シュルト城下町出発前日・2
ドランの家に着くまでブツブツとドランがうるさかったがやっと辿り着いた。
さっさとカメラを受け取ってさっさとオグマさんの所に行こう。
家に入るとそこで座って待っててと言われたので大人しく座って待つことにした。
やっぱり二階のあの部屋と比べて一階のこの部屋はシンプル過ぎるくらいだ。
机とソファくらいしかない、でもその奥の部屋にはぎっしり詰まった衣装と撮影するためのスペースがあるのだ。
暇なので今度はシャルルとあっち向いてホイをして遊んでいるとドランが四角い箱を持ってきた。
「ほら闘司、この中にカメラが入ってるんだ。それとフィルムも一緒に入っている。使い方はどうやら知っているんだろ?」
「ああちょっと縁があってな、ちなみに現像はどうすればいいんだ? やってくれる店とかあるのか?」
「ああ店の数自体は多くないが必ず町や国の中には一つはあるはずだからそこに行くといい」
「そうかありがとう、じゃあ帰るな。また寄った時に写真やるから楽しみにしてな」
「おいおいおい! もうちょっと居てもいいんだぞ?」
「あっ本当に大丈夫ですので……」
「急に敬語はやめろよ……頼むよぉ、ほんの少しでいいんだ! シャルルくんをもう少しだけ拝ませてくれよ!」
はぁ……まあ仕方ないか。こうなる事はある程度予想してたし良いだろう。
「分かった良いよ、その代わりシャルルの為に美味しいお菓子と紅茶を用意したらな」
「それなら任せろ! 前回から用意は欠かさねぇぜ!!」
「ほんと!? わーいドランありがとう!」
「うっ!! ありがとう……ありがとう……嬉しいぜぇ」
「はやく行け」
ドランが終始シャルルに質問をしまくって小さなお茶会は終わりを迎えた。
帰る時も名残惜しそうな凄い顔をしていたのでシャルルに手を振ってあげなとお願いして振ってもらったら、飛び上がって喜んでいた。
なんてチョロい奴なんだアイツは。
そんなこんなで最後は教会にいるオグマさん達に挨拶をして最後となるだろう。
俺達が草むしりをした協会の庭は更に綺麗にされていて、花が植えられている花壇が前より増えていた。
花壇を通り抜けて教会の中に入る。
前回はオグマさんが祈りを捧げていたけど時間は違うので多分今日は終わっている頃だろう。
「オグマさーん?」
「闘司さん、それに皆さんもようこそいらっしゃいました!」
今日は教会の清掃をしていたようで手にはモップを持っている。
そういう事もしなきゃいけないのか、中々大変だな神父というものは。
「こんにちはオグマさん、今日はちょっと挨拶をしておこうと思って来たんです。子供たちは孤児院の方ですか?」
「ええそうですよ、わざわざありがとうございます。どうぞ孤児院までささっどうぞどうぞ」
清掃はいいんですかと言いたかったがそれより早く促されてしまったので従っておく。
主祭壇横の通路から孤児院まで、初めて来た時同様子供たちの遊ぶ声が段々と大きくなってくる。
扉を開けて俺達の姿を認識すると同時にこれまた同じように突進してきた、今度はミネルちゃんも一緒に。
「やーやーみんなまた来たぞー」
「にーちゃん!」「にーちゃんたちだ!」「シャルルもいるー!」「おねーちゃんあそぼー!」「おにごっこしよー!」「かくれんぼだよー!」「あの、こんにちは!」
怒涛のラッシュに怯んだがミネルちゃんは落ち着いて挨拶をしてきた、なんてしっかりした子なんだ……。
さてとまずはお別れの前に目一杯遊ぶとするか!
「し、しぬ……」
「トージはだらしないなー。ボクとリュリーティアは全然まだ遊べるよ?」
ベタりと床にへたりこむ、その上に子供が乗ってきた。
シャルルの元気の多さは分かるがリュリーティアさんは何故だ、そうか確かサラマンダーは纏うと心肺能力の強化がされるって書いてあったぞずるい!
