表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
苦戦必至の異世界巡り  作者: ゆずポン酢
41/206

アクアヴェネツ

 朝からハードな訓練をすることになったが何とか無事に終えられた。

 計八体のウルフェンを倒したが、半分の四匹目からは慣れてきて殺すことに怯みは無くなっていた。

 学べたことはよく観察することと、反撃されないよう確実に殺すこと、うーん物騒。

 剣の扱いも多少は振れるようになっていたが、戦いが終わって能力値が元に戻ると剣に振られるようになってしまった。

 つまり俺の筋力ではまだ剣を振るのは危なっかしいということだ。

 とにかく、今日の訓練は終了で、俺達は引き続きアクアヴェネツへの道を馬車に乗りながらゆっくりと進んでいく。


「あー、疲れたよぉシャルルぅ。膝枕してくれぇ」

「闘司さんドン引きですわ」

「ん? んー、いいよ。おいでトージ!」

「やっほーう!」


 あっ、柔らかいなんだこれ。

 快く迎え入れてくれたシャルルの膝枕は高級な低反発枕みたいでこの世の神秘を感じている。

 素晴らしき感触で咽び泣きそうにあった所を、更にシャルルは追い打ちをかける。

 優しい手つきで頭を撫でてくる、動物を撫でるようなそんな手つきで、あばばばば。


「ちょっとトージあんまりモゾモゾされると、あはははくすぐったいよ!」

「ふもーー!!」

「史上最低の変態ですわ……」


「なぁララ……」

「やりません」

「そんな……」


 ハンスさんが凄く残念そうにしている、ドンマイだ。

 時折ガタンと揺れる馬車だけどシャルルの膝枕はそれら全てを吸収してくれる。

 頭をスリスリ撫でられる感触も、今こうしてされていると心が落ち着いてくる。

 生きてきた中で頭を撫でられるなんて親以外にされた事がなかったと思う。そう考えると何だか少し恥ずかしくなってきた。

 無言だとちょっと耐えられなさそうなので話しを始める。


「ところで後どれくらいでアクアヴェネツまで着くんですかね?」

「そうですね、このまま順調に行けば数時間程でアクアヴェネツが見えてくると思いますよ」

「数時間ですか、意外と早く着くんですね。」

「ふふふあんまり遠いと私達では着く前に魔物のエサになっちゃいますから、近くて助かります」

「俺も朝エサになりかけたので笑えませんね……」

(ワタクシ)がいたのでそんな事は起こりませんわよ」


 そうか、後数時間くらいか。

 これといってする事もないしどうしようかな。


「なぁシャルル、このまま少し眠ってもいいかな?」

「うんいいよ。ごゆっくり、だよ」

「はは、ありがとう。膝が辛くなったら起こして構わないからな?」

「だいじょーぶだよー」


 シャルルも眠るわけではないが、目を(つむ)って馬車の揺れを楽しむかのようにいる。

 俺も目を閉じて意識を落としていく。

 記憶はないが赤子の時の揺りかごにいるような心地よい揺れの中、聞こえる声が無くなっていく。

 感じるものは頭を撫でるシャルルの手、それも感じなくなった時俺は眠りについた。







「トージ……おきてー……」


 ゆさゆさと揺さぶられている。

 馬車の揺れとは違う細かな揺れ。

 目を開けるとシャルルが俺の目を覗き込みながら起こそうとしている。

 目が合うとニッコリと笑った。


「おお、ここは天国か……あの神様もいないしこれぞまさに天国……」


 失敬じゃぞ。神様ぷんぷんじゃ、激おこ。


「ううん違うよトージ、天国じゃなくそろそろアクアヴェネツだよー」

「今神託を受けた気がしたが……じゃなくて、そうかもう着きそうなのか。ごめんシャルル、辛くなかったか?」

「ううんトージの寝顔が面白かったから大丈夫」

「へ、面白い? そんな変な顔してたのか俺?」


 シャルルは笑いながら問いに答えず俺を起こした。

 すっごい気になるところだけどシャルルは嫌がっていないみたいなので良しとしよう。あとこれからたまに膝枕を頼んでみよう。

