プロローグ
『どうやら私は敬語しか許されない世界に来てしまった模様』外伝。
2108年。
私“葉原 唯白”は、朝になったら登校して、学校が終わったら帰宅して家事、そして疲れて寝る。そんな一般的な感じで過ごしている女子高生。
私は、隣に住んでる先輩と一緒によく登校する。それはそれはとてもハンサムでカッコイい先輩!
高校に入ってから知り合ったから、まだ日は浅いけど…とても仲良くなって、今度ちゃんと告白したいと思ってる。
幸せな日々を過ごしていたんだけど、その反面、それ以外の風景は、いつも通りに流れる退屈な日々。
授業して、昼を食べて、放課後は部活動をして…。まるで決まった事しかしない『家畜』のような日々。
私は、ふと思った。
(…そういえば、どうして年上の人には敬語を使わないといけないんだろう? なんていうのかなぁ? 年齢による差別とか無くなれば、みんなフレンドリーで楽しそうなのにな…)
普段、私は部活で、仲の良い後輩には、
「そろそろ敬語は外して、フレンドリーにしようよ♪」
と催促して、敬語を外させる事が多い。
それでも、何人かは、
「やっぱり先輩なので、敬語は外せませんね…」
と、タメ口になれない子もいたっけ。
(敬語、無くなればいいのにな…)
そう思い描きながら、自宅にてベッドに横たわり、就寝した。
………翌朝。
「んっ…! 朝だぁー!」
伸びをし、日光を見上げ、自分の部屋からリビングへ。
そこには、両親と妹がいた。いつもの光景。
父「おはよう」
母「おっはよ~♪ 朝飯を作っておいたわ♪」
妹「おは! …なんだか眠そうだけど大丈夫ぅ?」
何ら変わらない日々が、また始まった。そう思っていた。
………変わったのは、ここからだ。
登校する時、いつも待ち合わせ場所にしている公園。そこで先輩を待っていると、いつもの決まった時間に来る。
その先輩の名前は“谷々 恵司”。
「おはよ! 今日も唯白が先だったかー!」
起床の早さで負けたことを悔しがる先輩。
そんな先輩に、私は、いつも通りに言い返そうとした。
すると………
「ふふ、いつも恵司が遅いだけよ?」
『いつも先輩が遅いだけですよ?』って言おうとしたら、タメ口で話してしまった。
(あれっ!? な、なんでタメ口きいてんだろ…?)
心の中で疑念が生まれ、そして、
(これ、『何いきなり馴れ馴れしくなってんの?』とか聞かれちゃうパターンだよね!? 先輩そういうの厳しい人だしなぁ…)
と、言われる事を予測した。
しかし、その予測は裏切られ、
「そっか~…やっぱ俺が遅いんか。なら、明日は負けないぞ!? 唯白より早く起きてやる!」
と、何事も無かったように話し込んだ。
(あ、あれ!? こういうの気にしない人なのかな?)
この時は、恵司が気にしてないだけかと思っていた。
………しかし、それは校内でも起きていた。
水泳部。私も部員なので、朝練に参加。
ある1年生が、部長に質問をする場面。
「旭希! この後の練習メニューは?」
あろうことか、1年生なのに、3年生の部長にタメ口で質問したんだ!
すかさず私は、
「ちょっと、なんで部長にタメ口きいてんの!?」
と注意を促す。が、しかし、
「…はぁ? 部長に対しては話し方を変えろってこと? いつの時代の人間だよ!」
と私をあざ笑い、軽く流し、部長と少し話し込む。
(…幼なじみ? いや、そうじゃないハズなんだけどな…)
疑問に思った私は、2年生の先輩が近くに居たので、質問する。
…そうして質問しようとした時だった。
『部長とあの子は幼なじみか何かですか?』と聞こうとしたら、
「部長とあの子は幼なじみなの?」
と、私までタメ口を使ってしまっていた!
(あれ!? 待って、先輩だよ!? タメ口なんか使ったら…)
そう思った矢先、朝と同じ風景を目の当たりにした。
「幼なじみなんかじゃないよ? 普通に部長と部員、それだけだけど?」
なんと、何もなかったように普通に返事した。
(…えっ!? ちょっと!?)
タメ口に何も反論が無い周囲の人々に、私は驚きを隠せなかった。そして、なぜ無意識にタメ口になってしまったのか分からないまま、気付けば、どの先輩にもタメ口しか使えなくなってしまっていた。
(け、敬語が…使えない……!!?)
………どうやら私たち…いや、人類は、敬語を失ってしまったみたいだ………。