「いいえ闘司さんそんなズルしたろみたいな目をしても私は魔法は使っておりませんの、日々の鍛錬の差ですわ。おーほほほほ!」
「おーほほほ!」「おーほほほー!」
あぁアーナとウェヌスがリュリーティアさんの高笑いを真似してしまっている。
「おーいにーちゃん無事か?」「おきろー!」
「ソル、アポロ、にーちゃん起きれないからちょっとどいてくれ……」
「ちぇー」「はーい」
起き上がりシャルルの方を見るとネプトとマルスとまたおにごっこをしていた、元気が過ぎる。
「シャルルにーちゃん速すぎ!」「つかまえられないよ!」
「ふふーん、ボクは凄いからね!」
「はいはいシャルルくんジンの魔法使うのはズルですよー」
「そそそそんなことしてないよトージったらやだなーもー」
目が泳いでいるぞシャルル。
ミネルちゃんを探してみると何やらオグマさんと話しをしているみたいだ。
楽しそうに話しているし邪魔はしない方が良さそうだな。
よし、それならもう少し頑張って子供たちの相手をするとしよう。
「ソル! アポロ! 第二回戦突入だぁ!」
「……、……ゴホッ」
「おーいにーちゃん死ぬなー」「ひんじゃくー!」
背中の二つの重しをどかす体力と気力が残っておらず、陸に打ち上げられた魚みたいに時々思い出したようにビクンと跳ねる。
「ソル、アポロ、闘司君から降りてあげなさい。また神様のお世話になってしまう前にね」
「「はーい」」
ありがとうオグマさん、また転生するところだった。
無駄に幽鬼のようにゆらりと立ち上がる。
流石に子供たちも遊び疲れたのか寝てはいないが静かになっている。
「ありがとうございます、ちょっとお花畑の幻覚が見えてしまってました……」
「ふふどうもありがとうございます。みんな遊んでもらえて嬉しかったのでしょう、いつもより元気でしたよ。闘司さん達はそろそろお帰りの時間ではないですか?」
「あっと本当だ……。おーいみんなー!ちょっと集まってもらっていいかー?」
呼びかけるとみんなトコトコ集まってきてくれた、なんかカルガモの親になった気分だ。
「えっとな、にーちゃん達は明日な、違う町に行くんだ。それをみんなに言おうと思って今日は来たんだ」
それを言うと一斉にえー! という声を上げてくれた、嬉しいことにみんな残念がってくれてるようだ。
「でも大丈夫、またここに絶対に来るから。みんなと遊びにくるからな?」
「そうだよ、また遊ぼうね!」
「今度は護身術をお教えしてあげますわ」
「あ、あの!」
ミネルちゃんが何か後ろ手にモジモジしている。
他の子供たちもミネルちゃんの近くに寄って何か囁いている。
やがて意を決したように手を差し出した、その手の上には三つの指輪のネックレスがあった。
「これ、教会のみんなで闘司さんたちのために作ったの……旅の安全を祈ってこれに込めようって。あのわたしが元を作ったから変だと思うけどみんなが一生懸命形を整えてくれたからその、だから……」
「ありがとう、本当に嬉しいよ!」
「ミネルが魔法で作って、他の子供たちが形を削ったりして整えたのです。オマケですが私が祈りを込めました。きっと貴方達を守ってくれるはずですよ」
「そんなオマケだなんて、そんなはずありません。みんなも、ありがとうな大事にするよ!」
指輪のネックレスを受け取り二人に渡す。
俺とシャルルは同じく首に掛けることにした。
「ミネルさん、申し訳ないのですが私は指に嵌めたいのですけれど、チェーンを取ってしまってもよろしいですか?」
「は、はい! 大丈夫です!」
チェーンを外し、リュリーティアさんはあまり見たことない左手の親指にそれを嵌めた。
どうやら親指のサイズにピッタリだったようで逆さにしても滑り落ちる様子はない。
「あ、あのちょっと大きかったですか?」
「いえ……ここで良いのです。本当に綺麗な指輪ですわね、ありがとうございます」
左手を翳し指輪を見つめるリュリーティアさんのその姿が綺麗でついドキリとしてしまった。
女の子達もそれを見て、かわいい、きれー! と言っていたので綺麗さは間違いないようだ。
俺も首に掛かるネックレスを持ち上げて見てみる、綺麗なのは確かだけどその他に不思議な感覚を受ける。
なんだろう、少しだけ力というかマナみたいな印象を指輪から感じ取れるぞ。
「リュリーティアさん……これって」
「あら、闘司さんも気づきましたか? そうですわ、この指輪には土の魔法が込められているようです。魔法で作ったものにはたまにこのように魔法が付与される事がありますの。しかし、ミネルさんはどうやら無意識でそれをやってのけたようですわね」
「それって凄いことなんですか?」
「普通の剣などに魔法を込めることは出来ますが、それは一時的なモノになってしまいます。しかしこのように魔法で作る物は常に魔法がかけられた状態になって出来上がります。無論、誰でも出来るわけではありませんし、出来るとしてもかなりの魔法の使い手でないと無理ですわ」
それをミネルちゃんはしたってことか?
今の話しを聞くとミネルちゃんは土魔法に関してかなりの使い手って事になってしまうぞ。
「まぁ魔法というものは不思議なものです。ミネルさん一人の力ではなく、オグマさんの祈りや、形を整えた子供たちの力も合わさってコレが出来たのかもしれませんわよ?」
「そんな事があるんですかね……?」
「何よりそちらの方が素敵ですし、私は好きですわ」
子供たちの顔を見てそう微笑むリュリーティアさん。
そうだな、そっちの方が俺も好きだ。
教会から帰る時、みんなが元気よく見送ってくれた。
途中泣き出しちゃった子もいたけど、それでも見えなくなる最後までには笑顔を浮かべてくれた。
とても優しい場所だったなと改めて思いながら3人で宿屋に歩いていく。
「リュリーティアの手、なんだかあったかいね」
「あら、自分では分かりませんが、暑くないですの?」
「ううん、そういうあったかさっていうか、心があったかくなるようなそんな感じ!」
「うふふそういう事なら分かりましたわ」
シャルルと手を繋いでるリュリーティアさんの左手の親指は指輪が嵌められている。
その指輪の想いの暖かさをシャルルは感じ取ったのだろう。
少し別れるのが寂しくなってきたがこれも旅には付き物なんだろう。
そうだ少しづつ、少しづつ慣れていこう。




