ルカ王女捜索隊の末路
ルカ王女を探すために城内を探すことにした俺とリュリーティアさんは、とりあえずあの広間に向かってみることにした。
道は覚えていたので難なく広間に到着した。
先程感動したあの銅像も同じように水が全身を流れている。
見渡してみるがここにルカ王女の姿はない、そもそもお菓子を取りに行ったんだからここにはいないか。
「目指すは厨房、とかですかね?」
「お菓子だけでなく恐らく飲み物も用意すると思われますので、厨房が可能性が高そうですわね」
ということで厨房を目指す……場所は分からないけど。
そもそも城の厨房ってどんな感じなんだろう、俺の世界の厨房といえば、ステンレスの調理台とか調理器具などがひしめき、銀色の世界ってイメージがある。
白くて長い帽子を被ったシェフがフライパンをガシャガシャと巧みに操り、酒をぶっかけてファイヤーさせる場所だろう厨房ってのは?
偏見に詰まった思考をしながら適当に歩いてみる。
最初は気づかなかったが余裕が出てきて周りの様子がよく分かってきた。
「城の中の壁に水槽が埋め込まれてるのって安全面的にどうなんでしょうね」
「そこは計算されているのでしょう、そんな事より活きのいいお魚で美味しそうですわ」
「……」
「冗談ですわ」
たまに真顔で冗談を言うので判断がつかない。
そんな水槽が埋め込まれた通路を歩くと別の広間に出てくる。
そこには沢山の兵士が隊列を組んで並んでいる。
威圧感溢れる兵士達の先には1人の男性が立っている。
「オマエら! 今日お前らがこうして集まったのには理由がある! それが分かるやつは居るか!!」
「はい隊長! それは陸に勇者様一行が来ているからであります!!」
「そうだ! お前がどうやってその情報を知ったのかは今は問い詰めないでやる。そんな事より勇者様がこのアクアヴェネツにいらしてるという事態に対して、我々がしなければならない事がある。馬鹿なお前らでもそれぐらい分かるだろう!? そうだ、有事があった際の警護! 勇者様に降り掛かる脅威を我等が防ぐ事だ!!」
「「「「おおぉおおお!!!」」」」
兵士達の士気たっぷりの怒号が響き城が揺れている。
いやそれより気になる事を言っていたな、アクアヴェネツに勇者が来てるって、何その面倒臭そうな展開。
兵士の顔は勇者を守れるかもという名誉な事が出来るとあってか皆輝いた顔をしている、正直暑苦しい。
「闘司さん闘司さん、もしかしてあのお祭り騒ぎは勇者一行が来たからではありませんの?」
「あっそうか!突然来たから、ハンスさんとララさんはそれを知らなかったのか。それと、俺としてはあんまり関わりたくないなぁ。何か面倒な事に巻き込まれそう。」
「それは同感ですわね。私達は旅をしたいだけで魔王退治などする気はありません。なるべく避けるようにしましょう。」
「そうしま」「誰だお前達は!!」
「「っ!?」」
兵士達を鼓舞していた隊長らしき人が俺達を指差して怒鳴っている。
それに反応した兵士達も俺とリュリーティアさんを見て不信感いっぱいの視線を向けてくる。
あれ……これは不味い気がするぞ……?
中には剣に手を掛けて、すぐさまお前らに斬りかかってやるぞみたいな雰囲気を出している。
「あ、あの、俺達はルカ王女の客でこの城に招かれたんです! それでえっと、ルカ王女はお菓子を用意するといって何処かに行ってしまったんですけど、帰ってこないので捜しているだけなんです!! だから怪しい者ではありません!」
「ほほーう……? そうかそうかルサ・ルカ王女様のお知り合いということか。客人である自分達は怪しい者ではないとなるほどなるほど」
「わ、分かっていただけましたか?」
「誰がそんな戯言を信じるかぁ!! お前ら賊が城に潜入したぞぉ!! 奴らをひっ捕らえるぞ、行けー!!」
「おぉおおおおあああああ!!!」
ですよねー!! 見つかった時から予感はしてたけどねー!!
