コロッケは魔性
下の階に降りた俺は先にテーブルに座っていたシャルルを見つけ隣に座った。
今夜はポトフとコロッケらしい。
異世界で味わう料理はどうやら俺の世界との劇的な変化ってのは無さそうなので安心した。
ポトフに使われてるであろうコンソメの匂いがこちらまで届いていて、それを嗅いだシャルルは目を輝かせて待っている。
油で揚げるこの音は今まさにコロッケを作っているのだ、できたてを食べられるってのは本当に心が踊る。
ちなみに俺はコロッケはジャガイモ多めのコロッケが好みなのだ。ジャガイモ自体はゴロっと入っていたら衣のサクサク感からのジャガイモがほぐれる食感がたまらないし、ちゃんと潰したモノはよりジャガイモの味を楽しめる。つまりどっちでも構わない。
自分で作る時は気分によって変えている。
そう考えているとサシャさんが料理を運んできてくれた。
「おお……これは、美味しそうだな」
「だね。もう待ちきれないよぉ」
「ふふっ、気にしないでたくさん食べちゃっていいわよ。今日は貴方達の他は誰もいないしね」
その言葉を合図に俺達は手を合わせた。
「「いただきまーす!!」」
まずはポトフをいただこうかな、メインは後にするべきだろう。まぁマナーもありゃしないけどな。
シャルルはコロッケを大きな口を開けて食べようとしている。
では俺もポトフを……。
「あーん……」「おーいサシャ! お食事のお客様がお一人だぞ!」
仕事を終えたガラッドさんであろう、声に箸を止めて扉に目をやった。
そこに立つのはガラッドさんとなんとリュリーティアさんであった。
へ? なんでここに? いやでもお食事って言ってたし、そうかただ単にここに食べに来ただけか。
あれ? なんかリュリーティアさんこっちに来て……俺の対面に座った、他にも座る席あるのに。
何故わざわざ目の前に、その、人見知りって訳でもないけどこんなに綺麗な人に目の前座られると緊張するのですが。
いや、シャルルお前凄いな。さっきから一度も目もくれずコロッケ食べてるなお前、いやちょっと遠慮してくれ、食べる分が無くなるから。
「あの、先程はどうも。こちらには何をしに?」
「無論、食事をしに来たのですわ」
「あは、そうです、よね。はは」
「……」
Oh……。
「モグモグ…んっぐ。ねぇねぇトージ食べないの? 早くしないとコロッケ全部ボクが食べちゃうよ? んん? あれぇリュリーティアいつの間に? 気づかなかったよ、どうしてここに?」
「だから、食事を、しに来たのですわ」
「へーそうなんだ。あっ! ここのコロッケとっても美味しいよ! リュリーティアも食べてみなよ!」
あわわわコミュ力の化け物かこの子は。
リュリーティアさん怒っては……いない。
「そうですのね……。コロッケが、絶品なのですよね。ええ。ええ……」
今気づいたが座った時からずっとリュリーティアさんの視線はコロッケに向かっていた。
見間違いだろうか、シャルルがゴハンに向ける目の輝きと同じものをリュリーティアさんから感じる。
宿舎で見たような凛とした顔つきではなく、心なしか頬か緩んでいるようにも見えるし、なんといっても雰囲気から圧を感じない。
「どうもいらっしゃい。今お料理をお持ち……あら、闘司くん達の知り合いさんなのね? そうだったのね、とりあえずお箸とポトフを置いておくから一緒に食べちゃってて。後でもう少しコロッケ持って来ますから、あぁアナタちょっとお料理作るの手伝ってちょうだいな」
「はいよ。それじゃあ副団長、是非堪能していってください」
勘違いとも言えないがサシャさんは箸をリュリーティアさんの元に置いてガラッドさんと共に厨房に戻っていった。
リュリーティアさんは箸を持ち、ユルユルとした動きでコロッケをつかみ口に運んだ。
途端尻尾でもあったらピンと立つかのようにビクッとしてブルブルと小刻みに震えだした。
まさかお口に合わなかったのか!?
「……しぃ、……すわ」
「へっ?」
なんて言ったんだ?
「美味しいですわーー!!!」
「わっ……!」
「見た目から見事なきつね色で目を奪われておりましたが、お味も素晴らしいですわ。一見同じコロッケと思いきや中身はちょっとした変化がされておりますのね。挽肉とジャガイモオンリーのシンプルなモノ、人参とコーンが入った甘味を感じるモノ、それとちょっと揚げ時間をのばしたガリッとも近い食感のコロッケ……。専門店では真似出来ない挑戦をやるというその心意気、素敵なことですわ。どれも高水準で満足以外の感想が出てきませんわ……」
お上品に高速で食べつつ品評していく様は一種のスキルなのではと思わざるを得ない。
どうやらよほどコロッケがお好きなのが丸わかりだ、好感が持てますね。
あっという間に皿に盛られたコロッケはシャルルとリュリーティアさんにお掃除されてしまった。
二人ともポトフを味わいながら揚げられてる次弾を待っているようだ。
ちなみまだ俺はポトフしか食べていない。憤慨モノである。
「申し遅れました、相席させていただきますわ」
「遅すぎませんかねぇ!?」
なんなの? 嫌がらせなの?
「俺まだコロッケ食べてないんですけど……」
「あら? ここのコロッケはとても美味しいのに何故食べませんの?」
「何故って」「はーい新しいの揚がりましたよ」
会話を遮られるようにサシャさんがやってきた。
何事にも流れってものがあるんだなと異世界の世知辛さに涙した。
二人とも待ってましたとばかりに食らいついていくので今度こそ俺は遅れを取らないように食べ始めた。
あぁ人を狂わす魔性のコロッケとても美味しい…。




