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苦戦必至の異世界巡り  作者: ゆずポン酢
200/206

国樹防衛・3

次回更新予定日は未定です

 開幕はマリーさんの豪快な一撃から、大きく振り下ろされた斧は水面に落とされた石のように砂を派手に波打たせた。

 それを後方に飛び退き躱してから滑るように背後に回るシトリシアさん、直ぐに振り返ろうとして開かれた股下をくぐり抜けながら剣で切り結び同時に足に手を掛けて転倒させた。



「ちっ……!」



 舌打ちをかき消す程に大きな肉を打つ音、簡素ながら凶器へと姿を変えている鉄の脚はマリーさんの強靭な肉体に痛々しい痕を残す。

 しかし二度は許さない、再び迫る蹴りを脇で挟み力の限りに身体をねじって共倒れを狙った。

 ガシャン、機械的な音を立てて義足はシトリシアさんの元を離れて自由を得た。



「ちょいと、それは反則さね……がぁっ!」



 さすがにこれは予想出来なかったのか引きつった笑いを浮かべたマリーさんの顔に、腕を軸にして繰り出される蹴りがモロにヒットした。



「さっさと立て、こんなもので終わるな」

「はは……当然だよ! ブッ!」

「おっと」



 自分の血を霧状に吹き付けて目くらましを狙ったが腕で目を守られる、それも想定済みなのか素早く立ち上がったマリーさんは持ち前の筋力を存分に発揮して地を跳ねた。

 そのまま前に一回転、遠心力を味方につけたかかと落としだ。

 闘技大会でリュリーティアさんにお見舞いされたことあるけどアレってかなり痛いんだよな、シトリシアさんも俺と同じ末路を辿ってしまうのか落ちてくる攻撃に一歩も動かない。


「すぅ……フッ!」


 断頭台のギロチンのようなかかと落としを両腕を上げて防御したと思った、だがシトリシアさんはその力を利用して同じように前に回転してカウンターのかかと落とし。

 なんで片足でその動きが可能なのか、もう冗談にしか見えない。



「ただ受けるような相手じゃないって分かってんのさ!」

「ぐっ……!」



 どちらが相手の先の先を読めるのか、強い人達はそういう事を何度も考えながら闘うらしい。

 今回はマリーさんの勝ちだ、カウンターを見越して受けの体勢に入った状態から脚を掴んで即座に寝技に持ち込む。

 そのまま締め上げるとシトリシアさんも苦悶の表情をして呻き声をあげる、そしてマリーさんは勝負を一気に終わらせようと更に力を強めて仕上げにかかった。



「ぐっ……がぁああああ!!?」



 だが結果は違った、何故かマリーさんがお腹を抑えながらのたうち回っている。



「今のは少し危なかった、惜しかったぞ」



 まるで緊張感も持たずにそう告げる、ヨダレを垂らしながらマリーさんは不可解だと視線で訴えた。


「ただの技だ、内臓を刺激するように打撃を数発打ち込むと今みたいに激痛が走る。外側が固かろうと内側は鍛えにくいからな」

「いつつ、そりゃ凄いねぇ……」

「まだやるか?」

「当たり前さ!」


 斧を握り直してドッシリと構えた、応えるようにシトリシアさんも剣を持ち直す。

 いつの間にか周囲はギャラリーで溢れている、みんな本来の目的を忘れてるんじゃないのか?


「俺も人のこと言えないけどさ。シャルル、水飲むか?」

「飲むー」

「我の分も頼む」

「はいはい……ってなんで居るんですか金さん」


 氷の容器を作ってから水を入れてシャルルと金さんに渡す、この人さっき笑いながら去っていったはずだけど。


「金さん? よく分からんが我の名はレオナルドだ、グノームス王国を守護する金獅子レオナルドとは我のことよ」

「レオナルドさんですね、それでなんでここに?」

「うむ、我が去った直後に何やら面白い騒ぎが起きていると兵達が報告しに来たからな。こうして見物しにきた」


 自由な人ばかりが集まる国なのだろうかグノームス王国って、それにレオナルドさんは見物しに来たと言っているのにニコニコしながら俺を見ている。


「何でしょうか……?」

「先程の続きをと思ってな、銀狼とはどういう関係なんだ?」


 今もなお目の前で斧と剣が奏でるBGMをバックになんと説明するべきかと頭を悩ませる、友達とも取れないし親戚なんて真っ赤な嘘だしシトリシアさんに倣って大事な人だなんて言った日にはリュリーティアさんによって俺の死体が出来上がるからな。


