次の目的地
三回目ともなれば慣れたもの、というわけはなく頭まで被ったシーツをベリっと取られてそのままの勢いでベッドから落ちてしまい太陽光線に目を炙られる。
目がぁ! 目がぁ!!
……起きるか。
「闘司さんおはようございます」
「今日も優しく起こしていただきありがとうございます……」
「当然の事ですわ」
皮肉は通用しなかった。
朝食の最中、ふと気づいたようにリュリーティアさんに聞かれた。
「そういえば次はどちらに向かうのかお決めになったのですか? そもそも、どこに何があるか分かっていますか?」
知らない、知らないしそういえば何も決まっていなかった。
そうか、旅の支度などはしたけど具体的に何処へ行こうかなんて考えてもいなかった。
「もひぁんのほひひいふぉほほ!!」
「シャルル、食べながら喋ってて何言ってるか分からないはずなのに言いたいことが分かるぞ。ということでリュリーティアさん、ゴハンの美味しいところにしましょう」
「その意見には賛成致しますが私も実はあまり他の土地の事など分かりませんの、なのでまずは噴水広場でここら一帯の地図を買いましょう」
「あら、次はどこに行くか迷ってるのかい? だったら水の都なんか近くてオススメだよ。あそこの海産物は美味しくて有名だしね」
「サシャさん。水の都、ですか?」
「ああそうだよ。水の都、アクアヴェネツさ。海産物以外にも面白い所が沢山あって良いところだよ、候補として入れてもいいんじゃないかい?」
アクアヴェネツかぁ……ちょっと興味が湧くなぁ。
この世界の海産物なんてのも気になるし、うん良さそうかも。
「いやいやサシャよ、ここは鉱火山都市サラマッドに決まっているだろ! あそこの温泉は骨身に染み渡るぞぉ……。それに、色々な種類のサウナもあるしな」
「アンタねぇ……闘司くん達はアンタのようにオジサンじゃないんだよ。それにサラマッドには有名な料理とかないだろ?」
「何言ってるんだ! 温泉で作られる温泉卵もさる事ながら、火山熱を利用した燻製料理なんてもう……酒が進むこと間違いなしだぜ!」
「どうしてそう考えが親父臭いのよ、シャルルくんもいるんだよ?」
「はっ!? そうだったな……」
門番の仕事に行く前のガラッドさんも話に加わってきた。
鉱火山都市サラマッド……これも興味がそそられる。
温泉も良いけど、燻製料理に心が動いている。
これも候補に入れておこう。
「ふんふん、サシャさんガラッドさんどうもありがとうございます。今の二つを入れて他もちょっと探してみます」
「そう? まあ好きなように決めたらいいよ」
「サシャの言う通りだな、闘司達の好きに決めて旅をすればいいさ」
「はいそうします、じゃあ行ってらっしゃいガラッドさん」
ガラッドさんはそのまま仕事に向かっていった。
サシャさんも宿屋の業務に戻っていったので、朝食を食べ終わった俺達も噴水広場に繰り出すことにした。
噴水広場に向かう最中、シャルルとリュリーティアさんにさっきの二つならどっちが良いか聞いてみる。
「アクアヴェネツ!」「アクアヴェネツですわね」
「あらら、二人ともアクアヴェネツ? 俺はサラマッドが気になってるんだけど」
「トージ、親父臭いの?」
「ぶっ!! ……ふふ、す、すいません」
凄い今グサリときた、あとリュリーティアさんは許さない。
「ち、違うぞ? 俺はまだ若いし、それに俺は燻製料理がちょっと気になるんだ、燻製なんて食べたことないしな」
「クンセー料理はボクも気になるけど今はお魚が食べたい気分なんだー」
「お前今のお腹の気分で選んだのか……」
「私もお魚食べたいですわ。シャルルさん、食べたいですわよねー?」
「ねー!」
「へーへー仲がよろしいようで。まぁとりあえず地図を買って他にどんな所があるか確かめてから決めよう」
話をしていると賑わいの声が大きくなってきた。
噴水広場へと到着したようである。
太陽を反射してキラキラと輝く噴水の頂点は何回見ても綺麗だ。
今日もお店の位置が変わっていて新鮮な噴水広場を見回し、地図を売っていそうなお店を探す。
と、見知った人物を見つける、オグマさんだ。
「オグマさん、今日は噴水広場でお買い物ですか?」
「これはこれは皆さん、いいえ今日はお買い物ではなくミネルのお手伝いに来ているんです」
「ミネルちゃんの?」
オグマさんが指を指した場所にはいつもの怪しい商人姿ではなく、フードを取って品物を売っているミネルちゃんがいた。
頑張って売っている姿が好評なのか、ご年配の方達がミネルちゃんに話しかけたり買っていったりしている。
「盛況ですね」
「ええ。ミネルの愛らしさもありますが、何よりミネルが作るお皿などはデザイン性もあって素晴らしいそうですよ。私はなにぶんそういうのに疎いので分からないのですが……。それで? 闘司さん達は今日は何をされにいらしたのでしょう」
そうだ、この町に長くいるオグマさんなら地図を売っているお店とか知っていそうだ。
「実はですね……」
目的地が決まっていないこと、そのための地図が欲しいこと、地図を売っている場所は何処かを告げる。
「なるほど、そういう事でしたら私の方で使わなくなった地図がありますのでそちらを使ってくださって結構ですよ。ちょっと古いですけど問題ない筈ですから」
「本当ですか!? ありがとうございます助かります!」
「ただし、一つ頼まれてほしいのですが……」
「な、なんでしょう……」
なんだなんだそんな真剣な顔をして、一体何を頼まれるっていうんだ?
