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苦戦必至の異世界巡り  作者: ゆずポン酢
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宿屋のお仕事・2

後半戦への活力を与えてくれた親子丼に感謝を忘れずに、次の仕事へと向かう。

最初に来た時のどんちゃん騒ぎはなりを潜めて、大宴会場は静かなものとなっている。


「嵐が過ぎ去ったあとのようだ……。」

「お待ちしてましたお二人とも。」

「ヤエさん、次の仕事はここを片付ける事ですか?」


先に大宴会場に来ていた女将のヤエさん、俺の言葉に頷いて問いに答えた。


「なるほど、これは骨が折れるな。」

「えっトージ骨が折れちゃったの大丈夫? どこが折れたの?」

「予想外な反応をされてしまった。今のは例えだから、俺は元気モリモリだよ。」

「モリモリかー、良かったね!」

「ああ良かった良かった。」


おおよそ無駄であろう会話をシャルルと交わしながら食器などを片付けていく。

ある程度の食器を盆にまとめたら厨房まで運ぶ、そして大宴会場に戻り同じ作業を繰り返す。

そうした後に今度は厨房に溜まったお皿を洗う人と、大宴会場を片付ける人とで人数を割く。

寂しいがここで俺とシャルルはしばしのお別れだ。


「トージ……ボク、必ず戻ってくるからね……!」

「ああ……! 絶対、絶対に戻ってこいよ!」

「トージぃー!!」

「シャルルーー!!」


襖は静かに閉められて俺とシャルルの繋がりは絶たれた、さて小芝居はここまでにしとくか。

お皿洗いはシャルルにお任せして、俺は大宴会場を片付けていくことにする。


「仲がよろしいのですね。」

「ははは、変なものをお見せしちゃってすいません。」

「そんなことはありません、お仕事を楽しんでやる事は大切ですから。」


そう言ってもらえるとありがたいです。

それにしてもヤエさんはやはり女将というべきか、俺が二人いたとしてようやく同じ仕事量をこなせるぐらいの手際の良さだ。

ハナさんの仕事も手早く綺麗こなしていたけれど、ヤエさんは更に洗練された動きをする。

あと俺と会話をしていても手が止まるなんてこともない。


「ありがとうございます。」

「へっ?」


唐突にヤエさんにお礼を言われてしまった。


「すいません突然、驚きましたよね。」

「あ、いやそんなことは。」

「ふふ、いいんですよ。でもすぐにでもお礼を言いたくなってしまいまして、私達の為にお手伝い頂いて本当にありがとうございます。」

「そんな……それに仕事を手伝おうと言ったのはリュリーティアさんですから。俺なんてその時は何も考えてませんでしたよ、だからお礼なんてそんな。」


それにハナさんが過労で倒れることになった原因の一端はこっちにもある。


「ヤツシロ様がそう思っていたとしても、今こうして助けていただいてるのは確かなことです。それと宿屋が繁盛したことに対して文句を言って責めるなどと、そんな度し難い事をする人など何処にもおりませんよ。」


さすがは人を見て、もてなすお仕事を長年してきたヤエさんだ、俺の気にかけてることなんて全部お見通しだったようだ。

少しムズ痒い気持ちになった俺は、仕事に集中するようにして気を紛らわすことにした。








忙しい時間帯を乗り切り慌てながら仕事をしなくてもよくなってきた頃、俺とシャルルとリュリーティアさんの三人はタオルの山積みとなったカゴを抱えて温泉街を歩いていた。


「えっとね、そこを曲がって少しすると不思議な機械があるお店に着くんだ。」

「不思議な機械ねぇ……。」


シャルルの案内の元、このタオルなどを洗って乾かしてくれる機械がある店に向かっている。

擬音が多めのシャルルの話をまとめたところ、恐らく不思議な機械とやらの正体は掴めた。


「全自動洗濯機が存在するとは……文明のごちゃ混ぜ具合が激しいな。」

「闘司さんはその、なんちゃらせんたっきの事を知っておりますのね。」


なんちゃらせんたっきって……機会に疎いおばあちゃんじゃないんですから。


「俺の元いた世界でも一家庭に一個あるぐらいでしたからね、それに全自動洗濯機は忙しい主婦の味方なんですよ。」

「つくづく闘司さんのいた世界に興味が湧いてきますわね。」

「ボクもあれ欲しいな、中に入ってみたい。」

「それは絶対にやっちゃいけません!」


シャルルの恐ろしい発想に対して必死で阻止する。

とりあえずそんな事をさせないために釘をさしておくことにした。


「いいかシャルル。あの中に人みたいな生き物が入るとな、全自動洗濯機はたちまち恐怖の殺戮マシーンと化して命を喰らってしまうのさ。それを知らない子供とかは夜な夜な親の目を盗んで入ってしまい、今朝方になって無惨な姿で発見され……あだっ。」


つい熱が入りながら話していたらリュリーティアさんにチョップをされてしまった。


「注意はよろしいですが、話が(むご)たらしいです。シャルルさんも怯えているではありませんの。」

「怖い、怖いよトージ……。」

「あーごめんごめん、今の話は半分嘘だから。」

「半分は本当なんですのね……。」


まあ口にするのもはばかられる事件とかあったので、あながち嘘とは言いきれない。


「とにかく、中に入ろうなんて思うなよ?」

「うん、絶対に入らない。」


どうやらシャルルは分かってくれたようなので一安心する。

そんなこんなで話をしてればあっという間に目的地へと到着した、たしかに中から聞き馴染みのある音が聴こえてくる。

店の中に入ると、ゴウンゴウンと唸りながら微かな振動を繰り返す全自動洗濯機がそこにはあった。


「実物を見ると困惑が増すな……。」


俺の困惑が増したところで全自動洗濯機は止まらない、さっさとカゴに入ったタオルを全部入れてしまおう。


「よしっと、これで後は時間になったら取りにくればいいんだよな。」

「うん、それじゃ戻ろっか。」

「これがなんちゃらせんたっき……興味深いですわ。」

「ほら、リュリーティアも早く行こう?」

「失礼しましたシャルルさん、もう行きますわ。」


落ち着いたとはいえ宿屋の仕事はまだ残っている、ヤエさん達を待たせないように早く戻ろう。

宿屋へ戻るために温泉街をまた歩く、一度通れば道も大方は覚えられるものだ。

シャルルの案内無しで道に迷うことなくココノエ宿屋の前に着くと、扉がいきなり開かれて何か大きな布に包まれた物を抱えた男性二人組が出てきた。


「うわっと……すいません。」


ぶつかりそうになったので謝ると男性達は俺達の顔を見て驚く、その後慌てるように荷物を抱えたまま走り去って行った。


「な、なんだったんだアレ……。」

「よく分かりませんが挙動不審な方達でしたわね。」

「今のニオイって……?」

「どうしたシャルル?」


シャルルは男性達が走り去って行った方向をじっと見たまま首を傾げている。


「えっと……多分違う、よね。うん大丈夫だよトージなんでもない。」

「そうか? じゃあとりあえず入ろう。」


扉を開ければいつもとは違う賑わいの声が聞こえてきた、静かで落ち着くのもいいが人が居るという不思議な安心感も捨てがたいものだ。


「ヤツシロ様、お戻りになったのですね。早速で悪いのですが一仕事頼まれてもらますか?」


ヤエさんが廊下の奥から小走りで近づきながらそう言ってくる。












まだまだハナさんの代わりに働くことは山積みなのだ、こうして物思いに耽っている場合じゃないな。

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