去っていった。
その後何事も無かったように歩き出す俺達。
皆一様に同じ事を思っているがそれを口に出すのは勇気がいるのか聞き出せないでいる。
ならばまずは無難なところから攻める。
「ルカ王女ってやっぱり王女なんですね。いきなり雰囲気が変わって驚きましたよ」
「まぁねー、王女やってれば裏表だけじゃなくいくつもの顔があるものなのよ。じゃなきゃ社交場とかで恥をかくもの。それは私のプライドが許さないわ」
「へえ〜……」
くっ、これでは話が繋げられない。
そもそも俺はそんなにトーク力が無いんだ!
こうなれば、リュリーティアさん!
アイコンタクトを飛ばす。
「ん、んん。ルカ王女、あの兵士さん達はいつもあんな風に熱血なのですか?」
「そう、そうなのよアレが通常なのよアイツらは……。アレを街の真ん中とかでも平気でやってくるのだから困っちゃうわホント」
お、おお、いい流れっぽい?
「そうですわね……」
諦めたー!!
くっそぉかくなる上はシャルル……いやちょっと嫌な予感がするしシャルルにやらせるのは駄目だ。
やはり、俺が行くしか……。
小細工は無しだ、力技で行ってやる!
「水の起源は……ぶふぁっ!! は、鼻がァ!? ゴホッ!!」
トライした瞬間、顔面に水の塊が飛んできた。
破裂した水の塊は俺の鼻を逆流して激痛を与えてくる。
苦しみから解き放たれて目を開けるとルカ王女はニッコリ俺の前に笑顔で立っていた。
「次それを言おうとしたら耳から水を流し込むわよ」
中耳炎にならないように二度と言わないと固く心に誓った。