 ゆっくりと走る馬車から外を見てみると不思議な光景が見える。

 大きな円形の湖の上に家などが幾つもあり、少し奥の陸地は傾斜のある坂にこれまた大きな城がドーンと構えられてる。

 また、湖には船で移動している人達が多く見受けられる。

 ここは水上での生活が主流なのか。

 初めてな事だらけな予感がしてワクワクしてきたぞ。







 アクアヴェネツの入口は門はないが関所はある。

 しかしシュルト城下町と一緒で形式としての関所みたいなので特に問題なく通れた。

 関所を抜けた先に外から見たものと同じ景色が広がっていた。

 湖に浮かぶ家々、そこに向かう小舟、その小舟を止める停泊所。

 湖の遠く先には大きな城が見える。

 舟に乗る人も多いがもちろん歩いて移動する人も溢れかえっている。


「おおー! でっけぇー!」

「でっかい池だねー!」

「デカイのは分かりましたけど、アクアヴェネツはいつもこの様な人混みなのですか?」

「いや、私達が前に訪れた時はもっと静かな感じでしたけど……というよりこの賑やかな雰囲気は恐らく、祭りのようですね」

「お祭りですか? 今日は何か記念日とかなんですかね」

「うーん……そんな情報は聞いてないんですけど、まあ活気があるのは良いことじゃないですか」


 そうだな、寂れた雰囲気より今のような皆が笑顔を浮かべている方がこちらも楽しくなる。

 さてと、ハンスさんとララさんとはここでお別れになる。


「それじゃあ皆さん、ここまでお供していただいてありがとうございました! 私達の結婚式は四日後にここの教会で挙げますのでよろしければ是非いらしてください!」

「闘司さん、リュリーティアさん、本当に一緒に式を挙げなくてよろしいんですか?」

「「大丈夫です」」

「ふふふ残念です。それじゃあ本当にありがとうございました、またお会いできたら」

「二人ともまたねー!」


 二人は馬車で別の方向に去っていった。


「さて、どうしますかね?」

「まずは泊まるところを探すとしましょう。流石に野営は出来ませんので」

「ですね、そうしま……ん?」


 急に周りの人達が道の真ん中を開けるように動き、両側に並び出した。

 俺達も訳が分からないまま同じように片側に避ける。


「一体なんですのこれは?」

「さぁ……何でしょう」

「あっトージ! 誰か歩いてくるよ?」


 シャルルの指さす先には、開けた真ん中の道を歩く女性の姿があった。

 その人は、水のように透明でありながら青色を含む髪色をしていて、豪華なドレスを身に纏い傍には護衛らしき人を数人連れて、道行く人に手を振りながら歩いている、どう見たって偉い人だなこりゃ。

 なるほどそれで皆は端に寄ったのね、大名行列みたいな感じか。

 流石にここで列を離れるのは失礼にあたるだろうと思い、お偉いさんが過ぎるまで待つことにした。


「あの方もしかして王女様ではございませんの?」

「お偉いさんだとは思いますけど、王女様がこんな風に普通に出歩きますかね」

「まあ護衛が居るとはいえ確かに不用心ではありますわね。だとしたらどういった方でしょうか」

「うーん、あの人神様みたいな力を感じるよ?」

「嘘だろシャルル?」

「言われてみれば……と言いますか、あれはシャルルさんに似た力の感じですわよ」


 シャルルに似た感じ……もしかして加護の力か?

 俺にはさっぱり掴めないのでお手上げだけどこの二人には分かるみたいだ。


「シャルルさんと同じような力の持ち主ならこうして歩いていてもさして問題ないですわね」

「えへへ〜ボクって凄い?」

「凄いぞぉー、超すごい」


 気づいたら王女様(仮定)は俺達のすぐ近くまで来ていた。

 遠目でも綺麗な人だなとは思っていたけど、いざ近くに来られると本当に単純な綺麗さだけではないのが伝わる。

 人の心にスっと入り込んでくる柔らかな笑顔、手を振る所作も優雅さが溢れ、足音など立てずに歩いていてとてもエレガンス!

