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苦戦必至の異世界巡り  作者: ゆずポン酢
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成樹・2

 久しぶりの騎士宿舎にやってきた、以前と変わった様子は無いみたいで同じように兵士の人が立っている。

 俺達が、というかリュリーティアさんが来たことに気づいた兵士の人が見るからに驚いた様子で近寄ってきた。

 ちなみに繋がれていた手は解かれている、残念だけどさすがにリュリーティアさんも騎士団の人達に見せるには恥ずかしかったのだろう。


「リュリーティア副団長! お戻りになっていたのですね、ウィガー団長に御用ですか?」

「ええ、団長にも用がございますわ。それと……(ワタクシ)は騎士団を辞めた身です、既に後任の副団長が就いているようですのでその呼び方は直しなさい」

「は、はい申し訳ありませんでしたっ! リュリーティア副……元、副団長!」

「怪しい所ですがまぁいいでしょう……それより、中に入る許可を団長からいただけませんかしら?」

「そんな許可だなんて、身元も信頼性も我々は存じておりますので遠慮なくお入りください!」


 おお、流石は元副団長のリュリーティアさんだ。

 ほとんど顔パスみたいなもので中に入れてしまうんだな、うんうんとても楽で助かります。


「本当はそういう事をキチンとして頂きたいのが本音なのですが……辞めた者がとやかく言うのも面倒なのでお言葉に甘えさせていただきますわ」


 リュリーティアさんは一つ溜息をつきながら騎士宿舎の中へと足を進めた、遅れて俺も追いかけようとすると妙な視線を背後から感じたので振り返る。


「どうしたのトージ?」

「いや……ちょっとした既視感がな」

「んー?」

「気にしなくていいよ、実は少し予想してたから覚悟は出来てる」

「うーん……トージの言ってること全然分かんない、大丈夫なら早くリュリーティアを追いかけよう!」


 シャルルに急かされながら視線について考える、まぁ……あのリュリーティアさんの慕われ方は良いことだ、例え辞めた後でもこうしてすんなりと騎士宿舎に入れたりするんだから。

 ただそこまで慕われていたリュリーティアさんが辞める原因になった俺とシャルルは……多少恨まれても仕方ないのだろうさ。


「いやージーンバレーの次はここかぁ……背後から刺されないように気をつけよう」


 さすがに子供のシャルルとかに手を出したりしないだろう、というか出したら俺は本気で怒る。

 俺に手を出すのはまぁ、一発や二発くらいなら殴られても諦めるとしよう。


「でも正直、鍛え上げられた兵士のパンチは喰らいたくないな……」


 リュリーティアさんとの訓練でよーく身に染みてるから。






 まずは成樹を確認するために中央に位置する訓練所へとやってくる、兵士達の掛け声などが聞こえてくるなと思いながら目を向けるとすぐに以前との変化が分かった。


「うわ……かなり大きくなってる」

「あれが成樹? 大きくてなんだか安心するね」

「いい感性ですわシャルルさん、放出するマナの量が増えたのでその影響でしょう」


 俺の背丈ぐらいしかなかった樹子の頃と比べて、今の成樹は何倍にも大きく育って訓練所を広く占領していた。

 でも不思議だ、覆い被さってきそうな大きさでありながらシャルルの言う通り本当に安心する空気がここには広がっている。

 そんな風に訓練所の入口で成樹を見つめていると兵士の一人がこちらに気がついた、それは周りに波及して歓喜の声と共にリュリーティアさんの所へ押し寄せてくる。



「リュリーティア副団長! お久しぶりです!」「いつお戻りになっていたんですか?」「相変わらずお美しいです!」「もしや騎士団に戻ってきてくれるのですか!?」「また稽古をつけてはいただけないでしょうか!」



