森、そして出会い。
これといって特に警戒する必要はなかったし、むしろ元の世界では普段見ないような大自然に目を奪われていた。
「でもこの大自然はいらないなぁ……」
森の前まで辿り着いたけどついついぼやいてしまう。
木が生い茂った森は僅かながら陽の光を通してるだけで、薄暗く不気味な雰囲気を出している。
しかしここを通らねば村に辿り着けないのだ。
覚悟は決まってないけど、そんなに時間と余裕がないので行くしかない。
「よし……」
何も起こらないことを祈りながら、足を森に向けて踏み出す。
森の中では自分では真っ直ぐ歩いているつもりが、木々などを避けているうちに道を外れたり、地面に起伏があったりで真っ直ぐ行けなかったりするらしい。
何故そんな事を説明するかというと。
「迷った」
そう、迷ったのだ。
もしかしたら迷ってないと思いたいけれど、いくら何でも時間がかかっている。
「おかしい……あの山の真ん中で見た時はそんなに広くなかったし、割とすぐ着ける筈なんだけど……」
実は同じ事を3回ほど言っている。
そうしないと不安が増してくるのだ。
何も起こるなと祈りはしたけど、自分で起こしてしまったのには笑えてくる。
いや笑えない。
「でも、おかしいんだよな。仮に森をぐるぐる回ってたとしたら少しくらい見慣れてもいいと思うし、斜めに進んじゃってたとしても、もう森を抜けれても良いんだ」
森の中を迷うという経験がないから断言が出来ないけれど、いつまで経ってもこの見慣れない感じがあるのはちょっと恐ろしい。
「あーダメだ、一旦休もう」
ずっと歩きっぱなしだったので足が疲れてしまった。
丁度寄りかかれる木があったので、そこに背をもたれる事にした。
座って一休みしたところでふと気づく。
ポスッポスッという音と、目の前の茂みが揺れていることに。
なんとも言えない不安がやってくる。
そして音が止み揺れも止まった。
「ヌムゥーっ」
ヌムゥー。何だそれ。
「ヌムゥーっ。ヌムゥーっ!」
まただ、これって鳴き声?
まさかモンスターなのか!?
「や、やばいぞ……疲れてるってのにモンスターから逃げられるか……? いやとりあえず、もうすぐ側にいるみたいだしここは迷わず逃げるべきだな」
ゆっくりとその場で腰を浮かして目を逸らさないようにしながら、いつでも走り出せるようにして後退しようとする。
立ったところで茂みから薄い青色の、小さく丸い何かが出てくる。
「ひっ……あれ? ……これって」
そうだ。見覚えのあるコレはゲームで頻繁に出てくるあの有名なヤツでは。
「スライム?」
声に応えるかのように可愛らしい球体がポスッポスッと跳ねている。
何だコレ可愛い。
そのスライムは俺の脛のあたりまでの大きさしかなく、さっきまでの不安は無くなっていた。
「なんだよーこんな小さいのにビビっていたのかよー!」
「ヌムゥー」
「うわー! 鳴いた! スライムって鳴くんだ! それにこの丸さは何かとても愛らしい!」
「ヌムゥー。ヌムゥーっ!」
「ん? なんだぁ〜何かあるのかぁ〜?」
スライムが俺の下でポンポン跳ねるので何かあるのかと屈んだ瞬間だった。
ドスッという音と共にスライムが腹に突進をかましてきたのだ。
「うぼぉあああああ!!!」
絶叫しながら突進の勢いで後ろにゴロゴロ転がっていく。
痛い、すげー痛い。
食料を持っていなくて、食べ物が胃に入っていないのが良かったのか吐かずには済んだ。
「ゲホッガハッ! うっ……痛っ!」
「ヌムゥー」
「ひぃっ……!」
完全に油断していた。
自分よりずっと小さくて、しかも恐れる様な姿もしていなかったのに騙されてしまった。
こいつはモンスターなのだ。
ペットとかそんなものじゃないんだ。
でなければあんなに人を吹き飛ばす程のパワーは考えられない。
どうにかして逃げ出さなきゃ殺されてしまう。
「ゲホッ! くっ……上手く、立てない、痛っ!」
お腹に激痛が走って立つのがやっとだ。
こんな状態で逃げられるのか。
「ヌムゥーっヌムゥー」
「ヤバい!」
ポスッポスッとまた跳ねながら近づいてくる。
なんとか、なんとかしなければ。
必死に痛みに耐えてスライムから逃げ出す。
しかし自分でも不思議なほど逃げられない、というか差が広がらない。
見たところスライムの速度は早くないしむしろ遅いくらいなのだ、なのに逃げられないのは何故なのか。
首を横に動かして見ると、景色が流れていくのが遅いのに気づいた。
魔法か何かかと疑ったがどうやら違う、コレは……。
「俺が遅くなってる!?」
そうだ、頭では走っていたつもりが体は歩いているかのように遅く動いているのだ。
これじゃ逃げれるわけが無い。
「うわわっ!」
考え事に気を取られていたら木の根につまづいて転んでしまった。
すぐそこにスライムが近づいてきているのが分かって焦ってしまう。
まさか、こんな早く死んでしまうのか? 俺、スライムに殺されちゃうのか?
というか神様俺がピンチな時は助けてくれるはずだったじゃないか。まさに今がそのピンチの時だと思うんですが……あっヤバいもう目の前にスライムが……。
「何してるの? おにーさん。」
「えっ……?」
いきなり後ろの方から声をかけられて振り向くとそこには、少し愛らしい美形の金髪で耳の長い少年が立っていたのだ。
天恵だ、コレはあの神様からの救いなのだ。
助けを乞おう、そうすればきっとこの状況を切り抜けられる!
「たっ助けてくれ! お、お、俺このスライムに殺されそうになってて! お願いします!」
「えっ? 何で?」
金髪の少年はさも不思議そうに俺に無慈悲な答えを返してきた。
あっこれ死んだわ。
そう思った瞬間、背中にさっきの突進が当たり俺は今度は前にド派手に転がりながら、めのまえがまっくらになった。