兵士達は血気盛んな様子で俺達を捕まえようと向かってくる。
数人なら説得出来たかもしれないけれど、向かってくる兵士の数は軽く百は超える。
一人止められても他の一人また一人が俺達をもみくちゃにして捕らえるはずだ。
なので取る選択肢は一つ。
「逃げますよリュリーティアさん!!」
「別に全員を倒してしまっても構いませんわよ?」
「余計なフラグを立ててないで早く逃げますよ!」
「きゃっ!? ……んもう。」
剣に手を掛けて笑みを浮かべる鬼神リュリーティアさんの手を引っ張り逃げ出す。
背後に迫る地面が揺れる程の足音に恐怖しながらリュリーティアさんと必死に逃げる。
訂正しよう、必死に逃げてるのは俺だけでリュリーティアさんは普段通り、ちょっとだけむくれた感じの顔をしている。
「ところで闘司さん、何処に逃げるおつもりですの?」
「はっはっ……ええ? いや、分かりませんって!! とにかく、捕まったらヤバそうなので適当に!」
「そーですのー。頑張ってくださいませー」
「リュリーティアさんも逃げてるんですよ!?」
というか何でそんな平気そうにしているんだこの人は。
俺は息を切らして走ってるのに、息ひとつ乱れず俺に引っ張られるがままだし。
おっと、三方向の分かれ道か……。
くっそどの方向に逃げればいいんだ?
「リュリーティアさんどうしましょう!?」
「んー、私は左ですわね」
「どうしてです?」
「気分ですの」
「なるほど!!」
というわけで大した理由もなく左へ。
まだ足音が鳴り止まないで追ってくる。
途中にたくさん扉があるけど、どれかに入っても駄目そうなのでただ走り続ける。
いやー本当にこの城デカすぎ!
また分かれ道か……。
「闘司さん今度は右ですわ」
「何でです?」
「直感ですわ」
「なるほどぉ!!」
突っ込む暇もないので右に曲がる。
あーダメだ疲れてきた……。普段こんなに走ることなんて無かったから息がすぐ上がってくる。
走るスピードも落ちてきてしまい、いつの間にか今度はリュリーティアさんに引っ張られる形になっていた。
「すい、すいましぇん……」
「安心してください、予想しておりましたわ」
「ぐはっ!! うぅ……辛い。」
「はいはいもうそろそろ部屋に入りますわよ」
「え? うわ!?」
突如リュリーティアさんに横に引っ張られて倒れ込む。
入った部屋は何と数々の調理器具が並ぶ厨房ではないか。
「凄いリュリーティアさん! どうして……」
「しっ! ちょっとだけ静かにしてください」
人差し指で静かにというポーズをされたので黙る。
ドドドと地鳴りのような兵士の行進はこの部屋を過ぎ去っていった。
そのまま去った後も少し静かにしていると声をかけられる。
「あ、あのー……どちら様、でしょうか?」
「うっ!? いえ決して怪しい者では!」
「闘司さんそれは逆効果ですわ。安心なさってください危害は加えませんわ」
「そうですか? はー……良かった。それで、どういった御用でこの厨房に?」
あっさりと俺達を信じてくれたその人は長ーいコック帽を被っている女の子だった。
いきなり知らない人が入り込んできて驚いてしまったんだろう。
「あっと、俺達ルカ王女の客人として呼ばれたんですけど……」
かくかくしかじか、部屋に呼ばれてからルカ王女が出ていった経緯を話す。
するとコック帽の女の子は突然顔を手で覆った。
「あー……本当に申し訳ございませんウチの王女が失礼な事を。ほんとーに、ごめんなさい」
「い、いやそんな謝られても……兵士に追っかけられた事以外は困っていませんので。なので顔を上げてください」
「あのダメな王女の代わりに深くお詫びします……。えっとそれで、重ねて申し訳ないんですけど王女はここに来てないんです」
「えっ、そうなんですか? じゃあ一体どこにお菓子を取りに……」
「あの王女は自室にお菓子を常備してるのでそこから持ってこようとしたのかと。でも今は多分その、タイミングが悪かったと言いますか」
「それってもしかして、勇者絡みの事ですか?」
「そうです! よく分かりましたね?」
色々と兵士の方が話してくれましたので。
しかしそうか、ルカ王女は自分の部屋に行ったのか。だったらこの厨房に来たのは間違っていたか。
まあたまたま来れただけなんだけど。
「それよりリュリーティアさんはどうして厨房が分かったんですか?」
「いい匂いがしましたので」
「それはまたシャルルみたいな事を……。でも確かに美味しい匂いがしますね。何か作っているんですか? えーっと……」
「あっごめんなさい! あたしはこの城の料理長で、マリンていいます!」
「マリンさんですね、俺は八代闘司、こちらがリュリーティアさん」
「どうもですわ、料理長とは驚きましたわね。でも他の料理人の方はおりませんの?」