「歓迎してくれるのは有難いのですが一斉に話しかけられても対処できませんわ、闘司さんシャルルさん、お助けを……ちょっとお待ちなさいな!」


 囲まれて身動きの取れないリュリーティアさんが助けを求めているが、俺とシャルルではどうしようも出来ないし何より邪魔だろう。

 なので二人で手を振りながらリュリーティアさんを置いて成樹の根元まで近づき、見上げながら成樹全体を眺める。


「たった一年でここまで育つのか……いや年数で育つわけじゃないって教わったけど、それにしても凄いな」

「ねー、それにここは暖かい風が吹いて気持ちいいよ。ほらトージ、こっちこっち」


 成樹に背を預けながら座ったシャルルは俺を手招く、それに従って隣に腰掛けながら同じように風を感じることにした。


「リュリーティア楽しそうだね」

「そうだな」


 囲まれた時は面倒そうにしていたけど、今はしっかりと一人一人の話を聞きながら指導やら話しをしている。

 その顔は決して嫌そうではなくてよくよく見てみれば口角が上がっているのが分かる、何やかんや言っててもリュリーティアさんは面倒見のいい人だからな。

 そんな世話焼きリュリーティアさんを眺めながら背中に成樹の存在を感じてゆったりしていると懐かしい感覚を受けた、それは初めてマナを取り込んだ時のような感覚。



『お久しぶりです、闘司さん』



「うわ、え、なんだ今の声? シャルル……じゃないよな?」

「ううんボクじゃないよ、誰の声だろうね」


 シャルルにも聞こえているのか、周囲を見回してもそれらしき人影はない。

 でも……今の声に聞き覚えがあるようなないような、曖昧だけれど覚えがある。


『覚えていないのも無理はありません、話した……と言っても私が一方的に話しかけたのが一度あっただけですので』


 今度は聞き間違いじゃなくてしっかりと聴こえてきた、背中に存在する成樹から。

 振り向いてみれば今の声は私ですとでも言いたげに、葉が意思を持っているかのように揺れてアピールをしてきた。


「ジンのお陰で固定観念を捨てた俺には分かる、この声の正体は成樹だ」


『私はこの成樹を通じて語りかけているだけなので正確には違います』


「自信満々に言うんじゃなかった恥ずかしい……」

「じゃあ誰なの?」



『私はドリアード、八神の一つで世界樹とその子供を守る樹の神です』



 凄いぞ、これで俺は八神の内の半分と出逢ってしまった事になる。

 残るはノームとルナとシェイドとウィル・オ・ウィスプか、案外コンプリートも近いな。


『何やら別のことをお考えのところ申し訳ないのですが私の話を聞いてもらえますか』


「すいませんでした……それで話ってなんですか?」


『ジンから聞かせてもらったのですが、闘司さん達は次にグノームス王国へと向かうそうですね』


「まぁ、はい」


 八神ネットワークによって俺達の行動が筒抜けになってしまっている、今度神様にお願いして秘匿してもらおうかな。


『そこにある国樹についてなのですが、闘司さん達には国樹を狙う魔物の討伐をお願いしたいのです』


「失礼しましたー」

「ましたー!」


 踵を返して逃げようとしたら成樹の根が土から飛び出して俺とシャルルを拘束してきた、ちくしょう……八神ってズルいよ……。


『最後まで聞いてください。別に貴方達だけにお願いしている訳ではありません、他にも討伐隊や傭兵の方がその魔物の討伐に加わります。ただ少し手を貸してほしいだけなのです』


「えー……俺達なんか居なくても大丈夫だと思いますよ?」


『そうかもしれません、ですがそうではないかもしれません。この世界の平穏を保つ為に国樹は必須、守れる可能性が上がるのなら何でも頼りたいのです。それに……闘司さんは私に借りが一つあります、断ることは出来ないと思いますよ』


 借り……? まさかそんな事があるはずない、だってドリアードと話したのは今日が初めてで……違う、ちょっと待った何かが引っかかる。

 やけにすんなりとマナを取り込めた時の記憶が蘇ってくる、そよそよと風が吹いて樹からマナが流れ込んできた。

 その後に聴こえてきた言葉をハッキリと思い出せる、それは確かこんな言葉だったはずだ。



「一つ貸しということに、して、おきますね……」



『ふふふ、思い出したようですね。そう、マナを取り込めずに中々苦労していた闘司さんを手助けしたのは私です。その助けが無ければ異世界の人である闘司さんが魔法を使えるようになるのに何年かかったことでしょう?』


 それを! それを持ち出されたら俺は断れるわけないじゃないか……!


