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苦戦必至の異世界巡り  作者: ゆずポン酢
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ヤキモチ

ほとんど余すところなく食べ尽くしたノノムラの残骸を土に埋めてまた歩き始める。

そして限定的に旅に加わったノムラを抱きかかえて撫でながら生い茂る草原を歩くこと幾時間、そろそろ腕が痺れて疲れてきたのを感じた。


「ゴッ。」

「ん? あぁ大丈夫大丈夫、もう少しぐらいなら持てるぞ。」

「ゴッ、ゴッ。」

「そうか……お前にも帰る家、もとい帰る巣があるんだもんな……。」


ノムラは名残惜しいがそろそろ巣に戻らなければいけない事を伝えてきた、俺にとってもノムラと別れるのが辛い。


「何でノムラと自然に会話を出来ているのか謎で仕方ありませんわね。」

「トージ凄いねー。」

「凄いの範囲で収めていいのでしょうか。」


二人はコソコソと話しているが今の俺は別れの切なさで胸が一杯だ、だけど自然に生きるノムラを無理矢理引っ張り回すのは俺もしたくない。

覚悟を決めた俺はノムラをそっと地面に下ろし、水の魔法で先程の腹パンのダメージを取り除いてあげる。

ちゃんと魔法は成功したようで、ノムラは地面を元気に飛び跳ねながら俺に感謝を告げてきた。


「へへっ、捕まえちまった俺達が悪いんだ。次はリュリーティアさんみたいな人に見つからないように気をつけろよ?」

「はっ倒しますわよ。」

「ゴッ! ゴッ!」

「うん、うん。お前も頑張れよ!」


ノムラはもう一度感謝を告げて俺の傍を離れていく。

そして姿が段々と小さくなっていく中、くるりとノムラが振り返りぴょんぴょんと跳ねて最後の別れの挨拶をしてきた。


「う、うぅ……ノムラーー!! 元気でなーー!!」

「この人、本気で泣いておりますわ……。」


言葉が届き、ノムラの小さな体は草原の中へと消えていった。

こうして僅かな時間ではあるが、ヒトである俺と魔物であるノムラの交遊譚は終わりを迎えたのであった。






元気に去っていったノムラを思い返しながら再び歩き続ける、そうしているといい加減思ってきてたことがつい口から溢れ出た。


「草が邪魔で歩きづらい……。」

「ボクは戻りの森で慣れてるからこれぐらいは平気かなー。」

「やはりそうなりましたか。」

「なるほど、さっきの焼き払う云々はこれを見越してたんですね……。」


足元が見えないで進むのと、草に引っ掛からないようにしっかりと足で踏み分けて進む行為は予想よりも体力がいる事だった。

だからといってシャルルやリュリーティアさんに頼むのは男として情けないので却下。


「そうだ、剣で切り進めばいいだけじゃん! よしよしそうと分かれば……アクアヴェネツで買ってから使わずじまいだった、この水の魔法を付与して使う剣の出番だぜ!」

「闘司さんそれは……いえ、なんでもありませんわ。」

「そうですか? じゃあバッサバッサと行きますよー!」


腰に帯びたままだった剣を抜いて水の魔法を付与する、心なしか元の状態より刀身の輝きが増した気がするな。

足元の草を剣で横薙ぎに切り捨てていく、手に伝わる感触は微々たるものでこれなら振り続けていても疲れる事は当分先になるはずだな!

それにこの行為により随分と歩調が早められる、足はズンズンと障害物の無くなった草原を踏みしめていった。


「ほら二人とも早く、俺についてこーい! なんつってわははは!」


思うように進めなかったストレスが、草を切り開くことにより発散されて更に快感へと変わっていく。

一種の興奮状態になっており、ちょっとの事じゃ俺は止まらない。


「リュリーティア、止めなくていいの?」

「そろそろ野営の準備をと思っておりましたので、闘司さんが力尽きたらそこで始めますわ。」

「リュリーティアは酷いなぁ。」

「あら、そういうシャルルさんが止めればよろしいのではないですか?」

「ん……トージはノムラばっかりに構ってたからね。」

「なるほど、やきもち焼きさんですか。」

「ずーっとノムラを抱いてるんだもん、手も繋げなかった。」


わははは! 我を妨げるものは何もなーい!

わは……ん? 何か違和感が、でもまぁ問題ないな!


(ワタクシ)はシャルルさんと手を繋いでいたのですがそれではダメでしたか。」

「あっ!? えっとごめんその、リュリーティアと一緒に歩けてボクは嬉しいんだよ、ホントだからね!」

「闘司さんとじゃないと物足りないのですかー、(ワタクシ)なんだか妬けちゃいますわー。」

「違うの! ゴメンってばー!」








パチパチと音が鳴っている、その音で何故か閉じられていた瞼を開く。

見えたのは布、これはテントか。

それに俺は何故か横になって寝ていたので身体を起こして周囲を確認すると、テントの外からいい匂いが漂ってきた。

それにつられるようにテントを出ると、焚き火で談笑しながら食事をしているシャルルとリュリーティアさんがいた。


「起きましたか、こっちに来て一緒に夕食を食べなさいな。」

「夕、食? うわ、いつの間に夜になってたんだ……?」

「トージったら急に倒れて寝ちゃったからね、仕方ないからそこで野営することにしたんだよ。」


そうだったのか、でも急に倒れたって何でだろう?

