監視・1
アヒロデオト山脈麓の村からやってきた旅人とエルフをあっさりと帰してしまったウィガー団長に私は疑問と少しの怒りを示した。
「ウィガー団長、何故あの二人の話をああも簡単に信じたのですか? 本当にマウントグリフォンをあの二人でだけで倒したとお思いなのですか!? 調査団だけでなく騎士団も共に送るべきですわ!」
団長は業務の手を止め頷く。
「あぁ、あぁ、リリィ。お前の疑問も怒りも当然の事だと分かっている。仮に俺とリリィの二人で討伐したと言うのなら、お前も信じるだろう?」
それはもちろん信じられる。
この騎士団の長であるウィガー団長の実力は、副騎士団長である私が一番把握しているのですから。
団長一人でも何ら問題ない筈ですわ。
「それは当たり前ですわ。このシュルト城下町を守る騎士団として、マウントグリフォンなら難なく討伐できるでしょう。それこそ団長お一人でも可能ですわ」
「そう俺一人でも確かに討伐出来る。だから話を信じた」
「は? ちょっと仰ってる意味が分かりませんですわ団長」
「何だリリィ、お前には感じ取れなかったか?」
団長は少しおちょくるように問いかけてきた。
普段は気にしないからかいも、要点が分からなく焦れた私には少し頬が引き攣る程度の苛立ちを感じた。
反撃の意味合いも含めて一番可能性の低い答えを私は答えた。
「では団長はこう仰りたいのですわね? あの二人は団長程の実力を持っていると。だからマウントグリフォン討伐を信じたと」
「よく分かったじゃないかリリィ、だが少し違う」
団長は問題を解けた子供を褒める親のような反応をしたあと、顔つきが変わった。
「シャルル少年も言っていたであろう。トージ、あの八代闘司という男がほとんど倒した、と。それを信じた、それを信じる実力をヤツから感じとった。俺と同等、あるいは……」
「そんなことは!」
そうなのだ、そんな事はある筈ない。
日頃から厳しい鍛錬をして、魔法の鍛錬を欠かさない団長からは強靭な肉体という外面的強さ、魔法の鍛錬による魔力量から発せられるオーラのような気配に似た内面的強さを受けるのだ。
それなのにあの八代闘司という男は、確かに筋肉などは成人男性より僅かながらあるがそれでも団長に程遠く、魔力量に関しても感じ得なかった、というより無かった。
むしろ隣のエルフの方が遥かに見たことのない魔力を感じたくらいだ。
「俺も信じてはいなかったが闘司に殺気を放ってみた途端やつは素早く反応した。巧妙に隠していた実力を俺の殺気で出したんだ。何の変化も無くこれが俺の力だと言わんばかりにな。正直恐れ入った、それでも尚態度を崩さず平然と俺達と接するのだからな」
団長の試みは知らなかったがもしその時実力を出していたのなら、私にも感じ取れたはず。魔力を隠すなんていう芸当は聞いたこともないから。でも分からなかった、彼はそれをやってのける程という事なのですの? 団長にも出来ないようなそんな事を。
仮に、仮にもしそうだとしても隠す理由が分からないですわ。
討伐を信じてもらうなら、実力を隠すなど意味が無いじゃないですの。
「というわけだよ。彼らは本当にマウントグリフォンを討伐したのだろう。しかし、一応確認と体裁のために調査団を送るのだ。分かってくれたか?」
「分かりましたわ……。しかし町を訪れた彼らの目的を知るために監視を行っても宜しいですか?」
「監視? あぁ、なるほど。何で実力を隠したか謎なのだな。別に構わないが多分あの二人は悪さなんかしないと思うぞ。」
「そんなの見ただけでは分からないですわ!」
「リリィお前は真面目だなぁ、だから副騎士団長になれたのだろうが。しかしあのシャルルという少年が闘司に向ける信頼や憧れみたいなものからは、負のイメージは無かったぞ。そんなに信じ、信じられてるあの二人は良い奴らなのだろうさ」
「団長は楽観的過ぎるのです! とにかく私は監視につかせもらいますわ」
「あー分かった分かった。好きにしていいぞ、ただし迷惑はかけるなよ」
そういうと団長は再び書類作業に戻っていった。
私はすぐさま彼等の監視につくために部屋から出ていこうとする。
「緊急時にはちゃんと戻って来てくれよ副騎士団長さん」
そんなの当然ですわ、騎士団長殿。
監視するとは言ったものの、彼等が何処に行ったのか全然分からないですわ……。
旅人を目印に聞き込みしたとしても旅人なんてしょっちゅうこの町には来ますし、エルフもよく訪れますわね。
これは困りましたわ……。
あぁそうです、確かあの時門番の方が連れてきてくれたのでした。
その方に聞けば何か知っているかもしれませんわね、早速向かうとしましょう。
「えっ? 旅人を連れていったのはガラッドですけど……あいつまだ戻ってきてないですね。てっきりまだ騎士宿舎にいるものかと思っていました」
「はい? そうなのですの? 困りましたわね……」
いきなり手掛かりがなくなりましたわ。
あら、誰か肩を落としてこちらにやってきますわね。
「おーいガラッド何処で油売ってたんだ! 副騎士団長殿がお前を探していたんだぞ!」
「な、何だって!? ここここれは副騎士団長殿!!! 私をお探しとは一体どのようなご用件ですか!?」
「あー落ち着きなさいな。貴方には宿舎に連れてきたあの二人の事を聞きたかったのですわ。彼等が何処に行ったか知りません?」
「へっ? あぉ、それでしたらあの二人は私の宿屋に泊まっていくはずです。私が紹介しましたので」
「ガラッドお前戻ってこねぇと思ったらそんな事してたのかよ!」
「別にいいだろダン、ガラシャの宿屋は常にお客様募集中なんだから」
ガラシャの宿屋? あぁ……あの、ピンク文字の看板の宿屋ですわね……。
あれが無ければもっと入りやすいハズですわ、きっと。
「そう、それはありがとうございました」
「えぇ? もしかして副騎士団長殿もあそこに泊まるのですか? 料理は確かに美味いですけど」
「本当ですか?! 是非ともウチに宿泊していってください!」
「いえ、あの悪趣味看板が無くなるのなら喜んで行きましょう」
「悪趣味……」
ガラッドさんが落ち込んでいるようですが事実ですので仕方ありませんわ。
宿泊先は分かったことですしここからお暇させていただきましょう。
「情報ありがとうございました。ダンさん、ガラッドさん、私これで失礼致しますわ」
「はい! コイツが役に立ったようで良かったです!」
「副騎士団長、ホントに来たくなったらいつでもいらっしゃってくださいね! 料理だけ食べにきても大丈夫ですので!」
ガラッドさんのお願いは頭の片隅に置いといて差し上げましょう、ホント隅っこに。
とにかくガラシャの宿屋の方向に向かって歩き出すことにした。
今度は何処で監視するべきかを考えながら。




