監視・3
朝の目覚めはとても良かった。
陽の光は差し込まないけれど、開け放たれた窓からは澄んだ朝の空気が入ってきていた。
「……ふぅ、いい風ですわね」
窓枠に手をかけながら風を受ける。
澄んだ空気を味わっていると、前の宿屋から出掛けるお二人の姿が見えた。
「あれは……何処に出かけるのでしょう? あらいけませんわ、早く着替えて追わなくては!」
急いで身支度を整えて外に出た。
周りを見ると噴水広場に向かって歩いている二人がいた。
良かったですわ見失うことにはならなかったですわね。早速何を企てているのか尾行して突き止めて見せますわ。
「……、……いくとしましょう。」
目に入った地面にある自分の失態から今は目を逸らし尾行を開始した。
お二人は噴水広場でどうやらお買い物をしているようですわ。でも騙されませんわよ!きっと何か悪事に必要なモノを買っているのかもしれませんわ。
「ちょっとそこの綺麗なおねーさん、幸運のネックレスあるよ」
「いらないですわ」
「ねぇねぇそこの人! 開運のツボが今ならお得だよ!」
「結構ですわ」
「そこの騎士よ……お主に不吉なモノが見える……お祓いを格安でして」
「間に合ってますわ」
噴水広場に行くと来るいつものパターンを適当にあしらう。
商人らしき人物がこちらに近づいてくる、らしきと言うのはその人物は商品を一つしか持っていないからだ。
「ちょっとそこの武闘派騎士さん。何か困った事とかあるんじゃない。例えば、宿屋の前の凹んだ地面が気になるとかさ」
「あら、そんなことがあるんですのね」
「えっ? いや……えっと……。いや確かにこの人……」
とぼけてみたら途端に慌てだしましたわね。
「あぁそうでした、そうでしたわ。その事が気になって仕方なかったのですわ」
「本当?! ああやっぱりそうだよね。それなら……いい商品あるよ。この土魔法を含んだスプレーを地面に吹きかけてみな……。たちまち元通りさ。お代はリハート銀貨一枚でいいよ」
「結構ですわ」
「そうかい毎ど……えっ!?」
「だから要らないですわ。自分で直せますもの」
「えっと……えぇ……ぐすん。」
ちょっとなんで泣いていますの?! 私が泣かしたみたいじゃないですの!
違いますわよ! ちょっと皆さん、あーあこいつ泣かしたみたいな目で私を見ないでくださいます!?
分かりましたわ、買えばいいんでしょ買えば!
「リハート銀貨……一枚ですわね」
「ぐすっ……えっ……?」
「だから、買いますわ! はい。ほら、くださいな」
「あ、うん。えへへっありがとう!」
お金を受け取り笑顔を浮かべて教会の方の道に去っていった。
地面は時間がかかりますけど自分で直せますのに、とんだ出費ですわ……。
そんなやり取りをしていたら彼等を見失ってしまった。
周りを見渡しながら歩いていると、いつの間に買ったのやら袋を持っていた彼等を見つけた。
その傍らには看板を持った少女がいて彼等と何かを話している。
そして少女が彼等を連れ出して歩き出した。
少し歩き噴水広場を抜け、路地に入り、更に暗い路地へ。
「何ですの、ここは……」
人気は全く無く、陽の光が差し込まないこの薄暗い路地。悪巧みをするのに納得な場所である。
コソコソと後ろを付けていると急に立ち止まり、闘司さんがシャルルさんに引っ張られて建物の中に入っていった。
近づいて建物を確認してみると。
「お肉料理の、ギガントミート……」
薄暗くて見えづらかったですけどお店屋でしたわ。
お肉という文字を見ていると、お腹の虫が騒ぎ出した。
そう言えば今はお昼時でしたわね。
……ここに居るのは分かりましたし、私も何か買ってくるとしましょう。
屋台を求め、噴水広場に戻るための路地を抜け出ていく。
「なるべく、お肉関係を食べますわ」
影響されたわけではないですわ。
噴水広場に戻り、歩いても食べられるモノを買ってきた。
「シェープの腸詰め、フラップバードの串焼き、スイートミルク……、銅貨五枚、やっぱり屋台のモノは高いですわ」
仕方ないことではある、あの賑やかな雰囲気で食べることによる値段も加味されているのだ。
しかし今、この薄暗い路地で食べるとなるとちょっと文句を言いたくなる。
ちなみにシェープは毛が白くモコモコした目の愛らしい動物で、その毛は衣服などにも使われますわ。食べますけれど。
フラップバードは飛ぶ時に翼をパタパタと開閉する姿から名付けられてますの、飛ぶ姿は中々に愛らしいのですわよ。食べますけれど。
スイートミルクは、甘いですわ。
「何で説明口調になっているのでしょう……?」
世の中不思議満載ですわね。
そうこうしてると完食をした。
ジャンクではあるがたまに食べたくなるこの味に満足していると、足音が三つ聴こえてきた。