「……やります」

「そうなの? じゃあボクもやるー!」


『良かった、それじゃあリュリーティアさんにも話を……申し訳ありません闘司さんこの話は後で、人が来たので私は消えるとします』


「え、あの」

「ドリアード居なくなっちゃったね」


 元から姿は見えなかったけれど、成樹を通じて語りかけていたドリアードが消えたのが自然と理解出来た。

 まだ聞きたいことばかりあったのだけどな、やっぱり俺達以外の人に声を聞かれてしまうのはダメなんだろうか。



「やぁ君達、そこで何をしてるのかな?」



 高い声で話しかけられる、ドリアードの言った通りで人が近づいていたようだ。

 顔を確認するために振り返れば中性的な顔立ちの……女性……だな、多分。

 一見すると男性に間違えそうな雰囲気の人がこちらに笑いかけているのだ、人当たりも良さそうで初対面ながらに老若男女に好かれそうだと感じる。


「成樹を見るのが初めてなんでちょっと観察してました」

「そうなんだ、誰かと話してるように見えたけど僕の勘違いだったようだね」

「僕……? 大変失礼だとは思うんですけど、女性……ですよね?」

「はははごめんごめん。この顔と喋り方でよく誤解させてしまうのだけど、僕は女性で間違いないよ」


 この中性的な顔と僕という呼び方の組み合わせ……ヅカを呼び起こされるな。

 うわー、想像しといてなんだけど無茶苦茶似合うと思うぞこの人、むしろ何処かの王子様とか言われても違和感がない。


「ねーねー、名前はなんて言うの?」

「これは失敬した少年、僕の名前はアマレット。シュルト城下町騎士団の副団長、アマレット・ローズさ」

「アマレットだね、ボクはシャルル! よろしくね!」

「ああよろしく、君は随分と綺麗な顔をしているね。女泣かせの顔をしているよ」


 それは違うぞアマレットさん、男の俺もかなり泣かされてる。


「俺の名前は八代闘司です。それにしてもアマレットさんが今の副団長なんですね、リュリーティアさんの後任の方も女性とは思いませんでした」



「ほう……君は『元副団長』の知り合いかい?」



[敵意を確認、スキル発動、能力値上昇]


 なっ……一体どこから、違うこの人が……こいつが俺達に敵意を向けてやがる!


「アマレットさん……初対面の人にそんな攻撃的なのはどうかと思いますよ」

「あれ……ごめん君達を警戒させるつもりはなかったんだ。それにしても……そうか君達が例の二人組だったのか、『元副団長』が騎士を辞める原因になった二人。ふ、ふふ、これは運命なのかな?」


 さっきから顔に似合わない歪んだ笑顔を浮かべてやがる、勿体ないことをするんじゃないよまったく。

 しかしアマレットさんはリュリーティアさんにかなりの因縁をお持ちのようで、敵意を向けたのも俺の言葉に反応しただけなんだろう。

 面倒な事態になりそうな予感をヒシヒシと感じる、ただでさえドリアードの話もあるというのにこれ以上はご勘弁願いたい。

 うん、ズラかろう。


「短い付き合いでしたけど俺とシャルルはこれで失礼しま」「待ってくれ」


 引き留められたー、当然のことだけどアマレットさんは腕を掴んで逃亡を阻止してくる。


「『元副団長』の仲間なのだろう? ちょっと用があるから呼んできてくれると僕も助かるかな」


 腕を掴まれながらそんな事を言われたらさすがに俺も苛立つな、とりあえず振り払って返事をする。


「……リュリーティアさんの名前を呼びもしない人の為に俺とシャルルが動くとでも?」

「参ったな。手荒な真似はしたくないんだけど、仕方ない」


 おいおい正気かよこの人、騎士のくせに自制心が欠片もありゃしねぇ!

 腰に下げた剣に手を掛けながらアマレットさんは構えを作る、これには俺の方が参ったと言いたい。

 それにこういう人ほど無茶苦茶強かったりするんだよな、今の構えとか悔しいけどすっごいカッコイイもん。


「頼みを……聞いてくれるかな?」

「ははは、冗談じゃない」

「強情なんだね、危機だと分かっているんだろう。それとも僕が本当に君を傷つけないとタカを括っているのかな?」


 アマレットさんが騎士であるのならしないと思っている、だけど本当に斬りかかってくるようなら……やっべーどうしよう何も思いついてないや。



「悪いね」



 アマレットさんが動く、それに反応して俺もとりあえず避けることに専念する。

 まずはシャルルを巻き込まないような場所へ……って予想以上に早い!?


「くっそ……!」

「遅い!!」


 鞘から抜かれた剣が胴に迫る、氷の剣を作り出して防御に間に合うかどうかのギリギリ。

 致命傷を与える攻撃じゃないようにと祈りつつ、痛みに耐える為に力を入れた所で突如アマレットさんが真横に吹き飛んだ。


「へ……?」


 まるで状況が掴めない、アマレットさんはかなりの勢いで地面を転がっていたけど途中で体制を整えてなんとか止まる。

 吹き飛んだ方向とは逆方向をみれば、高く上げた脚を下ろして凛と立っている一人の女性がいた。









「よもや騎士宿舎で凶行に走る愚か者が居るとは思いませんでした、殺しますわ」


 発言は物騒だけれどその頼もしさは俺の知るリュリーティアさんそのものであった。

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