食後の運動
食事が終わり一休みした頃を見計らって切り出した。
「それでリュリーティアさんは何でここに?」
「それはガラッドさんにどうしても、どうしても来て欲しいと言われたので仕方なく来ただけですわ」
「あの姿を見られてどうしても来たと言い張るんですね」
「ねーねートージお腹いっぱいで眠くなってきたから先にお部屋いってるねぇ……」
「あーうん分かった、あと歯磨きしなさいよ」
「するよ~、うん、するー……」
なんか今にも電池が切れそうなオモチャのようだ、フラフラしているし危ないのでおんぶをして部屋に運ぶことにした。
ちゃんと歯磨きはさせました。
下の階に戻るとリュリーティアさんは紅茶を飲んでいた、そばにコーヒーが置いてある。
どうやらお待ちくださっていたようですし、お話をご所望みたいだ、喜んでお受けしよう。
「コーヒーで宜しかったかしら?」
「ええありがとうございます」
「……仲がよろしいんですのね」
「えっ? あっ、そうですね。シャルルとは仲はいいと思いますよ、少なくとも俺はそう思ってます」
「あら、あの感じですとシャルルさんも同じだと思いますけれど?」
「いや、信頼されているとは思うんですけどもしかしたら恩を返したいとかそういう事も含まれているんじゃないかなって。純粋に信頼されてるとかではなく。シャルルは俺にマウントグリフォンから助けてもらったからって言いますけどね、本当は逆なのに」
「話が掴めませんわね」
当たり前だ。でもそこら辺詳しく話したら頭がおかしい人認定されてしまうし、何より異世界から来ましたなんて信じられるわけない。
曖昧な事を返すことしかできない。
「ふぅ、何やらお話になれない事情かおありのようですわね。無理に詮索はしませんわ。しかし、一つだけ確認してもよろしいですか?」
「な、なんでしょう」
「本当に貴方達はマウントグリフォンを倒したのですわね? 嘘をおつきになっていないですわね」
「それは本当です!」
「失礼ながら闘司さんからは強さを感じ得ません。何か武術をしていたとしても、決定的に魔力が闘司さんにはありません。マウントグリフォンを倒すほどのね。しかしウィガー団長は闘司さんは団長並の実力を持っていると、それを隠しているのを確認したとも仰っていました」
スキルで一時的に筋力がマウントグリフォン以上になったから首を引っこ抜きましたなんて言ったらハッ倒されるかな。
というかあの時スキルの警告が出たけどあれってウィガーさんのせいだったのか。
「それも何故かお話できませんの? はぁ……ホラ吹き屋のお話を聞きに来たのではないですわよ。私達は町を脅威から守る騎士団ですの。マウントグリフォンを倒しました、ハイわかりましたじゃあ安全ですわねってなりませんの。……これは真偽をハッキリさせないといけません」
「といいますと……?」
なにかとてつもなく嫌な予感がする。
リュリーティアさんは残った紅茶を飲み干すと立ち上がり、出口に向かっていった。
俺を笑顔で手招きしながら。
「あれっ? 副団長殿もうお帰りですか? また来てくださいね!」
「ええガラッドさん素敵な夕食でしたわ、サシャさんに美味しかったですとお伝えください。あと、少し外で闘司さんと食後の運動をさせていただきますわね」
「おぉそうですか妻も喜びます! おい闘司、あんまり遅くなるなよぉ」
何を勘違いしているのかニヤニヤしているガラッドさんを無視して俺も外に付いていく。
「あの……食後の運動とは、一体何を……。ジョギングでしょうか?」
「あら、分かっているはずですのにイケズですわね」
そう言ってリュリーティアさんは羽織っていたものをはだけていく。
こ、こ、これはまさか!? まさかなのか!?
そうして腰に手を伸ばし、携えてる剣を抜いた。
「えっ?」
「何をボサっとしているのです? 行きます、わよ!!」
[攻撃を認識、スキルを発動します。能力値、上昇]
警告が脳内に響き、見る世界が変わった。
右足で踏み込みレイピアのように剣を突いてくるのが認識できた、動体視力が底上げされたのだろう。
咄嗟に右に避けると追うように突いた剣を薙いでくる。
上半身を反らして危うく躱し、そのままバク転して体勢を整えた。我ながらビックリの動きだ。
「ふんっ。アレを避けるとはやりますわね」
「い、いま本気で貫く気じゃなかったですか!?」
「おほほほ、まさかそんな。もちろん本気ですっわ!!」
今度は、飛んだ!? 俺を超える高さに跳躍したリュリーティアさんはそのまま身体ごと剣を振り下ろしてきた。しゃがんで回避したら、既に着地していたリュリーティアさんは俺に背を向けた状態から足払いのように一回転して足を狙ってくる。ウサギ跳びのようにはねて、上手い具合に剣を踏みつけて躱した。
すると剣を手放して素早くボクサーのような構えをとり始めた、ただし両手の拳には赤いオーラのようなものを纏って。
恐らくあれは魔法だろう、シャルルも似たような緑色のやつを纏っていたし。
「なるほど、本当におやりになる様ですわね」
「納得してもらえたならもう終わりにしませんか? このままだと俺死んじゃうので」
「あらご謙遜を。団長はもっとお強いですわよ、ならこれくらい闘司さんも退屈でしょう」
そして、来た。
まずは右のジャブ、ジャブ、ジャブ、って熱っ! なんだこれ拳が顔の横を過ぎるたびに熱風がくるぞ!