オグマさんはミネルちゃんと少し話をしてから、俺達を手招きして先導する。
そのまま協会の方に連れていかれ辿り着いたのは……。
「ここ、ですか?」
協会の外、荒れた庭に連れてこられたのだ。
オグマさんは物置のような所をゴソゴソと漁り、鎌とスコップを取り出してきた。
それを俺達一人ずつに渡していく。
「では、お庭の草むしり及び草刈りをお願いします」
そうきたかー。
荒れ放題伸び放題のこの庭なら、オグマさん一人でやるのはたしかに大変そうだ。
「分かりました、せっせと奉仕させていただきます」
ふっふっ……草むしりってのは大変だ。
屈んでむしれば膝が曲がり、血が止まり足が痺れる、立てばそのまま立ちくらみときたもんだ。
では中腰でやってみよう、論外、腰にくる。
立ってやってみよう、草が遠いよ抜けないよ……。
そんな風に汗を流し悪戦苦闘している俺の隣で悠々と草を飛ばしていく人がいる。
「リュリーティアさん……それは草むしりって呼べるのですか?」
「汗を流して働く姿は素敵ですけど効率の面でやや不足だと思いますのでこうしているのですわ」
リュリーティアさんは土の魔法を使い、土を盛り上げて草を飛ばしている。
掘りあげた草を拾い、魔法で土を元に戻していく。
作業スピードが段違いで、わざわざ区分けしない方が良かったと思う。
もう一方では俺と作業の速度は変わらないが、涼しい顔で草を抜くシャルルの姿が。
涼しい顔というか涼しい風が吹いてくる。
「シャルルは一体どんな魔法を使っているのかな〜?」
「えー? 涼しくなーれって風を吹かせているんだよ。トージもこっち来て一緒にやろうよ、こっちは涼しいよ?」
「えーほんとー? じゃあそうし」
「闘司さん。区分けを提案したのはどなたでしたか?」
「はい……」
なんてこった……過去の俺恨むぞ……。
「「終わったー!!」」
「やっと終わったのですわね」
「皆さんお疲れ様でした。これ、冷たい飲み物です」
ミネルちゃんの様子を見に行っていたオグマさんが戻ってきた。
飲み物を一気に飲み干す、火照った身体を少しばかりか冷ましてくれた飲み物に感謝しつつ、長時間の低姿勢で凝り固まった場所を鳴りほぐしていく。
「闘司さん、これは約束のものです。どうぞお役立てください」
「あっ、ありがとうございますオグマさん!」
「いえいえお礼を言うのはこちらです。荒れてた庭の草がこんなに綺麗になったのですから。後は私と子供たちで花壇のスペースなどを増やしていきますよ」
「それはいいですね。それじゃあ、俺達はこれで失礼します」
「ええ、ありがとうございました!」
「ボクお腹すいちゃったよ」
「それは俺も同感、どこで食べようか」
「それよりまずは汚れを洗い流したいですわ……。一度宿屋に戻ってお湯をお借りできませんか?」
「あぁ、手とか土まみれですもんね……。そうだ、たしかお昼は宿屋でも食べれるってサシャさんが言っていたし、リュリーティアさんの言う通り宿屋に戻ろう。それでそのままお昼としよう」
「あら? そんなサービスまでしているんですのねあそこの宿屋は、ホントにあの看板をどうにかすればもっと人が来るはずでしょうに」
それは言わないでやってください……。
「あっ、それと宿屋でお昼をいただく時は銅貨一枚必要なのでそこは宜しくお願いしますねリュリーティアさん」
「……闘司さん、私は闘司さんに魔法などを教えておりますね?」
「えっ? えっ、はいそうですね。」
「無償で教えてもらえるとはなんて素晴らしい事だとは思いませんか?」
「……そうですね」
「私に別に見返りはありませんけど闘司さんが安全に旅を出来るようになるのでしたら私は全然構いませんのよ、ええ」
「……是非お昼ご飯奢らさせてください」
「あらそうですか? おほほ闘司さんがそこまで仰るならその厚意、受け取らなければ失礼ですわね」
ちくしょう……!