何とか記憶を掘り起こして確かめてみると、笑いながら剣を振り回して地面にダイブしていく光景が思い出せた。


「oh……。」

「原因は魔力の枯渇です。水の魔法を付与して使う剣など今の闘司さんが使用したら、あっという間に魔力が底をつくなど当然分かり切った事でしたわ。」


リュリーティアさんに鼻で笑われながらそう言われた、とても心に刺さるのでソレはやめていただきたい。


「それなら止めてくれればいいじゃないですか!」

「止めようと思いましたが……面倒になったのでやめました。」

「シンプルに酷い。……シャルルは分かってたのか?」

「えっ!? い、いやーボクは気づかなかったなぁ。そんなことより! はいこれ食べて!」


そんなことよりで済まされてしまった、シャルルから差し出されたお皿を受け取り料理を食べ……食べ?


「俺はこれを手で食べればいいのか?」


スプーンやフォークなどを渡されないままお皿を持つ俺、まさかワイルドにかっ喰らっていけというのかな。

しかしシャルルは俺の問いに、リュリーティアさんのとはニュアンスが違った鼻で笑う行為をして隣に座る、手には木のスプーンを持っていて俺の皿から一すくい。


「あーん。」

「あーん、んむぐ。」


魅惑のあーんという声に条件反射で口が開いて料理を迎え入れた、よく煮込まれた野菜スープは様々な野菜の甘みを存分に口の中に広げてくる。

咀嚼と気持ちの噛み締めを同時にこなして飲み込むと、全身が多幸感に包まれた。


「はー……しゃーわせ。」

「んふふ〜、はいどーぞ。」


ひと口、またひと口と野菜スープが俺の持つ皿から口へと運ばれていき、スープはものの数分で無くなった。

俺はお腹と心が満たされたけれど、シャルルもなんだか嬉しそうに顔を綻ばせている。


(ワタクシ)を除け者にしないでくださいます? それにしても二人でイチャついてて楽しそうですわねー。」

「へへへ羨ましいでしょうねぇ。だけどまだまだシャルルとはイチャつかせてもらうのでリュリーティアさんには渡しませんよ。」

「あら残念。でもシャルルさん良かったですわね、闘司さんと存分にお話が出来て。」

「ん? どういうことだシャルル?」


シャルルはリュリーティアさんの言葉に何か引っ掛かることでもあったのか、プリプリと可愛らしく怒りだした。


「もう、言わなくていいよー!」

「いいじゃありませんの、闘司さんは基本鈍いので言葉にした方が確実ですわ。」

「なんでいきなり(けな)されたのかが分からない……。」

「シャルルさんはですね、さっきまで拗ねていたのですわよ。」

「へっ? 拗ねてた?」

「うぅ……。」


シャルルは恥ずかしそうに身を捩りながら顔を赤くしている、その反応がとても素晴らしいものなので死にそうになったけどまだ死ねない。

気になる事が残っているからな。


「闘司さんは先程までノムラにベッタリでしたわよね? それのせいで手を繋げなかったり構ってもらえなかったりとで、シャルルさんがヤキモチをやいていたのですわ。」

「だって……トージってばずーっとノムラと楽しそうにお話してるし……ボクはノムラの言葉わかんないから混ざれないし……つまんなかった。」


まだだ……まだ頑張れ俺……!

そろそろキュンキュンゲージがマックスになりそうで堪らなくなってきてるけど耐え忍ぶのだ!


「そんなの気にしないで良かったのに。」

「だから鈍いのですわよ。急に構ってなどと言って困らせたらどうしようかと、当然気にしたりするに決まっているではありませんか。」

「うぐ……。」


な、なるほど。

学校で他クラスの人と楽しそうに話している親友の元には混ざりづらい、そんな感じと言ったところか。

でもそうか、シャルルがそんな風に思ってくれていたのか。

ヤキモチとは一種の独占欲みたいな物、それ程までに俺の事を好意的に見てくれていると知れてか、俺はもう既に地面に突っ伏して倒れてしまいそうだ。


「シャルルごめんな、今度からは気をつけるよ。」

「ううんトージは謝らなくていいの。でも次からはボクは遠慮なくいくからね! ということで……えい!」


シャルルがぴょんと跳ねて胡座(あぐら)をかく俺の上に座ってきた、まるでここはボクの場所だと主張せんばかりにだ。



「ボク、ここ好きだなぁ。」



あっもうダメだ。

ゲージが最大値を突き抜けて振り切った、魔力が枯渇した時と同じように俺はふらりと揺れて意識を失った。










「なんて満ち足りた顔をしながら気絶しておりますの……!?」


そんな言葉が聞こえた気がした。

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