ちくしょう魔法の効果だな、恐らく赤いのは炎の魔法ってところだろう。
左拳が俺のボディを抉るようにパンチしてくる。
腹を捻って躱してみせる、次のパンチに備えると予想外にも右肩にキックが直撃した。
「ぐっぅああああ!!」
そのまま軽く吹っ飛ばされた。肩は火傷をしている。
脚を使うのはビックリしたけどどうやら勝手にこっちがボクサースタイルだと決めつけてしまったのがいけなかった。
「その魔法、両拳にだけじゃないんですね。いててて」
「ふむ? そうですわね、もちろん身体全体纏えますわよ。でも手だけに出てると大体そこに意識が集中しちゃうものでしょう? あとは魔力消費を抑えるためです」
「ははっ……」
意識が向く、まさにその通りだ。
俺は立ち上がり構えをつくる。
「あら、やっとやる気になったのですの? 本気を出さないとダンスパーティーはそろそろ終わってしまいますわよ」
「生憎踊れるのは盆踊りくらいなので……」
「盆踊り……?」
しめた、隙ができたところを狙い組み技を仕掛ける。何故組み技かは女性を殴るってのは気が引けるので仕方ないことなのだ。
まずは両足を狙って諸手刈りを試みた。
しかしどうやらわざと隙を見せたようで、後ろに下がって避けられて俺はそのまま前につんのめってしまった。
すかさず後頭部にパンチを打ち込むのが見えたので両手を上げて火傷を覚悟して手首を掴んだ。
ジリジリとした痛みが走るが、こらえて掴んだ手首を返し背中に持っていった。
「くっ、あなた案外我慢強いですのね。それとレディにはもう少し優しくするものですよ」
「レディは刺し貫こうとしないし、跳ねたり殴ったりしませんよぉ……!!」
「あら前時代のレディ像をお持ちのようですわね、今のレディはこんな事も出来ますのよ。砕ッ!!」
足を上げて地団駄を踏むかのように地面に打ち付ける、足元に小さいクレーターが出来上がった。
おいおい冗談きついよ。
俺はせっかく捕らえていた手を離すしかなかった、バランスというか足元が少し無くなったのだ、大目に見て欲しい。
リュリーティアさんは回転を加えた蹴りをしようとしている、今度は足に茶色いオーラを纏いながらだ。防御が間に合わないし、恐らく魔法であろうあの力を受けたら俺の身体もボコんと凹んでしまうのでは。
ああ南無三何がどうしてこうなったのか……。
せめて痛みなく上手く気絶出来るといいなぁ、あと絶命は免れたい。
そっと瞳を閉じて覚悟した。
「もう!! 二人ともうるさーーーーーい!!!」
「「!?」」
突如目の前が見えなくなるほどの雨が俺達に降り注いだ。
数十秒ほど身動きも取れなく、ただされるがままに雨に打たれた。
いやシャルルちょっと止めて雨量が凄まじくて息ができない。
雨が止むとシャルルが部屋の窓から乗り出しプリプリと怒っているのがみえた。
「二人してなにケンカしてるの!? もう夜なんだから静かにしてよね! みんなの迷惑だよ!」
「いやシャルル、これはケンカじゃなくて」
「そ、そうですわシャルルさんケンカでは」
「二人とも言い訳しない!!」
「はい……」
「はいですわ……」
「まったくもう……それじゃあボクは寝るからちゃんと仲直りするんだよ」
そういうとシャルルは窓を閉めた。
俺とリュリーティアさんは見つめ合い互いに気まずそうなを顔をした。
「その、貴方の話を信じますわ……戦って、その力を把握できましたので……」
「あ、はい信じてくれて……何よりです」
「では私これで失礼します……。あとこれ、傷を治す飲み薬ですの。火傷もこれで治りますわ」
「わざわざありがとうございます。……っ!?」
「どうかされました?」
「い、いえ何でもないですそれではおやすなさい!」
リュリーティアさんは少し不思議そうにしながら帰っていった。
一人残った俺は改めて周りを見渡してひとつの問題に頭を悩ませることになる。
「この地面どうするんだよ……」