「えっと、今はオリジナルの料理の試作をしていまして……それであたし一人なんです。そうだ! もし良ければ試食していってくれませんか!?」
「いやでもルカ王女が……」
「あんなダメ王女はほっといていいんですよ。ほらほら、どうぞ座ってください」
割と強引に席に座らされてしまった。
そしてマリンさんは小皿に乗せた料理を持ってきてくれた。
そこにはフレンチ料理のように、焼かれた白身魚とアスパラガスと恐らくホタテ、赤いソースがかけられて、その周りには点々と緑のソースが垂らされている。
オシャレだ、俺は今オシャレな料理と対面している。
「こんな美味しそうなの食べちゃっていいんですか?」
「あはは、試食だから食べて感想を貰えないとあたしが困っちゃいますよ。どうぞ遠慮なく食べてください、リュリーティアさんも」
「それでしたら遠慮なく、はむっ」
お上品にナイフとフォークを扱うリュリーティアさん。
俺も慣れない手つきで料理を口に運ぶ。
「これは、美味い……!」
「んっ……魚の味と相性の良いこの赤いソース、美味しいですわ。」
「ホントですか!? 良かったー、まだ他に試食して欲しいのがあるのでそれもお願いします!」
そう言ってまた料理を用意しだすマリンさん。
こんな美味しい料理の他にまだあるのか、兵士に追っかけられたのは危なかったけど、ここに来れたのは幸運だったな。
他にも俺なんかには縁遠そうな料理を色々食べさせてもらった、試食用なので量が少なかったのが惜しいけど最高だった。
「ごめんなさいマリンさん、感想が美味しいばっかりになっちゃって……」
「いいんですよ! お二人の食べてる顔が笑顔であたしとしては上出来だと思っているんですから!」
「でもこのお味でしたら普通にメニューとしてお出しして問題ありませんわよ」
「はい、ありがとうございます! あっ、お皿片付けますね」
料理を食べさせてもらった上に後片付けもさせるのは悪いので手伝おうとするとやんわりと断られてしまった。
仕方なく席に座る。
でも本当に美味しい料理だった、こんな美味しい料理を普段食べてるとはルカ王女は羨ましいな。
あ……そうだルカ王女! 本来の目的をすっかりと忘れてしまっていた。
俺達はルカ王女を探しに来たのに随分とここに長居してしまった。
「マリンさんごめんなさい、そろそろルカ王女を探しに行こうかと」
「あっ、それでしたらあたしが連れてきますよ? 闘司さんたち、城の中は詳しくないんですよね。あたしなら良く知ってますから」
「いやでも、そこまでしてもらうのも……」
「いえ闘司さん、マリンさんにお願いした方がよろしいですわ。私達がうろつくとまた兵士達に追われるハメになりますもの。お言葉に甘えましょう」
「そうですよ、大丈夫です。ルカ王女が何処に居るかも多分分かりますので」
確かにまた追われるのは疲れるし困る。
マリンさんの口ぶりからしてルカ王女と親しげなのでここはお任せした方が良いのかな。
「ごめんなさいお願いします」
「はーい、じゃあこんな所で悪いんですけどもう少し待っててくださいね」
そう言ってマリンさんはパタパタと厨房を出ていった。
一時はどうなるかと思ったけれど親切な人に出会えて良かった、マリンさんが戻ってくるまで待つとしよう。
ようやく問題が解決できる、でもしかし何か大切な事を忘れている気がするのはなんでだろう。
ルカ王女はマリンさんのお陰で解決するだろう?
勇者の事に関しては別に今の所問題はないはず。
後は何かあったっかな?
そうウンウンと考えていると突如寒気が全身に襲ってくる。
な、なんだこの寒気は……あ、あれ身体が震えている!?
ガタリ。
「ひっ!? な、なんだ今の音は?」
「落ち着いてください闘司さん、何か、近づいてきてますわ……」
耳をすませて物音に全神経を向ける。
ズルッ、ズルッと何かを引きずるような這うような音が聞こえてくる。
まさか魔物か!?
その音は扉のすぐ手前で止まった……。
ギィィとゆっくりと扉が開いていく。
「トォォー……ジイィィ……」
聞こえたのは怨讐を見つけ、持ちうる全ての怨恨を込めたような呪いの声だった。
俺はその声を聞いた途端動けなくなり、身体は震えだし、目からは自然と涙が溢れてきた。
扉から現れたのは顔を綺麗な金色の髪で隠した、怨霊。
俺を呪うべく天蓋付きのベッドから這い出てきたのだ。
ゆっくりと俺に近づきピタリと止まった。
両者は数秒固まり、そして動き出す。
「トージたちだけ美味しい物食べてずるいよー!!」
「ぎゃああああああ!!」
シャルルは頭にガジガジとかぶりついてきた。
読んでくださりありがとうございます。
作者はコレを楽しんで読んでもらえているかと、気が気ではない様子で書いております。