 芸術品を見ているような心持ちで眺めていると、王女様はピタリと俺達の目の前で立ち止まった。

 そしてこちらをジーッと見つめて驚いた顔をしているので、俺も負けじとジーッと驚いた顔で見つめ返してしまった。


「おい、貴様。王女に何をした」

「へ!? いや俺は何も……!」

「っ! おやめなさいその方は何もしておりません、下がりなさい」

「いやしかし……」

「二度も言わせるつもりですか?」

「いえ……失礼しました」

「貴方も、申し訳ございませんでした。どうかお許しを……。 」

「いやいや!! 本当に大丈夫なので!! 全然気にしていないので!!」


 護衛の方に詰め寄られた俺に対して、そんな事で俺に頭を下げてきた王女様。

 頭を下げさせてしまった事も申し訳ないが、周りの人達の視線が恐ろしく気になって、もう今すぐ袋叩きにされるのではと気が気じゃない。


「ありがとうございます……。それでは私はこれで。……またお会いしましょう」

「はいお気をつけて! ……はい?」


 今なんて、また会いましょう? いやまさかな。

 何とか聞き返したかったけどまだ周囲の人がザワザワと俺達を見ながら喋ってるので、これ以上ここに居るのはマズいと判断して立ち去ることにした。







「ふぅー……ここまでくれば、大丈夫だろ」

「全く闘司さんは、今度は一体何をしたのですか?」

「何もしていないですし、今度はって、それじゃあ俺が頻繁に問題事をやらかしているみたいじゃないですか!」

「あら、違うのですか?」

「ぐぬぬ、割と否定はできないぞ……そうじゃなくて今回は本当に何もしてないはずですよ。あっちが俺を見て勝手に驚いてた感じだったので」

「何もしてないにしても原因は闘司さんみたいですわねそれは」


 そういえばそうや……。

 あまりの驚きに似非関西弁が出てもうた。

 本当に何で王女様は俺を見て驚いていたんだろう……。

 うーむ、考えても何も分からない。


「ダメですね、考えても分からないので本来の目的をまずはこなしましょう」

「それが良さそうですわね、それで宿屋はどこにあるのでしょうかね?」



「それならオススメがあるわよ?」



「「!?」」

「さっきの人!」


 突如背後から話しかけられる、振り返るとそこに居たのは。


「さっきぶりね」

「ほぁ? お、王女様?! 何でここにいるんですか、だってさっき……!」

「逃げてきちゃった☆」


「ちょっと闘司さんこちらへ……!」

「うわっとと! ど、どうしたんですか……?」

「どうしたもクソもないですわよ! 何で王女様がいつの間にかここにいらっしゃるんですの!? (ワタクシ)とした事が全然気配を掴めませんでしたわ……!!」


 俺の腕を引っ張り王女様に聞こえないように話す。

 聞きたいのは俺の方なんだが、というか本当にニュっと現れたよなこの王女様は。リュリーティアさんが気づかないとは相当だぞ。


「ねーねー、王女様は王女様なの?」

「うん? そうよ、私はこのアクアヴェネツの王女、ルサ・ルカよ。ふふん、凄いでしょ?」

「わーやっぱり王女様だったんだー! ねートージ、やっぱり王女様だったよ!」

「そうかー。シャルルはそのまま少しお話しててくれー」

「うん!」



「シャルルさんは無敵ですわね……」

「怖いもの知らずというか何というか、不思議と相手は怒らないしむしろ仲良くなっていくんですよね。で、どうします? 本物の王女様だそうですよ?」

「知るわけないですわよ! (ワタクシ)シュルト城下町でも王族とお会いしたことなど無いのですから!」



「ねぇ、あの二人は何を話しているの?」

「んー、分かんないけど王女様がいきなり現れたから驚いてるんだよきっと」

「そうなの? サプライズだと思ってやったのだけど失敗だったかしら……? それと、私の事はルカって呼んでちょうだい」

「分かったよルカ、ボクはシャルル!」

