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博士と姫の50日間  作者: うーま
第二章
16/16

16話 小針との話2

「うーん……それならいっその事、聞き役に徹するというのはどうでしょうか?」


数秒考えた後、小針は俺に二つ目の提案した。


「聞き役……相手の話を聞くだけということか?」


「そうです!人の話をちゃんと聞くのも立派な会話ですよ!」


彼女は自信満々にそう答えた。



聞き役に徹する……聞こえはいいが、非常に抽象的な言葉である。


話を聞くだけなら誰にだって出来る。その程度のことで、人によって差が生じるものなのだろうか?


それに、聞き役に徹するということは、相手が話す事を前提としているわけである。幸いアルティミシアは非常によく喋るが、さすがにいつまでも一方的に話し続けることはないだろう……現時点では、聞き役に徹するという意見は色々問題があるように感じた。


「具体的に何か気を付けることがあるのか?」


俺はそう訪ねる。


「もちろんありますよ!」


彼女は言葉を続ける。


「まず大事なのは、相手の話に興味を持つことですね!きちんと相槌を打って、ちゃんと相手の問いには返事をしてあげることです!」


「……」


……相手の話に興味を持つ、か。


思い返せば、物心が付いてから今現在に至るまで人の話をじっくりと聞いたことは無い。興味があるのはいつだって紙面と数式だった。

しかし……正直言って、興味が無い話に興味を持つというのは無理な話である。自分の利益にならない情報に頭を使っている暇は無い。

そうやって今まで過ごしてきたせいか、必要な情報以外は知らないうちに全て忘れてしまっていた。人の顔然り、声然り……毎回資料を取りに来るMAJIUTSUの担当の名前も思い出せない。何度も言われたことだけは覚えているが……そもそもあいつ男だっけ?女だっけ?


「……俺には中々難しそうだ」


「え?そうですか?」


小針はキョトンとした表情でこちらを見た。


「今、ちゃんと私の話を聞いてくれてるじゃないですか」


「それは……俺から尋ねたことだからな」


自分がした質問に興味を持たないというのもおかしな話である。


「それに、さっき玄関先で私の愚痴も聞いてくれてましたし」


小針はそう言いながら玄関の方に目を向ける。愚痴というのは彼氏疑惑とかいう話のことだろう。


「……あれでいいのか?」


正直、話の後半は覚えていない。とても興味を持って話を聞いていたとは言えなかったが……


「あんな感じでいいんですよ!もちろん改善の余地はありますけど……」


「……どこを改善すればいい?」


俺はそう尋ねる。


「そうですねー。もっと話に共感して欲しいとか、細かいところはありますけど、博士には何よりも改善すべきことがあります!」


小針はソファーから立ち上がり、両手を腰に当ててポーズを取る。



「博士に一番足りないもの……それは、笑顔です!」


そう言いながら、小針はビシッと俺の口元を指差した。


「笑顔……?」


「そうです!笑顔です!」


「……それは必要なのか?」


俺は率直な感想を口にした。確かに会話中に笑った記憶はないが……会話で笑顔が必要とはとても思えなかった。


「必要!超必要ですよ!一番大事と言っても過言ではありません!」


そう言いながら小針は両手の人差し指を口元に当てる。


「笑顔はコミュニケーションの基本です!よく笑う人は男女問わずモテますね!これは間違いありません!」


「……そうなのか」


……また新しい情報が一つ増えた。コミュニケーション一つ取るのも大変なものである。


「見た感じ博士はあんまり笑わなさそうなので、ちょっと練習してみましょう!」


「……何の練習だ?」


「もちろん、笑顔の練習です!」


……笑顔の……練習?


笑うことに練習も本番もあるのか?

何か面白い出来事が起こった時に自然と出てくるものじゃないのか?

……あれ、俺が最後に笑ったのはいつだ?

そもそも、笑顔って作ろうとして作れるものなのか?


「さ、私に続いてくださいねー」


様々な疑念が心に生まれてくる俺をよそに、小針はそう口にすると__


「はいっ、ニコッ!」


とびきりの笑顔を見せた。


そのあまりのとびきりさに一瞬たじろいだが、俺は意を決すると、彼女にならって出来る限り笑顔になるよう顔面を変形させた。


「ニ、ニコッ」


そんな俺を見て小針は__





「ぶぅっ!」


思い切り吹き出した。


「あははははは!!なんですかその顔!?あはははははは!!!」


腹を抱え、俺の顔に指を差しながら、聞いたことのないような大音量で小針は笑い始めた。突然の出来事に俺は少なからず戸惑った。


「……どうしたんだ?」


俺が苦労して笑顔を作ったのに、気付けば小針が大笑いしている……全く意味が分からなかった。状況をうまく飲み込むことができない……


「どうしたって、だ、だって、顔が……ぷっ、くく……」


小針は再び吹き出すと、そのまま声が枯れるまで笑い続けた。


俺はそんな彼女の様子をただ見ているだけだった……







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