基礎を学ぶ・4
夜ご飯を食べ終わりハンスさんとララさんは馬車に戻っていく。
シャルルは一足先にテントで眠っている、さっきも急に寝てたし疲れがあったのだろう。
俺はまだ寝るには早い時間なので外で火をぼんやりと見ている。
「なるほど……焚き火をひたすら見るあの番組は需要があったんだな……」
パチパチとたまに音をたてる焚き火を座りながらただひたすら眺めていると隣に誰かが座った。
「傍から見ると結構怖いですわよその姿……」
「リュリーティアさん。いえね、結構クセになると言いますか……なんかじっと見ていられると言いますか。そんな事よりどうしたんですか? まだ交代の時間じゃないのでは?」
そうなのだ、夜にウルフェンのような魔物が襲ってきた時のために、俺とリュリーティアさんで交代で見張りをしようという事になった。
先に俺が見張る番なのでまだリュリーティアさんの時間ではないはず。
「闘司さんの時間を有効利用してあげましょうと思ってここにきたのですわ」
「有効利用?」
「ええ、お勉強のお時間ですわ」
「お勉強……あぁなるほど」
お勉強とはつまり、俺の特訓だ。
皆が寝静まっているので流石に戦闘訓練ではないから、多分魔法の方だろう。
「分かっているとは思いますが、魔法の訓練を致します。この前の魔力を放つ訓練をしましょう」
そういってリュリーティアさんは立ち上がり、少し歩いた後地面にウルフェンの首を置いた。
は……? 首?
「闘司さんはこのウルフェンを狙って魔力を放ってください」
「いや、えっと、えぇ……」
「あんまり多く放とうとすると失敗した時にうるさいので少なめでお願いしますわね」
平然とウルフェンの首を置いて平然と進められても困ってしまうが今日のツッコミは終了したので追求しないでおこう。
意識を切り替えて集中する、手のひらに魔力を集めるイメージをしていく。
ポンッ、失敗。もう一度、ポンッ。もう一度、ポンッ。……もう一度、ポンッ。ポンッ。ポンッ。ポンッ。
「はー……はー……!」
「そんなムキになっても出来ませんわ、それともう魔力が尽きかけていますわよ。これを舐めてください」
「これは……飴?」
「マナキャンディですわ。これを舐めると少しだけ魔力が回復しますの。少しといっても闘司さんの今の魔力量なら充分ですが、体力を使う前にどうぞですわ」
薬と一緒に買っていたあの飴か。
魔力を回復出来るとはなんて良い物だ、1つ口に放り込む。
んむ、これ、ミント味か……。
「ふふふ、甘い味かと思っていましたか? たしかに甘いのもありますがそれだと回復量が少なくなってしまいますの、ですので我慢してくださいね?」
「子供じゃないので大丈夫ですよ……」
「なら良かったですわ、それではそのまま続けてください」
むむーん……また手のひらに魔力を集める、そして放つ、ポッ。
さっきと違い手のひらで小さく破裂するのではなく、少しだけ魔力が飛んだ。
おおやったぞ、この調子でやればイケる!
何回かやるとまた疲労のような感覚がやってきたので飴を舐める。
そして魔法を放ち飴を舐めるのを数回繰り返すと、ウルフェンの首まで魔力が届くようになった。
「ほらやりましたよリュリーティアさん!」
「ええ見ておりましたのでよく分かりますわ。頑張りましたわね闘司さん」
「へへへ何だか嬉しいですね」
「さて、集中してお疲れになったでしょう。見張りを交代しますわよ、闘司さんは寝ていて大丈夫ですわ」
「え、いやでもリュリーティアさん全然休めていないんじゃ」
「闘司さんが集中して訓練している間に、目を閉じて身体を休ませておりました。ですのでほら、お休みになってください。ですが二時間したらまた代わってもらいますわよ?」
グイグイとテントに押されてしまったのでそれ以上何も言えず大人しく従う。
シャルルを起こさないように静かに隣に寝そべる。
「休まないと明日は倒れてしまうかもしれないので注意が必要ですわ……」
今なにかリュリーティアさんが喋っていなかったか?
