なんてことない道のり
口に残っていた不快感は自動治癒では治らないんだなぁと身支度を整えながら思う。
「うぇ〜まだちょっと口が気持ち悪いよぉ……おかしいなぁ近所のみんなが作っていた通りに作った筈なのに……」
「見事に焦げた料理だったな、料理の形を保った炭なんて初めて食べたよ」
「むうごめんって、今度こそちゃんと作るから!」
「はいはい、その時は俺も手伝うよ」
料理は1日にしてならずということかな。
「あの責める訳じゃないけど、今までは料理とかはどうしてたんだ? その……シャルルは両親が……」
「ああ気にしないで、もう大丈夫だから。うーん普段は手を加えないからなぁ、お野菜とかはそのままでも美味しいし木の実も甘くてね〜。お料理はお客様が来た時に振る舞う物だって母さんも言ってたんだ」
「そっか……」
シャルルは本当に両親のことを気にした様子は出ていない。出さないだけかもしれないが。
「最初の頃はお客様が来てたのに段々来なくなっちゃったから、作る機会が無かったんだよ。だから失敗しちゃったんだねきっと!」
「あーうんそうだな」
恐らくあの料理が上達することがなかったから、来客が減っていったのでは。
多分教えてくれる人がいなかったからあんな事になっていたのだろう、そう思うと俄然シャルルに教えたい意欲が湧いてきていた。
幸い一人暮らしの料理スキルがあるしある程度なら俺も教えられるからな。
「じゃあ支度も終わったし料理の話は終わりにして、街を目指すか! ……目指すか!」
「なんで二回も言ったのさ」
ここから街に行くにはまず目の前に大きく広がる谷を超えなければならない。
下は辛うじて見えるが落ちたら一巻の終わりだ。
谷を渡るためにこれまた大きく長い橋が架けられている、しかし木製だ。
日本にあるような頑丈な鉄製ではなく木製の橋は、風のせいなのか少し揺れている。
高所恐怖症ではないが渡るには気後れしてしまうのも仕方ない。
だけど渡らなくちゃ街には行けないので覚悟を決めなくてはいけない。
そして橋の手前で止まる。
「ははーん……トージ、怖いんだ?」
「ばっ! いやいや違うぞ!?」
「そう? じゃあとっとと歩けー! ははは!」
「わー! わー! 分かった、分かったから押すなー!」
そうしてシャルルに背中を押されながら橋を渡り、真ん中まで来た。
少しの恐怖感からかここまでの距離がかなり長く感じてしまう、それにまだ半分あるのかと。
そして橋の真ん中は渡る前はさして揺れてるように見えなかったが、これまた真ん中に着いたら風に揺れるわ揺れる。
後ろのシャルルはなんか谷を覗き込んで呑気に高いねーと俺に語りかけてくる。
どこからその度胸が生まれているのか、顔か! その美形で愛らしい顔からなのか!
「ねぇトージ、どうしたの?」
いかんいかん何でこんな最も危なそうな場所で立ち止まらなきゃいけないんだ。
シャルルに声をかけられた俺はハッとして歩き出した、筈だった。
踏み出した右足はしっかりとつくことはなく、橋を突き抜けたのだ。
幸いそのまま落ちることはなかった。
「うっひょおぇええ!」
「トージ! 良かったぁ……今抜くからちょっと、待って……ふふふっ」
「な、何だよ」
「いや、トージはホントに反応が面白いなぁって」
「けっバカにしてるのかよ」
「違う違う。ただ僕の周りにはこんなに大きな反応したりしてくれる人がいなかったから、なんだか嬉しくて」
なんだよ、そんな嬉しそうな顔されると何も言えるわけないじゃないか。
ハマった右足は難なく抜けて、ムズ痒いこの空気から離れるため少し早く橋を渡りきることにした。
それからは何もトラブルなく普通に渡れたのだ。
なんてことはない橋だな、はっはっは。
「さてさて怖がりトージさんの難所は抜けたしこのまま平野を渡って街までゴー! だね」
「ふーんだ、別に怖かなかったやい。ところでこの平野は魔物って出たりするのか?」
「一応出るけどマウントグリフォンみたいなあんな強いのは滅多に出ないんだ、騎士団の人達が定期的にこの平野をぐるーっと廻って警備してるからね。もし出てもその騎士団の人達が退治しちゃうんだよ」
「ほほー、それは頼もしいな」
「まぁスライムとかウルフェンっていう狼みたいなのはよく出るけどね、でもそれはだいじょーぶ! ボクにおまかせだよ!」
「俺はあんまり役に立たないからな。ははー、どーかお願いしますシャルルさまー」
「まぁ、ベヒモスとか出たらトージの出番だと思うから頑張ってね!」
いやだ奥様、いまフラグ立てませんでしたこの子。
ベヒモスってあれだろあのなんか角生えてむっちゃ強そうなのだろ勘弁してくれよ。
いや、まさかね。マウントグリフォンはたまたまだったし流石にね……。
そうして俺は一抹の不安とフラグを抱えて街を目指した。




