諸悪の根源?
シルウィーンの言葉に頭を抱えるしかない、俺達の事を出会う前から知っていたのにはそんな理由があったなんて。
「色々とやかましい勇者であったがお主らの事について話し始めたら妾も興味が湧いての、知る限りのことを教えてもらったのじゃ」
あの野郎……いや、誰にも喋るななんて言わなかった俺達にも問題はあるけどさ、勇者である一馬には実際言えなかったけどさ。
「その中でも魔族を容易く葬り去る力を持つシャルルについては、忘れようにも忘れられぬモノだった」
「ボク? えへへ、照れちゃうなぁ」
俺の膝に乗るシャルルが頬を掻きながらクネクネしている、反応が可愛いなおい。
「妾と同じ風の魔法を操り、加護を授けられているかのような威力、あどけなさを残したエルフの少年……勇者の話を聞いていく度に妾の中に一つの結論が導き出された」
結論……そうか、もしかして。
「その者なら、妾と対等な存在たる夫として相応しいのではないかと。そこからは手早く勇者に加護を受け取ってもらいすぐに帰らせて、お主らがジーンバレーへ来るのを待ちわびた」
「最初から色々と知った上でシャルルに近づいてバカみたいな婚姻話をしてきたのか」
「ふんっ……お主の事も頭の片隅には残しておった、やたらとシャルルに好かれている男だとな。妾にとって邪魔な存在になるだろうと思っていたが、まさに邪魔以外の何物でもない」
一度も顔を合わせたことの無いシャルルに近づけて、俺へ殺意を向けてくる訳がようやく判明した。
要は大体一馬のせいだった、アイツがシルウィーンに俺達の話なんかしなければここまで苦労することは無かったのだ。
「ぐぎぎ……故意的では無いとはいえ、次に会った時は覚えてろよ一馬ぁ! いや、やっぱり関わりたくないから会えなくていいぞ一馬ぁ!」
「なに意味がわからねぇこと叫んでんだよ闘司」
「悪いイル、どうしても抑えきれなかった」
シャルルの頭を撫で回して落ち着こう。
「おい、そろそろ妾と替われ」
「はぁー? そろそろも何も、一生そんな機会は与えん!」
「やはりあの時殺しておくべきだったか……今ここで殺してもよいがの」
「やれるもんならやってみやがれ!」
「吠えたな下郎、八つ裂きにしてやる!」
そんな風にギャーギャーと騒いでいると、シャルルが突然立ち上がる。
そのままシルウィーンの方へと歩いていき、膝の上へ……座って……!?
「ほ、ほほぉおお……シャ、シャルルや、どうしたのじゃ?」
「二人がケンカするからだよ。コレでもうケンカしないよね?」
「あ、ああ、もちろんじゃ。くふふ、くふふふ、シャルルは柔いのう、妾より華奢に感じるぞ?」
「そ、そんな事ないよ!? シルウィーンは女の子だしボクは男だから、ボクの方がガッシリしてるもん! もう、じゃあボクと入れ替わってシルウィーンが膝に乗ってよ!」
「よいよい、別にどちらでも構わぬぞ」
なんだ……? いま俺の目の前で起きている光景は一体なんだっていうんだ。
俺の膝には暖かな感触はなくて、シャルルが居たという名残だけがある。
「お、おい闘司、見た事もねぇような顔をしてんぞ……!」
「こ、ここ、ころっしゃー!!」
殺意の波動に目覚めた獣が咆哮をあげて威嚇をする。
「トージ、騒がない!」
「はい」
収まった、席に戻る。
「まぁ、その、なんだ……仲がいい事は大事だろ?」
「ソウデスネー」
紅茶を飲んで心を落ち着けようとしたが、味がよく分からなかった。
テーブルに突っ伏しながらシャルルとシルウィーンが仲良くしている様をただじっと眺めた、ある意味拷問に近い何かを感じる。
やがて一段落したのかこちらへと意識を向けたシャルルと視線が合ってしまった、慌てて逸らして別の方向を見ていると今度はそっちからシャルルがニュっと顔を出してきた。
「うわ、なんだよシャルル」
「んーん、なーんでもなーいよー」
「なんでもって……おわっ!?」
突然突っ伏していた頭を起こされて姿勢を正される、そしてそのままシャルルが膝へとピットイン。
目をぱちくりさせながらシルウィーンを見てみるも、顔を歪ませてはいるがシャルルを止めようとする動きは無かった。
「えへへー」
「ぐ、ぐへへ」
よく分からないけどシャルルが嬉しそうに笑っていたので俺も笑っておいた。
「気色の悪い奴じゃ……」
酷いことを言うもんだ、そんなに変な顔をしているだろうか。
試しにイルの方を見てみると何とも微妙な表情をしている、まぁどう見られてようと構わない。
「シルウィーンが一馬から話を聞いたのは分かったけどさ、それだけでシャルルと結婚したいなんて思うか普通、いや俺が女だったら思うけども」
「闘司、お前はいまとても変なことを言ってるぞ」
何故だ、俺はそんなに変なことを言ったか!?