「好きな人!」

「ハハハ、坊主は潔くて気分が良い! それでは……お前の口からも聞かせてくれ!」

「俺にとって大事な人の、とても大事な人です」

「回りくどいが嘘ではないようなので良し! しかしそうか、最近銀狼の動きが冴え渡ると思ってはいたがお前達のお陰なのだな!」


 レオナルドさんの言葉を受けて改めてシトリシアさんの動きを見てみる、そもそも俺には全くわからん。


「それに先程の銀狼が笑う顔など我は初めて目にした、正直なところ気でも触れてしまったのかと心配したくらいだ!」


 出会った時から様々な表情を見てきたのでそんな事を言われてもピンとこない、しかし嘘をつく理由も無いからそれは本当なんだろう。

 そして恐らくだけど原因は分かった気がする、だけどあえて俺の口から言う必要も無いか。


「その顔、なにか心当たりがあるな?」

「多分、でも俺から言うことではないので直接聞いてください」

「なるほど分かった。そいつは無理だな!」

「諦め早くないですか!?」

「我は銀狼に嫌われているからな!」


 レオナルドさんも大概に潔い、ここまで気持ちよく嫌われてるって叫べる人間が何人いるだろうか。

 それに話した感じはシトリシアさんがこの人を嫌う要素は少ないと思っていた、隊長としてのなにか確執でもあったりするのかな。


「むっ、そろそろか」


 そう呟いたレオナルドさんはおもむろに歩き出した。

 目の前ではそろそろ終わりを迎えようとしてる二人の激しい戦闘、見た感じではマリーさんが押されている。



「そこまでだ二人の戦士よ!」



 無造作に間に割り込んだレオナルドさんは両者の攻撃を片腕ずつで見事に受け止めている、シトリシアさんはちょっと嫌な顔をして武器をおろしたがマリーさんは呆然として動かない。


「間が悪いぞ金獅子、どうせ狙ってのことだが」

「すまないな銀狼!」

「ちょ、ちょいと待ちなよ、アンタ何してんのさ!? 人が楽しくやってる所に割り込んできて!」

「すまない!!」

「いや、そんな元気に謝られてもね……分かったよ熱くなりすぎたアタイが悪かった」


 あんな笑顔で謝られたら毒気が抜かれるのも分かる、マリーさんも同じように諦めた表情で武器をおろして闘いは終わった。



「あーあ、アタイもまだまだのようだねぇ……」

「マリー、といったな確か。訂正しよう、完全に任せるのは無理だが二人を守れるくらいの強さを持っていた。頼むぞ」

「はいはい、それとすぐにアンタに追いついてみせるさ。だから覚悟しておきな、シトリシア」

「ああ、死ぬ気で追いかけてこい。でなければ更に置いていく」



 互いに固く握手を交わす、美しき女の友情をここにみた。

 レオナルドさんも嬉しそうにウンウンと首を縦に降っている、だがそこを厳しい視線が貫いた。


「金獅子、お前の用は済んだみたいで良かったな」

「安心してくれ、成果は半分だけだ! それにしても見られていたとはな、やはり以前よりも隙がないな銀狼よ!」

「なに……? そうか理解した、お前はそれが知りたかったのか」


 レオナルドさんの発言と俺の表情から察したのか大きなため息をひとつ漏らす、その刹那に身体がブレたと思ったら抜かれた剣の切っ先が鼻を掠めて薄皮を切り裂いていた。



「そこの二人のお陰で長年の憂いがようやく解消されてな、こうして心身共に羽根のように軽くなった」

「なるほど……見事だ銀狼、我も反応が遅れてしまった! どうやら我と銀狼で力の差がついてしまったようだ!」

「本気を出していない癖によく言う」



 微かに笑ったように見えたシトリシアさんからは剣呑な空気を感じない、なんだ嫌われているというのもただの杞憂じゃないか。



「それはそれとして銀狼、はしゃぐのはいいが事態の収拾と時間厳守は頼むぞ!」

「……分かっている」



 あ、今のは好感度下がった気がするぞ。

 なるほど杞憂じゃなかったんだ、ドンマイですレオナルドさん。

 不機嫌な顔を隠さず服に付いた砂を乱暴に払ったシトリシアさんは義足を元に戻して離れていく、慌てて追いかけようとしたところで忘れ物を思い出した。



「ほらクイットゥナーいつまで寝てるんだよ、行くぞー」

「私は……私は……っ、引きずるなもっと丁寧に運べ!」

「うるせー! そんな元気なら自分で歩け!」



 放心状態だったはずのクイットゥナーを引っ張りながらこの場を後にした。










 テキパキと指示を飛ばして野次馬を散らした後に列を整えて隊を形成したシトリシアさんの見事な手腕をぼーっと眺める、時折シャルルの頭を撫で回したりジャンケンとかしていたらあっという間に全ての準備が終わった。

 クイットゥナーは苦い顔をしながらマリーさんと内緒話をしているが特に気にしないでおこう。


「あ、動き始めたね」

「とりあえずついて行けばいいだろ」


 ようやく始まるという気持ちと魔物と闘いたくないという気持ちが混在して今すぐ回れ右をしたい、でもそんな事をしようものなら腕からドリアードのツタが生えて俺を拘束してくることだろうさ。


