まずは説明を
望む望まないにせよ生き返らせてくれた人なのだ。
感謝すべきなのだろうが……。
「さぁ? って何ですか!! 適当すぎるでしょ!?」
声も荒らげてしまうものだ。
だが大目に見て欲しい、この主張は当然と言ってもいい事だから。
「えっ……じゃってワシはチミがこの異世界で生活する姿をたまに見て暇を消化したいじゃけじゃしぃ……」
「……本当にソレだけですか? 世界救えとかそういうのも無くてですか?」
友人に勧められてそういう本を読んだ事があるけど、大抵こういう異世界モノは勇者として魔王を倒せ! むしろ魔王として人間を滅ぼせ!
とかそういうのが多かったはずだ。
あれ、本当にただ2回目の人生って感じなのか?
「いや別にチミが世界救うために魔王倒したいなら倒しに行ってもいいんじゃよ? 確かこの世界にはいたしのう」
いやがった、魔王。
「えっじゃあやっぱり俺が勇者でとかそういう……。」
「安心するのじゃ、勇者はこの世界に元々おる。」
「えっ、居るんですか? じゃあ実は俺が魔王側で勇者と戦うとかは……」
「チミがしたいなら神力使うけど」
いや、それはお断りしておこう。
「い、いや大丈夫です。使わなくて大丈夫です。……んん? じゃあ俺は何をすればいいんですか?」
魔王討伐は勇者がいるって事だし、魔王側でもないみたいだし…….。
気ままにスローライフ? いやまだ人生半分もいってないのにもうスローライフ出来るほど達観してはいないぞ。
「じゃから何をしてもええんじゃよ? 魔王討伐もよし、魔王側として世界征服もよし、気ままにスローライフもよし。好きなよーに生きて良いのじゃ。そのためのバックアップも極力ワシがするしのう」
地の文というか考えを読まれている。
「バックアップ?」
「そうじゃ。そういえばチミのためにサービスすると言っておったな、良いものをやろう」
いきなり脳内で声が響いた。
[スキル-言語理解-を取得しました]
「うわっ!?」
[スキル-ステータス変動-を取得しました]
[スキル-自動図鑑記入-を取得しました]
声に驚いたのも束の間、立て続けに2回声が響いた。
「な、何ですか今の?」
「アナウンス……まぁゲームによくあるアレじゃよ。安心せいチミにしか聞こえておらん」
「は、はい……」
驚きが止まらないよ本当に。
「最初の言語理解はまぁ分かり易いの。どんな言葉もチミの元世界の日本語に聞こえるようになるのじゃ。ついでに話す言葉は相手の使う言語に自動翻訳される」
凄いな、某先生に頼らなくても自動翻訳されるとは。
「2つ目のは……説明は後にしようかのう。面倒な能力じゃしな。3つ目の自動図鑑記入は、要はコレクター図鑑じゃ。チミが見て聞いて、会ったものが自動的に記録されていく。ホレ、ちょっとワシのことを頭に思い浮かべるのじゃ」
言われた通りに神様のことを思い浮かべてみる。
神様:天上の国の神様。普段は忙しいのだが時折暇が出るので人間を異世界に転生させそれで暇をつぶす事にした。
チミや、じゃよと変な老人ぽくしてるのは意識してのことである。
すげーハイカラ爺さんじゃよ☆
最後の一文は目がするりと滑っていったので認識出来なかった事にしておく。
「凄いじゃろ〜。名前や情報だけでなく顔もハッキリ分かっちゃうのじゃ! セールスマン必須スキルなのじゃ!」
「凄いですけどちょっと説明文に謎の意思が混じっている様な気がするスキルですね……」
「他にも街や、動植物にも使えるので試してみることじゃの」
確かにそういう人や物などがしっかり記録されるのはとても便利である。
「そして後回しにした2つ目のはスキルじゃが、コレはチミ用にアレンジしたワシのオリジナルスキルじゃ!」
なんだろう、この神様がアレンジしたという事でとても不安を抱いてしまう。
いや会って少ししか経っていなのにソレは失礼だろう。この気持ちは飲み込んでおこう。
「きこえておるがのぅ……。まぁこのステータス変動は、本来弱体魔法なのじゃ」
「んん? 魔法ですか?」
スキルから察していたけどやっぱり魔法あるのか……。
「そうじゃ、使用したモノの能力を下げる魔法でのう。ソレをワシがチョロっとアレンジして永続であるスキルにしたのじゃ、凄いじゃろう!」
「はぁ、凄いことなのでしょうけど……。つまりどういう効果が?」
「うむ。ソレはな……常に相手よりも少し強くなれるスキルじゃ!」
「へぇ! それって良いスキルじゃないですか!」
ん? 何かちょっと引っ掛かりが……。
「ちょっと待ってください。少し……ですか?」
「うむ、少しじゃ。コレにはチミのためを思ってもあるのじゃぞ?」
「えぇ?」
「あまりにも敵との差がついたりすると、戦闘中チミの力を見たものがその強さに勇者だなんだと騒ぎ立てるかもしれん。そういうのにチミはあまり乗り気じゃなさそうじゃしな」
神様……割と気を使ってくれているんだな。
暇つぶしとはいえ、こうして死んだはずの俺を生き返らせてくれてるし、更に便利なスキルまでくれるし。
感謝しなきゃいけない。
「まぁ本音を言うとあんまり苦戦せず戦われちゃっても見てるワシ飽きちゃうしの」
「おい神様」
「それにもしかしたら勘違いしておるようじゃけど、『常に相手よりも少し』じゃぞ? 強くなれるの」
「いや、だから差がつき過ぎないようにって事ですよね?」
まさか……何か他にあるのか?
「ふむ……分かっておらんようじゃな。つまりは、もしチミが相手と戦っている時にもう一体増援が来たとするじゃろ? そいつと戦うとする、そうすると今まで戦っていた時の状態の能力は、今度はその戦おうとした相手の能力より少し強くなるのじゃ」
「えっ……?」
「つまり仮にもしその増援が最初の相手より弱かったとすると、チミは最初の相手と同等、もしくは低くなる可能性があるのじゃ。逆もまた然り」
えっ……何だそれ。そんな綱渡りみたいな能力、恐ろしくヤバいのでは。
「少し強くなるっていう言葉も曖昧じゃの。とにかくチミが全力で戦って相手に勝てるぐらいの上昇率じゃ」
絶望感がマシマシだ。高層ビルの間で綱渡りにランクアップしてしまった。
「ちょちょ、ちょっと待ってください! じゃあまたその最初の相手と戦おうとすると、その相手より少し強くなるって事なんですか!?」
「うむうむ、理解したようじゃの」
高層ビル綱渡りに野鳥が邪魔しに来たよ。
つまりはあれか、一体と戦闘中に気付かぬうちに攻撃されて他の格上に殺されちゃうってことがあるのか!
何だそれ! 使いづらいの度が過ぎるぞ!
「そう悲観しなくても良いのじゃぞ? 一対多は弱くなる可能性があっても、一対一ならチミが全力でやれば相手に負けることは多分無いからの。一対一なら魔王にも勝てるぞい。……そんなに不安ならもうひとつスキルをチミに授けるぞい」
[スキル-自動治癒-を取得しました]
神様が指を動かすと、脳内でまた声が響いた。
「それはまぁ常に少しづつ回復するスキルじゃ。以上じゃ」
飽きてきたのかとても雑な説明だ。
「これで全部じゃないが必要そうな事は説明できたの。後は実際に発動させればどんな感じが分かるじゃろ。レッツトライじゃ!」
この自動治癒……心のダメージには効かないのかな……。