んー……気のせいか、疲れでちょっと過敏になっているんだなさっさと仮眠を取ろう。
太陽が昇り明るさを主張する時間になった。
あの後二回ほど交代があって俺は眠気がやや残っているのだけど、リュリーティアさんは平気な様子である。
シャルルは、うん、元気いっぱい可愛い可愛い。
眠気なんてあるはずないって感じだね。
「トージ、なんか眠そう?」
「うーん、ちょっと眠いかなぁ。でも大丈夫だよ」
「そう? もし眠くなったら膝枕してあげるよ!」
「あっやっばい……激ネム……瞼が重力と眠気に負けたわ……シャルル膝枕を」
「はいはい朝食を食べたら闘司さんは一仕事ありますので寝ている暇はありませんのよー」
リュリーティアさんそんな殺生な!!
朝食を食べ終わった俺はリュリーティアさんに昨日置いたウルフェンの首がある所に連れてこられた。
ハンスさんとララさんとシャルルは危険なので馬車に待機している。
いや危険な事って何だ、何をさせられるのか検討もつかない。
「闘司さん、気を張り詰めてください。もう訓練は始まっておりますわよ」
「え?」
「アオーーーーーーーン!!」
突如として聞こえてくる謎の音。
いや音というより、これは鳴き声?
そう思うと今度は地面を軽く叩くような音が聞こえてくる。
段々近づいてくる音の方向を見ると、なんとウルフェンがこちらに向かってくるではないか。
「ちょちょっと!? アレ、こっちに来てますよ?! ねぇ!」
「狙い通りですわね、首を置いた甲斐がありましたわ」
「は? まさかリュリーティアさんがウルフェンを呼び寄せたんですか?」
「そうです、ウルフェンの首の血の匂いで仲間の危機と思った他のウルフェンが来ると予想しましたの。ちなみに闘司さんはアレと戦っていただきます。大丈夫、一匹しかおりませんし、この前教えたことをすれば楽勝ですわ」
あっ……これ、訓練かぁ……。
そっかぁ……やるしかないのか……あちらさん臨戦態勢で唸っていらっしゃる。
観念して戦う事にした。
腰に携えた剣を鞘から抜き、正面に構える。
「来ますわ!」
[攻撃を確認、スキル発動、能力値上昇。]
声と同時にスキルの警告が響く。
どうやらウルフェンは俺より強いようだ、当たり前だが。
飛びついて噛みつこうとするのを剣で防ぐ、ガジガジと涎を垂らしながら剣を噛み続けている。
コイツそんなに頭は良くなさそうだな。
払うように剣を振り一旦距離を取る、と思ったら野性よろしく遠慮なしにまた噛み付いてくる。
今度は横に飛んで避ける。
「ほらほら闘司さん避けてばかりではいけませんわ。積極的に攻撃なさらないと」
「って言っても、ねぇ!」
諦めず噛み殺そうとするウルフェンの攻撃をひたすら避けていると、気づく。
さっきから俺の首を狙ってくるのと、真っ直ぐにしか飛びかかってこないこと。
なるほど、確かに魔物の攻撃は単調でちゃんと観察してれば避けるのは簡単みたいだ。
何回か避けて、また飛びかかってきたのを狙って剣を振り下ろす。
「ギャウ!!」
「何を躊躇っているのですか!! まだ生きておりますわよ!!」
「っ!?」
振り下ろした剣は半分までしか埋まっておらず、ウルフェンは苦しみながらも俺に牙を向けてくる。
そのまま倒されてしまうが何とか手で噛みつかれないように頭を押さえ、そのまま横に捻って首を折る。
コヒュという空気が抜ける音、首の折れる音と一緒にウルフェンの身体はぐったりとして動かなくなった。
「ふ……ふぅ〜、危なかった……」
「闘司さん、魔物は単調であるからこそどんな状況でも同じ事をしてきます。今みたいに殺しきれないと逆に反撃されて死にますわよ?」
「はい、今とてもよく分かりました……」
ウルフェンに剣が刺さったままなので抜き取る。
何処かで殺すのに抵抗があったのだろう、振り下ろす時に力を抜いてしまったのだ、剣についた血を払って取る。
「さて、闘司さん」
「はい」
「さっきのような躊躇を無くすのに良い方法があります。何か分かりますか?」
「いや、わからな」「アオーーーーーーーン!!」
「……分かりました」
「素晴らしいですわ! では次も頑張ってください」
なるほどなるほど、数をこなせってか。
どうか死にませんように。