「しませんよ」

「アイタッ」

「トージ何それすごーい! なんで腕からツタが出てるの?」


 毛糸サイズのツタに叩かれたところをシャルルに目撃されてしまった、興味津々に覗き込んだり触ったりして観察している。


「こんにちは!」

「どうもこんにちはシャルルさん、樹の神のドリアードです」

「あ……そんなアッサリと正体をバラすのね」

「思考から無害な人だという認識と記憶が流れ込んできましたので」


 神様といいドリアードといい、人のプライベートってものを軽んじる傾向にある気がする。

 コミニュケーションお化けのシャルルはすぐさまドリアードと意気投合を果たし、俺の腕の上で楽しそうにあやとりで遊び始めた。


「シャルルさんは綺麗なマナをされていますね、闘司さんもご覧になったらどうです?」

「マナの善し悪しが分かるわけないだろ……でもシャルルのは見てみたい。おぉ〜やっぱり分かんないけど綺麗だ……うっぷ」

「吐き気を抑えながらいう言葉ではないと思いますが」


 違う、シャルルのは確かに綺麗だ。

 それこそ最初に見た建物とかに流れるマナと同じ質だと感じる、俺が気持ち悪いと思ったのはその他周りに漂う無数のマナだ。

 あまりにも大量に存在して美醜関係なく混ざったりした光景は目に優しくない、出来ることならシャルルだけ見つめていたい。


「善し悪しが判別できるではないですか」

「あぁ……コレがそうなのか……。シャルル、いつまでもありのままのお前で居てくれ」

「わかんないけど、分かった!」

「ちなみに闘司さんのもそこそこ良い方です」


 反応しづらい評価をされてしまった、自分のマナを眺めても特段気になるところがない。


「この世界に来てマナを取り込んでから日が浅いので変に混ざったりしていないのでしょう」

「いずれ俺もあんな感じに濁っていくのか……」

「人と人が関われば自然とそうなっていくものです、シャルルさんのように全く混ざらない方も居ますけどね」


 とりあえず俺には避けられない事実だと理解したところで、気づけばある場所に辿り着いていた。

 音によって形を変える音砂、エレベーターのように銅鑼の音で昇降を繰り返す装置があるところだ。

 ここで二つに分けられた隊が更に細分化されていく、下で国樹と街を守る組と上で魔物を退ける組を種族や魔法の得意な者などで振り分けられた。



「まぁ……予想はしてた」



 俺たちは上で魔物を退ける組、更に立ち位置としては遊撃隊に近い。

 シトリシアさん自体がその場の状況に応じて攻めや守りを変えるスタイルなので一緒に決められてしまった。

 というかやっぱり一緒に行動するんだ、さっきマリーさんに任せたとかなんとか言ってた様な気がするけど俺の幻聴だったのかな。


「うっし! どんな魔物がやってくるのか……こいつぁ腕が鳴るねぇ!」

「フン、空回りはするなよ巨女」

「戦い方を教えてくれってアタイに泣きついてきたくせによく言うねクイットゥナー、あっはっは!」

「き、貴様っ!?」


 へー、シトリシアさんに呆気なくやられたのが相当応えたのか。

 俺に聞かれたくなかったのかチラチラと横目で見てくるクイットゥナーを無視して意識を切り替える、ここまで来たら腹を括ってシャルルと頑張るしかないのだから。

 一応だけど武器を三種類身に付けているので始まる前に点検しておこう……何かあってからでは遅い。



「剣と槍と篭手(こて)を使うのか、重量は……軽過ぎず重くもない質の高い武器だ。いい物を持っているな」

「宝の持ち腐れってやつですね」

「何を言う、闘司の腕なら使いこなすことなど簡単だろう。期待している」



 勘違いなので泣きたい、自慢じゃないがリュリーティアさんとの武器を使った模擬試合で勝ったことは一度もない。

 というかそもそも素手でも無いな、不本意ながら武術を習っていたとはいえ手も足も出ないのはどういうことなんだろう。


「まぁ……ちゃんとやった事無かったけどさ」

「何がだ?」

「あ、いや、ただの独り言です。それよりシトリシアさんはココに居て良いんですか?」

「駄目だがお前達が心配でつい、な。頼むから無謀な真似はするなよ?」

「ははは、わざわざありがとうございます。でも大丈夫ですよ、俺は臆病者ですから慎重にいきます」


 その言葉にシトリシアさんは微妙な表情で頷くだけだった、よっぽど心配をかけているようで申し訳ないが俺達に構って周りへの指示が滞る方が危険な気がする。



「とりあえず分かった、私は行くとする。だが……シャルルが関与すると途端に視野が狭くなるからな闘司は……」


 くるりと反転してシトリシアさんは戻っていった。











 しかし去り際で聞こえてきたシトリシアさんの呟きは的確に俺という人物像を捉えていて、さすが隊長という立場は人を見る目が違うなと強く思いましたとさ。

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