11話
蔵とは言葉通り、屯所が蔵置場であった頃に建てられた巨大な土蔵を指す。
その蔵の内、旭を格納する土間の一画に座った五人の前で、月卿は書状を広げた。
「予てよりの勅諚に基づき、いよいよ浮鳴械備出陣の次第と相成った。
出立は三日後。移動に数日みるとして、晦日には芸長の国境付近に着陣する。既に聞き及んでいる通り、後詰の手伝いとはいえ、諸君ら五名が浮鳴松平の名代であることに変わりはない。くれぐれも御家の…」
「何でそうなる」
むしろの上で胡坐を崩しながら、春日は月卿を見上げた。
「俺達は旗本連中の身代わりか」
「械備は大阪方の要望だそうだ。世に聞こえる浮鳴械備を是非にも見たい、とな」
月卿は満足気な笑みを浮かべる大宣と、それを横から睨み据える高美に顔を向けた。
「明後日、玉に移送用の船が入る。すぐ船積みできるよう、十分に検おくように」
ぐごん、と重い金擦れの音とともに上蓋が開くと、半畳に満たない操縦室に光が差し込む。
「なんだこれは」
皮張りの座席に幾重にも重ねられた毛布団と、縛るように麻帯をたすきに巻かれた座席を見下ろしつつ、春日が呟いた。
「奴が自分で設えたらしい。こいつもな」
席に降りた千間が、足元から拾い上げた鉢金を裏返すと、内側に縫い付けられた
革張りの綿入れが目に入る。
「こいつは良い。揺れる度にコブを作る心配をしなくて済みそうだ」
「気に入ったなら、二番機のも付けるか」
操椀把に手をかけながら尋ねる千間に、いや、と春日は首を振る。
「こう柔くちゃ、気が落ち着くまい」
「違いないな。 動かすぞ」
千間が内側の把手を回すと、春日は閉まり始めた搭乗口から頭を引いた。