プロローグ
運が悪かったとしか言いようがない。
普段通りに夕食を買いにコンビニへ出かけたら通り魔に後ろからナイフで一突き、刺されたところがこれまた運悪く急所だったり、夜ということで人通りが少なく救助が遅れて死んでしまったなんてのも不運だ。
本当に運が悪かった。
しかし何故死んでしまったのにこんな事を考えていられるのか。
否、俯瞰して、いや違う何故テレビに映されていてそれを見ているのか、それはこの人が。
「これがチミの最期のシーンね。いやぁ災難だったね悪いことは繋がるって言うけどワシも涙がちょちょ切れそうじゃよ」
白く長く伸びた髭をハンカチのようにして涙を吹いている。
いやそれはハンカチの代わりになるのか?
「はぁ……まぁはい」
「どうしたのじゃ? まだ状況が理解出来てなさそうな顔をしておるが」
「いやさっきまで救急車に乗っていて、とても眠くなって目を閉じて、目を開けたら変な老人がいて、周り一面お花畑な場所にいるんですよ?」
理解は出来ないけど周りを見渡す冷静さは残されていたみたいだ。
「じゃからさっき言った通りチミは通り魔に刺されて救急車の中で死んでしまったんじゃよ」
そう、目を開けたらお花畑で佇むこの老人にいわれたのである。
「チミが理解しやすいようにこうして録画した映像も見せているのにのう……」
いやいや、君の死んだ時の映像ねって言われて観せられて、ああそうなんですかなるほどって理解出来るはずがない。
「いや録画した映像って……趣味が悪いというかいつの間にこんな映像撮っていたんですか? そもそもあの時……カメラ持った人なんて思い出す限り見えなかったと思いますけど」
「それはほれ、神様のお力ってやつじゃよ。神力神力」
「いや凄い頭悪そうな力で……神様?」
「ありゃ言ってなかったかのうすまんすまん。ワシ、神様。ここ天国。どぅーゆーあんだすたん?」
「はい?」
「ここは死んじゃった人が来る世界、天上の国、天国じゃよ。チミは死んでここに来たの」
「悪い夢なら覚めてくれ……」
薄々感じてはいたけど、思い描く天国のイメージ通り過ぎて気づかないフリをしていただけだ。
「どちらかと言うと良い夢じゃがのう、地獄じゃないのじゃから。というかチミさっき死んだって事理解してたじゃない、地の文で」
地の文って……。
「いやもういいです。それで、死んだって事は理解しましたけど」
納得はしていないがとりあえず理解したという事にしておこう。
「あっそうなの分かってくれた? じゃあチミを別の世界で生き返らせるから。異世界転生ってやつじゃの。お決まりの神様からの特別なサービス付きにしておくから頑張ってくれたまえ。チミは努力家だった様じゃしそれに見合ったモノを授けとくから頑張るのじゃぞ? その他諸々はあっちで逐一教えてあげるし早速転生するぞい。ほい」
「はいっ? いや何言ってちょっと待っ」
早口で意味が分からないことを言ったと思ったら神様は手を軽く掲げる。
「3秒待っておくれチョッパヤでやるから」
「いやあの神様、色々聞きたいことがあるんですけど、じゃなくてそれよりチョッパヤとは」
「ほいっとな」
唐突な暗転。そして真っ暗な所から急に、パッと効果音が聞こえてくるかのように周りに色が増えた。主に緑と青と白。
「ハ○ジ……?」
そよそよと風になびく草原、周りには所々白い雪で覆われた山が見える。
今俺が立つ場所も、先に見える森や地面より高い場所に位置している。
俺が居た日本とはガラリと変わる風景をしばし眺め、現実逃避なのか脳内で楽しそうに野原をスキップする少女を浮かべてしまう。
「場所のイメージとしては近いじゃろうけどアレとは別物じゃぞ」
「いやいやいや、いやいやナニココ!? ドコココ?! 神様? 一体全体何をしたんですか!!」
「もー……だから異世界転生じゃて。チミの元世界にも流行っておったじゃろ異世界転生モノ。ワシもやってみたかったのん」
「いやファンタジーじゃあるまいし……しかものんって」
「すまんすまん許しておくれよ。天国って色々揃いすぎていて退屈じゃったんじゃ。チミは生き返れたし異世界でのチミの生活を見てワシの退屈も紛れるしウィンウィンの関係じゃろ?」
非常に割合が違うwin-winだ……。
「ひとます神様の暇つぶしは置いておいて、コレからどうすればいいんですか?」
「さぁの?」
は?