「お主に名を呼ばれると寒気がするのう……まぁ妾も会うまで気待ち半分ではあったが、シャルルの顔を一目見た瞬間に心は決まった」
ほう……見る目はあるな。
「衝動で突き動かされるといった経験は初めてであった、一目惚れなど唾棄すべき事じゃなと思うておった妾が……シャルルを見た途端にその見目と強さの虜になってしまったのじゃ、妻となり身をまぐわせ子を孕みたいと」
「テメー何を自然とシャルルの情操教育に悪いことを口走ってんだボケー!」
慌ててシャルルの耳を塞いだので間に合いはしたが、やはりコイツの傍にシャルルを置くのはちょっと危ない。
「なにバカなことを言うておる、種の本能として正しきこと。忌避するお主の方が異常じゃ、それにお主は連れの女であるリュリーティアと致したのであろう?」
「だ、だだ、誰がしてるか!? 俺はまだその、いやまだじゃなくてだな……とにかくしてない!」
「はぁ……? お主もしや、不能か?」
もうやだー!! この神子キラーイ!!
「むっ、そういえば今さら気づいたが女がおらぬの。まぁ仮にこの場に居たとしても妾が苛立つだけ、居なくて助かる」
リュリーティアさんもきっと同じ事を思うだろうな。
それにリュリーティアさんは俺みたいに打ったら跳ね返すような敵意の出し方じゃなくて、ジワジワと臨界点を超えたら怒りを爆発させるような人なので両者が合わなくて正解な気がした。
会ってたら争いは避けられなかっただろう、リュリーティアさんを連れ出してくれてありがとうなローレライ、今だけはそう感謝しよう。
「とにかく妾にとってシャルルは運命の相手、必ずや夫にせねばならぬ」
「させないからな」
「シャルル自身の意志を尊重せよ。のうシャルル、妾と夫婦の関係になりたいじゃろ?」
「えっと……うーんと……ゴメンね」
「あはははは駄目じゃねぇか!!」
「黙れ! 幸いシャルルと妾は長寿の身、お主らが天寿を全うした時にシャルルが独りとなったら考えも変わるはずじゃ、その時まで待とう」
こいつ、なんて気の長い計画を立ててやがる。
しかしそうか……無茶苦茶気に食わないけど有難い一面もある計画だ、シャルルを独りぼっちにさせようとはしないんだからな。
それに俺とリュリーティアさんが寿命を迎えるまで殺さないと自分の口で言いやがった、今の発言を盾として今後に利用してやる。
「うん……ボクとしてはその時が来て欲しくないんだけど、そうなったら……考えてみるね」
シャルルは少し憂いを帯びながら笑ってそう言った、俺とリュリーティアさんが居なくなった未来を想像したからだろう。
前も話した通り、シャルルより先に死んでしまうという問題を解決する方法は何もない。
なので今はとりあえず。
「わ、わ、あはは苦しいよトージー!」
後ろからギュッと抱きしめて、わしゃわしゃと頭を撫で散らすことでシャルルの気を紛らわすことにした。
その後も他愛ない会話、ほとんどシャルルが喋っていた気がするけれど穏やかに時間は過ぎていった。
その時突然、謎の音がシャルルから鳴り響く。
「腹に何か飼ってるのかってくらい鳴ったな」
「お腹すいたー」
「もうそんな時間なのか。長居してしまい申し訳ありません神子様、オレ達はそろそろ失礼させていただきます」
「何を一丁前に遠慮しておるのか生意気な、シャルルの頼みとはいえ妾が城へ招いたのじゃからもてなしくらいさせよ。少し待て、食事を用意させる」
そう言ってシルウィーンが軽く手を叩いて数分、元々用意してたんじゃないかという早さでメイドさんが料理を運んできてくれた
というかさっきのメイドさんじゃないか、やはり有能すぎる。
手早く目の前に料理を配膳してくれてあっという間に昼食の準備が出来上がっていく。
そして去り際にメイドさんがこちらを一瞥して、何も言わずに椅子をもう一つ置いて出ていった。
な、なんて気の利く人なんだ……俺はいま感動で涙が出そうだよ。
「食べよ食べよ、いっただきまーす!」
シャルルは既に膝から降りて目の前の料理に釘付けだ、俺も食べるとしよう。
映画でよく見るような料理を覆う半円形の銀の蓋を取り払う、そこには一体どんな料理が待ち受けているのか。
「……ミイラ?」
装飾などが華美に施された皿に盛り付けられていたのは、干し肉、ドライフルーツ、魚の開き干しであった。
いいや、盛り付けられていたなんてのは誇張表現だ。
適当に皿に放って積み上げたかのように見た目を全く考慮してない盛り方だ。
食事を頂いている身として文句を言うのは筋違いかもしれないが、さすがにコレはシャルル達も可哀想なのでシルウィーンに話しかけようとして顔を上げる。
「うわー! 美味しそうなお肉だぁ!」
「み、神子様、ホントにこんな豪華な料理をオレなんかがいただいてしまっていいのですか?」
「じゃからイレンドルは気を遣いすぎじゃ、妾が食えと言うたのだから気にせず食え」
喜びの声をあげている二人の料理を見てみる、そこには高級レストランで食べれる様な見た目も味も最高そうな料理が並んでた。
「なんなんだよこの格差はさぁ!?」
「なんじゃトウジ、不満なら食わなくて良いぞ。じゃが勿体ないのう、そこの干物はジーンバレーの名産、食わずして帰るのは損しか無いと妾は思うのじゃが」
「俺にもその美味そうな料理を食べさせてくれぇ……」
「戯け、これはシャルルとイレンドルの為の料理じゃ。お主はそれで充分、そもそもそこの干物も大層美味いものじゃ、つべこべ言わず喰らえ」
ちくしょう……やっぱりコイツは俺の敵だ……。
これ以上は醜いだけなので大人しく干し肉を手に取って、恐る恐る口へと運ぶ。
「ぐっ……」
「すっげぇ美味い……」
種類の格差はあっても味の格差は無かったようだ。