「シャルルね、よろしく」



「あの二人なんか自己紹介してますけど俺達もした方が良いのでは? このままでは不敬だー!とか言われて捕まったりなんかしたり……」

「さ、先に闘司さんからしてくださいな。(ワタクシ)はその後にしますので」

「いやリュリーティアさんの方がこういう人達の対応上手そうでしょ! リュリーティアさんこそ先にどうぞ!」

「闘司さんそれでも男ですの!?」



「話長いのね……それとあの二人結構距離が近いけどそういう仲なのかしら?」

「んー、良くわかんないけどトージとリュリーティアはいつも仲良しだよ!」

「そうなの、微笑ましいわね」



「そろそろシャルルの時間稼ぎも限界なのでは? いい加減行きましょうよ!」

「ええい、闘司さんこうなったらジャンケンですわ! それで決めますわよ、せーのジャンケン!」




「えー長らくお待たせしました王女様。俺の名前は八代闘司と申します。なんの取り柄もなく、唯一自慢できることはシャルルが大好きな事くらいです。以上です」

「へっ? あ、あぁはい闘司ね、分かったわ。私はルサ・ルカ、アクアヴェネツの王女よ」

「御前失礼致します、(ワタクシ)はリュリーティア・アルチュセール。シュルト城下町の副騎士団長をしておりましたが今は訳あって闘司さん達と共に旅をしております。アクアヴェネツの王女様であるルサ・ルカ様とこうして会えること光栄の極みで」

「長い長い、それに堅苦しいわ。普通に接してちょうだい、そっちの方が私も楽なのよ」

「……分かりましたわ。改めて、リュリーティア・アルチュセールです。よろしくどうぞですわルカ王女」

「うーん王女もいらないんだけど、まっいいわ。よろしくね二人とも!」


 おお、思った以上にフレンドリーな王女様だな。

 待たせたのに嫌な顔一つしないでいる。

 それよりさっき見た時とはガラリと別人になっていないかこの人は。

 さっきあったあのエレガンスは何処にいったのだ……。

 自己紹介が終わり少し沈黙が訪れる。

 え? どうすればいいのこれ?

 やめて肘で小突かないでリュリーティアさん、分かりましたから。


「あっあのルカ王女……それで俺達にどんな御用で?」

「どんなって、貴方達泊まるところを探しているんでしょ?」

「何でそれを知ってるんですか?!」

「それは聞いていたからってそれはどうでもいいのよ、とにかく泊まるところが無いのなら私のオススメの宿屋があるのよ。そこに案内してあげるわ!」

「ええ? それは有難いですけど……大丈夫なんですか? だって……王女様、なんですよね? 公務とか色々あるんじゃ」

「大丈夫大丈夫、置き手紙もしてきたし心配いらないわ! さっそうと決まれば行くわよ!」


 あっ、アカンわこの人。

 そういえば逃げてきちゃった☆とか言っていたし。

 ズンズンと前を進むルカ王女を追いかける。

 正直王女が普通に歩いていたらすぐにバレるだろと思ったが、誰も気にもとめずルカ王女の横を通り過ぎていく。

 嘘だろ、さっきまであんなに列作って集まっていたのにみんなスルー?

 俺の疑問なんか欠片も気にしない様子のルカ王女は、湖の前で歩みを止めた。


「さて、闘司達はアクアヴェネツは来るの初めてだよね?」

「はい、そうですけど」

「ふふーんだったら驚くでしょうね。ほら、これを好きな方の耳に着けてちょうだい」


 そう言って渡されたのは深い青色のイヤリング。

 言われた通りに俺は右の耳に着けた。


「よく似合っているわね。それじゃあ行くわよ」

「行くって、湖しかないですし……舟でも待ってるんですか?」

「違うわ、このまま進むのよ」

「へ? だから湖しか……」











「だから宿屋はその湖の下にあるの。どう、驚いたでしょ?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