今の自分は悪いことはしてないし、未然に防ぐつもりなのだけどこの姿を見られたら誤解されてしまうので隠れる事にした。
隠れて様子を伺うと。
「なんですの……あの、見るからにチンピラって人達は……」
一目見てあんなに分かりやすい小物も驚きますけれど、あの自信満々に歩く真ん中の男、無性に腹が立つ顔と雰囲気をしてますわね。ぶん殴りたくなりますわ……しませんわよ。
他の二人は、……チンピラなのは分かりますが、こう、なんでしょう、記憶に残らないと言いますか、集合写真は隅っこにいそうなタイプの子が、無理して突っ張ってる感じがしていますわ。
チンピラトリオはそのまま店の中に入っていった。
「厄介事っぽいですわね」
わざわざこんな人の少ない路地の店に、あんなチンピラトリオが入るとは思えませんもの。
あら、何か騒ぐ音が聞こえてきますわ。
本当に予感が的中してしまった。
店からチンピラトリオに連れられた闘司さんが出てきた。
「あら……闘司さん、怒っていますわね……」
宿屋でいきなり力を試した時は、困惑や笑顔を浮かべていましたが一切怒ったりしませんでしたのに。
今はチンピラトリオ、特にあの腹立つ顔の男に向かって怒りを表している。
よほど腹に据えかねる事があったのだと伺えた。
聞こえないが短く口論をしたら、チンピラトリオが陣形を組んだ。
闘司さんを囲うように三角形の形だ、闘司さんが動くのに合わせて常に一人が後ろについている。
悪くない連携である、しかし無意味であろう。
「闘司さんは少なくとも私と同レベル、まぁウィガー団長は俺と同じくらいと仰いますが。あんな雑魚共にやられる理由が無いですわね」
自分だったら三人で十秒あれば終わらせる事ができるレベルのチンピラだ、結果を見るまでもない。
「……は?」
闘司さんはノロイ二つの攻撃を防ぎ、背中からの一撃をもらっていた。
何をふざけているんですの? いや、もしかしたら手の内を探っているのですわね、ええそうでしょう。
いけませんわリュリーティア、そうですわいくら勝ちが揺るがないとしても油断はいけませんわ。
ふふふ闘司さん流石ですわね。
ちょっと……何また同じように後ろの攻撃を食らっていますの?
そう、そうですわまずは死角の敵を倒しなさい。
うーん……動きが鈍いですけどまぁ片腕を取りましたわね。本当は即意識を堕として無力化がベストですわよ、じゃないと痛い目を見ますわ。
あらあの男、声を掛けて心配するなんて意外ですわね。
違いますわね、あの表情きっと碌でもないこと言っていますわね。
「また殴られて……」
手の内なんか無さそうですしいい加減本気を出して倒してしまえばいいのにチンタラ何をやっているんですの闘司さんは、飽きましたわ。
あら相手の蹴りに肘を合わせるなんていい発想しますわね、参考にさせて頂きますわ。
ちょっと闘司さんフラフラしてるじゃないですの!
ああ闘司さん後ろ、後ろ!
ふぅ〜……なんか見ていてハラハラしてきましたわ。
「スイートミルクでも飲んで落ち着きましょう。」
ズズズ……甘いですわ、甘々です。
幾分か落ち着きまた様子を見ると、これまた組手のような打ち合いをしていた。
あっ闘司さんナイスパンチですわ。ざまみろですわ。
「あらっ?」
先程腕を折った男が立ち上がって何かをしようとしている。
闘司さんはそれに気づく様子もなく、向かってくるチンピラしか見えていないようだ。
男は少しの魔力を束ね、そのまま発射した。
「いけません!」
案の定、背後からの魔法で飛ばされた闘司さんは体勢を崩し見事にアッパーをお見舞いされていた。
そのまま倒れ落ちた闘司さんは起き上がることができない。
次々と顔を蹴られついには動かなくなった。
「……」
隠れることをやめて魔法を放った男を後ろから頸動脈を絞めて気絶させる、そしてもう一度蹴ろうとしているチンピラに声をかける。
「そこまでにしてくださる? そのままやられてしまうとその方が死んでしまいますの」
「な、なんだてめぇ! おっ……おぉ〜ほぉ〜」
いきなり話しかけられて驚いていたがすぐに下卑た視線を私に向けてくる。
下半身が一部変化していっているのに恥ずかしがらず、隠しもしないでいる。
この男は本当にどうしようもなさそうですわね。
「なぁおい、こんな所に何の用だ? へへへ少し話をしなゴヘェッ!!?」
「ごめんあそばせ、話せる言語が違うようですわ」
軽くスキンシップをお腹にしたら大人しくなってしまいましたわ。
いわゆる草食系男子という奴ですわね。
とりあえずチンピラトリオを縛り上げておきましょう。
「さ、て。……この方は、本当に……」
闘司さん、アナタは本当に何を考えていますの?




